高知大学農林海洋科学部・大学院総合人間自然科学研究科農林海洋科学専攻

学び360度! 先輩たちの声
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特集記事−Feature article

高知だからできる陸と海の微生物研究最前線

新たな手法で海底下微生物のゲノム情報を解析

森澤高至

修士2年(2018年度)
若松研究室所属

深海底のコア試料からメタゲノムを抽出

僕の研究テーマは、深海底に生息する微生物の機能未知遺伝子の解析です。試料として用いたのは、海洋コア研究所(旧高知コアセンター)に保管されているJAMSTEC(海洋研究開発機構)が採取した海底コア。新潟県の上越沖や、青森県の下北半島沖など様々な海底のコア試料からメタゲノム(※1)を抽出し、従来とは異なる全く新たな手法を用いて、機能性遺伝子の網羅的探索を行いました。

※1 メタゲノム:微生物の集団から直接抽出した遺伝情報の混合物

基質誘導を指標とした新手法で解析に挑む

この研究は、ある大手企業との共同研究として動いていました。僕も3年生後期に実験に参加するようになって以降、企業とのミーティングに参加させてもらいました。分析データを持っていってディスカッションするのですが、その場のスピード感が本当に凄すぎて、こんなのついていけるのかと最初は圧倒されました。相手は企業の研究員として第一線を走っている人たち。とにかく頭の回転が速くて、なんでこの話からその発想が浮かんでくるんだ?と驚くことも多く、とてもいい刺激をもらいました。

 

 

まず、①環状になっている遺伝子の集合体を物理的に切って、線状の遺伝子の断片を作ります。②その個々の遺伝子断片を、遺伝子の運び屋であるプラスミドベクター(※2、※3)に入れます。この時、蛍光を発するレポーター遺伝子も一緒に組み込みます。③それにより大腸菌を形質転換(※4)すると、海底下のいろいろな遺伝子を持つクローンがたくさん作られます。これをショットガンライブラリーと言います。④そこに基質(※5)を添加すると、⑤基質に応答して遺伝子発現が起こったクローンが光ります。⑥ショットガンライブラリーの中から光るクローンを単離し、⑦解析を行います。

※2 ベクター:「遺伝子の運び屋」。遺伝子組み換え操作の際に頻繁に用いられる
※3 プラスミドベクター:自律増殖DNA(プラスミド)を応用したベクターで、遺伝子クローニング実験用に使いやすくしたもの
※4 形質転換:細胞外部からDNA を導入し、その遺伝的性質を変えること
※5 基質:酵素によって反応を触媒される化学物質

高知大学だからできた研究

この解析手法は生物応答に基づいた、従来とは全く違うベクトルからのアプローチ。現象からその機能を読み解く、いわば"生命版・リバースエンジニアリング(逆行工学)"です。
高度な設備や機器を必要とする手法ですが、JAMSTEC海洋コア研究所(旧高知コアセンター)と連携し実現しました。高知大学だからこそ取り組めた先端的な研究です。

コア試料からのメタゲノム抽出は、地上の微生物の混入を防ぐためスーパークリーンルームで行う(海洋コア研究所(旧高知コアセンター))

 

ショットガンライブラリーから光る大腸菌を単離する「セルソーター」

セルソーターは、1秒間に7万種の微生物を見分けられる(海洋コア研究所(旧高知コアセンター))

JAMSTECの調査研究船に研究員として乗船

また僕は修士1年の3月、JAMSTECの深海調査研究船「かいれい」に、研究員の1人として乗船することができました。JAMSTECの方々や世界各国から集まった研究者とともに、自分たちの手でコア試料を採取したことは、他ではできない貴重な経験です。
実は太平洋の荒波で、ものすごい船酔いになってしまい、思うようには貢献できませんでしたが、ドイツやアメリカから参加した生命科学、地球科学などの専門家と交流できたことは、その後の就職活動にも活かすことができました。

「かいれい」の船上にて(写真提供:森澤高至)

学んだのは、研究者としての考え方

 僕は修士課程を修了後、4月から大手衛生用品メーカーで研究職として勤務します。大学で取り組んだ遺伝子工学やタンパク質科学の分野とは違い、紙製品の開発が主領域となる予定ですが、そこに全く不安はありません。

なぜなら、僕が高知大学で学んだのは、研究者としての考え方や行動力。失敗であれ成功であれ、次の実験にどうフィードバックできるかを考え、実践することができれば、研究はもちろん今後生きていく上でも必ず役に立つはずだと先生や先輩方から学びました。
その心構えと経験を土台に、新たな道を進んでいきたいと思っています。