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2007年12月
イトヨリダイ Nemipterus virgatus (Houtuyn, 1782) (スズキ目イトヨリダイ科)
 イトヨリダイの特徴はもちろんその美しい姿です.紅色の背と白銀色の腹に鮮やかな黄色の縦縞が6本走っています.深く二叉した尾鰭上葉の軟条は金色の糸のように長く伸びています.また,鰓蓋の上端に濃い赤の斑点が3〜4個1列に並んでいるのも特徴です.
 イトヨリダイの名前の由来は,体色の赤黄色の縦縞の黄色が泳いでいる時にきらめくように見えて金糸を撚るようだからという説と,糸のように長く伸びた尾鰭の軟条が泳ぐ時に旋回するように見えるからだという説とがあります.鯛はもちろん「あやかりダイ」ですが,これは後で付いたようで,昔は単にイトヨリと呼んでいたようです.漢字は「糸撚魚」,「糸綟魚」,「糸縒魚」,「金線魚」,「金糸魚」,「紅古魚」などと書きます。高知県では一般にイトヨリとよばれ,須崎では 糸魚(ヤマメ)またはヤモメ(「ヤマ」は土佐の方言で「糸,麻糸」こと,「メ」は魚名語尾です).英名はGolden thread(金の糸),中国語は金綫魚です.

 金の糸 身にちりばめて 金線魚(きんせんぎょ)   名和隆志

 イトヨリダイは琉球列島を除く本州中部以南から,東シナ海や台湾,ベトナム,フィリピン,北西オーストラリアまで分布します.水深70〜200mまでの砂泥地を好み,主に徳島,福岡,長崎,山口,島根などで漁獲されます.
 市場への入荷量は少ないが,晩秋から冬が旬の安定高値の高級魚で,蒸し物がおすすめです.甘味が強く,皮目に独特の風味があり,これをポン酢などで食べます.湯引きして,刺身にしたものもなかなかの逸品.皮目の美しさ,上品な旨味から寿司ネタとしても素晴らしい.スペイン料理のエスカベッシュなど洋風な料理にも合います.

 糸撚鯛の 煮るには惜しき はなの彩     東  百代

 イトヨリダイ属にはソコイトヨリ,モモイトヨリ,シャムイトヨリ,トンキンイトヨリなど少なくとも8種が日本から知られていますが,イトヨリダイとソコイトヨリ以外は琉球列島以南に分布しています.イトヨリダイに最も似ているのはソコイトヨリです.体側の縦縞が,イトヨリの6〜8本に対し3本で,腹側の黄味が強く,高知県ではキイトヨリなどとよばれています.味はイトヨリダイより落ちるようです.

参考文献
藍澤正宏.2000.イトヨリダイ科.Page 847-855 in 中坊徹次編.日本産魚類検索全種の同定,第2版.東海大学出版,東京.
岡林正十郎.1986.高知の魚名集.350pp.西村謄写堂,高知.
蒲原稔治.1950.土佐及び紀州の魚類.366 pp.高知県文教協会,高知.
Russell, B. C. 1990. FAO species catalogue. Vol. 12. Nempipterid fishes of the world. FAO fisheries Synopsis, No.125、vol.12. v+149pp.
山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次.2007.東シナ海・黄海の魚類誌.lxxiii+1263pp.東海大学出版会,東京.

写真標本データ
BSKU 92386,173.6 mm SL,2007年11月21日,高知市御畳瀬大手操(幸成丸),採集・写真撮影:中山直英

(山川 武)

2007年11月
ハナグロフサアンコウChaunax tosaensis Okamura et Oryuu, 1984(アンコウ目フサアンコウ科)

 アンコウ目のフサアンコウ科魚類(Chaunacidae)は,両極を除く世界の海洋に分布し,水深およそ90−2000 mの海底に生息します.本科はChaunacops*とフサアンコウ属(Chaunax)の2属約14種からなり,日本周辺からは後属のミドリフサアンコウC. abei Le Danois, 1978,ホンフサアンコウC. fimbriatus Hilgendorf, 1879およびハナグロフサアンコウC. tosaensis Okamura and Oryuu, 1984の3種が知られています(Nakabo, 2000;Nelson, 2006).

 インド−太平洋域のフサアンコウ属魚類は,これまで分類学的に再検討されておらず,暫定的に6種が有効種とされています(Caruso, 1999).ただし, Caruso (1999) はそれらのうち3種が既知種のジュニアシノニムとなる可能性を指摘しました.そのひとつが当研究室の前教授岡村収博士とOBの尾立正幸氏により1984年に新種記載されたハナグロフサアンコウです.Caruso(1999)は理由を示さずに,本種がインド−西太平洋域に分布するC. penicillatus McCulloch, 1915のジュニアシノニムであろうと記述しています.この問題は今後詳しく検討すべきでしょう.

