高知大学医学部 看護学科 臨床看護学講座 溝渕研究室

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ユズ種子オイルが血糖値上昇をおさえる!

 ユズ種子オイルに含まれる成分を分析すると、カンキツの苦味の原因物質であるリモノイド、特にノミリンが多く含まれています。我々の研究で、このノミリンが、血糖値の上昇を抑えることがわかりました。
 今回は、健常人を対象にユズ種子オイル(非加熱ユズ種子油)を摂取していただき、空腹時血糖値への影響を調べる臨床試験をおこないましたので、その結果をお示しします。臨床試験は、高知大学医学部倫理委員会の承認を得ています。

臨床試験は、『プラセボ対照二重盲検ランダム化並行群間比較試験』で行いました。

 『プラセボ対照』とは、見た目は同じで、非加熱ユズ種子油が充填されているカプセルと、機能をもたない菜種油が充填されたプラセボカプセルを準備し(図1)、両群を比較することを意味しています。

プラセボ対照

(図1)


 『二重盲検』とは、研究対象者側も臨床試験を行う側もどちらのカプセルを摂取しているかわからない環境下で行う試験です。非加熱ユズ種子油と菜種油が充填されているカプセルは、パウチに印字された識別番号で判別できますが(図2)、その識別番号は臨床試験に参加していない第三者が研究終了時まで管理しています。『二重盲検』は、対象者の判断、行動、心理や研究者の観察結果に影響を及ぼさないようにするための方法です。

二重盲検

(図2)


 『ランダム化』とは、どちらのカプセルを摂取するかを研究対象者および私たちが決定するのではなく、乱数表で決められるということです。
 『並行群間比較試験』は、対象者を非加熱ユズ種子油群と菜種油群に分け、各群同時に一定期間摂取していただき評価する試験です。
 以上より、今回行った『プラセボ対照二重盲検ランダム化並行群間比較試験』は、臨床試験のなかでも信頼性が高い試験です。

対象と方法

     対象は、

  • ・体格指数(BMI)が23以上30未満(BMI22が適正体重)
  • ・体組成計による内臓脂肪レベルが10未満(10以上は内臓脂肪型肥満)
  • ・摂取開始前の血液検査で空腹時血糖値が126 mg/dL未満かつLDLコレステロールが140 mg/dL未満、かつALTが45 U/L以下、かつASTが40 U/L以下
  • に設定しました。お薬を常用していない、血糖値、LDLコレステロール値に異常を認めない、健常人の方を対象者としました。
     方法は、1日2回朝夕各2カプセルを6ヶ月間摂取して頂きました。採血は、摂取前、8週間後、16週間後、24週間後に行い、空腹時血糖値を測定しました。

結果

 摂取前の空腹時血糖値には、非加熱ユズ種子油群と菜種油群に差は認められませんでしたが、摂取開始16週間後には、非加熱ユズ種子油群の空腹時血糖値は88.2 ± 6.82 mg/dL、菜種油群は92.6 ± 9.08 mg/dLであり、非加熱ユズ種子油群が菜種油群と比較して顕著に血糖値を抑えました(図3)。

空腹時血糖値の推移

(図3)

 続いて、加齢に伴い耐糖能が低下することが報告されていることから、40歳以上の32名と40歳未満の30名に分けてそれぞれ2群間の比較を行いました(図4)。

年齢による解析対象者

(図4)

 その結果、40歳以上の解析にて、摂取前では2群間に差は認められませんでしたが、8週間後、16週間後、24週間後において非加熱ユズ種子油群が菜種油群に比較して空腹時血糖値が顕著に低値でした(図5左)。40歳未満の解析では、摂取前後の空腹時血糖値は、両群間に差は認められませんでした(図5右) 。

日本語版便秘評価尺度

(図5)

 以上の臨床試験の結果から、非加熱ユズ種子油を摂取することで、血糖値を改善することが明らかとなりました。また、その効果は40歳以上の対象者に顕著であったことから、加齢に伴う耐糖能低下に対して有効であることが示唆されました。
 今回ご紹介した機能性臨床試験、抗酸化作用と安全性を明らかにした安全性臨床試験、血糖値改善効果の関与成分としてユズ種子油に含まれるノミリンの基礎実験の結果をもとに、現在、馬路村農業協同組合が機能性表示食品の届出を準備しています。機能性表示食品は効果・効能を商品に明示することができます。我々の非加熱ユズ種子油は、機能カテゴリー:ダイエットの「血糖値の上昇を抑える」と表記することが可能となります。

予想されるメカニズム

 ノミリンは、胆汁酸受容体であるTGR5(transmembrane G protein-coupled receptor 5)のアゴニストであることが見いだされています。すなわち、ノミリンが胆汁酸の受容体であるTGR5に結合して、胆汁酸が結合した時と同様の作用を示すということです。
 下部小腸、大腸の腸管内にL細胞とよばれる細胞があり、細胞膜表面にはTGR5があります。TGR5が刺激されるとL細胞からGLP-1 (glucagon-like peptide-1) の分泌が促されます。GLP-1は、インスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるインクレチンの一つです。
 すなわち、摂取したユズ種子オイルに含まれるノミリンが、腸管内でL細胞のTGR5と結合してGLP-1分泌を促します。その結果、膵臓からのインスリン分泌量が増加し、血糖値を低下させることが想定されます。

今後の可能性

 本研究ではユズ種子オイルがTGR5を介してGLP-1分泌を促進し、血糖値の正常化に寄与する可能性を示しました。すでにGLP-1受容体作動薬は糖尿病治療に用いられています。また近年、上部小腸の腸管内にあるK細胞にもTGR5が存在し、刺激されるとインクレチンの一つであるGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)の分泌が促進されるとの報告があります。このGIP受容体作動薬も糖尿病の治療薬として認可されています。
 2023年4月に販売開始となった新規糖尿病治療薬は、GLP-1/GIP二重受容体作動薬であり、GLP-1とGIPの二つの効果を発揮することから糖尿病治療の一翼を担うことが期待されます。ユズ種子オイルにおいても、TGR5を介してGLP-1のみならずGIPも分泌を促進する可能性があります。このことは健常人あるいは糖尿病境界型の人々がユズ種子オイルを摂取することで、糖尿病の発症を防ぐ、あるいは発症を遅らせられる可能性がますます大きくなりました。ユズ種子オイルによるGLP-1/GIPの共益効果については、今後の研究成果が待たれるところです。

 尚、この臨床試験は、「高知県産学官連携産業創出研究推進事業」によって行われました。

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