2002年の今月の魚 高知県で採集または撮影された魚を毎月紹介するページです.
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2002年12月
ミジンベニハゼ Lubricogobius exiguus Tanaka, 1915 ( スズキ目ハゼ科 )

 
 本種は, 田中茂穂博士が長崎魚市場で採集された標本に基づき, 新種として記載しました (田中,1915).また Tomiyama (1936) は,神奈川県三崎から得られた Gobiodonella mecrops Lindberg, 1934 とGobiodon gnathus Tomiyama, 1934 をミジンベニハゼのシノニムとしました.本種は, 国外では台湾やニューカレドニアから知られており,日本では南日本の太平洋沿岸(東京湾から駿河湾,土佐湾),瀬戸内海(大阪湾,兵庫県,愛媛県),壱岐水道以南の九州沿岸(壱岐水道,天草灘)で記録されています (明仁ほか, 2000 ; Randall and Senou, 2001).
 ミジンベニハゼ属 (Lubricogobius) 魚類は,口が斜めで大きく,頭部や体が鱗に覆われていないという特徴をもちます.昨年,Randall and Senou (2001) は琉球列島から新種のナカモトイロワケハゼ (L. dinah) と日本初記録となるイレズミミジンベニハゼ (L. ornatus) を報告し,日本産の本属魚類は3種となりました.ミジンベニハゼは前鼻孔をもち,鮮時の体色が明るい黄色であることなどの特徴でこれら2種と識別できます.本種は,ダイバーにも人気のハゼで,土佐湾では水深15mから60mにかけて生息します.砂底の貝殻の中にペアでいることが多く,その中で産卵します.最近では捨てられた空き缶や空き瓶を貝殻の代わりに利用することも多いようです.

明仁・坂本勝一・池田祐二・岩田明久. 2000. ハゼ亜目. 中坊徹次 (編), pp. 1139-1310, 1606-1628,  日本産魚類検索, 全種の同定 (第2版). 東海大学出版会, 東京.
Lindberg, G. U. 1934. Description of a new genus and species Gobiodonella macrops (Gobiidae, Pisces) from Misaki, Japan. C. R. (Doklady) Acad. Sci. URSS, 2: 236-440.
Randall, J. E. and H. Senou. 2001. Review of the Indo-Pacific gobiid fish genus Lubricogobius, with description of a new species and a new genus for L. pumilus. Ichthyol. Res., 48 (1): 3-12.
田中茂穂. 1915. 日本産魚類の十新種. 動物学雑誌, 第二十七巻: 565-568.
Tomiyama, I. 1934. Four new species of gobies of Japan. J. Fac. Sci., Tokyo Imp. Univ., 3: 325-334.
Tomiyama, I. 1936. Gobiidae of Japan. Jpn. J. Zool., 7: 37-112.

柏島で撮影された水中写真:2001年8月5日大月町柏島竜の浜水深6m(撮影:遠藤広光)

(野川悠一郎)


2002年11月
セレベスゴチ Thysanophrys celebica (Bleeker)(カサゴ目コチ科)


 本種は,伊豆半島東部の伊豆海洋公園と富戸の水深10〜20mで採集された7個体の標本に基づき,日本初記録集として報告されました(瀬能・中坊,1992).本種は,東アフリカ沿岸(ダーバン,ザンジバル)のインド洋から西部太平洋沿岸(オーストラリア,フィリピン)にかけて広く分布することが知られています.日本では伊豆半島からの記録のみですが,高知県では土佐市宇佐井の尻の水深50cm〜1mで計3個体の標本が採集され,南西部の大月町柏島でも本種を確認しています(下記の水中写真).また,以布利で行われた水中観察でも確認されています(中坊ほか,2001:以布利 黒潮の魚).日本産のクロシマゴチ属(Thysanophrys)には,本種の他にクロシマゴチ (T. chiltonae Schultz) が知られています.本種は眼上に小皮弁があることや臀鰭軟条数が13であることなどで,クロシマゴチと識別できます.
 Imamura (1996)は,形態形質を用いて推定したコチ科魚類38種の分岐仮説(分岐学的手法により得られた系統類縁関係の仮説)に基づき,それまでThysanophrys (それまでの和名はスナゴチ属)に含められてきた T. arenicola(スナゴチ)を模式種として,新属 Eurycephalus を設立しました.この属には,日本産では他にフサクチゴチ (E. otaitensis)も移されています.従来のスナゴチ属にスナゴチが属さないというのは極めて不自然であり,混乱を避けるために属の和名はEurycephalus に対してスナゴチ属が,Thysanophrys に対してクロシマゴチ属が使われることになりました(今村,1998;中坊,2000).

