令和7年度 学位記授与式告辞(大学院)
本日、大学院修士課程、専門職学位課程及び博士課程を修了された皆様、誠におめでとうございます。高知大学を代表し、心からお祝い申し上げます。
この日を迎えるまでの道のりは、決して平坦なものではなかったはずです。研究に没頭する日々の中で、迷い、立ち止まり、時には自らの限界と向き合う瞬間もあったことでしょう。その歩みを支えてこられたご家族、指導教員、研究室の仲間、そして皆さんを取り巻く多くの方々の存在を、どうか今一度思い起こしてください。本日の栄えある学位は、皆さん個人の努力の結晶であると同時に、多くの支えの上に成り立つ成果でもあります。
皆さんはこれから、それぞれの学位を携え、新たな未来へと歩み出していかれます。中には、さらに高度な学びを追求し、次の学位を目指される方もいらっしゃるでしょう。進む道は多様であり、その一つひとつが尊いものです。その上で、本日、本学研究科を修了された皆さんに、ぜひ胸に刻んでいただきたいことがあります。
皆さんは、研究という営みを通じて、自らを高度化してきました。アカデミアの世界において、未知の課題を自ら設定し、仮説を立て、検証し、改善する、その一連のプロセスを他者に依存することなく、自律的に回してきました。さらに重要なのは、その過程において、自らの仮説や結論を絶対視することなく、データや論理、そして他者からの批判に基づいて修正してきたことです。
アカデミアとは、自己修正のメカニズムを内在する知の世界です。研究成果は、査読や議論を通じて客観的な批判にさらされ、その都度、より大きな視座から、検証のサイクルへと回されていきます。皆さんは、そうした厳しくも豊かな知の循環の中で鍛えられてきました。この姿勢、この思考様式は、研究の世界にとどまらず、どのような分野、どのような職業においても通用するものです。言い換えれば、それは人生そのものに向き合う態度でもあります。
ここで、少し世界に目を転じてみたいと思います。現在、民主主義の基盤が揺らぎ、「自らは誤らない」という無謬性を装った指導者が、独裁的な統治を正当化する動きが各地で見られます。しかし、無謬な人間など存在しません。人間も、社会も、本質的に誤り得る存在です。だからこそ、社会が持続し、進化していくためには、誤りを認め、修正し続ける仕組み、すなわち自己修正のメカニズムが必要不可欠なのです。
これが機能しなくなったとき、社会は静かに、しかし確実に、崩壊の危機へと向かいます。それは、デジタル社会やAI社会においても同様です。人間社会はこれまでも、「皆がそう信じている」という共同主観的な現実によって、差別や分断、そして戦争といった多くの不幸を生み出してきました。現代においては、SNS上の誤情報などを通じて、その影響力はさらに増しています。
だからこそ今、批判的に考え、異なる意見に耳を傾け、対話を通じて修正し続ける姿勢が、これまで以上に重要となっています。皆さんは、まさにその考え方を、修士・博士課程で身をもって学んできました。どうか、その力と姿勢を携え、社会のさまざまな場で役割を果たしてください。自らの考えに固執するのではなく、事実に向き合い、批判に耳を傾け、より良い方向へと舵を切る、その知的な誠実さこそが、これからの社会に強く求められています。
本日授与された学位は、皆さんの過去を証明するだけでなく、これからの歩みに対する社会からの大いなる期待でもあります。皆さん一人ひとりのこれからの歩みが、社会に希望と理性をもたらすことを心から願い、私の告辞といたします。
本日は誠におめでとうございます。
令和八年三月二十三日
高知大学・学長 受田 浩之