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高知県で採集または撮影された魚を毎月紹介するページです.

2003年 12月
トンボイヌゴチ (カサゴ目トクビレ科 )
Percis matsuii Matsubara
 トンボイヌゴチは,鹿児島県枕崎から千葉県銚子にかけての南日本の太平洋岸沖に分布し,大陸棚斜面上部の水深200〜500mの砂泥底に生息します.北方系のグループであるトクビレ科の中では,最も南に分布する種です(他の多くの種は,東北から北海道以北,オホーツク海やベーリング海に分布).土佐湾に出現する本科魚類はトンボイヌゴチのみで,高知市御畳瀬の大手繰り網やトロール網の調査で稀に採集されます.写真個体は腹部全体が丸く膨れており,卵を持っているようです.
 本種はおよそ体長20cmまで成長し,他のトクビレ科と同様に,体は細長く,鱗が変形した骨質板で覆われます.また,本種は第1背鰭には4〜5本の棘をもち,第2背鰭には5本の軟条をもつこと(同属のイヌゴチ P. japonicus では棘は5〜6本で軟条は6〜8本),口が頭部の前端に位置すること,吻にひげがないこと,眼が大きいことなどの特徴をもちます.
  日本の高名な魚類学者である松原喜代松博士(京都大学農学部舞鶴水産実験所)は,三重県尾鷲沖の水深およそ180〜360mで採集された4個体の標本を基に本種を記載しました(Matsubara, 1936).それらの標本は,当時愛知県豊橋の水産実験所の主任研究官であった松井佳一(よしいち)博士(後に近畿大学教授) から送られたものであり,松原博士は本種の種小名を松井博士に献名し matsuii としました.本種のタイプ標本は,金山 勉博士がトクビレ科の分類学的再検討を行った際に発見されなかったため(おそらく第二次世界大戦時に行方不明となった可能性が高い),1937年1月に尾鷲魚市場で採集された標本(FRSKU 4632,京都大学に所蔵) がネオタイプとして指定されました (Kanayama, 1991).

参考文献
Kanayama, T. 1991. Taxonomy and phylogeny of the family Agonidae (Pisces: Scorpaeniformes). Mem. Fac. Fish. Hokkaido Univ., 38(1/2): 1-199.
Matsubara, K. 1936. On the new species of fishes found in Japan. Annot. Zool. Japan., 15(3): 355-360, figs. 1-3.

写真標本データ:BSKU 67255, 137 mm SL. 2003年11月19日,高知市御畳瀬魚市場(大手繰),採集者:平松 亘,写真撮影:亀田和成.

(遠藤広光)

2003年 11月
フリソデウオ (アカマンボウ目フリソデウオ科 )
Desmodema polystictum (Ogilby)
 先月柏島で船釣り採集を行った日の夜に,いつものように柏島の浮き桟橋と漁協近くで釣り採集を行っていました.その時に,採集者の中江雅典君(博士1年)が,薄暗がりの中で水面に漂う白いものを見つけ網ですくったところ,フリソデウオの若魚でした.柏島では,以前にも本種の若魚が記録されています(平田ほか,1996: 標本は高知高校に所蔵 KSHS 22878).また,柏島のある漁師の方によると,少し前にも獲れたとのことで,その時に撮った写真を頂きました(写真はこちら).フリソデウオ科の種は,すべて沖合いの中層域に生息しますが,その生態は知られていません.幼魚や若魚,時には成魚が稀に沿岸に漂着します.
 フリソデウオの腹鰭は,幼魚の時期には著しく伸長します.この腹鰭は成長に伴って次第に短くなります.体はタチウオのように銀色の光沢があり,うすく丸い暗色斑紋が多数あります.また,腹鰭と尾鰭,背鰭と臀鰭の大部分は鮮やかな赤色です.成魚は1mに達し,腹鰭は痕跡的となり,尾部がひも状に長く伸びます.本種の和名は,幼魚期の赤く長い腹鰭に由来すると思われます.しかし,魚類の腹鰭は四足類では足に相同なので,本当は「ナガバカマウオ」とでも呼ぶべきかもしれません.