Imamura, H. 1996. Phylogeny of the family Platycephalidae and related taxa (Pisces: Scorpaeniformes). Species Diversity, 1(2): 123-233.
今村 央.1998.Thysanophrysの和名.魚類学雑誌,44(1): 62-63.
中坊徹次.2000.コチ科.中坊徹次(編),
pp. 615-620, 1530-1531, 日本産魚類検索:全種の同定(第2版).東海大学出版会,東京.
瀬能 宏・中坊徹次.1992.伊豆半島から採集された日本初記録のセレベスゴチ.I.O.P. Div. News, 3(7): 4-5.

*写真標本データ:BSKU 59078 (ca. 12 cm SL), 2002年6月25日, 高知県土佐市宇佐井の尻,実験所前の磯で採集(採集者:野川悠一郎).

*水中写真(2000年8月5日,高知県大月町柏島竜の浜,水深4m,撮影者:遠藤広光)

(遠藤広光)


2002年10月
ニジハタ Cephalopholis urodeta (Forster)(スズキ目ハタ科)


 本種はインド-太平洋域の熱帯から温帯の造礁サンゴ類のある浅海域に生息し,日本では南日本の太平洋沿岸から沖縄にかけて分布します.日本に分布するユカタハタ属12種の中では,赤〜赤褐色の体色と尾鰭にある白色の斜走帯により容易に識別できます.

 近年ハタ科魚類の分類学的な再検討や系統学的研究がいくつか行われ,それにともない分類体系も変わってきました.2000年に出版された「日本産魚類検索第2版」のハタ科の分類では最近の研究成果を取り入れ,以前はスズキ科に含められていたアラ属のアラ Niphon spinosus や,これまで独立の科として扱われてきたヌノサラシ科(ヌノサラシ,ルリハタ,ヤミスズキやキハッソクなど)を含めています.最近の分子系統学的研究の成果では,ハタ科はカサゴ亜目と近縁ではないかと推測されています.確かに,ハタ科のハタ亜科とフサカサゴ科のメバル亜科は,形態的にもよく似ています.

*写真標本データ:BSKU 59584 (ca. 17.5 cm SL), 2002年8月22日, 高知県沖の島,釣りで採集(採集者:能津英仁).

(遠藤広光)


2002年9月
クロテンス Xyrichthys niger (Steindachner)(スズキ目ベラ科)


 
本種はベラ科テンス属の稀種で,国外ではフィリピンやハワイ諸島,紅海から,日本では高知県から記録されています(Kamohara, 1964; 平田ほか, 1996; 瀬能・府川,2001).最近の高知県での記録は,いずれも大月町柏島周辺からのものです.1995年11月には港近くの水深10mで1個体(体長12cm)が釣りで採集され(平田ほか,1996),2001年9月には大月町勤崎の水深37mで幼魚が撮影されています.今回紹介する標本も柏島漁港近くで,釣りにより採集されました.

 クロテンスとホシテンス(X. pavo) は,体色を除くと形態学的な差異はほとんどありません(現在,本研究室の山川武氏が両種の標本を精査中).よく見るとクロテンスにもホシテンスに見られるような頬部や体側の暗色横帯があります.クロテンスはホシテンスのシノニムであると見ている研究者もいるようですが,本当のところはどうでしょうか?


平田智法・山川 武・岩田明久・真鍋三郎・平松 亘・大西信弘.1996.高知県柏島の魚類相.行動と生態に関する記述を中心として.Bull. Mar. Sci. Fish., Kochi Univ., 16: 1-177.
Kamohara, T. 1964. Revised catalogue of fishes of Kochi Prefecture, Japan. Rept. Usa Mar. Biol. Sta., 11(1): 1-99.
瀬能 宏・府川哲生.2001.今月の魚.クロテンス.伊豆海洋公園通信,12(11): 1.

*写真標本データ:BSKU 59594 (ca. 16 cm SL), 2002年8月23日, 高知県大月町柏島で釣りで採集(採集・標本写真:山川 武)

(遠藤広光)


2002年8月
ヒシダイ Antigonia capros Lowe(マトウダイ目ヒシダイ科)

 
 
日本には,ヒシダイ,ベニヒシダイ,ミナミヒシダイの3種のヒシダイ科魚類が分布します.前2種は土佐湾から採集記録があり,それらの生息水深はおよそ50〜750mとされています.高知市御畳瀬魚市場の大手繰(沖合いの底曳き網,水深はおよそ100〜300m)では,稀に採集されます.体型は写真のようにやや菱形で,体高が高く,強く側扁しており,体色は赤色からやや橙色を帯びているのが特徴です.

