
カケハシハタEpinephelus radiatus (Day, 1868) (スズキ目ハタ科)
ハタ科Serranidaeは世界で75属約560種が知られ,日本からは34属153種が報告されています(Fricke et al., 2020; 本村, 2020; Nelson et al., 2016; 瀬能, 2013).そのうちマハタ属Epinephelusは世界で354名義種90有効種が知られ,日本からは45種が報告されています(藤原ほか, 2015; Nakamura et al., 2018; 瀬能, 2013; 鈴木ほか, 2020). マハタ属EpinephelusはBloch (1793)によってEpinephelus marginalis Bloch, 1793をタイプ種として設立されました.本属魚類は,体が伸長し楕円形,頭長が標準体長の36-45%,体高が頭長と同等かそれ以下で標準体長の27-43%,体幅が体高の35-56%,背鰭が通常11棘と12-19軟条,背鰭起部が鰓蓋後端より前にある,臀鰭が3棘と7-10軟条,胸鰭が丸みを帯び中央が最も長い,尾鰭が丸みを帯びることなどが特徴です(Heemstra and Randall, 1993).
カケハシハタEpinephelus radiatus (Day, 1868)は最大体長70cmほどで,インド・太平洋に広く分布し,体が楕円形,頭長が標準体長の43-47%,体高が標準体長の33-38%,背鰭が通常11棘と13-15軟条で第3棘が伸長する,臀鰭が通常3棘と8軟条で第2棘と第3棘がほぼ同じ長さである,尾鰭が円形に近い形状を呈する,口が端位で口裂が大きい,体側には虫食い状の焦げ茶色に縁取られた淡色帯があることなどが特徴です(Craig et al., 2011; Heemstra and Randall, 1993; Hata and Motomura, 2020). 本種は同属他種のクエ E. bruneus Bloch, 1793やホウキハタE. morrhua (Valenciennes, 1883)と間違えられることがありますが,前者では体側に6-7本の暗色横帯があり体のどこにも暗色斑点がない,後者では体側に弧状の斑紋があるという点で識別できます(Craig et al., 2011; 瀬能, 2013).
写真個体は,2020年6月8日に高知県黒潮町の佐賀漁港で採集されました.その日は,ヒメハナダイや,トヤマサイウオ,ヤリヒゲなど,普段見かけられない種も水揚げされていました. "ぼうずコンニャクの市場魚介図鑑"(ぼうずコンニャク, 2020)によると,本種は非常に美味ではあるが,入荷は稀であり,小型個体でも高価,大型では非常に高価で,希少な魚であり一般的な価格の魚ではないとされています.2006年の1年間に,八重山海域の沿岸域において,同じハタ科のスジアラPlectropomus leopardus (Lacepe`de, 1802)が11,681個体,ナミハタEpinephelus ongus (Bloch, 1790)が32,518個体漁獲されているのに対し,本種は57個体しか漁獲されておらず(太田, 2007),高価である理由が推察されます.味も非常に美味とのことなので,もし見かける機会があれば,是非食べてみてください.
引用文献
Craig, M. T., Y. J. Sadovy de Mitcheson and P. C. Heemstra, eds. 2011. Groupers of the World: A Field and Market Guide. NISC, Grahamstown, xix+356 pp.
Day, F. 1867.On some new or imperfectly known fishes of India. Proceedings of the Zoological Society of London 1867 (pt 3): 699-707.
Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2020. Catalog of fishes: genera, species, reference: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 18. June.
藤原恭司・高山真由美・桜井 雄・本村浩之. 2015. 日 本 に お け る ハ タ 科 魚 類 キ テ ン ハ タ Epinephelus bleekeri の記録と分布状況. タクサ 日本動物分類学会誌, 39: 40−46.
Hata, H., and H. Motomura. 2020 First records of two species of groupers (Perciformes: Serranidae), Epinephelus morrhua and Epinephelus radiatus, from the Tokara Islands, northern part of the Ryukyu Islands, Japan. Nature of Kagoshima 46: 573-579.
Heemstra, P.C. and J. E. Randall. 1993. FAO species catalogue Vol. 16. Groupers of the world (family Serranidae, subfamily Epinephelinae): an annotated and illustrated catalogue of the groupers, rockcod, hind, coral groupers, and lyretail species known to date. FAO Fisheries Synopsis, Rome, 16 (125), 1-382.
本村浩之. 2020. 日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名. 鹿児島大学総合研究博物館. 鹿児島.: 73-80.
