高知大学農林海洋科学部・大学院総合人間自然科学研究科農林海洋科学専攻

研究紹介
持続可能な未来に向けて、農林海洋科学分野の研究が果たす役割は多岐に渡ります。
高知大学では多くの個性的な教員が、地の利を活かし世界に貢献できる様々な研究活動を行っています。

特集記事−Feature Article

今こそ「暖地」を科学せよ

生産技術から野生種の保存までラン科植物を徹底研究

島崎一彦

[専門領域] 花卉園芸学、植物環境工学
[研究テーマ]
●園芸植物の発育生理に関する研究
●四国産ギボウシの生態と繁殖に関する研究
●エリシター関連物質を利用した作物の成長促進に関する研究
●光環境制御による植物の成長調節

不思議な生態を持つ、ラン科植物

観賞用として人気の高いラン科植物。自然界では共生菌の力を借りて成長しますが、人工的に育てる場合は苗を瓶の中に入れ、化学合成した植物ホルモンを使って成長を促します。しかし、あまり強い合成物質を使ってしまうと奇形が発生したり、環境負荷が大きかったりと問題が起こるため、環境にやさしい代替物質が求められています。

ヒアルロン酸で苗を育てる?!

そこで私たちが注目したのは、化粧品などの保湿成分として使われているヒアルロン酸です。ヒアルロン酸は、もともと鶏のトサカから発見された物質。植物は病気や害虫などのストレスにさらされると防御態勢を取り、成長が促進されたり、より丈夫に育ったりするため、ヒアルロン酸を利用することで苗が鳥などの天敵から攻撃されたと勘違いをし、同じ反応が起こるのではないかと考えたのです。
実験の結果、ヒアルロン酸を入れると瓶の中の苗の成長がとてもよくなることを確認。これは、当研究室が世界で初めて発表した研究成果です。このように、私たち花卉園芸学研究室では、ラン科植物にとってストレスや刺激になる環境を疑似的に作り出し、ストレスに強い、あるいは成長が早くなる条件を研究しています。

25度に温度管理された実験室の中で、苗を培養実験

光の色にも成長の秘密が

苗の成長に影響を与えるのは、植物ホルモンだけではありません。実は光も関係しています。 そもそも植物の葉っぱがなぜ緑色なのか?――それは、葉っぱが緑色の光をほとんど吸収せずに反射しているため、それが私たちの目に入って緑色に見えるからです。すなわち、植物の光合成には葉っぱが吸収する長波長光(赤色の光)と短波長光(青色の光)だけが必要で、中波長光(緑色の光)は不要だ、というのが従来の定説でした。しかし、中波長光(緑色の光)は多すぎると植物にとって害になるけれど、ある程度ならストレス対抗性を引き出し、苗を丈夫にしたり成長促進につながることが実験によって明らかになってきました。
このように、光やもともと自然界に存在する物質をうまく利用して瓶の中の苗の成長をコントロールすることで、特殊な生態を持つラン科植物の増殖や絶滅危惧種の保存に貢献したいと考えています。

LEDなど次世代光源を使って、光環境を制御

グローバル化する花卉園芸の世界

温暖な気候の高知県は、昔から花卉園芸が盛んです。おもしろいのは、高知の農家には「いごっそう(=気骨のある頑固者)」が多く、メジャーな品種や開発の進んだ花卉はみんな扱おうとしないこと。三大花卉と呼ばれるバラ、菊、カーネーションには興味がなく、人がやっていないものに挑戦する傾向が強いことです。その結果、ブルースターやグロリオサなど、高知が日本一の品質や生産量を誇る花卉もどんどん開発されています。

一方、世界に目を向けると、東南アジアの国々において花卉園芸は成長産業の一つとして発展してきつつあります。特にバングラデシュのシェレバングラ農科大学と高知大学は、トルコ桔梗を中心とした花卉生産に関する共同研究を行っており、当研究室でも多くの留学生を受け入れています。日本の西南暖地・高知で積み上げてきた高い技術力を、今後、東南アジアの産業創出や経済発展の一助となれるよう、発信していきたいと思っています。

 

ブルースター

グロリオサ

多様性の解明と種の保存―次世代への使命

高知県は、野生生物資源の宝庫です。しかし、ラン科植物の中には、趣味家や業者による乱獲により絶滅の危機にさらされている品種もたくさんあります。そういった絶滅危惧種の保存や貴重種の系統の解明なども、当研究室に課せられた大切な使命。産業という側面と生態系保全という側面、その両方からラン科植物を愛し、研究しています。