手術などの治療法
患者さんに優しい低侵襲手術
外科治療は患者さんに負担をかける治療です。特に肺がんに対する外科治療は胸壁(筋肉、骨、神経)を損傷し、肺実質を切除するという侵襲の大きな手術です。近年、患者さんに優しい低侵襲手術が行われるようになり、当科でも実践しています。
.
.
I:体幹に対する低侵襲
肺切除術などでは、従来、大きな術野で直視下に手術を行うために、大きな皮膚切開と呼吸筋の離断、肋骨の切断を必要としていました。しかし、当科では胸腔鏡手術を取り入れ、「病気がきちんと治り、手術が安全に行われること」を前提に「できるだけ小さい創で、できるだけ痛くない手術」を行っています。このような低侵襲手術を行うために様々な手術器具の開発や手術手技の工夫を行っています。
.
手術創の大きさ
手術創の大きさは、12cmから20cmほどの大きな創で行う開胸手術、2cmの創2か所と2つのポートから行う完全胸腔鏡下手術、4つのポート(+1か所の補助ポート)から行うロボット支援下手術、また更なる低侵襲を目指して、単一の創から行う単孔式手術などを症例に応じて選択して施行しています。
.
肺悪性疾患に対する完全胸鏡下手術(VATS)
肺悪性疾患に対しては、完全胸腔鏡下に肺葉切除または区域切除を行っています。基本的に2.0cmの小切開2か所と1〜2か所の小穴で手術を行います。ロボット手術や特殊な機器を用いたポート数を少なくした手術も行っています。
.
.
.
ロボット支援下手術(RATS)
手術支援ロボットは、欧米を中心に医療用道具として認可され、1997年より臨床応用されています。本邦では2009年に本機器が厚生労働省により薬事承認されております。呼吸器外科の領域では、2018年に「肺悪性腫瘍に対する胸腔鏡下肺葉切除術」、「胸腔鏡下縦隔腫瘍切除術」が保険適応となりました。手術支援ロボット(ダビンチXi手術システム)は、繊細で正確に作動する鉗子(鉗子)などの機器と鮮明な3次元画像を映し出すカメラなどからなる優れた手術支援システムです。呼吸器外科の領域では、胸腔や縦隔(じゅうかく)などの狭い場所でも複雑で細やかな手術手技を可能し、従来の胸腔鏡下手術に劣らない安全かつ侵襲の少ない手術です。手術は3次元のフルハイビジョン画像で解剖の詳細を確認しながら行え、手術道具の細かな動きが可能になります。
肺癌に対する肺葉切除術、区域切除術と縦隔(良性・悪性)腫瘍切除術、重症筋無力症に対する拡大胸腺摘出術は保険診療で受けることが可能です。ロボット支援下手術が可能かどうかは、患者さんの病状、病気の進行程度、持病の有無などによって適切に判断しています。必ずしも全ての患者さんのご希望に沿えるわけではありませんが、ロボット支援下手術に関してご要望やご質問がありましたら、外来医師にお気軽にお尋ねください。
.
Ⅱ:胸腔内に対する低侵襲
肺切除における積極的区域切除と選択的リンパ節郭清
原発性肺がんの標準手術は肺葉切除と系統的リンパ節郭清です。しかし近年では周囲のリンパ節や臓器に転移をおこす可能性が少ない段階で発見される肺癌も多くなってきています。こういった早い段階で発見された肺がんでは正常な肺を取り過ぎることになります。また、最近多発肺がんも発見されることが多くなり、複数回手術を行うためには、できるだけ正常肺を温存する必要があります。当科では最新のエビデンスに基づき、できるだけ正常な肺を温存する積極的縮小手術を行っています。さらに、過去の手術データの蓄積から肺がんの存在する部位からリンパ節転移の可能性のある範囲を予測し、いわゆる選択的リンパ節郭清を行い、不要なリンパ節郭清に伴う神経・血管の損傷を防いでいます。
.