Nakamura, J., M. Takayama, J. Worthington Wilmer, J. W. Johnson and H. Motomura. 2018. First Japanese record of the Speckled Grouper Epinephelus magniscuttis (Perciformes: Serranidae) from the Osumi Islands. Species Diversity, 23: 225-228.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707pp.
太田 格. 2007. 八重山海域における主要沿岸性魚類の漁獲状況(八重山海域資源管理型漁業推進調査). 沖縄県 水産海洋センター事業報告書, 69: 189-196.
瀬能 宏. 2013. ハタ科. pp. 757−802, 1960-1971.中坊徹 次(編),日本産魚類検索 全種の同定,第三版.東海大学出版会,秦野.
鈴木悠里・遠藤広光・本村浩之・瀬能 宏・松沼瑞樹. 2020. 高知県および南シナ海南部から得られたハタ科 Epinephelus cragi スミツキアオハタ(新称)の記録およびアオハタモドキに適用すべき学名の再検討. 日本魚類学雑誌, 67 (1): 31-40.
写真標本: BSKU 127839, 120.2mm SL, 高知県幡多郡黒潮町佐賀漁港, 2020年6月8日, 採集・写真撮影: 井上裕太・幸大二郎.
(幸 大二郎)
2020年5月の魚
 ![]()
ゴンズイPlotosus japonicus Yoshino and Kishimoto, 2008 (ナマズ目ゴンズイ科)
ゴンズイ科 Plotosidae はインド洋と西太平洋(日本からオーストラリア・フィジーまで)に広く分布し,10属42種で構成されるグループです(Nelson et al., 2016; Fricke et al., 2020).このうちの約半数がオーストラリアとニューギニアの淡水域に,残りはインド洋−西太平洋の沿岸(時々ほぼ淡水の河口域に侵入する)に生息します (Ferraris, 1999; Nelson et al., 2016).本科魚類は標準体長10-30cm程度の小型・中型種が多いですが,最大サイズが100cmを超えるPlotosus albilabris Valenciennes in Cuvier and Valenciennes, 1840やPlotosus canius Hamilton, 1822などの大型種も存在します(Ferraris, 1999).本科に含まれるゴンズイ属Plotosus Lacepe`de, 1803は世界では9種が,日本ではミナミゴンズイPlotosus lineatus (Thunberg, 1787)とゴンズイPlotosus japonicus Yoshino and Kishimoto, 2008の2種が知られています(細谷, 2013; Nelson et al., 2016).
ゴンズイ属は肛門直後に塩類を排出する機能を有する樹状突起(dendritic organ)をもつこと,背鰭起点における体高が標準体長の15%以上であること,左右の鰓膜が分離し,峡部からも離れること,4対の触鬚をもつこと,両唇にローブ状またはヒゲ状の付属物を欠くこと,前鼻孔の開口が前方に向いて上唇の背側に位置すること,前上顎骨に歯があることなどから同科他属と識別できます(岸本,1997;Ferraris, 1999; Ng and Sparks, 2002; Murdy and Ferraris, 2006). これまで日本産ゴンズイ科魚類はインド−西太平洋に広く分布するP. lineatus [あるいはPlotosus anguillaris (Bloch, 1794)] の1種のみとされ,これらの学名に対して標準和名“ゴンズイ”が使われていました(例えば,益田ほか,1975;岸本,1997;Hosoya, 2002).しかし,Yoshino and Kishimoto (2008) は北西太平洋で得られた本属の223標本を精査し,日本産の“ゴンズイ”が形態的に異なる2種に分類できることを明らかにしました:インド洋−西太平洋に広く分布し,日本ではおもに琉球列島(稀に日向灘)に生息するP. lineatus(P. anguillaris は P. lineatusの新参シノニム)と日本周辺にのみ分布し,おもに本州と九州(稀に琉球列島)のする普通種で,新種記載された P. japonicusです.Yoshino and Kishimoto (2008) は標準和名“ゴンズイ”を P. japonicusに与え,従来“ゴンズイ”とされていたP. lineatusに対する標準和名については言及せず,P. lineatusは約1年間にわたり標準和名がない状態でした.そして翌年に,岸本・吉野(2009)はその分布特性から,P. lineatusに対して新標準和名“ミナミゴンズイ”を与えました.ゴンズイとミナミゴンズイは,両種共に体側に2-3本の黄色(もしくは白色)縦線が走り,そのうちの少なくとも2本が頭部側面にまで伸びることから同属他種と明瞭に識別できます.さらに,ゴンズイはミナミゴンズイとは臀鰭鰭条数と体背部尾鰭鰭条数 [dorsal procurrent caudal fin; 第2背鰭のように見える鰭のことで,この鰭には担鰭骨がないことから構造上は尾鰭であり,本属魚類の尾鰭は背鰭直後まで前進していることになります (藤田,1990)] の合計が142-174 (vs. ミナミゴンズイでは163-196),総鰓耙数が20-26(vs. 25-31),脊椎骨数が48-53 (vs. 52-56),dendritic organの基底後部にある皮ミが1対もしくは1枚(vs. 標準体長100 mm以上の個体では皮ミがない)であることなどから識別できます(Yoshino and Kishimoto, 2008;細谷, 2013).上記を含む両種のいずれの識別形質は標本を作成しなければ確認できず,生態写真や生体で両種を見分けることは至難の業といえるでしょう(岸本・吉野,2009;本村,2015).