参考文献
平田智法・山川 武・岩田明久・真鍋三郎・平松 亘・大西信弘.1996.高知県柏島の魚類相.行動と生態に関する記述を中心として.Bull. Mar. Sci. Fish., Kochi Univ., 16: 1-177.

写真標本データ:BSKU 66615, 168 mm SL. 2003年10月17日,高知県大月町柏島漁協前で採集(午後8時30分頃),採集者:中江雅典.
採集直後に柏島で撮った生存時のデジカメ写真はこちら(撮影:遠藤広光)

(遠藤広光)


2003年 10月
キチヌ (スズキ目タイ科)
Acanthopagrus latus (Houttuyn)
 タイ科魚類は,大西洋,インド洋および太平洋に広く分布し,大陸棚上や沖合いの岩礁域,浅海から汽水(一部の種は淡水域に出現)に生息します.本科はマダイ亜科 (Pagrinae),キダイ亜科 (Denticinae) およびヘダイ亜科 (Sparinae)の3亜科に分類され,世界で29属約100種が知られています.このうち, 日本周辺には3亜科13種が分布します.
 日本産のヘダイ亜科魚類は,ヘダイ属のヘダイ Rhabdosargus sarba(注1)およびクロダイ属 Acanthopagrus のキチヌ,クロダイ A. schlegelii,ナンヨウチヌ A. berda,ミナミクロダイ A. sivicolus,オキナワキチヌ A. sp. (注2)の2属6種です.いずれの種も浅海域に生息し,内湾や河口域に出現しますが,後3種は奄美大島や沖縄周辺にのみ分布します(高知には前3種が分布).本亜科魚類は,体が銀灰色であるため,他の2亜科とは容易に区別できます.また,全ての種が雌雄両性の時期を経て,雌雄に分化することが知られています.キチヌは,その名前のとおり,腹鰭,臀鰭や尾鰭下葉の下半分が黄色味を帯びることや側線上の鱗の枚数が少ないことで, 他種と識別できます.本種は,四万十川では河口から約50km上流の西土佐村江川崎から長生(ながおい)付近まで遡上し,クロダイに比べ汽水域を好むようです.高知県内では「ヒレアカ」,「キビレ」や「シロヂヌ」などの地方名で呼ばれています.

注1:日本では Sparus sarba の学名が使われているが,日本以外では Rhabdosargus sarba が使われている.
注2: 沖縄周辺に分布する種は,以前にはオーストラリアキチヌ A. australis とされたが,最近の遺伝学的解析により別種と考えられている.

参考文献
赤崎正人.1997.タイ科.Sparidae. 岡村 収・尼岡邦夫(編),pp. 354-357,日本の海水魚,山と渓谷社,東京.
Carpenter, K.E. 2001. Sparidae. Pages 2990-3003 in K.E. Carpenter and V.H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the Western Central Pacific. Volum 5. Bony fishes part 3 (Menidae to Pomacentridae). FAO, Rome.
Hayashi, M. 2002. Sparidae. Pages 856-859, 1558-1559
in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition.Tokai University, Press, Tokyo.
岡村 收.1996.四万十川水系の魚類.pp. 63-82,フィールドガイド四万十川,高知県文化環境部四万十川対策室,高知.

写真標本データ:BSKU 65978, 111 mm SL, 2003年9月9日,高知県高知市灘漁港で採集(浦戸湾内の刺し網漁),写真(黒バック)

(遠藤広光)


2003年 9月
マダラギンポ (スズキ目イソギンポ科)

