高知大学総合科学系生命環境医学部門

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土壌 水 環境 生態系 集積植物 重金属 ヒ素 修復

康 峪梅 かんゆうめい

[専門領域] 土壌環境学
[研究テーマ] 
1.草原生態系の退化機構と修復技術に関する研究
2.土壌汚染、水汚染(汚染物質の挙動,汚染土壌・水の修復と利用)
(1) 土壌、水、大気から有害物質を除去する吸着剤の開発
 (非晶質鉄水酸化物など)
(2) 微生物の金属集積機能とバイオレメディエーションへの応用
(3) カンボジアにおける高性能鉄吸着剤を用いたヒ素汚染地下水の浄化技術の研究開発
[研究のモットー]
「清く、正しく、粘り強く」

点線 草原生態系の役割と、その知られざる現状

「草原破壊」という言葉を聞いたことがありますか? 草原そのものになじみの少ない日本ではあまりピンとこないかもしれませんが、実は地球上には森林面積とほぼ同じくらいの草原面積があり、森林と同様にその退化や砂漠化が地球規模で問題となっています。
草原は人々の暮らしや牧畜業などの産業を支えるだけでなく、地球環境の保全における炭素・窒素プールとして非常に大きな役割を果たしています。草原破壊は人々の暮らしや産業を脅かすだけでなく、地球温暖化にも深刻な影響を与えるのです。
私の出身地である中国・内蒙古自治区では、総面積118.3平方km(これは日本の国土の約4倍にあたります)のうち、約70%が草原地帯となっています。しかし急速な人口増加や経済発展によって、20世紀末までになんと草地の約90%が退化してしまいました。
草原退化には土壌環境や気候因子が大きく影響しているにもかかわらず、これまでの研究ではほとんどが植生の変化に重点が置かれてきました。そこで私たちは、主に草原退化の土壌と植生の性質に与える影響や気候変化への応答に焦点を当てて研究を行なっています。
まず、草原退化に伴う土壌と植生因子の変化を明らかにするために、内蒙古自治区シリンゴル市の草原退化程度が連続的に変化する牧場で土壌と植生の調査を行いました。また、草原退化の気候変動への応答を明らかにするために、過去半世紀(1956~2006年)にわたる気候変化と生態ゾーンの分布および純一次生産との関係を、Holdridge Life Zone (HLZ) ModelとSynthetic Modelを用いて評価しました。以下にその成果の一部をご紹介します。

点線

気候データを用いたシミュレーションの結果は、温暖化と干ばつが草原生態系に強い影響を与えることを示唆しました。降水量の減少、気温と蒸発散量の上昇は深刻な水不足をもたらし、その結果草原生態系の生産量が低下したと考えられます。すなわち、気候因子のなかでも降水量が草原退化に最も大きく影響する因子であることが明らかになりました。また、内蒙古の冷温帯草地(Cool temperate steppe)は年間0.57%の割合で減少しており、このまま減少し続けると、173年間で消失する計算となります。さらに、空間パターンの変化からは、生態ゾーン(relative life zones)の中で、砂漠の中心(mean center)が北東へ大きく移行しており、草原面積が減少し、砂漠面積が増加していることが示されました。

草原生態系の気候制限因子 半世紀にわたる生態分布帯 現地の微生物を活用 新たな草原の再生技術へ、一歩!

草原生態系の炭素・窒素プールは陸域生態系の約40%を占め、しかもその貯蔵量のほぼ9割が土壌中に含まれています。
草原生態系の炭素・窒素貯蔵は、放牧圧や土地利用形態、草原の管理方法などによって大きく異なることが報告されていますが、これまでは小面積の試験地などでの研究がほとんどで、広域の草原退化を対象とした研究例は極めて少ない。また、草原退化に伴う二酸化炭素など温室効果ガス放出量の増加が懸念される中、従来は草原生態系の炭素・窒素プールと温室効果ガスの放出は別々に取り上げられ、その収支を同じ地点で評価する研究は皆無でした。
そこで私たちは、2012年度から高知大学を中心とする4大学合同の研究チームを立ち上げ、中国・内蒙古自治区において狭域と広域草原生態系における炭素・窒素貯蔵量、温室効果ガスの放出量を一元化して評価する研究をスタートさせています。
さらに本研究チームでは、炭素・窒素循環における微生物の機能を解明し、新規微生物の獲得を試みます。現地の土壌中から単離した微生物を利用できれば、その土地に適した“環境にやさしい”土壌改良資材を創り出すことが可能です。退化・砂漠化が進んだ草原生態系を修復する新たな再生技術の創出に向けて、まさに最初の一歩を踏み出したところなのです!

牧民の住宅地からの距離を測りながら、退化の程度を調べていく

1平方米の囲いの中に生えている草の種類や高さ、重さなどを細かく調査

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