写真個体は高知大学から車で20〜30分程で行ける春野漁港で夜に釣り上げられました.春野漁港ではカタクチイワシ,ウルメイワシ,マイワシの稚魚(高知ではこれらを“どろめ”と呼ぶ)を対象とするシラスパッチ網漁が盛んに行われています.過去に本研究室のメンバーで春野漁港内の魚類相調査を行ったところ,春野漁港内では97種の魚類が確認され,そのうちゴンズイは通年観察されました(松沼ほか,2017).ゴンズイは刺毒魚として有名で,背鰭棘と胸鰭棘の計3本の棘に毒細胞を有し,さらに本種は粘液にも毒が含まれています(本村,2015).本種に刺された場合,刺された傷口から刺毒だけでなく,粘液毒も入り込むと考えられ,通常は刺された患部は赤く腫れあがり,激しい痛みを伴う程度ですが,傷口周辺の細胞が壊死するという重症の場合も報告されています(本村,2015).そんな危険なゴンズイですが,実は知る人ぞ知る美味しい魚です.本種は毒棘と粘液を取り除いたうえで,味噌汁,天ぷらや煮つけなどで食され,さらに長崎県ではそうめんの上に甘辛く柔らかくなるまで煮込まれた本種を乗せた“ゴンズイそうめん”という料理があるそうです(山口,2016).私は本種の煮つけを食べたことがありますが,頭部や皮が特に美味しく,また食べたいと思える一品でした.機会があれば,是非食べてみてください.
参考文献
Ferraris, C. 1999. Plotosidae. Pages 1880-1883 in K. E. Carpenter and V. H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Volume 3. Batoid fishes, chimaeras and bony fishes part 1 (Elopidae to Linophrynidae). FAO, Rome.
Fricke, R., W. N. Eschmeyer, and J. D. Fong, 2020. Eschmyer's Catalog of Fishes: species by family/subfamily. http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/SpeciesByFamily.asp.(参照 2020-03-015).
藤田朝彦.2018.ゴンズイ科.中坊徹次(編),p. 121.小学館の図鑑Z 日本魚類館精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.
藤田 清.1990.魚類尾部骨格の比較形態図説.東海大学出版会,東京.xiv + 897 pp.
岸本浩和.1997.ゴンズイ科.岡村収・尼岡邦夫(編)p. 95,山渓カラー名鑑日本の海水魚.山と渓谷社,東京.
岸本浩和・吉野哲夫.2009.日本産ゴンズイとミナミゴンズイ(新称)に関する追記.魚類学雑誌,56:78-80.
Hosoya, K. 2002. Plotosidae. Pages 282, 1469−1470 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition. Tokai University Press, Tokyo.
細谷和海.2013.ゴンズイ科.中坊徹次(編),pp. 341, 1825−1826.日本産魚類検索全種の同定.第3版.東海大学出版会,秦野.
益田 一・荒賀忠一・吉野哲夫.1975.魚類図鑑 南日本の沿岸魚.東海大学出版会,東京.379 pp.
松沼瑞樹・内藤大河・佐藤真央・水町海斗・山本祥代 泉 幸乃・山川 武・遠藤広光・佐々木邦夫.2017.高知県高知市春野漁港内で採集された魚類.Nature of Kagoshima, 44:47-71.
本村浩之.2015.棘毒魚の分類と生態.松浦啓一・長島裕二(編),pp. 195-217. 毒魚の自然史―毒の謎を追う.北海道大学出版会,札幌.
