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消化器外科

消化器外科

消化器外科では消化器(食道、胃、小腸、大腸、肛門、肝臓、胆嚢、胆管、膵臓、脾臓)全般、一般外科、ヘルニア、痔に関する病気に対して専門的な診療を行っています。紹介状をお持ちでない方、診断のついていない方については検査後、外科的治療が必要かどうかを判断いたします。

概 要

消化器外科では次のような疾患を対象にしています

食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、胆嚢癌、胆管癌、膵癌など消化管の悪性腫瘍、良性腫瘍。胆石症、急性虫垂炎、消化管穿孔、痔核、痔瘻、ヘルニアなど

消化器外科では次のような症状を扱っています

  • 胸やけがするとき
  • 食べ物を飲み込みにくいとき
  • 嘔気、嘔吐 があるとき
  • コーヒーの残渣様のものまたは
    新鮮な血を吐いたとき
  • お腹が痛みだしたとき
  • お腹が張った感じが続くとき
  • 便に血がまじる または黒い便がでるとき
  • 下痢がつづくとき
  • 突然便通が不規則になった。
    また便通がなく不快感を感じるとき
  • これといった理由がないのに体重が減ったとき
  • 皮ふや眼が黄色くなったり、
    尿が茶色になったと感じるとき
  • 鼡径部の膨隆、腹部腫瘤
  • 健康診断で胃腸の異常や
    便潜血陽性を指摘された

診療体制

消化器外科全般、内視鏡外科治療それぞれに対して、専門的知識を持ったスタッフが治療を行う体制です。手術治療とともに抗癌剤治療も積極的に進めています。病棟では消化器疾患の治療に豊富な経験を持つ看護師と共に診療にあたっています。

診療方針

罹患患者の高齢化によって、治療方法は多岐にわたるようになってきており、画一的な治療ではなく、根治性を損なわないような安全な治療(オーダーメイドの治療)を目指しています。患者さんの病気の状態を的確に判断し、最新の治療方法を含めて最適の治療を行います。進行癌に対しては抗癌剤治療や放射線治療を組み合わせた集学的治療、また早期癌に対しては腹腔鏡下手術などの低侵襲治療を積極的に行っています。また疾患を総合的に治療するため他の診療科とも協力して診療を進めています。

得意分野

消化器疾患全てに対応できます。特に一人一人の患者さんを丁寧に診療する体制をとっています。

消化器外科で実施している主な検査は次のようなものです

上部・下部の消化管造影および内視鏡検査、腹部超音波検査、血管造影検査等、消化器内科と連携し外科治療に必要な検査を行っています。

消化器外科で実施している主な治療は次のようなものです

▼ 食道疾患

1.食道とは
 食道は頸部から始まって胸の中を通り、おなかに続く長い筒のような臓器で、飲み込んだ食べ物を胃まで送り込む役割があります。この食道に病気があると、飲み込みにくい、食べ物が詰まる、胸焼けがする、食べ物を吐く、胸がしみるなどの症状が起こる場合があります。これらの症状に対して、耳鼻科や消化器内科と協力して内視鏡検査、食道造影検査、CT検査などを行い、診断を確定してから治療を行います。特に食道がんに対して手術や抗癌剤治療、放射線治療を行っています。

2.食道がんの治療
 食道がん治療は薬物治療(免疫療法や抗癌剤治療)、放射線治療、手術治療が有効ですが、患者さんの状態や病気の程度に応じて治療方法を選択します。早期の癌であれば内視鏡で切除できる可能性がありますが、リンパ節に転移する可能性がある場合は手術をお勧めしています。また進行癌に対しては抗癌剤治療を行った後に手術(術前化学療法)、あるいは抗癌剤と放射線治療を組み合わせた治療(化学放射線治療)を行っています。
転移が広く生じている場合は、免疫療法と抗がん剤治療を組み合わせて行っています。
治療方針は消化管内視鏡治療、放射線治療科や腫瘍内科のエキスパートの医師と相談しながら決定しています。

