ご挨拶

内田一茂

 2019年(令和元年)8月1日付を持ちまして、高知大学医学部消化器内科学教授を拝命しました内田一茂と申します。私は、1992年に高知医科大学を卒業し、当教室の第二代教授である山本泰猛先生が主宰されていましたここ第一内科に入局しました。その後2年間高知県内で働いた後に関西地方に移り、この度25年ぶりに縁あって高知へ帰ってくることとなりました。

 私が医師となった1992年と比べると、消化器内科の診療は大きく変わりました。消化管では、まず2003年に胃癌の原因とされたヘリコバクターピロリ菌の除菌が、保険診療で認められました。そして2006年に胃癌の内視鏡治療に内視鏡的粘膜剥離術(ESD) という手技が保険収載され、胃癌の診療は大きく変わりました。2005年には大腸癌にFOLFIRI/FOLFOX という化学療法が保険適応となり、その後進行大腸癌の治療成績は格段に向上しました。また2010年には潰瘍性大腸炎に、抗TNF-α抗体による治療が使えるようなり、炎症性腸疾患の治療は大きく変わり続けています。一方肝臓について見ますと、2014年にC型肝炎は直接作用抗ウイルス薬(DAA)という飲み薬で治療できる時代となり、いまや治る病気となりました。このような治療の進歩により、今後もさらに疾病構造は変化していくものと予想されます。

 疾病構造だけでなく、人口構造も大きく変化しました。高知県はいまや全国第二位の高齢化率となり、未だ誰も経験したことがない超高齢化社会を突き進んでいます。大阪がこのような高齢化を迎えるのはおよそ15年後だと言われていますが、この先高知の医療がどう進んでいくのかは全国から注目されているところです。このような状況で私たち高知大学医学部消化器内科学は、消化器の難病に臨む大学病院としての役割を果たすと共に、県内の医療機関と連携して地域の中核病院としての機能も担っていく必要があると考えています。

 高知県の医療と同時に私たちは、この先の高知県の医療を支えてくれる若い医師を育てる教育という重要な使命も課せられています。教育の最大目標は、将来の良き医療人の育成にあります。人間的にバランスが取れた、高い臨床能力を持った医師を育てるだけでなく、問題点を自分で見つけ出しそれを自分で解決していく自己解決能力を持った医師の育成が必要です。そのためにはLearning Continuityとして、卒前教育から、初期研修、後期研修(内科専門医と消化器内科専門医としてのサブスペシャリティー)、そして大学院進学から留学、更なる専門領域の研修もしくは地域医療への貢献と個人の個性に合わせた道を整えています。

 私はいままで、消化器免疫、前任地では特に1型自己免疫性膵炎(IgG4関連疾患)の診断基準の作成、病態生理の解明に精力的に取り組んで来ました。増加し続ける悪性新生物には、ヘリコバクター胃炎から胃癌もしくはリンパ腫、慢性膵炎から膵臓癌、潰瘍性大腸炎から大腸癌、慢性肝炎から肝硬変そして肝臓癌と炎症を背景としているものが多数あります。その前癌病変である炎症をコントロールできないかと考え、消化器免疫を研究のテーマとしてきました。高知医科大学第一内科(現 高知大学医学部消化器内科学)は、初代教授伊藤憲一先生、第二代教授山本泰猛先生、第三代教授大西三朗先生、第四代教授西原利治先生と素晴らしい先生方が築かれてきた教室です。消化器と免疫そして今まで培われた教室の伝統を引き継ぎ炎症と発癌をテーマとして、“From bedside to bench and back again.”を合言葉に、研究のための研究ではなく臨床に根ざした臨床にフィードバックできる研究を目指していきたいと考えています。

 ここ高知に帰ってくるということは、とても重い責任を背負うこととなりましたが、その一方でここには高知でしかできない仕事が多数秘められているとも思っています。若い人たちと一緒に、高知県の医療へ貢献することそして高知大学医学部を発展させることが、私を育ててくれた高知への恩返しだと考えています。今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。そして私たちと一緒に、消化器内科を通じて高知県の医療に取り組んでくれる若い人たちを歓迎します。

高知大学医学部消化器内科学講座 教授 内田 一茂