 ハナグロフサアンコウは,土佐湾では普通に見ることができます.本種のホロタイプは高知市御畳瀬の沖合底曵き網で採集されたもので,種小名のtosaensisは産地にちなみます.本標本も御畳瀬に水揚げされたものを漁師さんから頂きました.土佐湾において,本種はミドリフサアンコウと共に混獲され,御畳瀬の漁師さんからはアカアンコウと呼ばれています.フサアンコウの仲間は干物や鍋物にすると美味しいそうです.

*従来使われてきたBathychaunax Caruso, 1989は,Caruso et al(2006)によりChauancops Garman, 1899のジュニアシノニムとされました.

参考文献
Caruso, J. H. 1999. Chaunacidae. Pages 2020-2022 in K. E. Carpenter and H. Niem. Species identification guide for fisheries purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Batoid fishes, chimeras and bony fishes pt. 1 (Elopidae to Linophrynidae). Food and Agriculture Organization of the United Nations, Rome.
Caruso, J. H., H. C. Ho and T. W. Pietsch. 2006. Chaunacops Garman, 1899, a senior objective synonym of Bathychaunax Caruso, 1989 (Lophiiformes: Chaunacoidei: Chaunacidae). Copeia, 2006(1):120-121.
Nakabo, T. 2002. Chaunacidae. Page 459 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English ed. Tokai University Press, Tokyo.
Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York. 601pp.
Okamura, O and M. Oryuu. 1984. Chaunacidae. Pages 272-277 in O. Okamura and T. Kitajima, eds. Fishes of the Okinawa Trough and the adjacent waters pt. 1. Japan Fisheries Resource Conservation Association, Tokyo.
Paxton, J. R. J. E. Gates, D. J. Bray and D. F. Hoese. 2006. Chaunacidae. Pages 650-651 in D. F. Hose, D. J. Bray, J. R. Paxton and G. R. Allen, eds. Fishes. pt. 1. Zoological catalogue of Australia 35. ABRS &CSIRO Publishing. Australia.

写真標本データ
BSKU 92229,188.6 mm SL,2007年11月8日,御畳瀬大手操(盛漁丸),採集・写真撮影:中山直英

(中山直英)

2007年10月
ドンコOdontobutis obscura (Temminck et Schlegel, 1845) (スズキ目ドンコ科)

 この写真の標本は高知大学構内の水路で採集されました.ちなみに,生まれも育ちも朝倉の私は,子供の頃に大学の水路でドンコを捕獲した記憶があります.本種は非常に動きが鈍く,網で簡単に捕まえることができました.ドンコはスズキ目ハゼ亜目ドンコ科に属し,世界では5属15種が知られ(Nelson,2006),日本にはドンコ(O. obscura)とイシドンコ(O. hikimius)の2種のみが分布します。
 淡水性のハゼ類は,稚魚期を海で過ごす種もいますが,ドンコは孵化後すぐに着底し底生生活をします。本種は頭が大きく,縦扁し,腹鰭が完全に分離することなどで同属のイシドンコを除く日本産ハゼ亜目の他種と区別できます(イシドンコは頭がより縦扁し,雄の生殖突起が黒い,胸鰭基底の2黒色斑は上部のものが明瞭であることで異なる).ドンコは夜行性のハンターで,生きた動物しか食べません。
 ドンコは5〜7月の産卵期になると,ふだん隠れがにしている大きな礫や倒木,テトラポッド下面などの隙間に口や鰭で産卵室をつくります.そこでかなり大きな音量でグーグーと鳴くそうです。この発音行動は,雌を誘っているのか,なわばりを主張しているのかは定かではありません。
 2002年にドンコの一地域個体群とされていたイシドンコが新種記載されました.さらに,ドンコには地理的および遺伝的に分化した4つの地域個体群(山陰・琵琶・伊勢,東瀬戸,西瀬戸,西九州)が知られています.今後,これらのグループから,新たな新種が記載されるかもしれません。

参考文献
岩田明久.2001.ドンコ.日本の淡水魚,改訂版.山と渓谷社,東京.pp.558-560.
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world. 4th ed. John Wiley & Sons, Inc., New York. 601 pp.
瀬能 宏・鈴木寿之・渋川浩一・矢野維幾.2004.決定版 日本のハゼ.平凡社,東京.536pp.

写真標本データ
BSKU 91315, 102.6 mm SL, 2007年8月17日,高知大学内水路,手網採集,写真撮影:中山直英

(山中 憂)

2007年9月
ナンヨウボラMoolgarda perusii (Valenciennes, 1836)(ボラ目ボラ科)
 ボラ科 (Family Mugilidae) は世界では2亜科17属72種あまりが,日本では7属15種が知られています(Nakabo,2002).本科の最大の特徴は,背鰭棘条の最初の3本の付け根が互いに接することです.大部分の種は河川の汽水域から沿岸域にかけて,一部は淡水域に生息します. 