食道癌の手術 食道癌の開胸手術と胸腔鏡手術

3. 胸腔鏡下食道切除術
 食道がんの手術は頸部、胸部、腹部と広範囲に及び、患者さんの負担が大きい治療です。これを少しでも軽減するために、従来の大きく切開する手術方法と比べて傷が小さく出血が少ない胸腔鏡下食道切除術を行っています(図)。高知大学医学部附属病院は消化器外科専門医の中でも、特に食道がん手術の専門的な技術、知識を持つ食道外科専門医および食道癌の内視鏡外科技術認定医が手術を行う食道外科専門医修練認定施設です。また手術前後の栄養管理や、術後血糖管理など様々な工夫をしています。

胸腔鏡下食道切除術
図:胸腔鏡下食道切除術の風景。大きく切開せずにカメラを挿入して、モニターに拡大して映しながら手術を行います。
ロボット支援下胸腔鏡下食道切除術について ロボットの利点1 ロボットの利点2 ロボットの利点3 ロボットの利点4 ロボット支援下胸腔鏡下食道切除術の効果

4.まとめ
 高知にはお酒の好きな人が多いですが、飲酒、喫煙は食道がん発生のリスクであることが知られています。毎日お酒を飲む方、タバコを吸われる方は、症状がなくても注意が必要です。ぜひ、積極的に内視鏡検査を受けてください。
食道は食生活に直結する非常に重要な臓器です。患者さん一人一人に最適な治療方法を、家族の方も含めて相談してから選択しています。食道について何かお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

▼ 胃疾患

1.胃の機能
 胃は食道と十二指腸の間に位置する袋状の臓器で、食物の貯留、殺菌、消化の役割を果たすだけでなく、赤血球の合成に必要な因子、食欲にかかわるホルモン等の分泌機能も併せ持っています。空腹時にはしぼんでいますが、食物貯留により1.2から2.5リットルほどの大きさに膨らむ余裕があります。

2.胃の病気
 癌は日本人の死因の最も高い頻度を占めており、胃癌の占める割合は高いのが現状です。正常な胃粘膜細胞の遺伝子が何らかの原因で傷つき、癌細胞へと変異したものが胃癌で、ヘリコバクターピロリ菌の感染がその発生に強く関係しています。癌細胞は無秩序に細胞分裂を行うため、増殖してどんどん進行します。粘膜、粘膜下層までの癌は早期癌といわれ、手術により高い治癒率が期待されますが、筋層・漿膜まで達する進行癌は手術、抗癌剤、分子標的治療薬などの薬物による治療が必要になってきます。
その他にもKIT陽性間質性腫瘍や神経内分泌腫瘍、悪性リンパ腫などの治療を必要とする病気が胃に発生します。

3.胃癌の診断
 初期症状はほとんどありません。みぞおちの痛み、膨満感、吐き気、胸焼けなど、胃炎や胃潰瘍の症状に似ていることも多く、早めの内視鏡検査を受けることが勧められます。併せてCTやPET検査を行い、癌の転移の有無、程度を分析して、進行度に応じた治療方針を考えます。

4.胃の手術
 癌が粘膜にとどまっていて、リンパ節にも転移していないような早期胃癌は、内視鏡による治療が可能です。消化器内科と連携して内視鏡的胃粘膜下層剥離術などにより、お腹に傷を付けずに癌を取り除くことが可能です。
リンパ節に転移している可能性が高くなると、外科手術治療を行い、胃周辺のリンパ節と併せて胃3分の2あるいは全部切り取ることが勧められます。早期癌に対しては胃の機能温存を考慮した神経温存手術や、腹腔鏡を用いた身体に侵襲の少ない手術を行っています。進行癌に対しては拡大手術により根治性を高めることもあります。さらに手術後の胃液、胃内容物の食道への逆流を防ぐような工夫も行うことで、手術後の生活の質向上に貢献しています。KIT陽性胃間質性腫瘍に対しては内視鏡と腹腔鏡の合同手術により、より患者さんにかかる侵襲を低く抑えて的確に病変を取り除く方法や、ロボット支援手術にも積極的に取り組んでいます。

