患者の皆様へ

代表的疾患 肩・肘

原則

1. 保存療法が第一

外来診療では、肩肘だけでなく全身をみることと、実際の労働やスポーツ活動で要求されるパフォーマンスをみることを心がけ、画像で確定される疾患名よりも身体診察から導かれる病態を重視し、それに応じた保存療法を行っています。特にスポーツ障害では、下肢や体幹を含めた全身の評価、運動連鎖からみた使い方の評価が重要です。「どの程度できるのか」、「どの程度やるとどこにどのような症状がでるのか」、「フォームなどの使い方に問題がないか」、「治療介入によって自覚的、他覚的な改善があるか」、などを細かく確認して選手にフィードバックしています。

2. リハビリテーションスタッフとの連携

この分野で治療を成功させるためには必須であり、情報共有やフィードバックを行いやすい環境づくりに力を入れています。2019年1月からは、Kochi Shoulder and Elbow Conference(略称:KOSEC)を開始しました。この会では、医師、理学療法士、作業療法士等が複数の施設から6週に一度、50名程度zoomで集まり、高知県全域でのレベルアップをはかっています。

  • zoom

3. スポーツ検診を通じた地域貢献

2019年度から高知県小学生野球肩・肘検診をバージョンアップして再開しています。高知県の主要な野球大会(小・中・高)に併せた定期検診や、高校野球の春・夏の甲子園大会出場選手の肩・肘検診も担当しています。

4. 適切な手術

保存療法が奏効しない場合には、各患者様のニーズに応じて以下のような手術を行っています。入院期間は数日〜1週間です。入院リハビリの継続を希望される方には、転院調整を入院中に行います。

腱板断裂

症状

中高年者に好発し、典型的な臨床症状は肩の運動時痛、夜間痛と運動制限です。腱板は肩の骨を包む腱の集まりで、その損傷の多くは加齢とともに痛んでいる腱に軽い外傷が加わることによって発生しますが、外傷なしに発生することもあります。

治療法

治療はリハビリテーションと鎮痛薬の内服や注射を組み合わせて行い、約7割の患者さんでは切れたままでも症状が落ち着きます。痛みや運動制限の改善が乏しく、日常生活や仕事、趣味に支障をきたす場合は手術が選択肢となります。

手術は基本的に関節鏡(内視鏡)下に行っています。肩の周囲の皮膚に6mm程度の孔を数か所あけ、関節鏡で見ながら断裂した腱板を骨に縫い着けて修復します。術後は約4週間の装具固定が必要で、約2か月で日常生活動作での使用が可能になり、軽作業復帰は約3か月後、重労働復帰は約6か月後になります。完治には約1年程度かかります。

腱板断裂が広範囲な高齢者で、修復ができない場合には反転型人工肩関節置換術(下記参照)の適応になることがあります。

腱板断裂部
修復後

腱板断裂部と修復後

変形性肩関節症

症状

膝などの下肢関節と比べるとその頻度は少ないですが、加齢に伴う軟骨のすり減りが原因で生じるもの(一次性)と、骨折や広範囲腱板断裂に伴うもの(二次性)があります。

治療法

重症例には人工関節置換術が適応となります。人工関節には種類があり、骨の欠損の程度や残存している腱板の機能などに応じて、通常型と反転型を使い分けています。術後は約3週間の装具固定が必要で、約2か月で日常生活動作での使用が可能になり、軽作業復帰は約3か月後になります。人工関節には耐用年数があるため、術後の重労働は基本的にはおすすめしていません。

  • 通常型

    通常型

  • 反転型

    反転型

凍結肩

症状

中年以降に好発します。肩に強い痛みを生じ、関節の動きに明らかな制限が出てくる疾患です。

治療法

治療はリハビリテーションと鎮痛薬の内服や注射を組み合わせて行いますが、急性期以外はリハビリテーションが最も重要です。これらの治療が奏功しない重症例には、超音波で確認しながら頚から肩へ向かう神経に麻酔をかけて、痛みを感じない状態で動きを改善させる方法(徒手授動術:外来治療)や、関節鏡下に原因部位を剥がす手術(関節鏡下関節包解離術:入院治療)を行っています。術後は獲得した可動域が維持できるように、積極的なリハビリテーションを行います。