 ナンヨウボラは,インド・西太平洋の熱帯から亜熱帯水域に広く分布し,日本周辺では東京湾以南の河口域から内湾の浅所に生息します.日本では幼魚が比較的多く見られ,成魚の記録は稀です (吉野・瀬能,1988).写真の個体は春野町甲殿川で採集された幼魚です.本種は眼に脂瞼が発達し,胸鰭基部上端に黒色斑があること,主上顎骨後端が露出しないことなどで同属他種と識別可能です.しかし,本科魚類はいずれの種も体型や計数形質が類似し,種の同定が難しいグループです.

 2002年に出版された高知県レッドデータブック(動物編)によると,本種は情報不足種に指定されています.2006年から2007年にかけて私たちの研究室が高知県汽水域で行った調査では,本種を多数確認しました.本種の成魚は比較的容易に同定できるのですが,体長35 mm 以下の個体では主上顎骨後端や脂瞼の形質がわかりづらく同定が困難です.日本沿岸に出現する本種の個体のほとんどは幼魚のため,近似種との識別ができずに正確な生息状況が把握できていません.同じく,幼魚の同定が困難なコボラ(Chelon macrolepis Smith,1846)も情報不足種に指定されています.今後,幼魚期でも有効な分類形質の発見により,情報不足種という見解は変更されるかもしれません.

参考文献
高知県レッドデータブック[動物編]編集委員会(編).2002.高知県レッドデータブック[動物編].高知県文化環境部環境保全課,高知県,470pp.
Nakabo, T. 2002. Fishes of Japan with pictorial keys to the species second edition. Tokai University Press, Tokyo. 1xi+1748 pp.
吉田哲郎・瀬能 宏.1988.ナンヨウボラ.(益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫,編:日本産魚類大図鑑).p. 117. 東海大学出版会,東京.

写真標本データ
BSKU 89438, 43.1 mm SL, 2007年1月19日,春野町甲殿川,手網採集,写真撮影:石川晃寛

(石川晃寛)

2007年8月
シビレエイNarke japonica (Temminck et Schlegel, 1850)(エイ目シビレエイ科)
 シビレエイ科 (Family Narcinidae) は,エイ目シビレエイ亜目に属する軟骨魚類です.本科は世界では2亜科9属37種が知られ,日本では2属3種が報告されています(Nelson,2006).しかし,シビレエイ類の高位の分類体系は研究者により様々で,1科(Nakabo,2002)のみ,2科(Nelson,2006),あるいは4科(Carpenter and Niem,1999)とする意見があります.本文ではNelson (2006)の分類体系に従いました.このような分類学上の混乱を解決するためには,詳しく系統類縁関係を再検討する必要があります.

  シビレエイは南日本から東シナ海に分布し,沿岸のおよそ水深50mまでの砂泥底に生息します.本種は土佐湾では底曳き網漁でよく水揚げされますが,産業的価値が無いため研究や教育用の教材以外では利用されません.写真の標本は高知市浦戸湾内で行われた刺し網漁により,4mという浅い水深から採集された非常に珍しい個体です.

 シビレエイはゴカイ類や小型甲殻類などの無脊椎動物を食べます.体盤幅は約20cm,体長は約37cmになり,胎生で4〜6個体の胎仔を産みます(石原,1997).本科の体盤はほぼ円形で厚みがあり,小さな眼の直後に噴水孔があります.口は腹側にあり非常に小さく周囲にある溝は浅いです.背鰭は通常1基で,尾鰭は楕円形で2叉しません.最大の特徴は体盤の鰓域に一対の発電器官をもつことです.この器官は筋細胞が変化したもので,起電力は成魚で電圧が40〜80V,電流が40〜50Aに達します.この強い発電は餌となる動物を捕らえる時に用いられていますが,一方では捕食者から身を守るための防御手段として役立つと考えられています.

参考文献
Carpenter, K. E. and V.H. Niem, eds. 1999. The living marine resources of the western central Pacific, FAO species identification guide for fishery purposes. Vol.3, Batoid fishes, chimaeras and bony fishes part1 (Elopidae to Linophrynidae) 1397-2068 pp.
石原 元.1997.シビレエイ科.Torpedinidae. 岡村 収・尼岡邦夫(編),p. 52,日本の海水魚,山と渓谷社,東京.
Nakabo, T. 2002. Fishes of Japan with pictorial keys to the species. 2nd ed. Tokai University Press, Tokyo. 1xi+1748 pp.
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world. 4th ed. John Wiley & Sons, Inc., New York. 600 pp.
西田清徳.2001.シビレエイ科.Torpedinidae. 中坊徹次・町田吉彦・山岡耕作・西田清徳(編),p. 140,以布利黒潮の魚 ジンベイザメからマンボウまで.大阪海遊館,大阪.

