高知大学農林海洋科学部・大学院総合人間自然科学研究科農林海洋科学専攻

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イネのタンパク質群の未知に迫る

西 悠介

修士1年(2019年度)
上野研究室所属

イネは遺伝子の全ゲノム配列がわかっている植物ですが、金属輸送タンパク質群の中で、まだ役割がわかっていないグループがあります。僕は、そのタンパク質のグループを遺伝子という切り口から追跡し、それがどんな金属を輸送する機能があるのかを解明するという、未知の部分を探る基礎研究をしています。

遺伝子と金属の関わりを探る!

研究対象は、何の金属を運ぶのかわかっていない、一つの遺伝子。可能性を一つずつ潰して絞り込んでいくという、間口が広く、奥の深い基礎研究です。
実験は、「亜鉛に弱い」「マンガンに弱い」などの特性がわかっている酵母に遺伝子を組み込み、その酵母が生きられない環境の中で培養します。例えば、亜鉛に弱い酵母に研究対象の遺伝子を入れ、亜鉛過剰な培地で培養した場合、死ぬはずの酵母が生育すれば、その遺伝子は亜鉛に対して何らかの役割を果たしているという結論になります。 今、同様の手法で試しているのは、マンガン、鉄、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、カドミウム、鉛の8種。酵母の特性を生かしながら、遺伝子と金属の関連を調べています。

実験は、同じ動作の繰り返しになるが、培地のほんの僅かな変化を発見できると、それが大きな喜びにつながる

 

もう一つは、イネの生育実験です。それぞれの金属を添加した培地に野生株と遺伝子を欠損させた変異株の種を蒔き、生育の変化を見ていきます。金属が過剰な条件の中で、野生株と変異株の生育を比較し、ごくわずかでも差異が生じれば大きな成果。どれくらいの濃度で結果が得られるのかも手探りで、少しずつ条件を変えて何度もトライします。
コツコツと同じ作業を繰り返し、小さな変化を見ていくという根気のいる研究で、3年目になりますが、まだ大きな成果にはつながっていません。「しっかりした成果を出したい」という思いが研究を続けるモチベーションになっています。

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1個の遺伝子に、とことん向き合う

僕は、食に関わる農業について学びたいとの思いから、高知大学農学部(現・農林海洋科学部)にやって来ました。理系で学ぶからには大学院まで行って研究をするというイメージが入学当初からあり、学部で行っていた研究をそのまま続けています。
「イネの機能未知の金属輸送タンパク質群の解析」というこのテーマは、学部3年生の時に、先生が用意してくださったテーマの中から興味があるものを選びました。先生の研究や論文はとても参考になり、培地の作り方もそこからヒントを得ました。予想や仮説の立て方、実験の仕方などアドバイスをもらいながら研究を進め、結果についてディスカッションを行って、次の実験の方向性を決めます。

イネも野菜も栽培する土の状態が重要で、酸性度や水はけによっても生育が変わってきます。植物の栽培を通して、改めて食への興味が深くなりました。
遺伝子の研究には長い時間がかかります。僕の研究生活のすべてをかけて、無数にある遺伝子の中の1個に向き合い、機能を解明したいと思っています!

 

【教員より一言:上野教授】
研究は明らかになっている知見を基に仮設を立ててアプローチしていきますが、思い通りの結果が得られないことが多々あります。しかし、それは単なる失敗ではなく、一つの仮説が消えたということで、成功へ一歩前進したということ。失敗も成功の一つと考えて、結果に結び付けてください。

そして、ある程度まとまったら学会に出てください。同学年でも、大きな成果を出している人たちを見ると、考え方が変わると思います。結果ベースで物事を考えられるようになります。
私自身、22歳で初めて学会に参加した時は、とてもショックを受けました。自分はものすごく頑張っていると思っていたのに、全然ダメだったからです。それから研究に対する考え方が変わりました。 ぜひ前向きにトライを!