特集記事−Feature article
今こそ「暖地」を科学せよ絶滅危惧種バランギボウシの増殖に挑む
田辺貢穂修士2年(2015年度)
絶滅危惧Ⅰ類の「バランギボウシ」
ギボウシは、ガーデニング植物として人気の高いキジカクシ科植物。実は、江戸時代にシーボルトがオランダに持ち帰って以来、欧米を中心に品種改良が進み、今は特にアメリカで人気のある日本を中心とした東アジア原産の植物です。日本では古くから新芽を「ウルイ」(高知県では「エビナ」)と呼び、山菜として食べていました。そのギボウシの一種で、全国でも高知と愛知、岐阜の三県にしか生息していない「バランギボウシ」は、高知県の絶滅危惧Ⅰ類に指定され、このままでは野生での種の存続が難しいと目されています。
バランギボウシ。夏にはきれいな淡紫色の花を咲かせる
種子ができないバランギボウシを細胞培養
実は、このバランギボウシは、種子ができない種類です。種子ができないのに尚かつ絶滅寸前ということで、私は学部生の時からこのバランギボウシの組織を採取し、培地で育てて増殖する研究に取り組んできました。
採取する細胞は、花の子房です。培養の際は、様々な種類の合成物質を添加して、成長の促進作用を見ます。最初は島崎先生が成長促進効果を発見したヒアルロン酸を使用しましたが、バランギボウシでは効果が得らませでした。そこで現在は植物ホルモンの一群、オーキシンの合成物質であるベンジルアデニンやナフタレン酢酸、サイトカイニンなどを培地に添加して実験を進め、バランギボウシの細胞が効率よく成長促進することを確認しました。
実験の過程では失敗も数多くありました。一番苦労したのはどの部分の細胞を使うかという点で、培養したものすべてが失敗という時もありましたが、その都度自分で考え、時には先生にアドバイスをいただきながら再チャレンジし、結果を出すことができました。自分の研究が、大好きなバランギボウシの保存に少しでも役立てたらうれしく思います。
採取した細胞から葉が出てきたところ
豊かな山野をフィールドワークした日々
農学の研究において現場はとても大切ですし、何よりフィールドに出るのは楽しい! 私はそのことを先生から教わりました。先生は、山に入ると誰よりもワクワクしておられて、時にはずっと一人でうれしそうにしゃべっていたりして(笑)、本当に自然や植物が好きなのだなということが伝わってきました。そんなふうに大人になっても好きな世界を楽しみ、究めている姿は、私の憧れです。
春から私は地元・広島県に戻り、食品関連の企業で働きます。仕事の内容は今の研究とは直接関係ありませんが、高知で育んだ自然を楽しむ感性や、物事を自分で考え解決していく力を活かして、地域や社会の役に立ちたいと思っています。
バランギボウシの自生地調査
【教員より一言:島崎教授】
高知は野生生物資源の宝庫です。フィールドワークでは、まず危険がないよう私が下見に行った後、学生を連れて山に入り、植物を探したり許可を取って採集したりしています。また高知には、日本の植物分類学の父と呼ばれる牧野富太郎博士の業績をたたえる牧野植物園があります。それもまた、農学を学ぶ上では絶好の環境。実は、私たちが扱っているラン科植物もほとんどが牧野博士の命名で、学名の最後に「Makino」が付いています。当研究室では、その牧野植物園と共同で様々なラン科植物のDNAを調べてルーツを探る研究なども学生参加で行っています。