写真標本データ

BSKU 90380,341 mm TL,2007年6月1日,浦戸湾内の刺し網漁,写真撮影:町田吉彦

(阿部芳勝)

2007年7月
ナガレメイタガレイ Pleuronichthys sp. (カレイ目カレイ科)
 カレイ科(Family Pleuronectidae)は,世界各地の熱帯から極海まで広く分布します.本科は世界でおよそ2360種(Nelson, 2006),日本では1733種が報告されています.水産重要種が多く,刺身,煮付け,干物,加工用などに用いられます.
 ナガレメイタガレイは底生生活を送り,ゴカイや端脚類を食べます.体は菱形で,頭は小さく両眼は接近して飛び出します.また,両眼間には前後に向いた棘があります.ナガレメイタガレイの体はすべりやすいため漁師や調理人が眼の間をつかむことが多く,その棘が刺さり「痛っ」と言ったことからメイタガレイ(目痛鰈)とされたそうです.

 メイタガレイがホンメイタ,ナガレメイタガレイがバケメイタと呼ばれ,これら2種はよく似ています.しかしメイタガレイには頭部背縁を走る側線の前方部に分枝がなく,ナガレメイタガレイには分枝があります(Nakabo, 2002).また,生息域も異なり,メイタガレイが水深100m以浅の砂泥地に,ナガレメイタガレイが150m付近の比較的深場に生息します.これら2種は分類学的な問題を抱えているため,ナガレメイタガレイには未だ学名が与えられていません.

参考文献
松浦啓一,編.2005.魚の形を考える.東海大学出版会,東京,286 pp.
Nakabo, T. 2002. Fishes of Japan with pictorial keys to the species second edition. Tokai University Press, Tokyo. 1xi+1748 pp.
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world. 4th edition. John Wiley & Sons, Inc., New York. 600 pp.

写真標本データ
BSKU 90272,141.6mm SL,2007年5月16日,土佐湾中央部,水深120m,調査船こたか丸採集,写真撮影:福田絵美

(伊藤蕗子)

2007年6月

コウベダルマガレイCrossorhombus kobensisJordan et Starks, 1906)(カレイ目ダルマガレイ科)
 ダルマガレイ科(Family Bothidae)は,世界各地の熱帯から温帯の岸辺から深海にかけて広く分布します.本科は現在までに20属約140種が認められ,カレイ目最大の種数を誇っています(Nelson, 2006).しかし,近年も新種が数多く報告され,今後とも種数は増える可能性が充分にあります(松浦,2005).
 コウベダルマガレイはおよそ水深30〜150mの砂泥底に生息し,底生の小動物を食べます.土佐湾ではトロール(手繰)網で漁獲されますが,産業的な価値は低く,練り物製品や干物にされる程度です.最大の特徴は胸鰭最上部の軟条先端が糸状に伸び,頭長よりも長いことです.鱗は有眼側では櫛鱗(しつりん),無眼側では円鱗です.背鰭と尾鰭の縁辺は白く,尾鰭には暗色横帯がありません.雄は雌に比べて両眼間隔が広く,頭部を除く無眼側には濃紫色斑があります.体長は約10cmになりますが,8cm程度の個体が多いです.
 コウベダルマガレイの長い胸鰭は何のために使っているのでしょうか?瓜生(2003)の水中写真からは,雄同士の縄張りを巡った激しい闘争に用いられることがわかります.また,ダルマガレイEngyprosopon grandisquama (Temminck and Schlegel) では,求愛行動において胸鰭を『旗振り』(fragging)することが確認されています(Manabe et al., 2000).このダルマガレイのようにコウベダルマガレイでも求愛行動の一部に胸鰭が利用されているかもしれません.

参考文献
Manabe, H., M. Ide and A. Shinomiya. 2000. Mating system of the lefteye flounderEngyprosopon grandisquama. Ichthyol. Res., 47: 69-74.
Masuda, H., K. Amaoka, C. Araga, T. Uyeno and T. Yoshino. 1984. The fishes of the Japanese Archipelago. Tokai Univ. Press. text: i-xxii+1-437 pp, pls. 1-370.
松浦啓一,編.2005.魚の形を考える.東海大学出版会,東京,286 pp.
Nakabo, T. 2002. Fishes of Japan with pictorial keys to the species second edition. Tokai University Press, Tokyo. 1xi+1748 pp.
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world. 4th edition. John Wiley & Sons, Inc., New York. 600 pp.
瓜生知史.2003.生態観察ガイド 伊豆の海水魚.海遊舎,東京.253 pp.

写真標本データ
BSKU 90269, 79.3 mm SL, 2007年5月16日,土佐湾中央部,水深150m,調査船こたか丸採集,写真撮影:福田絵美

(福田絵美)

2007年5月
ホオベニオトヒメハゼ Vanderhorstia puncticeps (Deng et Xiong in Xu et al., 1980) (スズキ目ハゼ科)
 前回に引き続き,国立科学博物館の日本の新種記載プロジェクト第1弾 (Matsuura and Kimura, eds., 2007)で報告されたハゼ科魚類を紹介します.