Murdy, E. O. and C. J. Ferraris, Jr. 2006. A revision of the marine eel-tailed catfish genus Euristhmus (Teleostei: Siluriformes: Plotosidae). Beagle Rec. Mus. Art Galleries North. Territ., 22: 77-90.
Ng, H. H. and J. S. Sparks. 2002. Plotosus fisadoha, a new species of marine catfish (Teleostei: Siluriformes: Plotosidae) from Madagascar. Proc. Biol. Soc. Wash., 115: 564−569.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th edition. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.
塩見一雄.魚類棘毒の性状と化学構造.松浦啓一・長島裕二(編),pp. 219-263. 毒魚の自然史―毒の謎を追う.北海道大学出版会,札幌.
山口敦子.2016.グラバー図譜 ゴンズイ.長崎大学広報誌 Choho,54:19-20.
Yoshino, T. and H. Kishimoto. 2008. Plotosus japonicus, a new eeltail catfish (Siluriformes: Plotosidae) from Japan. Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, Suppl., (2): 1-11.
写真標本: BSKU 127110,199 mm SL,2019年11月7日,高知県高知市春野漁港,釣り.採集・写真撮影:内藤大河.
(内藤大河)
2020年4月の魚
ホシヤリガレイ Laeops nigromaculatus von Bonde, 1922 (カレイ目ダルマガレイ科)
ダルマガレイ科魚類は世界の熱帯から温帯の浅海から水深1500 mまでの深海域に分布し(Fricke et al., 2020),世界に20属163種,日本には15属41種が知られています(尼岡, 2016; Nelson et al., 2016).本科は左体側に両眼がある,尾鰭の中央部を除くすべての鰭条が分枝しない,腹鰭が左右不相性,有眼側の腹鰭の基底がわずかあるいは極めて長く伸長する,無眼側の腹鰭の基底が短い,尾鰭条数が17で中央部の11−13軟条が分枝する,有眼側の側線が発達し,無眼側では退化的あるいはないことが特徴です(尼岡, 2016).
ヤリガレイ属 Laeops はGu¨nther (1880) によってLaeops parviceps Gu¨nther (1880) をタイプ種として設立され,現在19名義種のうち13種が有効とされています(Fricke et al., 2020).このうち,日本にはヤリガレイ L. kitaharae (Smith and Pope, 1906),とホシヤリガレイL. nigromaculatus von Bonde, 1922の2種が分布します(尼岡, 2016).本属は体が薄く流線型で,成長による頭部の形や両眼間隔幅に雌雄差がない,尾柄が著しく細い,両顎歯が小さく無眼側にのみ発達するなどの特徴をもちます(尼岡, 2016).
ホシヤリガレイは,和歌山県白浜(稚魚),鹿児島県(後期仔魚),高知県,インド−西太平洋,東アフリカ,サヤ・デ・マルハ・バンクから記録があり,水深100-400mの砂泥底に生息し,おもに底生性の小動物を食べます(尼岡, 2016).小型底曳網で極めてまれに漁獲され,食用として利用されるほど獲れません(尼岡, 2016).日本では土佐湾からのみ記録されていましたが,後期仔魚が鹿児島県と和歌山県から報告されました(尼岡, 2016).採集された仔魚は,水面直下で腹側を下にして,体を垂直に立てて浮遊し,遊泳していたそうです.その際に,ヒラムシ類やウミウシ類が泳いでいるように見えたとのことです(加賀・尼岡, 2003).
本種は日本産の同属のヤリガレイとは,次の形質の組み合わせで明瞭に識別できます(尼岡, 2016):体の模様(ホシヤリガレイでは全面に多数の小黒斑が散在するvs. ヤリガレイでは顕著な斑紋はない),背鰭前部鰭条(前部3軟条が伸長するvs. 背鰭前部軟条は伸長しない),両顎歯(1列vs. 歯帯),側線鱗数(140-144 vs. 93-105),頭長と尾柄高の割合(頭長が尾柄高の2.9-3.1倍vs. 2.1-2.7倍).
ホシヤリガレイは食用として利用されるほど漁獲されないため,味はわかりませんが,ヤリガレイは干物や練り物として利用されています(尼岡, 2016). 写真標本は,2020年1月22日に高知県高知市の御畳瀬漁港の大手繰りで採集され,その日はサラサハギやニテンナガダルマガレイの雌など,普段見かけられない種も水揚げされていました.本研究室OBの内藤博士が異体類について詳しく,いつもお世話になっていたため,先輩方のように少しずつ知識をつけていきたいと思っています.