 ヒシダイ科は現在,マトウダイ目のヒシダイ亜目に分類されています.しかし,最近行われた真骨魚類の分子系統学的研究による仮説では,マトウダイ目のもうひとつの亜目(マトウダイ亜目)に属するマトウダイ科は,意外にも側棘鰭類のタラ目と近縁とされています.一方,ヒシダイ科は棘鰭類の上位グループ内で,カワハギ科との近縁性が示唆されています.他人のそら似で,実はヒシダイ科とマトウダイ類は系統的には遠いのでしょうか?興味深いところです.以前に行われた研究では,形態学的な特徴からマトウダイ目とフグ目との近縁性が指摘されたこともあるので,マトウダイ目に含められてきたヒシダイ科のみがフグ目と系統的には近いのかもしれません.


*写真標本データ:BSKU 57578 (ca. 13 cm SL), 2002年2月25日高知市御畳瀬魚市場(大手繰)で採集.

(遠藤広光)


2002年7月
ナガアオメエソ Paraulopus oblongus (Kamohara)(ヒメ目ナガアオメエソ科)


 ナガアオメエソは,土佐湾の水深200m前後に生息する小型の魚類で,底引き網により採集されます.これまで本種はアオメエソ科のアオメエソ属(genus Chlorophthalmus) に分類されていました.しかし,本研究室OBである佐藤友康氏(現京都大学博物館,農学博士)が行った形態形質に基づく系統類縁関係の分岐解析により,本種を含む"ナガアオメエソ種群"(日本には本種の他に,モンツキアオメエソ,イトヒキアオメエソ,モンアオメエソの3種が分布)が,アオメエソ科よりもヒメ科やエソ科により近縁であるとの結果が得られました.この成果は下記の論文(Sato and Nakabo, 2002) にまとめられています.その論文の中では,推定された系統類縁関係に基づき,ヒメ目内の分類体系が見直され,ナガアオメエソの属する"ナガアオメエソ種群"に対して,ナガアオメエソ科(family Paraulopidae)およびナガアオメエソ属(genus Paraulopus)が新たに設けられています.これまで所属していたアオメエソ科はアオメエソ亜目に,一方ナガアオメエソ科はエソ亜目に含められました.

Sato, T. and T. Nakabo. 2002. Paraulopidae and Paraulopus, a new family and genus of aulopiform fishes with revised relationships within the order. Ichthyol. Res., 49: 25-46.
*
写真標本データ:BSKU 57912 (67 mm SL), 2002年5月17日,土佐湾中央部水深約175mで採集(調査船こたか丸).

(遠藤広光)


2002年6月
ハタタテガレイ Samaris cristatus Gray(カレイ目ベロガレイ科)


 ハタタテガレイは,日本では土佐湾沿岸のおよそ水深100m以浅の底引き網で稀に採集されます.また,1991年3月には伊豆半島(伊豆海洋公園付近)の水深25mで1個体が採集され,生時の水中写真も撮影されています(瀬能,1991).本種は,東シナ海や南シナ海,インド洋からも採集記録があり,インド-西部太平洋域に広く分布するようです.

 日本に分布するハタタテガレイ属はハタタテガレイのみであり,背鰭軟条の最初の10〜15本が白色で極めて長いこと,有眼側の腹鰭鰭条もやや長く伸びることで,日本産のベロガレイ科の他2属4種(ベロガレイ Plagiopsetta glossa,ツキノワガレイ Samariscus japonicus,ツマリツキノワガレイ Smariscus latus,コツキノワガレイ Samariscus xenicus)と容易に識別できます.本種の和名は,長い背鰭鰭条に因んで付けられたのでしょう.しかし,体の地味な体色に反して,広げたときには極めて目立つ白色の背鰭鰭条は,何のために使われているのでしょうか?捕食者への威嚇に使われるのか,この部分が何かに擬態しているのか,本当のところはわかりません.


中坊徹次.2000.ベロガレイ科.中坊徹次(編),pp. 1381-1382, 1638, 日本産魚類検索:全種の同定(第2版).東海大学出版会,東京.
瀬能 宏.1991.今月の魚.ハタタテガレイ.伊豆海洋公園通信,2(9): 1.

*写真標本データ:BSKU 58456, 2002年4月25日, 高知県幡多郡大方町入野漁港で採集.

