HELLO!SENPAI
公開日:
人に寄り添う「やさしい医療」を追い求めて
活躍する高知大学の先輩に会いに行きました!「HELLO!SENPAI」vol.11
今回の先輩はくまのなる在宅診療所の医師、濱口 政也さん(医学部卒)。
和歌山県新宮市出身で広島県立保健福祉大学放射線学科卒業後、高知大学医学部に入学。大阪府の耳原総合病院、三重県の紀南病院を経て、2020年にくまのなる在宅診療所を開所。「学生時代の過ごし方すべてに、今やっている地域医療のエッセンスが詰まってたんやと思います。やってることは、あの頃と変わらんのですよ。」

祖父の死をきっかけに医師になろうと方向転換
「高知大学での学びは、めちゃくちゃ大きかった」と語るのは、三重県の人口1万人の紀宝町で、地域に1つしかない在宅診療所を開いている濱口政也さん。医学部で地域にどっぷり触れた経験から「やさしい医療」を推し進めています。なぜ、このように取り組んでいるのか、じっくりお聞きしました。
高知大学に入る前は、広島県の大学で放射線技師の勉強をしていました。方向転換したきっかけは、3年生の時に祖父が亡くなったことです。葬式のあとで、家族や近所の参列者たちが「病院に言いたいことを言えなかった」「うちのときもそう」などと話していたのを聞いて、もっと患者のことを考えてくれたら、という思いが湧きました。同時に、それなら自分が医者になって、人にやさしい医療をしたいと思ったんです。
それから放射線技師の資格を取って卒業し、改めて受験勉強しました。すんなりとはいかず、2年かかりましたが、高知大学医学部に合格することができました。

村の住民と触れ合うなか本物の地域医療を学ぶ
医学部で学ぶうちに、特に興味を持ったのが、家庭医療学講座の阿波谷敏英教授による「家庭医道場」。地域に足を運んで、医療を実際に見て、聞いて、考えるプログラムです。 濱口さんは積極的に参加し、医師としてのあり方を学びました。
家庭医道場では大きな収穫がありました。よく訪れたのは、馬路村という小さな山村です。そこでは本当に様々な体験をしました。たとえば、村の診療所長が毎月、村民のメタボ解消のために開く「かっこよくなる男の道場」 という料理作りの啓発事業。料理教室を手伝ったあと、村に泊まって村民の人たちと話をして、翌朝高知に帰ってきて授業に出る。そういう体験が今にすごくつながっています。毎月来て地域に入って、本当に色々な活動をしました。あるとき、村のおんちゃんが「お前ら、ええ勉強しとるな」と。座学で「これが地域医療」などと学ぶよりも、自分らがやっているのがほんまの地域医療の勉強ちゃうかなと思いました。住民と関わりながらやっていくのが大事やと、徐々に肌に染みていく感じで学ばせてもらいました。こうした地域での経験から、医者もたくさんある仕事の1つと考えるようになりました。色々な人が生きているなか、病気でつまずいた時にちょっとお手伝いをさせてもらうという感覚です。
大学卒業後、まず大阪の堺市の総合病院で研修医に。
3年近く勤めたのち、父の死をきっかけに、出身地からほど近い三重県御浜町にある総合病院に移りました。
研修医の3年目は専門を決める過程なんですが、自分のやりたい医療って専門は関係ないと思い、プログラムを中断して地元に帰りました。それからは地域の病院で内科医として勤め、救急医療なども担当しました。入院患者さんを診ていて気になったのが「家に帰りたい」といって、帰ることができないおじいちゃん、おばあちゃんがたくさんいたことです。そういう人たちを診ているうちに、帰る選択肢を作ることができないかと思うようになりました。そのためには、訪問診療をする医療機関が必要です。そこで、「在宅部門をつくりませんか」と病院に持ちかけて立ち上げました。地元に戻って、4年目のことでした。最初は週1回、午後の1枠の時間のみでしたが、やっているうちに在宅で診療を受ける患者さんが増えてきました。こうなったら、本格的に在宅医療に取り組みたいという思いが湧き、在宅の診療所をつくることにしました。

患者との関係性を大事に「やさしい医療」を実践する
2020年7月、暮らしている新宮市の隣町である紀宝町に「熊野地域にある在宅診療所」を意味する「くまのなる在宅診療所」をオープン。病院よりも家で過ごしたい人や、がん患者の家を訪ねて診療し、ときには看取りも行っています。
基本的にあらかじめ予定して行く訪問診療が1日10件ほど、全部で90人余りの患者さんを診ています。それ以外に「熱が出た」「呼吸が苦しい」など患者さんの体調が急変した時は往診をして対応しています。そのため、24時間、365日対応するのが基本。スマホはプライベート用のほかに、患者さんとの連絡用があって、そちらが鳴ったらすぐに行かなあかんという診療の仕方です。
大事にしているのは、昔から思っている「やさしい医療」。まず心がけているのが、患者さんと話す時間を確保することです。患者さんと自分との関係性を築くことも重要です。 症状のほかに、どういう仕事をされてきたのか、何を大事に生きてきたのか、といった患者さんのバックグラウンド的なことをよく聞くようにしています。病状的にお変わりなくても、すぐには帰らないで、何気ない世間話をたくさんします。
こうして、ちょっとずつ関係性を積み重ねていくと、色々なことを相談してもらえるようになります。人となりがわかっているほうが、重大な局面が起こったとき、その人の本音を聞きやすいんですよ。ただ「やさしさ」って難しい。やさしい医療とはどういうものなのか、今も模索中です。
今後やってみたいこと?そうですね、患者さんはどうしても外へ出る機会が減ってしまう。だから、ツアーみたいなことをやりたい。みんなでお伊勢参りに行く、温泉旅行に行くみたいな感じで。薬を出すよりも、寿命が延びると思いますよ。
「高知での学びは大きかった」と何度も口にする濱口さん。高知大学の学生や、受験を考える人に伝えたいことを聞きました。
ぼくは高知の小さな村などで色々な大人に出会い、応援してもらいました。高知には面白い大人が多いので、そういった人との出会い、つながりを大事にしてほしいですね。また、くまのなる在宅診療所にはときどき、全国から若い医学生が訪ねてきます。そんなときには「今のやさしいあなたでいてください」 と伝えています。技術や知識はいつでも得られますが、失ってしまったマインドは取り戻せない。だから、今のあなたの心を大事にしてください。
