海洋生命科学コース理念Philosophy
海には微生物から藻類、無脊椎動物に至るまで多様な生命が存在し、それぞれが独自のしくみで生きています。本コースでは化学と生物学の諸分野を横断し、分子・しくみ・生物間の関係性といった多角的な視点から海の生命を理解する力を養います。こうして得られる新たな理解は、医薬や資源利用、バイオテクノロジーなど幅広い分野で社会に貢献します。
水圏ウイルス学研究室 長崎慶三 教授
ある特定のプランクトンが大量発生し、海の色が普段とは大きく異なって見える現象を「赤潮」と呼びます。一滴の赤潮海水には数千から数万もの赤潮プランクトンが浮遊しており、時には養殖魚介類に甚大な被害をもたらすこともあります。しかし、いかなる赤潮も永遠に続くことはなく、やがて必ず終息します。近年、その終息過程において、プランクトン細胞の衰退にウイルス感染が重要な役割を果たしていることが明らかになってきました。私たちは、赤潮という巨大な生物現象を左右するウイルスの働きを解明し、水圏生態系におけるウイルスの役割を明らかにすることで、その重要性を広く社会に発信したいと考えています。
海洋コア津田研究室 津田正史 教授
該当研究室は、天然物化学・創薬科学・機器分析学を専門とし、海洋生物、とくに渦鞭毛藻が産生する生物活性天然物の探索、構造解析、医薬リード化合物の創製に取り組んでいます。NMRや質量分析、計算化学を組み合わせた高度な構造解析法を駆使し、抗がん活性を有する海洋天然物の化学構造決定や全合成研究を推進しています。近年は、海洋性抗腫瘍性物質「イリオモテオリド-1a・1b」の立体構造決定と世界初の完全化学合成を達成し、創薬研究への展開が期待されています。また、動的核偏極(DNP)を利用した磁気共鳴イメージング(MRI)技術や新規画像診断法の開発にも取り組み、海洋天然物化学と先端医療技術を融合した学際的研究を展開しています。
海洋生物生理・生化学研究室 久保田賢 教授
私たちの研究室では、主に温帯域に生息する造礁性サンゴや宝石珊瑚などの刺胞動物を対象に、環境変化に対する遺伝子の応答、ゲノムの特徴、染色体の構造を研究しています。これまで、温度などのストレスを受けたときに変化する遺伝子の働きを調べるとともに、ゲノムや染色体の解析を進めてきました。また、ゲノム情報を利用して染色体をより詳しく識別する方法を開発し、生態の異なる刺胞動物の間で、よく似たタンパク質の働きがどのように異なるのかを探ります。遺伝子、ゲノム、染色体、タンパク質の情報を結びつけることで、刺胞動物が多様な海洋環境に適応してきた仕組みなどを明らかにすることを目指しています。
有機反応化学研究室 金野大助 教授
自然界には,医薬品や香料などとして用いることができる有用な天然有機化合物が数多く存在しています。しかしそれらの有機化合物の中には,自然界から得られる量がわずかであるために実用化できないものも数多くあります。私たちの研究室では,動物や植物が生産する天然有機化合物やそれらを応用した生理活性物質を,人工的に合成する方法の開発に取り組んでいます。また,化学反応が起こる際の反応メカニズムをコンピューターシミュレーションによって解明することで,目的とする化学物質を効率的に合成する方法の開発や,環境にやさしい新たな化学反応の開発などにも取り組んでいます。
ゲノム情報科学研究室 櫻井哲也 教授
ゲノム科学とは、生物のすべての遺伝情報である「ゲノム」を読み解き、生命のしくみを解明し応用する学問です。本研究室では、DNA(ゲノム)情報を手がかりに、海の生き物たちの「つながり」や「しくみ」を探ります。例えば、「どの生き物に寄生するのか」といった寄生虫(二生吸虫)と宿主巻貝の不思議な関係や、ヒトエグサやアオノリといった海藻が成長するために必要な条件について研究しています。また、生物が作り出す物質や環境への適応のしくみにも注目し、海の細菌も研究対象としています。膨大なDNAデータとコンピュータを駆使し、最先端のゲノム解析で海の生命の多様性と魅力に迫ります。
進化生態学研究室 三浦収 教授