(遠藤広光)


2002年5月
ヒチビキ Erythrocles microceps Miyahara et Okamura(スズキ目ハチビキ科)


 ヒチビキは,およそ水深200mに生息し,日本の太平洋側では土佐湾と九州-パラオ海嶺から,日本海側では兵庫県沖から記録されています.本種は土佐湾の底引き網漁でよく漁獲されるロウソクチビキ Emmelichthys struhsakeri に体色や体型がよく似ています.そのため,新種として記載されるまではロウソクチビキとしばしば混同され,ロウソクチビキの名前で図鑑類や研究報告に標本写真が掲載されたこともあります.しかし,ヒチビキは体高が高いこと,第一および第二背鰭間の間隔が狭いことなどで明瞭にロウソクチビキと識別できます.

 ヒチビキは高知市御畳瀬魚市場で採集された14個体および本学調査船豊旗丸が行った土佐湾中央部での底引き網調査で得られた1個体の合計15個体の標本に基づき1998年に新種として記載されました.このうち,ホロタイプ1個体とパラタイプ5個体はBSKU所蔵の標本です.その他のパラタイプは,国立科学博物館(NSMT),北海道大学水産学部(HUMZ),オーストラリア博物館(AMS)の登録標本として,それぞれ3個体ずつが各研究機関に保管されています.このようにタイプ標本の保管場所を複数の研究機関へ分散させることは,分類学的研究の便宜を図るためです.第一著者の宮原一氏(北海道大学大学院 HUMZ )は,本研究室OBであり,高知大学在学中の1992年4月22日に御畳瀬魚市場で上記のタイプ標本を採集しています.

Miyahara, H. and O. Okamura. 1998. Erythrocles microceps, a new emmelichthyid fish from Kochi, Japan. Ichthyol. Res., 45(1): 85-88.

*写真標本データ:BSKU 87467, 2000年4月9日, 御畳瀬魚市場(大手繰)で採集.

(遠藤広光)


2002年4月
フエカワムキ Macrorhamphosodes uradoi (Kamohara) (フグ目ベニカワムキ科)


 フエカワムキはやや深い大陸棚から大陸斜面にかけて生息する小型の魚類です.日本のほかにもニューカレドニアや南アフリカなどに分布します.本種は蒲原先生により1933年に新種記載されました.種小名のuradoiは,この標本が採集された高知市の浦戸に由来しています.

 フエカワムキの特徴に,ストロー状に伸びた吻の先に小さな口をもつというものがあります.フエカワムキには,この口が右や左にねじれている個体が数多くいます.つまり,人間の右利き・左利きのように,この魚にも左右性が存在します.

 フエカワムキは大陸棚上に生息するため,観察例がなく,生態もあまり明らかではありません.しかし,胃の中から多数の魚の鱗が見つかることから,ほかの魚の鱗を食べる“スケルイーター”であると考えられています.魚の鱗を食べるということは奇妙に思えるかも知れませんが,意外と多くの魚が鱗を餌にしています.たとえば,タンガニイカ湖のシクリッド(カワスズメ科)の数種や熱帯域のカラシン科の数種,身近なところではコトヒキなどがスケルイーターであるとされています.フエカワムキと同じ科のソコカワムキの胃からも鱗が確認されています.フエカワムキは,尾鰭の形などから,速く泳ぐことが苦手な魚であると推測されます.泳ぎが遅い本種が鱗を食べるとき,ほかの魚に気付かれずに接近する必要があります.現在では,接近方法や摂餌方法は,長い吻や左右にねじれている口などをもとに推測することしかできません.

 サンゴ礁や超深海の生態も興味深いですが,大陸棚上の魚類の生態も非常に興味深く,驚くべき魚の戦略がたくさん発見されるのではないでしょうか.はやく見てみたいものですね.

Kamohara, T. 1933. On a new fish from Japan. Zool. Mag., 45 (539): 389-393.
Matsuura, K., Tyler, J. C. 1997. Tetraodontiform fishes, mostly from deep waters, of New Caledonia. Mem. Mus. Natl. Hist. Nat., 174: 173-208
Nakae, M., Sasaki, K .2002. A scale-eating triacanthodid, Macrorhamphosodes uradoi: prey fishes and mouth "handedness" (Tetraodontiformes, Triacanthoidei). Ichthyol. Res., 49: 7-14.
Sazima, I. 1983. Scale-eating in characoids and other fishes. Environ. Biol. Fish., 9: 87-101.

*写真標本データ:BSKU 52380 (143.1 mm SL), 2000年11月6日, 御畳瀬魚市場(大手繰)で採集.