5.胃癌に対する抗癌剤治療
 癌が他の臓器に転移している場合は、抗癌剤による化学療法を行います。病期の進行度、患者さんの状態に合わせた薬物選択を適切に行い、できるだけ副作用を予防するような薬もあらかじめ使用してできるだけ患者さんが安心できるように、専門の看護師、薬剤師も積極的に関わり、多くの方が外来化学療法室で治療を受けられています。分子標的治療薬を含めた最近の薬剤の進歩により、薬物治療と手術治療を組み合わせて行うことでこれまで治療の難しかった状態の患者さんに対しても、根治性を目指した手術治療ができるようになってきています。医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、事務職員を含めた多職種により患者さんを中心とした役割分担ではなく役割拡張を目指すチーム医療を実践することで、高い治療効果が得られるような診療を行っています(図)。

患者を中心とした多職種によるチーム医療
図:患者さんを中心とした多職種によるチーム医療

▼ 大腸がんに対する当科の取り組み

大腸がん治療の主体は手術で摘出することです。手術には、従来のお腹を大きく開ける方法(開腹手術)と小さく開ける方法(腹腔鏡手術)がありますが、あくまで手術の目的はがんをきれいに取り除くことです。開腹手術と腹腔鏡手術は手術の方法が違うだけで目的は同じです。腹腔鏡手術は、お腹の中にカメラを入れてモニターで腹腔内を観察しながら1cm弱の穴(傷)を数カ所あけます。ここから器具を出し入れして手術を行うものです。腹腔鏡手術は、手術手技が難しく、開腹手術に比べやや時間がかかるといったデメリットもありますが、傷が小さく、それによって痛みが少ないこと、手術後の回復が早いことなどのメリットがあり、開腹手術よりも患者さんのメリットが大きいと感じています。
当院では1997年から積極的に大腸がんの腹腔鏡手術に取り組んできました。現在では大腸がん手術の約90%がこの腹腔鏡手術です。3名の内視鏡技術認定医のうち、少なくとも1名は腹腔鏡手術に立ち会い、安全な手術を行っています。
腹腔鏡手術は通常の開腹手術に比べ小さな傷で手術が可能で整容面で優れています。さらにこの利点を追求したのが、一つの小さな傷のみで手術を行う単孔式手術です。当院では大腸良性疾患、一部の早期大腸がんを適応にしています。さらに、狭い骨盤の中にできる直腸がんに対しては、より精緻な手術が可能となるロボット支援下腹腔鏡手術も取り入れています。従来の腹腔鏡手術に比べ、1)立体視(3D画像)が可能、2)手ぶれ補正、3)手術器具の自由な可動域、などの利点があり狭い空間でより精緻な手術が可能となります。

当科での大腸がん手術症例数

▼ 肝疾患

1.肝臓とは
 肝臓は横隔膜直下で右上腹部を占める体内最大の臓器で、成人男性で重さ1~1.5kgあります。肝臓には主に(1)胆汁の生成、(2)糖やタンパク質などの代謝、(3)解毒、作用があります。肝臓は沈黙の臓器といわれています。肝臓は痛みの症状がでることがあまりないため異常があっても症状に気づかず、異常がわかったときには病気が進行していることがあります。高知大学医学部附属病院には4名の指導医を含む8名の肝臓学会専門医が診療に従事しております。
肝臓疾患については肝癌(原発性、転移性)、肝血管腫、肝内胆汁うっ滞、肝膿瘍、肝感染症、肝寄生虫症などの外科治療を行っております。特に肝癌の治療に関しては肝臓内科と密接に連携して質の高い集学的治療を施行しています。

2.肝癌の治療
 原発性肝癌には肝細胞癌と肝内胆管癌があります。肝細胞癌の治療戦略には切除術(肝臓を切る)、焼灼療法(肝臓の腫瘍を焼く)、塞栓療法(腫瘍を養っている血管をつめる)という3本柱があります。切除術の場合、癌の大きさや発生した場所、個数によっては切除しなければならない肝臓の量が多くなることがあります。肝細胞癌の多くは、ウイルスやアルコールによる慢性肝炎や肝硬変から発症するため肝機能が悪いことがあります。肝機能は肝障害とも呼ばれ、腹水の有無やビリルビン値、ICG(ジアグノグリーン)という緑の色素を用いた精密検査を必要とします。当科では、それぞれの患者さんの肝機能(肝障害度)を評価し、この肝障害度・腫瘍個数・腫瘍の大きさに応じて治療方針を決定しています。肝細胞癌に対する手術では大きくお腹をあける必要がありますが、従来の傷よりも小さくする腹腔鏡補助下の肝切除術も取り入れ、患者さんの手術への侵襲を少なくするようにしています。また、外科治療の一環として開腹または腹腔鏡を使用した肝腫瘍焼灼術も取り入れております。