Laiphognathus longispinis Murase, 2007
 マダラギンポはおよそ体長4〜5cmで,イソギンポ科ナベカ族マダラギンポ属の唯一の種です.本種は,前鼻孔と後鼻孔に鼻弁をもち,眼下孔が9-12あること,後頭部に1個以上の感覚孔をもち,体側に小判状の斑紋を多数もつことで特徴づけられます.本種は,南アフリカのモザンビークのPemba 島で採集され,1955年にJ.L.B. Smith 博士により新種として記載されました.その後,タイ,ソロモン,パプアニューギニア,台湾のインド-西部太平洋域から報告されています.日本では,1987年愛媛県御荘町室手湾の水深8mの転石帯のカンザシゴカイ科の棲管の中から採集し(平松 亘採集),初記録種として報告されました (Hiramatsu and Machida, 1990).その後,鹿児島県錦江湾や高知県以布利での分布が確認され(中坊ほか,2001;中村・モイヤー,2001),土佐湾からは仔魚も報告されています(Kubo and Sasaki, 2000).本種の分布は飛び石状で,報告例は少ないのですが,最近の観察例や採集例から判断すると,暖かくごく浅い海の岩礁域に広く分布するようです.しかし,日本でマダラギンポとされている種が,本当に南アフリカ(タイプ標本の産地)の種と同一であるかどうか,疑問が残ります.そのため,今後は両海域の標本の比較が必要と思われます.*本種は南日本と台湾産の標本に基づき,Murase (2007)により新種として記載されました.
 マダラギンポの雄は,写真個体のように,背鰭鰭条の一部が伸長することや胸鰭から腹鰭にかけて鮮やかな朱色となること,喉の部分が暗色になるなどの2次性徴を示します.また,本種は興味深い繁殖生態が知られています.鹿児島県錦江湾では,雄は卵塊をふ化まで保護し,ふ化直前になると,仔魚を口にくわえて,潮通しの良い場所に運び,そこから海中に放す習性が観察されています(中村・モイヤー,2001).

参考文献
Hiramatsu, W. and Y. Machida. 1990. First record of the blenniid fish Laiphognathus multimaculatus from Japan. Japan. J. Ichthyol., 37(2): 191-193.
Kubo, M. and K. Sasaki. 2000. Larvae of Laiphognathus multimaculatus (Omobranchini, Blenniidae) with pterygiophore blades: functional implications. Ichthyol. Res., 47 (2): 193-197.
中坊徹次・町田吉彦・山岡耕作・西田清徳(編). 2001. 以布利黒潮の魚 ジンベエザメからマンボウまで.大阪海遊館,大阪.300 pp. (Nakabo, T., Machida, Y., K. Yamaoka and K. Nishida [eds]. 2001. Fishes of the Kuroshio current, Japan. Kaiyukan, Osaka. 300 pp [In Japanese and English])
中村宏治・ジャック・モイヤー. 2001. 日本海水魚図鑑8.九州の魚たち.玄界灘・錦江湾・屋久島.山と渓谷社,東京(VHSビデオ・カラー45分).
Smith, J. L. B. 1955 . New species and new records of fishes from Mozambique. Part I. Mem. Mus. Dr. Alvaro de Castro No. 3: 3-27, Pls. 1-3.

写真標本データ:BSKU 65596, 43 mm SL,2003年7月30日,高知県中土佐町上の加江周辺で採集,水深5m (採集者:遠藤広光).

*Murase, A. 2007. A new species of the blenniid fish, Laiphognathus longispinis (Perciformes: Blenniidae), from southern Japan and Taiwan. Ichthyol. Res., 54: 287-296.

(平松 亘・遠藤広光)

2003年 8月
ホシエビス (キンメダイ目イットウダイ科 )
Sargocentron punctatissimum (Cuvier)
 ホシエビスは,西は紅海や南アフリカ沿岸のインド洋から,東は太平洋のハワイ諸島やイースター島まで,インド-太平洋の熱帯から亜熱帯の浅海域に広く分布しています.日本周辺では,琉球列島,高知県,小笠原の父島や八丈島からの記録があります(Kamohara, 1964;Randall, 1998).Kamohara (1964) は,本種を稀種として高知県産魚類のリストに掲載していました.しかし,その後の本種の日本周辺での分布は,琉球列島と小笠原諸島,八丈島となっています(例えば,Randall, 1998; Hayashi, 2002).
 イットウダイ科イットウダイ亜科 (Holocentrinae) は,前鰓蓋骨の角に強くて長い1棘をもち,同科のアカマツカサ亜科(Myripristinae)とは簡単に識別できます.実はこの棘には毒があります.その毒はカサゴ目(ミノカサゴ類やオコゼ類など)よりも弱いようですが,夜釣りでイットウダイ類を釣り上げた時に,うっかり刺されるとかなり痛みます.