 今回の新種記載プロジェクトで,Iwata et al. (2007)はヤツシハゼ属の大鱗グループ(体側鱗の大きなグループ)を分類学的に再検討し,その中で3新種を記載し,ホオベニオトヒメハゼを日本初記録として報告しました.本属はインド・西太平洋の温帯〜熱帯域に分布し,汽水域やサンゴ礁などの砂泥底で,テッポウエビ類と共生します.体は小型で細長く,尾鰭が長いことが特徴です.本属約11種のうち,日本には6種が分布するとされていました.しかし,近年水中写真により,本属は多くの未記載種を含むことが知られ,現在では既知種を含めると日本沿岸には約16種が分布すると考えられています(瀬能ほか,2004).Iwata et al. (2007)の3新種は,いずれも高知県西南端に位置する柏島で採集された標本に基づくものです: Vanderhorstia kizakura キザクラハゼ,V. rapa ナノハナフブキハゼおよびV. hiramatsui クロエリカノコハゼ.そのうちの,クロエリカノコハゼの種小名 "hiramatsui" は,本研究室OBでタイプ標本の採集者である平松亘氏に献名されました.ホオベニオトヒメハゼは,中国沿岸の東シナ海で採集された標本を基に,1980年にシノビハゼ属(Ctenogobius)の新種として記載され,その後の報告はありませんでした.Iwata et al. (2007)は本種を相模湾産の1個体(1952年に採集)と土佐湾産の2個体(2005年と2006年に採集)に基づき再記載し,その形態的特徴から帰属をヤツシハゼ属(Vanderhorstia)へと変更しました.本種は頬(鰓蓋部)の朱色の斑点と第1背鰭の先端が赤色であることが著しい特徴です.

 ヤツシハゼ属の多くは浅海に生息しますが,ホオベニオトヒメハゼはやや深場に生息するようです.写真の標本は中央水産研究所黒潮研究部の調査船こたか丸による底びき網調査により土佐湾中央部の水深120mから,相模湾産の標本も水深60mから採集されています.このような水深帯は,スクーバ潜水での採集が困難であり,これらの標本は偶然に底びき網で採集されたものです.こうした深場には,まだ数多くの未記載種が生息しているかもしれません.

参考文献
Iwata, A., K. Shibukawa and N. Ohnishi. 2007. Tree new species of the shrimp-associated Goby genus Vanderhostia (Perciformes: Gobiidae: Gobiinae) from Japan, with re-description of two related congeners. Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, Suppl., (1): 185-205.
Matsuura, K. and S. Kimura, eds. 2007. New fishes of Japan: Part 1. Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, Suppl., (1): i-iv, 1-205.
瀬能 宏・鈴木寿之・渋川浩一・矢野維幾.2004.決定版 日本のハゼ.平凡社,東京.536pp.

写真標本データ
BSKU 77244, 30.3 mm SL2006年2月2日, 土佐湾中央部,水深120-123m, 中央水産研究所調査船こたか丸採集,トロール網写真撮影:片山英里

(片山英里)

2007年4月
サクライレズミハゼ Priolepis winterbottomi Nogawa et Endo, 2007 (スズキ目ハゼ科)
 サクライレズミハゼは土佐湾中央部の底ひき網漁や調査で採集された4個体の標本を基に,新種として記載されました(詳しくはこちら.この論文が掲載された国立科学博物館研究報告の別冊第1号(出版日は2007年3月22日)は,New fishes of Japan: Part I と題した新種記載の特集号第1弾で,日本産の新種あるいは新亜種に関係した14編の論文を掲載しています(Matsuura and Kimura, eds., 2007).2007年4月から国立科学博物館の英語名称が変更となり,この英文誌名も Bulletin of the National Science Museum から Bulletin of the National Museum of Nature and Science となりました.この特集号では27新種(23種と4亜種)が記載されています.そのうち,Nakabo (2002) の日本産魚類検索図鑑(英語版)に未掲載の日本産追加種は,ハゼ科の14新種と日本初記録種1種(ホオベニオトヒメハゼ),タウエガジ科の2新種,ゲンゲ科の1新種,スズメダイ科の1新種,コイ科の2新亜種の合計21種です.この結果,日本産魚類は単純計算では4,000種を確実に超えました [Nakabo (2002) の3,863種に144種を追加すると4,007種].また,写真では日本での分布が確認されていましたが,今回標本が得られず和名の提唱がなされなかった種もあります(Asteropteryx ovata Shibukawa and Suzuki, 2007 ).さらに,ハゼ科のうち,新属のGrallenia サザレハゼ属が設立され,日本から初めて報告された Obliquogobius にはチヒロハゼ属の和名が提唱されています.

