北大西洋の海洋循環の弱化が遠く離れた南半球の氷床変動を促進―地質試料と数値シミュレーションが解き明かす地球規模の気候変動連鎖―
公開日:
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人九州大学
国立大学法人東京大学
国立大学法人高知大学
国立大学法人北海道大学
理工学部の長谷川精准教授、国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 河村知彦)地球環境研究部門 地球表層システム研究センターの粕谷拓人研究員(研究開始時:同機構 研究生/九州大学大学院 理学府地球惑星科学専攻 博士後期課程)、東京大学大気海洋研究所 國吉優太大学院生(博士課程)(研究当時/現:国立環境研究所特別研究員)らの国際共同研究チームは、地質記録と数値モデルを組み合わせた古気候学(※1)研究を実施し、「大西洋子午面循環(※2;以下、AMOC)」の弱化が遠く離れた南半球中・高緯度域の気候にも大きな影響を及ぼし得ることを明らかにしました。
発表のポイント
- 地球の気候に深く関わる重要な海洋循環「大西洋子午面循環(AMOC)」の将来的な弱化が懸念され、その影響が地球規模でどのように波及するのかが注目される中、本研究では、過去に生じた大規模な弱化に着目し、遠く離れた南半球の気候や南米パタゴニア氷床に及ぼした影響を地質記録と数値シミュレーションを用いて調査しました。
- 南東太平洋チリ沖深海底の最終氷期(※3)の地層を分析した結果、AMOCの弱化に対応して陸からの粒子供給が繰り返し増加していたことを発見し、その背景には、パタゴニア氷床の内陸部で降雪が増える一方、縁辺域では融け水の流出が活発になるような気候・氷床変動が起きていた可能性を示しました。
- これらの結果は、AMOCの弱化が、パタゴニアを含む南半球中・高緯度域で海水温の上昇と偏西風の強化、それらに伴う降水量の増加を引き起こした可能性を示すものであり、AMOCの変化をきっかけとして地球規模で生じ得る「気候変動の連鎖」を理解し、より正確な将来予測を行うための科学的基盤となる成果です。

図 : 地質試料と数値シミュレーションを用いた過去の地球規模の気候変動連鎖の復元
(衛星写真:https://science.nasa.gov/earth/earth-observatory/the-blue-marble-true-color-global-imagery-at-1km-resolution/)
<用語解説>
※1 古気候学 : 過去の気候環境を復元し、その変動メカニズムの解明を目指す学問分野。主に、気候や環境の代替指標を用いて地質試料を解析するプロキシ研究と、大気・海洋・陸域などを再現した数値モデルを用いてシミュレーションを行うモデル研究に手法が分かれる。
※2 大西洋子午面循環(AMOC:Atlantic Meridional Overturning Circulation) : 大西洋表層を北上する暖かい海流(図1の赤い矢印)と、北大西洋で折り返し深層を南下する冷たい海流(図1の青い矢印)から成る大規模な海流系。低緯度–高緯度間の熱分配に寄与し、地球の気候を調節する役割を担う。
※3 最終氷期 : 過去80万年間、地球の気候は10万年周期で寒冷な氷期と温暖な間氷期を繰り返してきた。最終氷期は約11万5千年前から1万2千年前まで続いた最後の氷期。
論文情報
タイトル : Patagonian Ice Sheet discharge enhanced by AMOC slowdown through thermal bipolar seesaw
著 者 : 粕谷拓人1,2、國吉優太3、長島佳菜1、長谷川精4、阿部彩子3、Julia R. Hagemann5,6, Helge W. Arz7, Carina B. Lange8,9,10, Frank Lamy6, 岩崎晋弥11, Wing-Le Chan3, 原田尚美1,3、村山雅史4、齋藤冬樹1、岡崎裕典2
1. 海洋研究開発機構、2. 九州大学、3. 東京大学大気海洋研究所、4. 高知大学、5. ラトガース大学、6.アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所、7.ライプニッツ・バルト海研究所、8.コンセプシオン大学、9.アウストラル大学、10.スクリップス海洋研究所、11.北海道大学
DOI : ※調整中※