参考文献
Hayashi, M. 2002. Holocentridae. Pages 487-499, 1500-1501 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition.Tokai University, Press, Tokyo.
Kamohara, T. 1964. Revised catalogue of fishes of Kochi Prefecture, Japan. Rept. Usa Mar. Biol. Sta., 11(1): 1-99.
Randall, J. E. 1998. Revision of the Indo-Pacific squirrelfishes (Beryciformes: Holocentridae: Holocentrinae) of the genus Sargocentron, with descriptions of four species. Indo-Pacific Fishes, (27): 1-105.

写真標本データ:BSKU 65482, 85 mm SL, 2003年7月22日,高知県宿毛市沖の島周辺水深10mで採集(採集・撮影:遠藤広光)

(遠藤広光)

2003年 7月
テングハギ(幼魚) (スズキ目ニザダイ科 )
Naso unicornis (Forsskal)
 テングハギはインド-太平洋の熱帯から温帯水域にかけて広く分布し,南日本のサンゴ礁や岩礁域に出現します.日本では 琉球列島から南日本沿岸にかけて,13種のテングハギ属 (genus Naso) が分布しています.本属の特徴は,尾柄部側面に左右2対の骨質板をもつこと,臀鰭棘が2本であること,腹鰭が1棘3軟条などです.成長にともない,側扁した体型は円盤状から長楕円形へ変わります.成魚の尾鰭は発達し,多くの種ではその上端と下端が糸状に伸長します.成長するにしたがい食性が藻類食から動物プランクトン食へ変化します.幼魚は海底付近に棲み藻類などを食べていますが,成魚は群をなして中層を遊泳します.
 テングハギ属のうち,成魚が前頭部に目立った角状突起をもつ種は,本種の他には,ツマリテングハギ (N. brevirostris),ヒメテングハギ (N. annulatus),そしてオニテングハギ (N. brachycentron) です.本種の種小名の unicornis「一角」の意味で,本属の英名も unicorn fish です.この角状突起は,雌雄の成魚に見られますが,オニテングハギでは雄のみにしかありません.
  写真個体は幼魚なので,円盤状の体型で,角状突起(本種では他種に比べて短い)もまだなく,尾鰭も伸長していません.本種の成魚は尾柄部の骨質板が青色ですが,この特徴もまだ現れていません(成魚の標本写真:土佐清水市以布利で採集,39 cm SL).また,写真個体の体側の斑紋は,幼魚期に特有なもので,もう少し成長すると消失します.本種は全長70cmに達し,ニザダイ科の中では大型種です.

参考文献
Kuiter, R. H. and H. Debelius. 2001. Surgeonfishes, Rabbitfishes and their relatives. A comprehensive guide to Acanthuroidei. TMC Publishing, Chorleywood. 208 pp.
Randall, J. E. 2002. Surgeonfishes of Hawai'i and the world. Bishop Museum Press, Honolulu. 125 pp.
Shimada, K. 2002. Acanthuridae. Pages 1319-1330, 1621-1622 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition.Tokai University, Press, Tokyo.

写真標本データ:BSKU 64760, 58 mm SL, 2003年6月5日, 高知県土佐清水市足摺半島払川の磯(採集・撮影:亀田和成).

(遠藤広光)

2003年 6月
ホカケトラギス (スズキ目ホカケトラギス科)
Pteropsaron evolans Jordan et Snyder
 ホカケトラギス科魚類 (Family Percophidae) は,世界で13属およそ40種が知られています.Nelson (1994) では,本科は3つの亜科,Percophinae, Bembropinae および Hemerocoetinae に分類され,このうち日本周辺には後者2亜科に属するそれぞれ7種および6種(合計13種)が分布します.土佐湾には全ての種が出現します.Bembropinae に含まれるイバラトラギス属 (Chrionema)と アイトラギス属 (Bembrops)の種は最大体長が 20 cm を越えるのに対し,本種が属する Hemerocoetinae の種は,いづれも小型で最大体長も 6〜10cm程度です.
 ホカケトラギスは,水深100m前後(〜150m)の砂泥底に生息し,底曳き網などで極めて稀に採集されます.日本の太平洋沿岸では相模湾から土佐湾にかけて,日本海側では島根県浜田市沖からの採集記録があります.本種は,吻端に一対の棘をもつこと,頬に鱗がないこと,第1背鰭の棘が6〜7本であること,雄では写真のように第1背鰭と臀鰭の鰭条が長いことなどにより他種と区別できます.本種の生鮮時の体色は,これまでにほとんど知られていませんでした.また,採集直後の標本(ともに雄)では,体側に紫がかった鮮やかなピンク色の幅広い縦帯がありますが(黄色縦帯に重なり,そのやや下側に位置する),研究室に持ち帰り,鰭立てをする頃にはほとんど消失していました.本種の雄は,このピンク色の鮮やかな縦帯と特徴的な長い鰭条により,採集時にはホカケトラギス科の他の小型種との識別は容易です.本種の雌は,はたしてどのような体色なのか,気になるところです.

