高知大学総合科学系生命環境医学部門

HOME研究者一覧曵地・木場研究室
食料危機を救え! 植物科学 植物病理学 植物の生態防御 植物病害防除
GFP標識したウィルスが植物で広がっている様子

曵地 康史 ひきちやすふみ (写真左)

[専門領域] 植物病理学、植物細菌学、植物ウイルス学
[研究テーマ] 
●植物細菌・植物ウイルスと植物との相互作用の
分子メカニズムの解明
●新たな植物病害防除技術の開発
●細菌の環境適応能の分子疫学的解析
[研究のモットー]
「失敗は成功の母」「やってみようぜ」
「ALL for one,One for all」

木場 章範 きばあきのり (写真右)

[専門領域] 植物病理学、植物感染生理学
[研究テーマ] 
●植物の生体防御機構の解明
●植物病の発病メカニズムの解明
[研究のモットー]
「明日やろうは馬鹿野郎」

曳地先生と木場先生
点線

『世界中で病害によって失われる農作物の量は、本来収穫できる量のなんと30%に及ぶ』という衝撃的な事実を、みなさんはご存知でしょうか?
地球規模の食料危機が迫る中、この30%を健全に収穫することが未来を救う有効な手立ての一つ。そこで私たちの研究室では、「植物はなぜ病気になるのか」「病原体はなぜ植物を病気にするのか」といった謎を分子レベルで解き明かすことで植物病害に対する防除技術を発展させ、食糧問題を解決しようと日々研究を行っています。


点線
ピーマン、シシトウガラシの日本一の産地・高知県にとって、トバモウ イルス病は天敵ともいえる存在

ピーマンやシシトウガラシの収量を低下させるトバモウイルス病は、高知県にとって長年の課題。これまで、抵抗性遺伝子 L を導入した育種によってその防除を試みてきました。
しかし、植物の病害に対する抵抗性遺伝子の多くは、28~30度以上の高温になると抵抗性機能を失うという致命的欠陥を持っています。施設栽培の盛んな高知では、病害の拡大に加えて抵抗性打破株の出現頻度が高まり、防除は行き詰まっていました。
ところが、1970年代に高知県が開発した L 遺伝子の中に、実はこの欠陥を克服した抵抗性遺伝子が含まれていたのです。ただ従来の常識から外れていたため、気づかれず埋もれていました。
発見のきっかけとなったのは、地元農家がオランダから導入した観賞用のピーマンです。このピーマンと一緒にやってきた外来種のトバモウイルスに対処するため、私たちは既存品種を徹底的に解析。世界初の高温機能性を持つ抵抗性遺伝子―― L1a の同定に成功しました。その後、愛媛大学、岩手生物工学研究センターと共同でこの L1a を遺伝子クローニングし、すべての塩基配列を解読。現在は、なぜ L1a 遺伝子は高温で効くのか、そのウイルス側と植物側の分子レベルの相互作用について解明を進めています。


点線

青枯病は200種以上もの植物に感染するやっかいな病害

ナスなどに感染する青枯病菌は、根から入って導管をつまらせ水枯れ症状を引き起こします。青枯病には抵抗性育種が困難なため、病気に強い野生種を台木、病気に弱い食用種を穂木にして接木栽培するのが有効な防除方法。ここで、実に不思議な現象が起きていることを私たちは発見しました。
それは、台木で菌の増殖が抑制され発病が抑えられているにもかかわらず、穂木からも青枯病菌が検出されるということ。さらにその検出された菌を別の食用種に接種した植物で、青枯病は発病します。つまり、菌の増殖は発病の重要なファクターではあるものの発病を決定するのは別の因子であり、また病気に強い・弱いにかかわらず植物は潜在的に何らかの防御遺伝子をもっていることが考えられるのです。
検証の結果、青枯病が発病するか否かを決定づけているのは、菌が根から感染した直後に植物と青枯病菌との間で起こる分子レベルでの相互作用であることを確認。またその相互作用によって植物は自らシグナルを発信し、体内にある防御遺伝子の機能を止めていることも突き止めました。
このことは、植物自身の持つ因子を活用して発病の調整ができるという可能性を示唆しています。これまでにない新たな防除法の確立に向け、さらなる研究を進めています。


点線
腐敗病におかされたレタスの圃場

「腐敗」とは、バクテリアなどが出す分解酵素によって植物の細胞壁が溶かされることをいい、その過程で作られる中間産物によって「腐敗臭」が発せられます。しかし、腐敗病におかされたレタスはこの腐敗臭を発しません。そこで丹念に調べたところ、腐敗に思われた症状は、実は菌の感染によって誘導されたレタス細胞のアポトーシスプログラム自己細胞死であることが明らかになりました。
これまで、植物におけるプログラム自己細胞死は病原菌を封じ込めるための抵抗反応と考えられてきましたが、この発見により、自己細胞死と病気や抵抗性との関わりをあらためて検証しなおす必要が出てきました。
また、同じ腐敗病菌がナスやピーマンに感染した場合は腐敗症状ではなく褐変症状を呈することから、腐敗病菌は複数の病原性機構を有し、宿主植物に応じてそれらを使い分けていることがと考えられます。この点についても現在、詳細な解析を進めています。


点線

私たちが拠点とする高知県というフィールドは、実は非常にユニークなところ。高知の農の現場には、これまでの定説や固定観念では判断ができない貴重な資源がごろごろ転がっています。
その理由は、高知の農業が民主導で、均一化せず多様に発展してきたから。
前述のトバモウイルス病に関する発見は、海外のピーマンを持ち込もうという意欲的な農家の人がいなければ起こりえなかったし、そのトバモウイルス病害で困っていたシシトウガラシ自体、ある農家が他県から原木を持ってきて栽培しているうちにできた新種が特産品にまで成長したという異色の経歴の野菜です。
そんな自由な土地柄のおかげか、高知大学では研究のネタには事欠きません。そして、その眠っているネタを丁寧に拾い上げ、学術的に解明して価値づけした上で世界に発信していくことが私たち高知大学の使命。
つまり、“高知で特徴づけられた科学”で世界と高知に貢献することが私たちの大命題なのです。

| ページのトップにもどる | HOME | ごあいさつ | 研究者一覧 | 報告書 |