無脊椎動物の生態や進化の道筋の解明に挑んでいます。地球上には多種多彩な生物が生息しています。しかし、その生物多様性が生み出される仕組みについてはまだ大部分が謎に包まれた状態です。本研究室では海域に生息する貝や淡水域の貝をモデルとして、野外調査や実験室での分子遺伝学的実験を通して貝類の多様化メカニズムの解明を目指しています。生物多様化のメカニズムには、広い分類群を通して多くの共通性があることが示唆されています。貝類の多様化を研究することで生物一般の多様性がどのように創出されたのかを理解することが本研究室の究極の目標です。このような研究の他にも、寄生虫の研究やカニ・ヤドカリに関する研究、そして海岸生物の多様性に関する研究まで様々な研究にも取り組んでいます。
微生物学研究室 寺本真紀 准教授
主に海洋環境に生息する有益な微生物(特に細菌)の探索と、それらを環境問題の解決や産業で利用する研究を行っています。最近は、ポリプロピレン(PP)の生分解の初実証(2023年)によりプラスチック分解菌の研究で注目されていますが、CO2からジェット燃料など原油系燃料と同等に使える燃料を生産する菌の研究でも期待されています。プラスチック分解菌の研究では、プラスチックごみを分解するのみならず、分解と同時に元のプラスチックよりも価値のある物質を環境に優しく生産する菌を開発しようとしています。その他、カロテノイドや抗生物質を含め、健康食品や薬となる有用物質を生産する菌の研究も期待されています。
分子薬理学研究室 難波卓司 准教授
海藻は、光、海水とCO₂だけで増え続ける、事実上無尽蔵のバイオマスです。当研究室が着目するミナミアオノリは、1日で質量が4倍に増加する非常に早い成長速度をもち、この驚異的な増殖力を遺伝子レベルで解明する研究を進めています。さらに、この海藻を化粧品原料や健康食品、さらにはバイオ燃料へと展開することで、石油に依存しない資源を海からつくり出すことを目指しています。加えて海藻は成長とともにCO₂を固定するため、ブルーカーボンとしてカーボンニュートラルの実現にも寄与します。また、高知県が誇る清流・四万十川の名産スジアオノリの陸上養殖を核に、地域に新たな産業と雇用を生み出し、海藻産業による地方創生も目指しています。
微生物化学生態学研究室 ウラノバダナ 講師
自然環境に存在する微生物は、単独ではなく、他の微生物や動植物と相互作用しながら生息しています。その際、微生物同士は栄養などをめぐって競争を行っています。このような相互作用の多くは、「天然化合物」と呼ばれる化学シグナル物質によって媒介されています。さらに、さまざまな天然化合物は抗菌活性や細胞毒性を有しており、抗生物質や抗がん剤として利用されています。したがって、自然環境における「微生物間化学的相互作用」の仕組みをより深く理解することは、微生物機能の解明や新規天然化合物の探索・開発において重要です。本研究室では、海洋堆積物、および無脊椎動物や海藻から細菌の単離・培養を行い、海洋環境における微生物間の化学的相互作用の解明を目的としています。
水圏生理活性物質学研究室 谷和樹 講師
私たちの研究室では、海や水辺に暮らす生物が作り出す【生理活性物質】に注目し、人や水産業に役立つ新しい物質の発見を目指した研究を行っています。海洋生物には、外敵から身を守ったり、他の生物と関わったりするために、さまざまな特徴的な化学物質を作る能力があります。私たちは、軟体サンゴや海藻、ウミウシなどの海洋生物から化学物質を取り出し、分析することでその構造を明らかにするとともに、病気の原因となる微生物や寄生虫(写真の赤丸)に対する効果を調べています。また、魚の健康を守るための新しい治療・予防技術や、環境に優しい水産養殖への応用にも取り組んでいます。海の未知なる可能性を探り、未来の医療や水産業に貢献することを目指しています。
天然物科学研究室 小野寺健一 助教
生き物が生産する有用物質である「天然物」を新たに発見し、活用することを目的とした研究を行っています。 研究題材としては主に褐虫藻を用い、「天然物」を生産するための人工培養や「天然物」の褐虫藻からの分離・構造決定を行っています。 さらには獲得した「天然物」の我々に対する有効活用も目標にしています。一例として褐虫藻「天然物」にアレルギーを抑制する効果があることを発見しました。また、褐虫藻はサンゴをはじめとする海洋動物の白化現象に関わる藻類で、海洋動物の生存や炭素固定など環境問題にも影響を及ぼす生物です。褐虫藻の力を借りて、我々や地球環境に良い影響を与えることが可能となることを目指しています。