参考文献
Nakabo, T. 2002. Percophidae. Pages 1065-1068, 1587-1588 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition.Tokai University, Press, Tokyo.
Nelson, J. S. 1994. Fishes of the world (3rd ed.). John Wiley & Sons, New York. 600 pp.

写真標本データ:BSKU 64447, 53 mm SL, 2003年5月19日, 土佐湾中央部水深150m,調査船こたか丸採集.*BSKU 64446, 54 mm SL, データは同上.

(遠藤広光)

2003年5月
タイワンザメ (メジロザメ目タイワンザメ科)
Proscyllium haberei (Hilgendorf)
 タイワンザメ科には4属7種が含まれ,そのうち日本近海からは,タイワンザメとヒョウザメの2種が知られています.両種は南日本の太平洋岸から東シナ海沿岸,南西諸島の水深100m以浅にかけて分布し,高知県沿岸でも両種の記録があります.両種は,体にある黒色斑点の数により識別されます(タイワンザメでは疎ら,ヒョウザメでは密).しかし,他の形態の違いは見つかっていません.そのため,斑点の数の違いを個体変異と見なし,ヒョウザメをタイワンザメのシノニムとして,タイワンザメ1種のみを有効とする見解もあります.両種の分類については,現在北海道大学水産学部の仲谷一宏教授が研究中です.

参考文献
仲谷一宏.1996.メジロザメ目.千石正一・疋田 努・松井正文・仲谷一宏(編),pp. 132-143,日本動 物大百科.5:両生類・爬虫類・軟骨魚類.平凡社,東京.
仲谷一宏.1997.タイワンザメ科.Proscylliidae. 岡村 収・尼岡邦夫(編),p. 42,日本の海水魚,山と渓谷社,東京.


写真標本データ:BSKU 63900, 602 mm TL, 2003年4月10日, 高知県高知市御畳瀬魚市場で採集(撮影:平松 亘).

(遠藤広光)

2003年4月
フウリュウウオ (アンコウ目アカグツ科)
Malthopsis lutea Alcock
 フウリュウウオ属(Malthopsis) は,体長6〜10cm 程度の小型の底生性魚類で,アンコウ目アカグツ科に分類されます.多くのアカグツ科魚類の体型は円盤状ですが,本属は三角形であるため,本科の他属とは容易に識別できます.吻端下面には窪みがあり,極めて短い誘引突起と擬餌状体(アンコウ類のいわゆる釣り竿で,背鰭の第1鰭条が変形したもの)が収まっています.アカグツ類は胸鰭を使って,ゆっくりと海底を歩き,貝類や甲殻類を食べます.  日本で見ることの出来るフウリュウウオ属は5種で,フウリュウウオのほか,カギフウリュウウオ M. mitrigera,ワヌケフウリュウオ M. annulifera,コワヌケフウリュウウオ M. jordani,そしてゴマフウリュウウオ M. tiarella です.いずれの種も水深およそ100〜700mの深海底に生息し,日本では南日本の太平洋岸沖から東シナ海にかけて分布します.土佐湾には5種すべてが分布し,高知市御畳瀬魚市場の大手繰り網(沖合い底引き)や調査船での底曳き網調査で時折採集されます.

写真標本データ:BSKU 62262, ca. 8 cm SL, 2003年1月13日, 高知県高知市御畳瀬魚市場で採集(写真は背面).