参考文献
尼岡邦夫. 2016. 日本産ヒラメ・カレイ類. 229pp. 東海大学出版部, 秦野.
Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2020. Catalog of fishes: genera, species, reference: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 2 April. 2020.
加賀達也・尼岡邦夫. 2003. 和歌山県白浜から得られたダルマガレイ科ホシヤリガレイ Laeops nigromaculatusの後期仔魚. 魚類学雑誌, 50 (2): 131−136.
中坊徹次・甲斐嘉晃. 2013. ダルマガレイ科. 中坊徹次・土居内龍(編), pp. 1662-1674, 2228-2229.日本産魚類検索全種の同定 第三版. 東海大学出版会, 秦野.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707pp.
von Bonde, C. 1922. The Heterosomata (flatfishes) collected by the S. S. "Pickle.". Report Fisheries and Marine Biological Survey, Union of South Africa Rep. 2 (art. 1): 1-29, pls. 1-6.
写真標本:BSKU 127484, 135.5 mm SL, 高知県高知市御畳瀬漁港(司丸,大手繰り網),2020年1月22日.採集者・写真撮影:幸大二郎.
(幸 大二郎)
2020年3月の魚

ハオコゼ Paracentropogon rubripinnis (Temminck and Schlegel, 1843)(スズキ目ハオコゼ科)
ハオコゼ科 Tetrarogidae はインド−西太平洋に分布し,世界に17属40種,日本に6属9種が知られています(中坊・甲斐; 2013; Nelson et al., 2016).本科魚類のうち,オーストラリア東部に生息するNotesthes robusta (Gu¨nther, 1860) は唯一の淡水魚で,それ以外の種はすべて海水魚です(Nelson et al., 2016).本科の特徴は,背鰭起部が頭蓋骨上(眼の後縁の前方から後縁上の範囲)にある,背鰭基底が長く,13−17棘6−11軟条,鱗が退化的などで,すべての種が有毒と考えられています(石田, 1997; 中坊・甲斐; 2013; 池田・中坊, 2015; 本村, 2015).
ハオコゼ属 Paracentropogon はBleeker(1876)によってApistus longispinis Cuvier, 1829をタイプ種として設立されました.本属には,Paracentropogon longispinis (Cuvier, 1829),Paracentropogon rubripinnis (Temminck and Schlegel, 1843),Paracentropogon vespa Ogilby, 1910,および Paracentropogon zonatus (Weber, 1913)の4種が含まれ,このうち日本からはハオコゼ P. rubripinnisのみが報告されています(中坊・甲斐; 2013; Fricke et al., 2020).ハオコゼの属名は原記載ではApistus Cuvier in Cuvier and Valenciennes, 1829でしたが,その後2000年までは Hypodytes Gistel, 1848を用いる研究者が多くいました(例えば,中坊, 1984, 2000).そして,Mandrytsa(2001)は形態に基づく系統解析で,本種が Paracentropogonに帰属し,HypodytesがApistusの新参シノニムとみなしました.しかし,現在では本種の属名は研究者によって異なり,Pracentropogon とするか(例えば,荻原・本村, 2012; 本村, 2015)あるいは
Hypodytesとするか(例えば,中坊・甲斐; 2013; 甲斐, 2018)見解が異なります.本稿では,Mandrytsa(2001)に従いました.
ハオコゼは日本の鎖国時代にVon Siebold(1796-1866)とBurger(1806-1858)がオランダへ持ち帰った長崎県産の標本をもとに,「Fauna Japonica(日本動物誌)」の中で記載されました(Temminck and Schlegel, 1843).しかし, 原記載ではタイプが指定されず,その後これらを所蔵するオランダのライデン国立自然史博物館のキューレーターであったMarinus Boeseman博士(1916-2006)によって8標本のシンタイプからレクトタイプ(RMNH 716a)が指定されました(Boeseman, 1947).本種は日本では青森県津軽海峡から九州南岸の日本海,東シナ海,太平洋沿岸,そして瀬戸内海に,海外では朝鮮半島南岸と東岸,台湾に分布し,浅海のアマモ場や岩礁域に生息しています(甲斐, 2018).
ハオコゼは腹鰭が1棘4軟条で,背鰭第6−9棘の基底部にかけて黒色斑があることが特徴です(Temminck and Schlegel, 1843; 中坊・甲斐; 2013).また,私の卒業研究でハオコゼの側線系を観察した結果,本種は側線鱗を欠き,側線管のみが皮下に埋没すること,頭部から尾部へと続く側線管が第13−15番目の側線孔で中断され,それ以降は側線管が4−5本の断片になって配列することが判明しました.
