患者の皆様へ

代表的疾患 膝

変形性膝関節症

中年以降の膝痛の原因の多くが変形性膝関節症です。膝関節は、太ももの大腿骨とすねの脛骨からなり、大腿骨と脛骨の先端は「軟骨」に覆われていて、 その間には「半月板」があります。軟骨や半月板には弾力があり、衝撃を吸収させるクッションの役割をしています。 年齢と共に軟骨がすり減って、骨と骨が直接ぶつかり合うようになり、関節の変形が起こってきます。これが変形性膝関節症です(下図)。

変形性膝関節症
変形性膝関節症

症状

その症状の多くは、関節がこわばる、突っ張る、何となく動かしにくいといった違和感から始まります。膝の痛みや違和感が起こりやすいのは、 立ったり坂道を上るなどして関節に負荷がかかったり、関節を動かした時です。変形性膝関節症の初期は、動かしはじめや階段昇降の時の痛みで、 安静にすることで治まってきますが、進行するにつれて、安静にしても治まりにくくなります。さらに、膝に炎症がおきて、 膝に水がたまっている状態になり、強い痛みがでることもあります。

軟骨がすり減る4つの原因!

① 筋力の低下

膝関節はその周囲の筋肉によって安定が保たれていますが、筋力が低下すると、不安定になるので軟骨がすり減りやすくなります。

②肥満

体重が増えると、膝にかかる負担が増大するので軟骨がすり減りやすくなります。最近の研究では、体重による負担だけではなく、 脂肪細胞から分泌されるアディポカインという物質が関節に炎症を起こし、変形性膝関節症を悪化させることが分かってきています。

③加齢

加齢に伴って軟骨は劣化してすり減りやすい状態になります。

④けが

半月板や膝の内部の靭帯(前十字靭帯)を損傷すると、膝関節が不安定になり、軟骨がすり減りやすくなります。

治療法

変形性膝関節症によってすり減った軟骨を、治療によって元に戻すことはできませんが、適切な治療を行うことで痛みなどのつらい症状を軽減し、 病気の進行を最小限に抑えることができます。 症状が軽くなれば、発症前に近い状態で歩けるようになることも多いため、早めに治療を受けることが重要です。

手術以外の治療法

運動療法と減量

装具療法

ヒアルロン酸の関節注射

薬物療法

治療の中心「運動療法」

症状や変形の程度に応じで、上記の治療を組み合わせて行います。その中でも、最も中心になるのが『運動療法』です。

膝の痛みがあると、安静にしなければいけないと考えて、体を動かさない生活を送りがちですが、それは誤りです。 運動不足は膝に様々な悪影響を及ぼします。脚の筋力が低下するので、膝関節の負荷が増して、痛みが悪化します。 膝をあまり動かさないと関節液の循環が悪くなり、軟骨に栄養が十分に行き渡らなくなります。 さらに、運動不足は、肥満を招きより膝に負担がかかるようになります。運動をすると脚の筋力が鍛えられ、 膝を支えられるようになり膝関節への負担が減るだけでなく、炎症を抑える物質が産生され痛みが抑えられることが分かっています。 体を動かすことでエネルギーが消費され、基礎代謝が高まるため、肥満の解消にもつながります。

関節の保護と安定「装具療法」

痛みや違和感があって運動しにくい場合には、膝関節を保護したり、安定させる装具を使います(装具療法)。 代表的な装具に足底板やサポーターがあります。変形性膝関節症が進むとO脚がひどくなる人が多く、膝関節の軟骨の内側がすり減ります。 その場合には、かかとの外側が厚くなった足底版を使うと体重の負荷が膝の内側に片寄らずにバランスがとれるようになるので膝の痛みが軽減します。 サポーターは膝の周囲を覆うもので、膝関節を支えて、動きを安定させます。

痛みの軽減「薬物療法」と「関節注射」

装具や運動療法でも、症状が改善しない場合には、薬物療法を始めます。 薬には、一時的に痛みを軽減する効果はあっても、すり減った軟骨を再生させたり、膝関節を支える筋肉を強くする効果はないことは、 使う前に理解しておかなければいけません。痛みや炎症を緩和させる薬と関節の動きを滑らかにすることで間接的に痛みを和らげる薬の2種類があります。 痛みや炎症が強い場合には、非ステロイド性炎症鎮痛剤(NSAIDs)や解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン)などの飲み薬を使います。 痛みを抑える効果が高いのが特徴ですが、NSAIDsでは、胃炎や胃潰瘍などの副作用が起こるため、1ヶ月以上の継続使用は控えるようにします。 痛みや炎症を緩和する薬には、塗り薬や湿布もあります。貼りすぎで皮膚がかぶれることや、 貼っている部分に日光が当たって皮膚炎なったりすることがあるので注意してください。 湿布でも膝関節内に湿布に含まれる抗炎症物質が浸透していることが分かっているため、皮膚の障害がでななければ、長く安全に使用できます。 関節の動きを滑らかにする目的でヒアルロン酸を関節内に注射する治療もあります。 ヒアルロン酸はもともと関節液に含まれている成分で、関節の動きを滑らかにする働きがあるため、注射することで動きやすくし、痛みを和らげることができます。

一歩進んだ治療「手術療法」

各種、保存治療を組み合わせても効果が乏しい場合、一歩進んだ治療として手術治療が検討されます。 手術治療は、高位脛骨骨切り術と人工膝関節置換術(人工関節全置換術と単顆型人工関節置換術)があります。 変形性膝関節症の患者さんの多くが膝関節内側の軟骨が傷み、O脚となっています。 高位脛骨骨切り術では、すねの骨(脛骨)を切ることでO脚を矯正することにより膝の痛みを軽減させることができます(図2)。 自分の関節を残せることが最大の利点で、変形が強くなく、運動や肉体を使う仕事を行うなど活動性が高い患者さんにおすすめしています。 人工膝関節置換術は、変形性膝関節症の手術として最も多く行われている方法で、膝の変形が進行し日常生活に支障をきたす場合によい適応となります。 膝関節内側のみが変形している場合には、内側のみを人工関節に置換する単顆型人工関節置換術を行います(図3)。 膝の外側や膝蓋大腿関節も変形している場合には、関節表面全部を人工の関節に入れ替える人工関節全置換術を行います(図4)。 手術を行うことで歩行時の痛みと横ぶれなどがなくなり、歩行能力が改善されます。

高知大学では、手術を受ける患者さんの痛みと関節症の進行の程度、生活様式などを的確に把握し、それぞれの患者さんに最もふさわしい方法を提案させていただきます。 手術を受ける時には、やはり「痛くないか、術後、うまく歩けるのだろうか」などの不安があるのは当然のことだと思います。 その不安に対する取り組みとして、高知大学では、痛みの少ない回復の早い手術方法を取り入れています。 痛み止めの飲み薬だけでなく、神経ブロックや関節内鎮痛法、患者さん自身が操作し鎮痛剤を投与する方法などを組み合わせることによって、 術後の痛みを少なくすることに取り組んでいます。術後の痛みが少ないと早期回復につながり、リハビリも順調に進みます。 今後も、高知大学での手術治療に満足されるような取り組みを進めてまいります。

正常な膝関節と変形性膝関節症

図1 : 変形性膝関節症では内側の関節の隙間が狭くなり、関節の変形を認めます。

高位脛骨骨切り術

図2 : 高位脛骨骨切り術後には、術前のO脚が矯正されています。

単顆型人工関節置換術

図3 : 膝の内側のみを人工関節に置換する単顆型人工関節置換術

人工関節置換術

図4 : 人工関節置換術によって、変形が強い膝もまっすぐな膝になります。