(中江雅典)


2002年3月
ホシヨウジ Halicampus punctatus (Kamohara)(トゲウオ目ヨウジウオ科)


 ホシヨウジはタツノオトシゴの仲間も含まれるヨウジウオ科の魚類です.本科魚類の多くでは,雄に卵を保護する”育児のう”が発達します.ヨウジウオの仲間の体は,一見,昆虫やエビのような節があるように見えます.これは,体の表面がいくつかの体輪と呼ばれる骨質の板で覆われるためです.肛門より前にある体輪を躯幹輪,後にある体輪を尾部輪と呼びます.躯幹輪と尾部輪の数は,ヨウジウオの仲間を見分けるときの形質の1つです.
 ホシヨウジは成魚で15cmほどになります.躯幹部より尾部が長く,雄の尾部腹側には育児のうが発達します.各躯幹輪の側面に暗く縁取られた銀白色の大きな点があります.このことが本種の目立った特徴です.また,(この写真からは分かりにくいですが)鮮やかに青い小さな斑点が,頭や体の側面や背面のあちらこちらにあります.種小名の punctatus (ラテン語で”斑点のある”)はこれらに由来していると考えられます.
 ホシヨウジは日本でのみ分布が確認されています.相模湾から九州,日本海では山形県と佐渡島から報告があります.土佐湾では沖合いの底引き網で採集され,水深100〜150mと,ヨウジウオの仲間にしては深いところから出現します.一方, 伊豆半島では水深15〜20mの砂泥底での生息が確認されています.しかし,本種は標本数や観察例が比較的少なく,詳しい生態はわかっていません.

瀬能 宏.2000.ヨウジウオ科.中坊徹次(編),pp. 520-536, 1509-1515,日本産魚類検索:全種の同定(第2版).東海大学出版会,東京.
渋川 浩一.2001.ヨウジウオ科.岡村收,尼岡邦夫(編),pp. 174-185,日本の海水魚.山と渓谷社.

写真標本データ:BSKU 42994 (139 mm SL, ♀), 42995 (144 mm SL, ♂), 1986年7月9日, 土佐湾水深約150 m で採集(こたか丸).

(高田陽子)


2002年2月
カイユウセンニンフグ Lagocephalus suezensis Clark et Gohar (フグ目フグ科)


 カイユウセンニンフグは,高知県土佐清水市以布利で行われた魚類相調査(大阪海遊館,高知大,京都大の共同調査)において日本で初めてその分布が確認され,中坊ほか(2001)「以布利・黒潮の魚 ジンベエザメからマンボウまで」の中で採集標本に基づき新標準和名が提唱された種です.日本周辺で,本種はこれまで近縁種のセンニンフグ Lagocephalus scleratus と混同されてきました.しかし,体側背面に不規則な模様をもつこと(センニンフグでは小黒点が散在)や体側の銀白色の横帯の幅が広いこと(センニンフグでは幅が狭い)などによりセンニンフグと区別できます.以布利での共同調査中に,京都大学の中坊徹次教授(日本産魚類検索図鑑の編者)が,センニンフグとしたものの中に斑紋の異なる2型が存在することに気が付きました.その後,大きさの異なる標本(幼魚や若魚)を集めて比較したところ,やはり両方の型が含まれていることが確認されました.その2型の片方は従来のセンニンフグに相当し,もう片方は文献の調査により L. suezuensis と判明しました.種小名の suezuensis は,本種のタイプ標本が紅海(おそらくスエズ近辺)で採集されたことに因んでいます.本種はインド.太平洋に広く分布し,日本では土佐清水市以布利以外での記録は明らかではありませんが,南日本の太平洋岸に出現するものと思われます.なお,これまでに記録された本種の最大個体はホロタイプの体長15.8 cm であり,この写真の標本はこれまでに知られる最大の個体ということになります.

(遠藤広光)

*上記写真個体のデータ(BSKU 87544, 2000年4月26日, 182 mm SL, 高知県土佐清水市以布利漁港で採集).


2002年1月
マツバギンポ Mimoblennius atrocinctus (Regan) (スズキ目イソギンポ科)


 マツバギンポはイソギンポ科カエルウオ族の稀種で,波の荒い岩礁域に分布しています.ホロタイプはジャワ島西南のインド洋に位置するクリスマス島(およそ南緯10度,東経105度)で採集され,1909年にT. C. Regan により記載されました.その後インドネシア沿岸や香港沿岸から報告され,日本周辺では琉球列島以南や小笠原諸島での分布が確認されています.今回,高知県宿毛市沖の島で採集された標本は,これまでの本種の分布の北限記録であり,かつ高知県沿岸からの初記録です.

(遠藤広光)

*上記写真個体のデータ:BSKU 55030, 2001年7月10日, 34.5 mm SL, 高知県幡多郡宿毛市沖の島,平田智法氏採集. 


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