さらに,本種は刺毒魚として有名で,背鰭,腹鰭,および臀鰭棘に毒を有するとされています.ただし,本種の棘には毒液嚢や管系はなく,毒は棘を包む鰭膜全体にあり,棘が鰭膜を内側から突き破りながら対象に刺さることで同時に毒が流れ込むという仕組みになっています(篠永ほか, 2013).また,本種は前鰓蓋骨棘にも毒を有しているようで,他の棘に刺された時と同様,患部は倍に腫れ上がり,病院で治療してもらった後も痛みが数日続くそうです(本村, 2015).本種の毒はカラトキシン(karatoxin)というマンノース含有糖タンパク,いわゆるタンパク毒なので,刺された際は毒を絞って40−50℃のお湯に30−90分程患部を浸けることで症状を緩和できますが,可能な限り早急に病院で治療を受けてください(篠永ほか, 2013; 本村, 2015).
写真標本は,2014年10月25日に研究室OBの齊藤洸介さんが高知県黒潮町井ノ岬のタイドプールにて採集した個体です.立派な背鰭はもはや髪型にも見えてなかなかかっこいいのですが,毒魚であるが故にゴンズイと共に釣り人から嫌われているこの魚,卒業研究で扱っていたため個人的に思い入れが強いのです.研究室の先輩や後輩,友人にご協力いただき何日も寒い中,夜を徹しての釣りに臨みましたが,どういうわけか,ハオコゼは姿を見せてくれませんでした.魚研の歌人,先輩の水町海斗さんがその気持ちを詠んでくれました.
『まだ釣れず 求めて釣るも 葉虎魚を 刺される痛み なつかしきかな』
本当は刺されたくないけれど,釣れないあまり,もう刺される痛みすら懐かしみ,恋しく想う気持ちがひしひしと伝わってくる素敵な句ですね.
参考文献
Boeseman, M. 1947. Revision of the fishes collected by Burger and Von Siebold in Japan. Zoologische Mededelingen (Leiden) , 28: i-vii+1-242, pls. 1-5.
Fricke, R., W. N. Eschmeyer, and R. Van der Laan. 2020. Catalog of fishes: genera, species, reference: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 6 Mar. 2020.
池田博美・中坊徹次. 2015. 南日本太平洋沿岸の魚類. 東海大学出版部, 秦野. xxii + 597 pp., pls. 1-256.
石田 実. 1997. ハオコゼ科.岡村収・尼岡邦夫(編),pp. 210-211. 山渓カラ―名鑑 日本の海水魚. 第三版. 山と渓谷社, 東京.
甲斐嘉晃. 2018. ハオコゼ科. 中坊徹次(編),p. 217.小学館の図鑑Z 日本魚類館精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.
Mandrytsa, S. A. (2001) Seismosensory system and classification of scorpionfishes (Scorpaeniformes: Scorpaenoidei). Perm State University Press, Perm. 1-393.
本村浩之. 2015. 松浦啓一・長島裕二(編), pp. 209, 254. 毒魚の自然史 【毒の謎を追う】. 北海道大学出版会, 札幌.
中坊徹次. 1984. ハオコゼ科. 増田一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編), pp. 304-305. 日本産魚類大図鑑. 東海大学出版会, 東京.
中坊徹次. 2000. ハオコゼ科. 中坊徹次(編), pp. 599-600.日本産魚類検索全種の同定 第二版. 東海大学出版会, 東京.
中坊徹次・甲斐嘉晃. 2013. ハオコゼ科. 中坊徹次(編), pp. 707-709.日本産魚類検索全種の同定 第三版. 東海大学出版会, 秦野.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707pp.
荻原豪太・本村浩之. 2012. 鹿児島県初記録のナガハチオコゼ Neocentropogon aeglefinus japonicus と標本に基づく鹿児島県産ハオコゼ科魚類の記録. Nature of Kagoshima 38: 139-144.
篠永哲・野口玉雄・今泉忠明・小川賢一(監修)2013. Gakken フィールドベスト図鑑 Vol. 17 危険・有毒生物. 学研教育出版, 東京. 1-256 pp.
写真標本: BSKU 116421, 33. 5 mm SL, 高知県幡多郡黒潮町井ノ岬のタイドプール, 2014年10月25日採集者・写真撮影: 齊藤洸介.