徒手授動術

徒手授動術

  • 関節鏡下関節包解離術

    関節鏡下関節包解離術

  • 関節鏡下関節包解離術

    関節鏡下関節包解離術

反復性肩関節脱臼

症状

外傷による肩関節脱臼が原因となって抜け癖が生じ、脱臼を繰り返してしまう病態です。完全に脱臼はしないものの「抜けそうになる」のを繰り返す亜脱臼も同じ病態です。肩関節の中にある上腕骨頭(腕側の骨)の動きを制動する靭帯が関節窩(受け皿の骨)から剥がれたり伸びたりしているのが原因です。特に初回の脱臼が若年で起きると高率に反復性脱臼になり、10代では80%以上と報告されています。保存療法での治癒は困難で、基本的に手術によって上記の靭帯を修復する必要があります。

治療法

手術は肩の周囲の皮膚に8mm程度の孔を3か所あけ、関節鏡(内視鏡)を見ながら剥がれたり伸びたりした靭帯を引き上げて、受け皿の骨へ縫い着けて修復します。場合によっては一緒に剥がれた受け皿の骨も修復します。術後は約3週間の装具固定が必要で、約1-2か月で日常生活動作での使用が可能になり、3か月で軽いスポーツ、6か月で大体のスポーツに復帰できます。骨の欠損が大きい方や、コリジョンスポーツ(ラグビー、アメフトなど)の選手では、直視下での追加処置(烏口突起移動術など)を要する場合があります。

病変部
修復後

病変部と修復後

上方関節唇損傷

症状

若年のオーバーヘッドアスリートにしばしば見られる損傷で、投球障害肩の要因の一つです。肩周囲や体幹や下肢にタイトネス、機能不全などの問題がある場合が多く、その結果として生じた病変と捉えられています。

治療法

そのため、機能修正訓練(リコンディショニング)を中心とした保存療法が奏効することが多いですが、難治例には関節鏡下に病変部の郭清や、剥がれた関節唇の修復を行います。術後は約3週間の装具固定が必要で、約2-3か月でスポーツ再開、4-5か月で完全復帰が可能なことが多いですが、違和感なく元のパフォーマンスが発揮できるまでには約1年程度を要することがあります。

病変部
郭清・修復後

病変部と郭清・修復後

上腕骨小頭離断性骨軟骨炎

症状

成長期の野球肘を代表する疾患の一つで、関節軟骨が骨とともに剥がれる病態です。初期には症状が乏しく、痛みが出現した時点では進行していることが多いため、検診などでの早期発見が重要です。

治療法

早期病変は投球中止を主とした保存療法で修復されることが多いですが、長期間を要します。進行期では手術を要し、病変部の重症度や年齢によって、関節鏡下郭清術や骨軟骨柱移植術(膝から骨軟骨柱を摘出して肘に移植する)を行います。競技復帰は術式によって異なり、術後3-6か月くらいになります。

病変部
郭清後

病変部と郭清後


この他、当院で受けられる難治性肩肘痛に対する特殊な治療として、

血管内カテーテル治療

手首や肘の血管から細いカテーテルを挿入し、痛みの原因になる異常に増殖した血管(モヤモヤ血管)への血流を薬で詰める

多血小板血漿(PRP)療法

採血で得た静脈血を処理して組織修復因子が多く含まれる層を抽出し、腱、靭帯の損傷部や関節内などに注射する

があります。いずれも保険適応外の治療(自由診療)になりますが、一定の効果を認めています。詳しくは担当医にお尋ね下さい。