高知大学農林海洋科学部・大学院総合人間自然科学研究科農林海洋科学専攻

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カジメ場の消失から再生までを実録

寺田 惇

修士2年(2019年度)
中村研究室所属

研究テーマは、「カジメ海中林の衰退と魚類群集構造の変化」です。海水温の上昇に伴って、日本各地でカジメ場が縮小・消滅しています。高知県内では、黒潮町田野浦に唯一の天然のカジメ場がありますが、一時急激にカジメがなくなる現象があり、その後徐々に回復してきました。この過程を調査し、このカジメ場において、どのような魚が依存度が高いか、環境変化によって魚や植物がどのように変化しているかを研究しています。

2回目のフィールド調査で衝撃

フィールド調査は、「ベルトトランセクト法」という手法で行います。まっすぐに引いたロープを基準にして、左右50㎝ずつ、長さ20mの範囲を観察し、そこにいる魚や植物、底質を記録していきます。1mごとにコドラートという正方形の枠を置いてそこにある海藻や底質は写真に収めることができますが、動きまわる魚を撮るのは難しいので、目視で確認し、水の中でも文字を書くことができる「水中ノート」に書いていきます。最初のうちは魚の種類を特定することが難しかったのですが、そこは先生に助けていただきました。

 

カジメ場での潜水調査の様子

柏島でのアオリイカの産卵調査。沈めた間伐材が産卵場となる藻場の代わりとなっている。学生が手に持っているものが水の中でも文字が書ける「水中ノート」

 

最初に田野浦の海に潜ったのは2017年、学部4年生の夏でした。その時、カジメ群落はかなり繁茂していたのですが、11月に潜った時にはほとんど無藻状態に。カジメは周年生の海藻なので、通常はこの時期になくなることはありません。わずか数カ月でこんなになってしまうものかと衝撃を受けました。
後でわかったことですが、この年は高知県に台風が来なかったため、海底の低温海水がかき混ぜられることがなく、水温28度以上の高水温状態が1カ月以上続きました。カジメの生育水温の上限は28度なので、それを超えたために死んでしまったのです。

カジメ場が消失した直後(2017年11月黒潮町田野浦)

自然回復の過程を観察した貴重な経験

一度はほぼ壊滅状態になったカジメでしたが、その翌年の2月には小さな芽がぽつぽつ出始めました。おそらく、近くの川から流れ込む水は、若干水温が低かったのでしょう。そこでカジメが生き残っていて、その胞子が流れてきて着床したものと思われます。6月に訪れた時には驚くほど増え、藻場が回復していました。

藻場の大きな変化があった2017年の夏から2019年の秋まで調査を行った結果、対象地に集まる魚の種類にも明らかな変化がありました。研究としては、大変貴重なデータを得ることができたと思っています。
通常、環境変化によって魚がいなくなった場合、何もいなくなってしまった状態から調査が始まります。しかし今回は、カジメがある状態からそれらがなくなり、また再生したという一連の流れが調査中に起こった特異な事例であり、どんな魚がいなくなるのか、そして戻ってくるのか、その過程を見て記録することができました。これは、とても貴重な経験になったと思っています。今は集積したデータの分析等を行っているところですが、環境保全に役立つ意味深い研究として成果をまとめたいと思います。

回復しつつある田野浦のカジメ場(2018年6月)

潜水調査の技術と知見を仕事に活かしたい

僕は大阪府出身ですが、自然豊かな田舎で住んでみたいと思い、高知大学に入学しました。生き物、特に魚が好きだったので、受験の時は海洋生物生産学コースを選びました。自然の中でフィールド調査ができるのが魅力で、3年生の後期から水族生態学研究室に所属し、4年生になってダイビングのライセンスを取得して、本格的な潜水調査を開始しました。

高知の海は豊かで、潜水調査はとても楽しかったのですが、今はパソコンとにらめっこしながらデータをまとめ、修士論文を書いています。潜るのに比べるとかなり大変で、苦労しています(笑)。
卒業後は、兵庫県の水産職として働くことが決まっています。今後は水産振興に関わっていくことになりますが、この研究室で得た知識や技術、発表の仕方や伝え方などをしっかりと活かし、頑張っていきたいです。兵庫県はノリ養殖が盛んです。ノリも海藻の一つです。研究で培った技術や知識を応用しつつ、さらなる研究ができる機会があればと思います。