(遠藤広光)

2003年3月
タテジマヤッコ (スズキ目キンチャクダイ科)
Genicanthus lamarck (Lacepede)
 タテジマヤッコ(キンチャクダイ科タテジマヤッコ属)は,日本周辺では伊豆諸島以南の南日本沿岸の水深30m以浅のサンゴ礁や岩礁域に生息し,インド・西部太平洋域に広く分布する.雌雄で体色や縞模様に明瞭な差がある.写真個体のように,雄は腹鰭が黒いこと(雌では白い),尾鰭の両縁辺が白い(雌では黒い),体側にある4本の縦帯のうち,最上部の1本は他の縦帯と同程度に細いこと(雌では太い)で,雌と容易に識別できる.本種は雌性先熟の性転換を行なうこと,少夫多妻の乱婚型の繁殖様式であることが知られ,その繁殖生態は比較的よく研究されているようです(島田,1997;モイヤー,1999).

参考文献
モイヤー,J.T.1999.のぞいて見よう海の中.海游舎,東京.236 pp.
島田和彦.1997.キンチャクダイ科.岡村 収・尼岡邦夫(編),pp. 402-412,日本の海水魚.山と渓谷社,東京.

写真標本データ:BSKU 61060,♂,2002年11月21日, 高知県大月町柏島で採集(採集者:山川 武).

(遠藤広光)

2003年2月
ツノカサゴ ( カサゴ目フサカサゴ科)
Pteroidichthys amboinensis Bleeker
 2003年1月17日に高知県奈半利町加領郷漁港沖の水深17 mの砂底から,フサカサゴ科魚類の稀種ツノカサゴを2個体採集した(BSKU 62267, ♀, 64.1mm SL; BSKU 62268, 49.2mm SL).現在ツノカサゴ属は本種のみを含み,眼上皮弁が背鰭最長棘条より長いこと,体に多数の皮弁をもつこと,背鰭鰭条数が12棘10軟条および臀鰭鰭条数が2棘6軟条であること,尾鰭軟条が分枝しないことなどで他属の種と容易に識別される.
 ツノカサゴはBleeker(1856)によりセレベス諸島アンボイナとメナドから得られた2個体の標本に基づき記載された.その後,ベトナム(Eschmeyer et al., 1973),マドラス(Rama-Rao, 1984),そして台湾(Chen, 1984)から報告されている.日本では,岸本(1984)が西表島で採集した標本を基に報告し,ツノカサゴの標準和名を与えた.その後,伊豆半島の富戸漁港(瀬能,1991),和歌山県串本町(魚類写真資料データベース: KPM-NR 0026025A,1996年),加茂町(魚類写真資料データベース: KPM-NR 0026781A,1998年)からの追加報告がある.さらに,愛媛県御荘町室手湾(KSHS 24500:1984年7月に水深 7mで採集,平松未発表)や土佐湾中央部(BSKU 42534,45325:1986年2月と1988年11月に水深およそ30mでビームトロールにより採集)からも標本が得られた.したがって,本種はインドー西部太平洋の熱帯域から温帯域に広く分布すると予想される.しかし,これまでに知られる標本は10個体ほどで,採集例は極めて稀なため,その生態も不明である.
 ツノカサゴは,水深 7〜40 mの砂質域に生息し,体にある多数の皮弁により,流れ藻やちぎれた海藻にカムフラージュしていると考えられる(瀬能,1991).今回,本種をペアで採集し(ただし,小型個体が雄であるかは不明),その雌の腹部は大きくふくれていた.研究室へ持ち帰った後,しばらく水槽で飼育したところ,数日後には雌の総排泄孔付近に半透明の卵塊状物が確認された.このことから,本種の繁殖期は冬期であると推測される.