日本魚類学会年会で行ったポスター発表はこちら

参考文献
Matsuura, K. and S. Kimura, eds. 2007. New fishes of Japan: Part 1. Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, Suppl., (1): i-iv, 1-205.
Nogawa, Y. and H. Endo. 2007. A new species of the genus Priolepis (Perciformes: Gobiidae) from Tosa Bay, Japan. Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, Suppl., (1): 153-161.

写真標本データ
BSKU 64659, 31.9 mm SL, holotype, 2003年6月3日,高知県須崎市須崎漁港,採集者:井手幸子;写真撮影:野川悠一郎

(遠藤広光)

2007年3月
チゴダラ Physiculus japonicus Hilgendorf, 1879 (タラ目チゴダラ科)
 タラ目のチゴダラ科 (Family Moridae) は世界の海洋に広く分布し,沿岸の河口域から水深約2500 mの深海底まで,多様な環境に生息します (Cohen, 1990;Paulin and Roberts, 1997).本科はおよそ18属105種あまりを含み,タラ目ではソコダラ科に次いで2番目に大きなグループです (Nelson, 2006).チゴダラ属 (Genus Physiculus) は本科最大の属で,腹部に発光器があること,下顎にひげをもつこと,耳石が紡錘形であることなどにより特徴づけられます (Paulin, 1989; Paulin and Roberts, 1997).本属は熱帯から温帯に広く分布し,世界でおよそ31種,日本からは次の6種が報告されています (Nakabo, 2002):バラチゴダラ (P. chigodarana Paulin, 1989);チゴダラ;エゾイソアイナメ (P. maximowiczi Herzenstein, 1896);ヒレグロチゴダラ (P. nigripinnis Okamura, 1982);アカチゴダラ (P. rhodopinnis Okamura, 1982);オシャレチゴダラ (P. yoshidae Okamura, 1982).

 日本に分布するチゴダラ属6種のうち,チゴダラとエゾイソアイナメは形態が非常によく似ています.それゆえ,これら2種が同種なのか別種なのか,これまでたびたび議論されてきました.Cohen (1979) は両種のホロタイプを比較し,形態には種レベルの差がないことから,エゾイソアイナメをチゴダラの新参シノニムとしました.また,Paulin (1989) もこの考えを追認しました.一方,日本の研究者たちは,これら2種をそれぞれ有効な種と扱ってきました (たとえば,岡村, 1984;遠藤, 1997;Nakabo, 2002).Nakabo (2002) によれば,チゴダラとエゾイソアイナメは,体色 (淡褐色vs 濃褐色),眼径 (吻長の3分の2より大vs 3分の2) および生息水深 (150−650 m vs 10 m以浅) により区別できます.後のKoh and Moon (2003) は,Cohen (1979) やPaulin (1983) の考えを支持しましたが,「これら2種の分類をめぐっては,現在でも研究者の間で意見が異なる」と書き加えました.チゴダラとエゾイソアイナメについては,今後さまざまな知見を加味した総合的な検討が必要と思われます.なお,本標本は体が淡褐色であること,眼径が吻長の3分の2より大きいこと,沖合の底曳き網で採集されたことにより,典型的なチゴダラと言っていいでしょう.

 チゴダラ科は特徴的な鰾 (うきぶくろ) をもっています.本科の鰾は独特な形をしており,その前面は頭蓋骨の後面に密着します.また,密着面の骨は非常に薄い膜状です.これらの構造により,鰾でとらえた音の振動を内耳に伝達しやすいと考えられます.さらに,内耳にある耳石は,後端が深く切れ込んだ特殊な形をしています.本科の耳石の形態は,タラ目のみならず硬骨魚類の中でも特徴的です (Paulin, 1983).チゴダラ科の鰾と耳石には,他の魚類にはない,何か特別な関係があるのかもしれません.

参考文献
Cohen, D.M. 1979. Notes on the morid fish genera Lotella and Physiculus in Japanese waters. Japan. J. Ichthyol., 26(3): 225-230.
Cohen, D.M. 1990. Moridae. Pages 346-379 in D.M. Cohen, T. Inada, T. Iwamoto and N. Scialabba. 1990. FAO species catalogue. Vol. 10. Gadiform fishes of the world (Order Gadiformes). An annotated and illustrated catalogue of cods, hakes, grenadiers and other gadiform fishes known to date. FAO Fisheries Synopsis. No. 125, Vol. 10. FAO, Rome.
遠藤広光. 1997. チゴダラ科. Pages 130-131 in 岡村 収・尼岡邦夫, 編. 日本の海水魚. 山と渓谷社, 東京.
Koh, J.R. and D.Y. Moon. 2003. First record of Japanese codling, Physiculus japonica Hilgendorf (Moridae, Gadiformes) from Korea. J. Fish. Sci. Tech., 6(2): 97-100.
Nakabo, T. 2002. Moridae. Pages 408-412, 1490 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition. Tokai University Press, Tokyo.
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world, 4th ed. Wiley, New York. 601 pp.
岡村 収. 1984. チゴダラ科. Pages 89-91 in 益田一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫, 編. 日本産魚類大図鑑. 東海大学出版会, 東京.
Paulin, C.D. 1983. A revision of the family Moridae (Pisces: Anacanthini) within the New Zealand region. Natl. Mus. N. Z. Rec. 2(9): 81-126.
Paulin, C.D. 1989. Review of the morid genera Gadella, Physiculus, and Saliota (Teleostei: Gadiformes) with descriptions of seven new species. N. Z. J. Zool., 16: 93-133.
Paulin C.D. and C. D. Roberts. 1997. Review of the morid cods (Teleostei, Paracanthopterygii, Moridae) of New Caledonia, southwest Pacific Ocean, with description of a new species of Gadella in B. Seret ed. Resultats des Campagnes MUSORSTOM, Volume 17. Mem. Mus. natn. Hist. nat., 174: 17-41.

