公開日 2025年6月18日
造礁性サンゴの中程度の熱ストレス後の短期的な回復過程を評価
黒潮圏総合科学専攻3年生のSam Edward Manaliliさんおよび2008年に黒潮圏海洋科学研究科を修了したShashank Keshavmurthy博士(公益財団法人黒潮生物研究所 大月町)らの研究成果が、2025年4月21日付でMarine Biology誌に掲載されました。
地球温暖化による海水温の上昇に伴う造礁性サンゴの白化現象が広く知られており、その発生メカニズムに焦点を当てた研究や保全活動が展開されていますが、白化後の「回復過程」に関する分子レベルでの理解は限定的でした。
本研究では、温帯域(高知県大月町西泊)に生息する造礁性サンゴ Acropora hyacinthus を対象に、制御された水槽飼育で再現した中程度の熱ストレス後の短期的な回復過程の詳細について、共生藻類(Symbiodiniaceae)の細胞密度、クロロフィルa濃度、光合成効率などの生理指標を測定するとともに、宿主サンゴのトランスクリプトーム解析を行い、遺伝子発現の変化を観察することで評価しました。
その結果、熱ストレス期間中に共生藻類の生理指標が顕著に低下し、回復期間中もその傾向が続く一方で、宿主サンゴでは回復特異的な遺伝子群の発現が確認され、ストレス応答から代謝再構築へのシフトが示唆されました。このような分子応答は、宿主が積極的に恒常性の回復を試みていることを示しており、共生藻類の生理状態と宿主の分子応答が必ずしも一致しないことを明らかにしました。
これらの知見は、サンゴの回復評価において、未知の生体内反応が生じている可能性を示唆するとともに、温帯域における造礁性サンゴの適応進化や気候変動への応答を理解するための重要な基盤情報を提供するものです。
【論文情報】
掲載誌:Marine Biology
論文名:Short-term recovery responses in Acropora hyacinthus exposed to moderate-term thermal stress.
著者:Sam Edward N. Manalili, Dan Anthony U. Bataan, Dana Ulanova, Tetsuya Sakurai, Satoko Sekida, Shashank Keshavmurthy, Takuma Mezaki & Satoshi Kubota
論文掲載HP:https://link.springer.com/article/10.1007/s00227-025-04636-1