患者の皆様へ

代表的疾患 股

若年者から高齢者まで、股関節周辺の疾患・障害の診療を幅広く行っています。青少年期であれば、鼠径部痛症候群などのスポーツ傷害、青壮年期以降では、寛骨臼形成不全症、変形性股関節症、大腿骨頭壊死症、関節リウマチなどが中心となります。最近では、高齢者の骨粗鬆症と関連した脆弱性骨折や急速破壊型股関節症、活動的な成人に多く見られる股関節唇損傷や股関節インピンジメント障害なども増加しつつあります。

寛骨臼形成不全症

症状

股関節には、寛骨臼という受け皿のようなくぼんだ部分があり、大腿骨の先端の骨頭が臼蓋に納まるように構成されています。この寛骨臼の形状が小さく浅いなど不完全なために、股関節に痛みを生じるのが寛骨臼形成不全症です。軟骨が完全に減っている場合には人工関節置換術を行っていますが、軟骨が残っている寛骨臼形成不全に対しては臼蓋棚形成術や寛骨臼回転骨切り術などの関節温存手術を積極的に行っています。

治療法

臼蓋棚形成術

臼蓋被覆が不足して外側にはみ出している骨頭部分を上方から被ってあげるように、骨盤から採取した板状の骨片をあたかも棚を作るように臼蓋上部に打ち込み、新しい臼蓋を形成する術式です。通常は骨を採取する皮膚切開と棚を作る皮膚切開の2つの皮膚切開を用いて行いますが、当科では、手術手技の工夫により、6-8cmの単一皮膚切開により手術を行っています。対象に若い女性が多いことを考えると、美容的な面でも優れた術式です。

寛骨臼回転骨切り術

骨盤を、臼蓋の形に沿って球形にくり抜くように骨切りし、骨頭の被覆が不足している部分をカバーするように回転移動させて新しい臼蓋を作り上げる術式です。まだ関節軟骨が残存している変形性股関節症が対象となり、とくに骨頭の形が球形に近い場合が良い適応となります。当科ではCT検査にて骨盤周囲の血管の走行をあらかじめ確認し、手術中にナビゲーションを併用することでより安全に、より正確な手術が可能となっています。

術前
術後

術前→術後

術中ナビゲーション

変形性股関節症

症状

青壮年期以降に股関節に痛みをきたす疾患のなかで一番多いのは変形性股関節症です。原因の多くは寛骨臼形成不全症で、日本人の場合はおよそ8割を占めています。寛骨臼形成不全や股関節脱臼の既往のある方は、股関節に負担がかかったり軟骨がすり減ったりすることで、痛みが出てくるとともに関節が硬くなり、動きが悪くなります。

治療法

変形が強い場合は人工股関節全置換術の適応となります。近年ではより低侵襲な手術が行われており、皮膚だけではなく筋肉などの軟部組織への侵襲を少なくすることが重要とされています。そのための術式として導入されているのが、筋肉と筋肉の間を分けて股関節に侵入する方法で、当科でも採用しています。筋肉を切らないことで、術後早期の筋肉の回復などに利点があります。また、人工関節の設置角度も成績を左右する重要な因子となります。

当科では、立っていても座っていても、どの状態でも人工股関節の部品同士が当たったりしないよう、症例ごとにふさわしい設置角度を決定し、正確な設置を心がけています。さらに、日本人の大腿骨CTデータをもとに、高知大学オリジナルの新しい大腿骨インプラントを開発しました。CT-FEMを用いた骨強度評価をもとに近位固定部のHAコーティング範囲を有限要素解析により解析を行い、新インプラントに反映させることによって骨粗鬆症が多い日本人にも良好な初期固定性が得られるような設計を行っています。

術後・術前

当院で開発したアバンセラステム

股のスポーツ傷害

股関節周辺に痛みを来すスポーツ傷害には、大腿骨頚部と寛骨臼縁が衝突する股関節インピンジメント、股関節唇損傷、恥骨結合炎などの器質的疾患を伴うものや、明らかな器質的原因がなく、何らかの原因により、体幹~下肢の可動性・安定性・協調性が失われた結果、股関節周辺が機能不全に陥って痛みを来す鼠径部痛症候群等があります。いずれの場合も、まずは骨盤の可動性を高めるストレッチや、腹横筋・腹斜筋や多裂筋など体幹と骨盤をつなげるインナーマッスルの筋力訓練などのリハビリテーションを行います。それでも運動時の痛みが残存する場合は、手術が必要となる場合もあります。当科では、股関節鏡を用いて低侵襲に股関節唇縫合術や、大腿骨頚部の骨軟骨形成術を行っています。また、スポーツドクターと、リハビリスタッフが連携し、スポーツへの早期復帰を目指して治療を行っています。

損傷した股関節唇と縫合後の股関節唇

術前
術後

大腿骨頸部の骨隆起と骨軟骨形成術後