写真標本データ
BSKU 79482,187.8 mm SL, 2006年8月20日,高知県幡多郡黒潮町佐賀漁港,採集者:中山直英

(中山直英)

2007年2月
イロカエルアンコウ Antennarius pictus (Shaw et Nodder, 1794) (アンコウ目カエルアンコウ科)

 日本魚類学会は,2007年2月1日付けで「差別的語を含む標準和名の改名とお願い」という提案を行いました(日本魚類学会ホームページを参照).これはメクラ,オシ,バカ,テナシ,アシナシ,セムシ,イザリ,セッパリ,そしてミツクチの9つの差別的語を含む魚類の標準和名やそれらの高位分類群の名称について,今後は改名した名前を使用しましょうというものです.もちろん,学名は変更ありません.学会内の出版物に関して,これらの改名の使用には,ある程度拘束力が発生します(例えば,和名の論議上で,旧和名を使うことは可能ですが,それ以外での使用は認められない).しかし,世間一般には拘束力はないので,これらの改名の使用をあくまで推奨するということです.今回対象となった和名は,1綱2目および亜目5科および亜科11属32種を含む51タクサ(分類単位)に渡り,そのうち最も変更の多いグループは「イザリウオ」類です.「イザリウオ」の和名には,「躄魚」や「漁り魚」あるいは土佐弁の「座り魚」の漢字が当てられた歴史があり,差別用語の「躄(いざり)」が最も使われていました(富戸の波イザリウオの釣竿1〜できるかな2までを参照).そのため,「イザリウオ」に関しては英語名の “frogfish”に因んだ「カエルアンコウ」への改称が提案されました.これにより,今月の魚である「イロイザリウオ」は「イロカエルアンコウ」へ,その所属はアンコウ目カエルアンコウ亜目カエルアンコウ科となります.5文字の「イザリウオ」から7文字の「カエルアンコウ」への変更は,語呂の悪さが少々気にかかりますが,学会内で様々な検討が行われた結果です.美しく,語呂がよく,かつその生き物の特徴をよく表した和名を付けることは,実際には大変難しく,日本初記録で標準和名のない魚類に新和名を付ける際には,いつも頭を悩ませます.

 カエルアンコウ科(Family Antennariidae)には世界で12属42種が知られ,その半数以上の25種はカエルアンコウ属(Genus Antennarius) です(Nelson, 2006).日本に分布する本科は2属15種で,ハナオコゼ(Histrio histrio)を除く残り14種はすべてカエルアンコウ属に属しています(Senou, 2002).Pietsch and Grobecker (1987)は,カエルアンコウ属を便宜的に6種群に分類し,イロカエルアンコウは本種の学名を冠した Antennarius pictus group に含まれます(5種を含み,日本には他にオオモンカエルアンコウ A. commersoni とクマドリカエルアンコウ A. maculatus が分布する).アンコウ類の釣竿は背鰭第1棘が吻上へ移動して変形したもので,A. pictus group は他の種群に比べこの釣竿が背鰭第2棘の約2倍と長く,第2棘後縁の鰭膜が発達し,背鰭や臀鰭,尾鰭に多数の斑紋があるなどの特徴をもちます.

参考文献
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York. 601pp.
Pietsch, T.W. and D. B. Grobecker. 1987. Frogfishes of the world: systematics, zoogeography, and behavioral ecology. Stanford Univ. Press, Stanford, xxxii+420 pp., 56 pls.
Senou, H. 2002. Antennariidae. Pages 454-458, 1494-1495 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition. Tokai University Press, Tokyo.

日本魚類学会:差別的語を含む標準和名の改名とお願い(2007年2月1日)

写真標本データ
BSKU 71987,123 mm SL,2004年7月19日,高知県宿毛市沖ノ島母島港横,水深14 m,採集者:遠藤広光
水中写真データ:高知県宿毛市ビロウ島,撮影者:遠藤広光

(遠藤広光)

2007年1月
カモハラトラギス Parapercis kamoharai Schultz, 1966 (スズキ目トラギス科)
 トラギス科(Family Pinguipedidae) は,世界の熱帯から温帯に分布し,沿岸のサンゴ礁域,転石帯や砂地から大陸棚上の砂泥底に生息する小型の底生性魚類です.現在,世界で5属約54種が知られ(Nelson, 2006),日本沿岸からはキスジトラギス属のキスジトラギスKochichthys flavofasciata (Kamohara, 1937)とトラギス属(Parapercis)の23種が記録されています(Shimada, 2002; Imamura and Matsuura, 2003; 今村・松浦, 2004).