(山口 蓮)
2020年2月の魚
ネズミギス Gonorynchus abbreviatus Temminck and Schlegel, 1846 (ネズミギス目ネズミギス科)
ネズミギス目ネズミギス科 (Gonorynchidae) は,インド−太平洋および南大西洋の暖海域に生息します (池田・中坊, 2015; Nelson et al., 2016; 中山, 2018). 本科は体が細長い円筒形で, 吻が尖り,その前端中央に1本の肉質のひげをもち, 鰾をもたないことなどが特徴です (池田・中坊, 2015). 本科はネズミギス属 Gonorynchus Scopoli, 1777のみを含み, 8名義種のうち5種が有効とされ, 日本からはネズミギスGonorynchus abbreviatus Temminck and Schlegel, 1846のみが報告されています (Nelson et al., 2016; 中山, 2018; Fricke et al., 2020). 本科魚類は現生ではネズミギス属のみですが, 絶滅した6属が知られており, この中でNotogoneus属がネズミギス属と姉妹群を形成し, Sapperichthys属が最も原始的だと考えられています(Grande, 1999; Nelson et al., 2016). 本科魚類は最前部の3個の脊椎骨が変形し, コイ目などに見られるウェーバー器官の前駆体をもつことから,骨鰾上目前骨鰾系に含まれます (完全なウェーバー器官では第1−4椎体が変形する) (矢部, 2017).
ネズミギスG. abbreviatusは日本の鎖国時代にシーボルトがオランダへ持ち帰った日本産の標本をもとに,「Fauna Japonica (日本動物誌)」で記載されました (Temminck and Schlegel, 1846). しかし, 原記載ではタイプが指定されず,その後これらを所蔵するオランダのライデン国立自然史博物館のキューレーターであったMarinus Boeseman博士(1916−2006)によって2標本のシンタイプからレクトタイプ (RMNH 2686a) が指定されました (Boeseman, 1947; Fricke et al., 2020). 本種は頭部が大きい(頭長が標準体長の25%を超える), 眼が小さい(眼径が標準体長の5%未満), 腹鰭軟条数が8であることなどから同属他種と識別できます (Ferraris, 1999; Grande, 1999). 本種は水深50−200mの砂泥底に生息し, 若狭湾から九州南岸の日本海と東シナ海沿岸, 茨城県から九州南岸の太平洋沿岸, 九州−パラオ海嶺, フィリピンなどに分布しています (中山, 2018).
写真個体は, 2020年2月7日に高知県高知市御畳瀬漁港の大手繰りで採集されました. 今年は子年ということで,紹介するのにちょうどよい名前のこの魚, 研究室に配属された3年生たちは同定前に「ハムスターみたい」と盛り上がっていましたが, 今も昔も感性はあまり変わらないものなのかもしれませんね.
参考文献
Boeseman, M. 1947. Revision of the fishes collected by Burger and Von Siebold in Japan. Zoologische Mededelingen (Leiden) , 28: i-vii+1-242, pls.1-5.
Ferraris, C. J. 1999. Gonorynchidae. Pages 1825-1826 in K. E. Carpenter and V. H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific Volume 3: Batoid, chimaeras and bony fishes. part 1 (Elopidae to Linophrynidae). FAO, Rome.
Fricke, R., W. N. Eschmeyer, and R. Van der Laan. 2020. Catalog of fishes: genera, species, reference: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 15 February 2020.
Grande, T. C. 1999. Revision of the genus Gonorynchus Scopoli, 1777 (Teleostei: Ostariophysi). Copeia, 1999: 453-469.
池田博美・中坊徹次. 2015. 南日本太平洋沿岸の魚類. 東海大学出版部, 秦野. xxii + 597 pp., pls. 1-256.
中山耕至. 2018. ネズミギス科. 中坊徹次 (編), p. 86. 小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説. 小学館, 東京.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.
Temminck, C. J. and H. Schlegel. 1846. Pisces (Part 5). Pages 173-269 in P. F. Von Siebold, ed. Fauna Japonica. Leiden. 323 pp., pls. 1-144.
矢部 衛. 2017. 26章 硬骨魚類. 矢部 衞・桑村哲生・都木靖彰(編), pp. 325-365.魚類学. 恒星社厚生閣, 東京.
写真標本: BSKU 127569, 196.8 mm SL,高知市御畳瀬漁港(司丸,大手繰り網), 2020年2月7日.
