高知大学農林海洋科学部・大学院総合人間自然科学研究科農林海洋科学専攻

研究紹介
持続可能な未来に向けて、農林海洋科学分野の研究が果たす役割は多岐に渡ります。
高知大学では多くの個性的な教員が、地の利を活かし世界に貢献できる様々な研究活動を行っています。

特集記事−Feature Article

未来は土佐の山より

未利用材を利用した化石
エネルギー代替と地域活性化

鈴木保志

[専門領域] 林業工学
[研究テーマ]
●バ林業用架線、特にH型架線などの平面型架線
●林道・作業道の計画・維持管理
●木質バイオマス資源(林地残材)の収集・運搬システム

未利用材を「薪」としてエネルギー利用する

日本の林業が産業として厳しい状況に直面する中、木質バイオマスの利用促進は、その再生の起爆剤として、またエネルギー問題解決の方策として注目を浴びています。しかしながら、大規模な工場や発電施設といった"箱物"の整備が本当に地域にお金を落とし、地域の元気につながっているのかというと、そう簡単にはいかない一面もあります。
少子高齢化、過疎化の進む地方の中山間地域には、もっと低投資でできて能率的な木質バイオマスの活用方法が必要――そういう思いを持って、今、私たちの研究室が取り組んでいるのが、未利用木材を「薪」として熱利用するしくみ作りとその検証です。

林業機械の進化と地域の草の根運動が、木質バイオマス活用を後押し

木質バイオマスの中でも薪は、加工や燃やすための機械にかける初期投資が低コストですむため、チップやペレットと比べて個人利用や企業の参入がしやすいという利点を持っています。そこに近年、二つの動きがリンクして、利用拡大を後押ししています。

一つは林業機械の進歩です。昔の林業では、山で木を切ったらその場で枝葉を落とし、丸太にしたものだけを架線などでふもとの集積地まで運び下ろしていました。実は、主伐した成熟木でも用材として使われるのはその6~7割ほど。残った小端や曲がった根本部分、また間伐材のうち細すぎて用材に向かないものなどの多くは、山のあちこちに残置されていました。しかし近年、機械の進歩によって枝払いと玉切りがまとめて一気にできるようになると、残材も集積地の一カ所に集約されて効率的に回収・運搬ができるようになってきて、木質バイオマスを活用しやすい環境が少しずつ整ってきました。

もう一つは、小規模林家の皆さんの草の根的な活動です。「道の駅」から発想を得た「木の駅」というプロジェクトが高知をはじめ全国各地で立ち上がり、生産者と消費者をつなぐ拠点となって動き始めたのです。 現在、高知県内では、いの町、須崎市、仁淀川町などにおいて、公共施設や温泉での薪利用が拡大。新たな木質バイオマス活用のモデルケースとして注目が集まっています。

 

 

産業再生、地域再生における大学の役割

木質バイオマスの薪利用は、単に化石エネルギーの代替というだけではなく、やり方によっては地域の産業再生にもつなげることが可能です。
例えば、いの町の「土佐和紙工芸村QRAUD」では併設されている温泉に薪を導入し、ブランド力の強化に成功しました。これまでは化石燃料を使ってお湯を沸かしていたのですが、設備の更新時期を迎えて薪に切替。入浴と薪割り体験をセットで提供し、薪割りをしてくれたお客様には入浴料を割り引くといったおもしろいアイデアで、ブランディングやマーケティングの強化につなげていきました。
新しい技術やシステムが地域の暮らしやアイデアと結びついて実用化され、地域の中にいい循環を創っていく――それが、農学の本来の使命です。大学には、新しい技術やシステムを開発し、その有効性を科学的に検証し、地域を継続的にバックアップしていくことが求められます。
私たちの研究室では現在、薪の生産性を検証する実験と、薪になる前の木材の運搬コストを下げるための架線などの集材システムの技術研究とを並行して行っています。これによって薪利用を拡大し、地域の中に"いい循環"を作っていければうれしいですね。

 

薪割りの検証実験の様子

「キャンパス一日公開」で、地域の方に薪の良さをPR

森林県・高知から山の未来を考える

国的に過疎・高齢化や木材価格の低迷に伴う林業の衰退や山の荒廃が課題となっている中、高知県が他と違っているのは、林業分野への若者の参入率が他県と比べて高いことです。山の仕事への就労を支援する国の緑の雇用制度が効果を上げていることもありますが、地域の優良林業事業体のがんばりや、Iターン・Uターンを受け入れやすい土地柄も高知の山が元気な理由の一つ。
そのような高知の特徴を活かし、これからも中山間地域の林業や経済の底上げにつながる研究を地域の方と一緒に続けていきたいと思っています。