 カモハラトラギスParapercis kamoharai の種小名は,もちろん蒲原稔治博士に献名されたものです.しかし,本種の学名と和名にはやや混乱した歴史があります.蒲原(1938: 122)は大月町柏島で採集された1標本に基づき Neopercis xanthozona (Bleeker)コクテントラギスとして,本種を日本から初めて報告しました(この属はParapercisのシノニム).この標本は第二次大戦の空襲で焼失し,戦後 Kamohara (1960) は日本のトラギス科魚類に関する論文の中で,沖ノ島で採集された2個体に基づきコクテントラギスを記載しています.その後,蒲原博士のコクテントラギスは,頭部の斑紋以外はカモハラトラギスとの差異がないとして,実はカモハラトラギスP. kamoharai ではないかと疑われていました(島田, 1993Shimada, 2002).最近,Imamura and Matsuura (2003) は,最近奄美大島で採集された6標本に基づき,P. xanthozona (Bleeker, 1849)を日本初記録種として報告しました.さらに,この論文で蒲原博士が1960年に報告したコクテントラギスの標本は,本当のP. xanthozona とは多くの形質で異なり,P. kamoharai のメスであることが明白となりました(ただし,1938年の標本は焼失し,確認不可能).ちなみに,P. xanthozona の基産地はインドネシアのジャカルタで,インド-西太平洋の熱帯から亜熱帯の沿岸域に広く分布し,奄美大島はその分布の北限となります.つまり,蒲原(1938)は,当時まだ未記載種であったP. kamoharai を,誤ってNeopercis xanthozona (Bleeker)として報告したことになります.Imamura and Matsuura (2003) は,新たに報告したP. xanthozona にコクテントラギスの和名を使用しませんでした.そして,翌年にP. xanthozona に対して新和名として「オジロトラギス」を提唱しています(今村・松浦,2004).コクテントラギスは,未記載種であったP. kamoharai に与えられた新和名であり,本来はこちらをP. kamoharai の和名として使用するべきところですが,現在までP. kamoharai には「カモハラトラギス」が広く用いられてきたことを重視し,和名の変更は行われませんでした.しかしながら,コクテントラギスの和名をP. xanthozona に用いることも,上記の経緯から混乱を招くので,新たな和名を付けたわけです(島田,1993;今村・松浦, 2004).

 このような混乱が生じた理由は,トラギス属の多くの種が雌性先熟の性転換を行い,雌雄で斑紋や体色が変化するためです.とくに,カモハラトラギスは雌雄で頭部の斑紋が明瞭に異なるため,一見すると別種のように見えます(下記の水中写真を参照).このように性転換を行い,さらに顕著な性的二形を示す種の同定は難しく,様々な大きさの標本やある程度の標本数,生態的な情報が必要となります.

参考文献
Imamura, H. and K. Matsuura. 2003. Record of a sandperch, Parapercis xanthozona (Actinopterygii: Pinguipedidae), from Japan, with comments on its synonymy. Species Diversity, 8: 27-33.
今村 央・松浦啓一. 2004. トラギス科 Parapercis xanthozona の新和名.魚類学雑誌, 51(2): 188-189.
蒲原稔治. 1938. 日本産虎鱚科の魚類に就いて [II].植物及動物, 6: 1451-1453.
Kamohara, T. 1960. A review of the fishes of the family Parapercidae found in the waters of Japan. Rep. Usa Mar. Biol. Sta., 7(2): 1-14, pl. 1-2.
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York. 601pp.
Schultz, L. P. 1966. Parapercis kamoharai (family Mugiloididae) a new fish from Japan with notes on other species of the genus. Smithson. Misc. Collect. 151 (4): 1-4, pl. 1.
島田和彦. 1993. トラギス科.Pages 938-943, 1350-1351 in 中坊徹次, 編. 日本産魚類検索 全種の同定.東海大学出版会,東京.
Shimada, K. 2002. Pinguipedidae. Pages 1059-1064, 1586-1587 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition. Tokai University Press, Tokyo.

写真標本データ
BSKU 75469,133 mm SL ,2005年7月16日,高知県宿毛市沖ノ島母島久保浦,水深6m(SCUBA)
採集者:片山英里;写真撮影:三宅崇智


(遠藤広光)

高知県大月町柏島周辺で撮影したカモハラトラギス(撮影者:遠藤広光)*左の個体はオス,中と右の個体はメス
  

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