3D-CTによる肺血管、気管支、解剖の術前把握
胸腔鏡手術では限られた視野のなかで、かつ通常2次元のモニター画像を見ながらの手術となります。肺葉切除または区域切除では肺静脈、肺動脈といった太い血管の処理を必要としますが、症例によって変異や分岐異常が多く、その処理には時として困難を伴うことがあります。当科では放射線科の協力のもとに、造影CT画像を3D画像に再構築し、これら血管の分岐、走行を術前に把握した上で手術に臨むことで、安全で確実な手術を速やかに遂行するよう努めています。
.
柔らかい細径胸腔ドレーンの採用
肺切除後には胸腔内からの排液や空気を排出するために胸腔ドレーンを挿入する必要があります。一般にはソラッシクドレーン(24-36Fr)が用いられますが、太くて硬いドレーンは患者さんに強い疼痛を引き起こします。理想的な胸腔ドレーンは素材が柔らかく細径であり、また内腔が確保され十分な排液・排気効果があるものです。
当科では、より細径で、柔らかく、内腔を十分確保したシリコンドレーン(19Fr)やポリウレタン胸腔ドレーン(15Fr)を用いています。
当科では気管支鏡下治療も積極的に施行しています。気管支鏡検査時には、患者さんに対して、鎮静剤の静脈内投与による苦痛のない麻酔方法を行っています。検査では、電子内視鏡のほか、蛍光内視鏡(AFI system)、細径気管支鏡を使用し診断を行っています。気管支鏡治療として、レーザー治療、気管支腔内照射、光線力学療法(PDT)、ステント治療等を施行しています。
.
気管支鏡検査・治療
当科では気管支鏡下治療も積極的に施行しています。気管支鏡検査時には、患者さんに対して、鎮静剤の静脈内投与による苦痛のない麻酔方法を行っています。検査では、電子内視鏡のほか、蛍光内視鏡(AFI system)、細径気管支鏡を使用し診断を行っています。気管支鏡治療として、レーザー治療、気管支腔内照射、光線力学療法(PDT)、ステント治療等を施行しています。
【光線力学療法:PDT】
高知大学では伝統的に光を用いた診断、治療手技の開発に力を入れています。光線医療センターとは、特殊光源を用いた診断・治療に関する部門であり、当科としても肺門部早期肺癌に対するPDT治療を立ち上げるとともに、本センターとタイアップし新規検査法や治療法の開発にも取り組んでいます。
PDTとはレーザー治療の一種です。肺がん、食道がん、胃がん、子宮頸がんに保険適用されています。レーザーと言ってもがんを直接焼く治療ではありません。治療に先だって光感受性物質という薬剤を投与します。これは正常組織よりもがん組織に取り込まれやすいという性質があります。そこでレーザーをがんに当てると光感受性物質が光エネルギーを吸収し、化学反応により活性酸素が発生します。それによってがんを破壊するという原理です。気管・気管支の早期癌では手術を行わなくても、光線力学療法で治癒することが可能です。光線力学療法では,腫瘍にだけ集まりレーザーを当てると活性酸素を発生する物質を体に投与し,気管支鏡でレーザーを当てると癌だけを死滅させることが可能です。PDTは肺や気管支は切除しませんので治療後の呼吸機能の低下がありません。呼吸機能が悪くて手術できない方、多発している場合や再発例でも繰り返して行えます。ただし適応となるのはあくまで早期の中心型肺がんであり、早期発見が非常に重要です。レントゲンやCTで見つかるものではありませんので、ヘビースモーカーの方、血痰、長引く咳などの症状が続いている方は、痰の細胞検査や気管支鏡検査を受けて頂くことをお勧めします。
.
【気管・気管支ステント】
気道狭窄に対してステント留置を行い、呼吸困難を改善し、肺癌などの治療を行えるようにします。
気道狭窄に対してステント留置を行い、呼吸困難を改善し、肺癌などの治療を行えるようにします。