3.転移性肝癌
 転移性肝癌とは、肝臓以外の臓器にできた癌が肝臓に転移した肝癌のことを意味します。手術の適応となる転移性肝癌の中では大腸癌からの肝転移が最も多い頻度を占めます。大腸癌肝転移では切除術が最も治療効果が期待できますが、肝臓内の転移の広がりによっては切除できないこともあります。しかしながら大腸癌肝転移の薬物治療の進歩は目覚ましく薬物治療を組み合わせることで肝転移が切除可能となることがあります。また、肝転移を切除するために多くの肝臓の量を切除しなければならないことがあります。当科では、切除する肝臓部分を薬物(塞栓物質)で塞栓することで小さくし、残す方の肝臓を大きくする治療(門脈塞栓術)や、2期的肝臓手術(1回目の手術でできるだけ切除し、残す肝臓容積を大きくする処置を施した後に2回目の手術を行う)を施行することですべての肝転移を切除できる症例も少しずつ増加してきています。特に大腸癌からの転移性肝癌においては、肝臓に転移があるからという理由で、あきらめないことが大事です。

4.肝癌診療のまとめ
 肝切除術は肝障害度・腫瘍個数・腫瘍の大きさに応じて治療選択を行う必要があります。また、転移性肝癌では薬物治療を組み合わせた集学的治療を行う必要があります。当科では、すべての患者さんに対し、「自分の肉親と同じスタンス」に立つことをモットーに治療にあたっております。治療方針等でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

▼ 胆膵疾患

1.胆道とは
 胆道とは、肝臓から分泌された胆汁の通り道で、肝外胆管、胆嚢、十二指腸乳頭部のことです。胆管(肝外胆管)は肝臓から十二指腸まで胆汁が通る管で、長さは約10~15cm、太さは0.5~1cmです。胆嚢は胆汁を一時的に貯めて濃縮する臓器です。十二指腸乳頭部は、胆管が十二指腸に開口する部分で膵管と合流しています。胆道にできる疾患には、胆石症、胆嚢腺筋腫症、胆道拡張症(膵胆管合流異常症)、胆道感染症といった良性疾患の他、胆嚢癌、胆管癌、十二指腸乳頭部癌などがあり、これらの疾患の治療に当たっています。

2.膵臓とは
 膵臓とは、胃の後ろにある長さ約15cmの細長い臓器です。中央を膵管が通っており、十二指腸乳頭部に胆管とともに開口しています。膵臓には主に、(1)消化酵素を含む膵液を分泌する、(2)インスリンといったホルモンを分泌する、といった作用があります。膵臓にできる疾患には急性膵炎、膵良性腫瘍、膵癌、膵内分泌腫瘍などがあり、治療に当たっております。

3.胆膵疾患の治療
 胆膵領域疾患の診断というのは一筋縄ではいかず時に難渋することがあります。そこで当科では内科、放射線科と連携しながら、1人1人の患者さんの病状に応じた最適な治療方針を選択し、施行するように心がけております。また悪性度の高い膵癌の治療にも力を入れております。膵癌は手術単独治療ではまだまだ十分な治療成績は得られていません。近年、膵癌に有効な薬剤治療も登場しております。そこで内科と連携をとりながら、術前・術後の薬物治療も積極的に行っています。手術が困難と考えられた場合でも手術前に薬物治療を行うことにより、手術が可能となることがあります。膵癌だからといって、決してあきらめない姿勢が肝要といえます。
十二指腸に近い膵臓の頭の部分にできた癌(膵頭部癌)や胆管癌の治療では、膵頭十二指腸切除術が必要になることがあります。消化器外科で行う手術の中でも最も大きな手術の一つです。当科では内科、放射線科とも密接に連携した診療体制が整備されています。難しい手術ですので、できるだけ安全に手術を受けて頂くよう心がけています。胆石症や胆嚢の良性腫瘍には腹腔鏡下胆嚢摘出術を行っています。また臍の傷だけで手術を行う単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術も行っております。単孔式手術のメリットは従来に腹腔鏡下手術よりもさらに傷が少なく、術後の美容的な面からも優れていると考えられます。また、膵臓の体部や尾部に発生した良性疾患や悪性度の低い疾患に対しては、患者さんへの手術に伴う痛みなどの負担が少なくなるように腹腔鏡下手術を取り入れています。