(溝脇一輝)
2020年1月の魚
エビスダイ Ostichthys japonicus (Cuvier in Cuvier and Valenciennes, 1829)(キンメダイ目イットウダイ科)
キンメダイ目イットウダイ科 (Holocentridae) は三大洋の熱帯・亜熱帯域に生息し, 世界では2亜科8属約80種が, 日本では2亜科6属40種が知られています (Nelson et al., 2016; 小枝, 2018). 本科魚類は大きな頭部に鋸歯縁をもつ巨大な棘のあるリンキクチス期 (rhynchichthys stage) と称される特異な幼期形態があり, 科レベルでは容易に識別することができます (小西・沖山, 2014; 小枝, 2018).
エビスダイ属 (Ostichthys Cuvier in Cuvier and Valenciennes, 1829) は, 前鰓蓋骨隅角部に強い棘がないこと, 臀鰭軟条数が10-16であることなどが特徴のアカマツカサ亜科に属しており (Nelson et al., 2016), 背鰭棘数が12, 鼻孔間の溝が広いV字状であることなどから同亜科他属と識別されます (林, 2013). 現在, 本属魚類は世界に21名義種が存在し, そのうち16種が有効とされています (Fricke et al. 2020). 日本からは, 次の4種が報告されています: エビスダイO. japonicus (Cuvier in Cuvier and Valenciennes, 1829), オキエビスO. archiepiscopus (Valenciennes, 1862), カイエビスO. kaianus (Günther, 1880), およびヒレダカエビスO. hypsipterygion (Randall, Shimizu and Yamakawa, 1982) (林, 2013; Fricke et al., 2020).
エビスダイは日本で採集され, ベルリン博物館に所蔵されていた標本をもとに, 1829年に記載されました (Cuvier and Valenciennes, 1829). しかし, 記載に用いられた標本は現在行方不明になっています. 本種は背鰭棘条部中央下の側線上方横列鱗数が3.5, 胸鰭軟条数が15-18, 有孔側線鱗数が27-29, 最終背鰭棘がひとつ前の棘より長いことなどから同属他種と識別されます (林, 2013; Matsunuma et al., 2018). 本種は水深93-700 mの岩盤域に生息し, 小笠原諸島, 青森県から九州北西岸の日本海・東シナ海沿岸, 青森県から屋久島までの太平洋沿岸, 東シナ海大陸棚縁辺域, 九州−パラオ海嶺, 済州島, 上海, オーストラリア北西岸・南東岸などに分布しています (林, 2013; 小枝, 2018).
写真個体は, 2018年11月17日に高知県高知市御畳瀬漁港の大手繰りで採集されました. “ぼうずコンニャクの市場魚介図鑑”(ぼうずコンニャク, 2020) によると, エビスダイは硬すぎる鱗の内側には透明感のある白身があって, 非常にうまい知る人ぞ知る味の良い魚で, 味の評価は究極の美味となっています. 恵比寿さまの名前を冠したなんともおめでタイこのお魚, 見かけた際には食べてみてはいかがでしょうか, 何か良いことがあるかもしれませんよ.
参考文献
ぼうずコンニャク. 2020. エビスダイ. 市場魚介図鑑: https://www.zukan-bouz.com/syu/エビスダイ (参照2020-01-16).
Cuvier, G. and A. Valenciennes. 1829. Histoire naturelle des poisons, vol 4. Chez F. G. Levrault, Paris.
Fricke, R., W. N. Eschmeyer, and R. Van der Laan. 2020. Catalog of fishes: genera, species, reference: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 15 January 2020.
林 公義. 2013. イットウダイ科. 中坊徹次 (編), pp. 579−591, 1897−1899. 日本産魚類検索全種の同定. 第3版. 東海大学出版会, 秦野.
小西芳信・沖山宗雄. 2014. イットウダイ科. 沖山宗雄 (編), pp. 484−488. 日本産稚魚図鑑. 第2版. 東海大学出版, 秦野.
小枝圭太. 2018. イットウダイ科. 中坊徹次 (編), pp. 176−177. 小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説. 小学館, 東京.
Matsunuma, M., Y. Fukui and H. Motomura. 2018. Review of the Ostichthys japonicus complex (Beryciformes: Holocentridae: Myripristinae) in the northwestern Pacific Ocean, with description of a new species. Ichthyological Research, 65: 285−314.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.
写真標本: BSKU 125027, 151.2 mm SL, 高知県高知市御畳瀬漁港, 大手繰り, 2018年11月17日.
(溝脇一輝)
|
Copyright (C) Laboratory
of Marine Biology, Faculty of Science, Kochi University (BSKU) |
|