令和7年度 学位記授与式告辞(学部)

 本日ここに、高知大学を卒業される皆様、ご卒業、誠におめでとうございます。この高知の地で学位を授与された皆さん一人ひとりに、ご臨席のご来賓の皆様とともに、高知大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。

 皆さんは本学での学びを通じて、専門分野の知識や技術のみならず、多様な価値観や考え方、そして背景の異なる人々と出会ってきました。専門の異なる友人との議論、地域の現場での学び、価値観の違いに戸惑いながら交わした対話、ときには意見が衝突し、理解し合うことの難しさを感じた場面もあったことでしょう。しかし、そうした「異質との出会い」こそが、大学で得られる最も大切な経験の一つです。異なる視点に触れ、それを排除するのではなく、理解しようと努める。その過程の中からこそ、新しい発想や価値は生まれます。今、我が国で強く求められているイノベーションとは、決して特別な才能から突然生まれるものではありません。異なるものを受け入れ、対話を重ねる中で、少しずつ形づくられていくものです。皆さんは、まさにその力を、この高知大学での学びの中で培ってきました。

 そして皆さんは、もう一つ、重要なことを学びました。未来は、誰かから与えられるものではなく、自ら考え、選び、責任を引き受けながら、形づくっていくものだということです。皆さんが学んだここ高知は、日本の中でも決して大きな都市ではありません。しかしこの地は、古くから中央の常識や既成概念にとらわれることなく、独自の道を切り拓いてきました。坂本龍馬をはじめとする多くの先人たちは、日本の「エッジ」、いわば辺境に身を置いたからこそ、世界を俯瞰し、変革を構想する視点を持ち得ました。「辺境」であることは、弱さではありません。それは、未来を構想する強さになり得るのです。高知大学もまた、この地にあるからこそ、地域の現実と真正面から向き合い、教育・研究・医療を通じて、社会に問いを投げかけてきました。皆さんは、その営みの中で学び、考え、自らの視点を磨いてきたのです。

 さて、世界に目を転じると、私たちは厳しい現実に直面しています。民主主義の基盤が揺らぎ、「自らは誤らない」という無謬性をまとった指導者が、独裁的な統治を正当化する動きが各地で見られます。しかし、無謬な人間など存在しません。人間も、社会も、本質的に、間違い得る存在です。だからこそ、社会が持続し、進化していくためには、誤りを認め、修正し続ける仕組み――すなわち「自己修正メカニズム」が不可欠なのです。これが働かなくなったとき、社会は静かに、しかし確実に、崩壊の危機へと向かいます。それは、デジタル社会やAI社会においても同様です。人間社会はこれまでも、「皆がそう信じている」という共同主観的な現実によって、差別や分断、そして戦争といった多くの不幸を生み出してきました。現代においては、SNS上の誤情報などを通じて、その影響力はさらに増しています。だからこそ今、批判的に考え、異なる意見に耳を傾け、対話を通じて修正し続ける姿勢が、これまで以上に重要となっています。

 皆さんには、高知で培った視点と、多様性の中で磨いてきた対話の力を武器に、自己修正メカニズムをフルに発揮しながら、社会の持続と進化を切り拓く存在となってほしいと願っています。その形は一つではありません。どこで、どのような立場であっても構いません。皆さん自身のやり方で、世界と向き合ってください。地方からでも、いや、地方だからこそ、世界に通じる仕事ができる。そのことを、皆さん自身の歩みで、ぜひ証明してください。世界の未来を担うのは、他の誰でもありません。ここにいる、皆さん一人ひとりです。

 結びにあたり、皆さんの前途に限りない可能性が広がっていることを確信しつつ、学長告辞といたします。ご卒業、誠におめでとうございます。

令和八年三月二十三日

高知大学・学長 受田 浩之