4.胆膵疾患診療のまとめ
 当科だけでなく、内科・放射線科の胆膵専門医が連携を取り合い、毎週開催される外科・内科・放射線科の3科合同カンファレンスを介して、患者さんの病態に応じた最適な個別診断および治療を行っているのが特色です。
膵癌および胆道癌の集学的治療の他、膵臓および胆道の良性疾患であっても時に診断や治療方針に難渋することがありますので、胆膵疾患が疑われた場合にはご遠慮なくいつでもご相談下さい。

▼ 肝胆膵疾患のまとめ

当科は日本肝胆膵外科学会の高度技能専門医修練施設に認定されています。また同学会認定指導医1名を含む、複数の評議員が診療に従事しています。肝胆膵領域は困難かつ難易度の高い外科治療が必要となることがあります。当科では「自分の肉親と同じスタンス」に立った一人一人の患者さんに最善の医療を提供できるように、親切をモットーに診療にあたらせていただいております。
肝臓癌・胆道癌・膵臓癌だから「もう駄目だ」と決してあきらめずに、いつでもお気軽にご相談ください。

▼ ヘルニア

1.ヘルニアとは
 ヘルニアは、臓器が元ある場所から別の場所へ飛び出すことをいいます。腹壁には筋膜という強い組織がありますが、これが何らかの原因で弱くなると、お腹の中にある臓器が筋膜の間から皮膚の下へ出てきてしまいます。出てくる臓器は腸や脂肪で、立った時やお腹に力を入れた時に飛び出してきますが、多くの場合は横になるとへこみます。時に痛みや違和感を伴い、腸が脱出したまま戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」という状態になることがあります。根治するには手術が必要ですが、ヘルニアの種類によって、すぐに手術をした方がいい場合と、様子を見ることができる場合とがあります。 診察のみで診断できる場合もありますが、より詳しい検査として超音波(エコー)やCT検査を行う場合があります。

2.嵌頓とは
 飛び出した臓器が筋肉で締め付けられ戻らなくなった状態を嵌頓といいます。腸が嵌頓を起こすと、腸の中を食べ物が流れなくなり(腸閉塞)吐き気、腹痛などが生じます。また、締め付けられた腸の血流が悪くなり、組織が壊死してしまう(腐る)と、命に関わる場合もあります。嵌頓が起きた場合、速やかに還納する(押し戻す)ことができれば良いのですが、戻せない場合や時間が経ってしまった場合には緊急手術が必要です。ヘルニアが戻らない、腹痛や吐き気などの症状がある場合には嵌頓が疑われます。様子見をせず、すぐに病院を受診してください。救急車を呼んでも構いません。

嵌頓

3.ヘルニアの種類と手術

 腹壁のヘルニアは、以下のような場所に起こります。

● 鼠径ヘルニア
 いわゆる「脱腸」です。太ももの付け根の辺りを鼠径部と呼び、ここに起こるヘルニアです。外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアの3つに分類されます。

