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研究
海洋生物学研究室では,魚類の分類学や系統学,形態学,地域の魚類相や生物地理に関する研究を行っています.


Chelidoperca tosaensis Matsunuma, Yamakawa and Williams, 2017
トサヒメコダイ(パラタイプ)*昨年,新種記載された
BSKU 52608, 75.3 mm SL,2000年11月28日に高知市御畳瀬魚市場で採集

分類学の研究とは 
 生物の名前を調べるために図鑑類やフィールドガイドを見たことがあるでしょうか?それぞれの種には,世界共通の名前である学名とそれぞれの国で使われる地方名があります.学名はリンネの二語名法によるラテン語で,属名と種小名の組み合わせからなります.日本で共通に使われる地方名は,正式には標準和名と呼ばれるものです.また,それぞれの種は,順に属,科,目といった共通の特徴をもつグループにまとめられ,整理されています.これらすべては分類学の研究成果です.
 分類学者の第一の仕事は,生物に名前を付けて整理することです.例えば,あるグループを整理する中で,これまで知られていない種を発見した場合には,その種だと確かに識別できる形態的な特徴や他種との違いを明らかにして,名前を付ける必要があります.また,過去の研究者が同じ種に異なった名前を付けていたり,1つの種とした中に複数の種が含まれていたり,種の特徴の記述が不十分であったりと,長い研究の歴史の中で分類学上の混乱や間違いを発見する場合も多くあります.分類学者は,このような命名上の混乱を解決しながら,種を分類します.
 カール・フォン・リンネの時代から現在まで,分類学的な知識を蓄積しながら,種の特徴を記載し,学名を付けてきました.それと同時に,それぞれの地域に生息する種を網羅的に採集しては,生物のカタログ作りを続けています.しかし,南米のアマゾン川流域や東南アジアの淡水域では,魚類の調査や研究も十分に進んでいません.これらの水域には,まだ名前の付けられていない種が数多く生息しています.また,スキューバ・ダイビングや深海潜水艇の技術の発達により,これまで調査や採集が行われなかった水域や水深からも,次々と未知の種が発見されるようになりました.
 分類学者の第二の仕事は,種を類縁関係に基づいて整理することです.形態やさらにはDNAなどの分子生物学的な特徴を調べて,生活史や分布の特徴,化石などの情報も総合して,近似種やグループ内外の関係(種より上のレベル),つまり進化の系譜を推定し,グルーピングすることです.それを元に系統類縁関係を反映した分類体系が出来上がります.ただし,生物の実際の進化は誰にもわかりません.新たな情報を加えて,あくまでもより確からしい系統類縁関係の仮説を求めます.
 このような分類体系は,実験生物学の分野には必要不可欠です.もちろん,実験に使用する種の正しい同定は分類学の研究成果に基づくものです.生物の系統類縁関係がある程度わかれば,どのような種を比較材料とするべきか,より良い判断ができるでしょう.「DNAさえわかれば,古臭い分類学など必要ない」というのは,全く過った認識です.
 近年,とくに自然環境と生物の種の多様性が注目されています.これまでの分類学の研究成果の蓄積から,種やグループ(分類群=種レベルより上の分類的な枠組み)の数を尺度とした地域の生物相の多様性を知ることができます.
 世界の水圏には,約34,600種の魚類が生息しており,今も毎年300~450種前後が新種として報告されています.四方を海に囲まれた日本周辺からは,これまでに約4,400種の魚が記録されていますが,今後も新種や初記録種の発見により,日本産魚類の種数が増えていくことは確実です.また魚類の系統類縁関係にしても,最近の分子系統学の発達により,これまでの認識とは大きく異なる系統仮説や分類体系も次々に発表されています.魚類分類学者の仕事は,まだまだ山のようにあります.

 (遠藤広光)改訂2018/1/11

形態観察に基づく魚類の系統学的研究 準備中!


 ホシダルマガレイの透明骨格標本(二重染色法:赤は硬骨,青は軟骨)

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