参考文献
Bleeler, P. 1856. Boschrijvingen van nieuwe en weinig bekende vischsoorten van Amboina, verzameld op eene reis door den Molukschen Archipel gedaan in het gevolg vana den Gouverner Generaal Duymaer van Twist, in September en Oktober 1855. Acta Soc. Sci, Indo Neerl, v 1:1-76.
Eschmeyer, W.A., Y. Hirosaki and T. Abe. 1973. Two new species of the scorpionfish genus Rhinopias, with comments on related genera and species. Proc. Calif. Acad. Sci. (Ser. 4), 39(16): 285-310, 10figs., 1 table.
岸本浩和 1980. 西表島(琉球列島)産魚類 I. カサゴ科,ハオコゼ科およびダンゴオコゼ科.東海大海洋研資料第2号(1980):27-39,figs. 17.
Masuda, H., K. Amaoka, C. Araga, T. Uyeno and T. Yoshino. 1984. The fishes of the Japanese Archipelago. Tokai Univ. Press. text: i-xxii+1-437, Atlas: pls, 1-370.
Nakabo, T. 2002. Fishes of Japan with pictorial key to the species, English edition. Tokai University Press. v. 1: i-lxi+1-866.
Poss, S. G. 1999. Family of Scorpaenidae in Carpenter, K. E. and V. H. Niem. (eds). FAO species identification guide for fisheries purpose. The living marine resources of the Western Central Pacific. Vol. 4. Bony fishes part 2 (Mugillidae to Carangidae). Rome FAO: 2291-2352.
Randall, J. E. and K. K. P. Lim. 2000. A check list of the fishes of the South China Sea. Raffles Bull. Zool. supplement (8): 569-667.
沈世傑 主編.1994.台湾魚類誌.国立台湾大学動物学系印行,台北,xx+961pp.


写真標本データBSKU 62267,2003年1月17日,高知県奈半利町加領郷漁港沖,水深17mで採集(採集者:平松 亘;標本写真:野川悠一郎)

(平松 亘・遠藤広光)

2003年1月
ミナミヒメジ ( スズキ目ヒメジ科 )
Upeneus vittatus (Forsskal)
 ヒメジ科魚類は,熱帯から温帯の水深100m以浅の大陸棚上,内湾の砂泥底,岩礁域やサンゴ礁域に生息し,世界で6属約55種が知られています.そのうち,日本周辺にはヒメジ属 Upeneus,アカヒメジ属 Mulloidichthys,ウミヒゴイ属 Parupeneus の3属22種が分布します.ヒメジ属のミナミヒメジは,日本では土佐湾以南に分布し,体側および背鰭と尾鰭にある縞模様,とくに第1背鰭上端と尾鰭下葉にある太く明瞭な黒色帯により他種と識別できます.
 本科魚類は,下顎下面に発達した長い一対のひげをもつこと,2つの背鰭がよく離れること,尾鰭の後縁が深く切れ込むことなど,数多くの共通した形態的特徴をもちます.ひげには味蕾があり,これを自由自在に動かして,砂や砂泥の海底下に潜む餌生物を探します.このひげは,舌弓に付着する鰓条骨のうち,最前方の一本が舌弓前端へ移動し,変形したものです.靭帯を介して舌弓とひげの根元を繋ぐ4つの筋肉要素により,ひげは驚くほど速く細やかに動きます.ヒメジ科と同様のひげをもつギンメダイ科でも,ひげの動きは4つの靭帯と筋肉要素により制御されています.しかし,それらの要素の付着部位や配置,骨の形や位置は異なっています.ギンメダイ科のひげは,骨ではなく結合組織のかたまりへと変化したものです.2つの科の系統的な位置はかなり異なるので,両者のひげはそれぞれ独自に進化したものと考えられます.
 ヒメジ科魚類の英語名 "goatfish" の由来は,ヤギを連想させる立派なひげにあることは間違いないでしょう.

参考文献
Kim, B-J. 2002. Comparative anatomy and phylogeny of the family Mullidae (Teleostei: Perciformes). Mem. Grad. Sch. Fish. Sci. Hokkaido Univ., 49 (1): 1-74.
Kim, B-J., M. Yabe and K. Nakaya. 2001. Barbels and related muscles in Mullidae (Perciformes) and Polymixiidae (Polymixiiformes). Ichthyol. Res., 48 (4): 409-413.

写真標本データ:BSKU 60658, 2002年10月24日, 高知県幡多郡大方町上川口漁港で採集.

(遠藤広光)

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