 ◯ 外鼠径ヘルニア

  最も多いタイプのヘルニアです。

 ◯ 内鼠径ヘルニア

  中年以降の男性に多いタイプです。鼠径部の内側から出てきます。

 ◯ 大腿ヘルニア

  女性に多いタイプです。足側に飛び出すヘルニアで、最も嵌頓を起こしやすいため早めに手術が必要です。

鼠径部は構造上弱くなりやすく、鼠径ヘルニアは非常に多い病気です。
大腿ヘルニアは嵌頓を起こしやすいため手術が必要です。
その他の鼠径ヘルニアは、痛みがある場合や嵌頓を起こしたことがある場合には手術を勧めますが、そのような症状がない場合には経過観察が可能です。ただし、嵌頓はいつ起こるかわからず、また誰にでも起こる可能性があるため注意が必要です。
鼠径ヘルニアに対して、様々な手術方法が考案されています。

 開腹手術:鼠径部に5cm程度の傷をつくり手術を行います。
 以前は弱くなった筋膜を縫い閉じる方法が用いられていましたが、現在は人工補強材(メッシュ)で穴を塞ぐ方法が主流で、再発率が大きく低下しました。

  • メッシュプラグ法:筋膜の隙間に傘状のプラグ(栓)を入れて穴を縮め、筋膜の外側にメッシュを敷いて補強する方法です。
  • リヒテンシュタイン法:現在当科で最も多く行っている方法です。プラグを使用せず、筋膜の外側にメッシュを敷いて補強します。この方法も再発率はメッシュプラグ法と変わらないとされています。
  • ダイレクトクーゲル法:筋膜より奥(腹腔側)にメッシュを敷く方法です。大腿ヘルニアを予防することが可能なため、大腿ヘルニアの合併がある方や女性に選択することがあります。

 腹腔鏡下手術:お腹の中にカメラを入れて観察しながら、筋膜よりも奥にメッシュを敷きます。傷が小さく、術後の痛みが少ないこと、両側を観察できるため、気付いていなかった反対側のヘルニアを診断できるなどの利点があります。

  ◯ 腹壁瘢痕ヘルニア
お腹の手術や外傷によって筋膜が弱くなった部分(瘢痕)に起こるヘルニアです。嵌頓する危険性はそれほど高くありませんが、痛みがある場合や見た目が気になる場合には手術を行います。嵌頓を起こして緊急手術が必要となることもあります。

開腹手術

  • primary suture:筋膜の隙間が小さい(3cm以下)場合、筋膜を強い糸で縫い閉じることで修復が可能です。
  • メッシュを使用する方法:筋膜の隙間が大きい場合、上記の方法では再発しやすいため、人工補強材(メッシュ)を使用します。メッシュを敷く位置により、筋膜の外(onlay)、筋膜と腹膜の間(inlay)、腹膜の内側(underlay)の3通りがあります。現在、大きなヘルニアの場合は主に腹腔鏡下手術が行われますが、何らかの要因で腹腔鏡下手術が難しい場合にはこの方法が用いられます。

腹腔鏡下手術
大きなヘルニアの場合、カメラでお腹の中から観察する腹腔鏡下手術のほうが開腹手術に比べて傷が小さく、術後の痛みも少なく、再発率が低いとされています。お腹の中から筋膜が弱い部分を観察し、腹膜の内側にメッシュを敷きます。

  ◯ 臍ヘルニア
 臍には生まれつき筋膜がない部分があり、代わりに強い繊維が腹壁を支えています。この繊維が弱くなると臍の部分に内臓が出てくる、臍ヘルニアを生じることがあります。臍ヘルニアは嵌頓する可能性が高く、早めの手術が勧められます。 手術方法は腹壁瘢痕ヘルニアと同様です。

4.当科での手術症例数

当科での手術症例数

ヘルニアは手術によって治すことができる病気です。手術をせずに様子を見ることができる場合も多くありますが、嵌頓の危険性も伴います。気になる場合は一度受診をしてみてください。

※膵臓癌手術を受けられる患者さんへ

重要なお知らせ

※2010年4月以前に、十二指腸腫瘍のため手術を受けられた患者さんへ

重要なお知らせ

※2011年4月以前に、膵神経内分泌腫瘍のため手術を受けられた患者さんへ

重要なお知らせ

▼ 一般外科

体表の創傷に関しては、治癒を促進させる体に優しい創傷管理を行っています。
鼡径ヘルニアに代表される各種ヘルニア、痔の外科的治療に関しても専門的に診療しています。