高知大学総合科学系生命環境医学部門

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ゲノム、微生物、遺伝子発現、メタゲノム、Ⅲ型タンパク質輸送系、含硫補因子

(左)カラギーナンを分解する細菌(カラギーナンで作ったゲルが分解されているのがわかる)
(右)D-アラニン-D-アラニンリガーゼの活性中心の構造

大西 浩平 おおにしこうへい (写真左)

[専門領域] 微生物分子遺伝学
[研究テーマ] 
●細菌と植物との相互作用における遺伝子
 発現調節機構の解明
●多糖分解微生物の探索と産業利用
●環境細菌のメタゲノムDNAを利用した
 有用遺伝子の探索
[研究のモットー]
「科学はストーリーテリング」

加藤 伸一郎 かとうしんいちろう (写真右)

[専門領域] 遺伝子工学、応用微生物学
[研究テーマ] 
●鉄-硫黄クラスター形成に関与するタンパク質群の機能解析
●D-アミノ酸の生理的機能と代謝系の解明
[研究のモットー]
「好きこそものの上手なれ」

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ゲノム解析の新装置、次世代DNAシークエンサー

ここ数年、ゲノム情報の解析技術は飛躍的に進歩しました。以前なら1年以上かかっていたような塩基配列解読が今ではほんの1週間でできてしまうほど高速・大量の情報処理が可能となり、分子遺伝学や遺伝子工学の分野に大きな進展をもたらしています。
高知大学にも遺伝子実験施設に最新の次世代DNAシークエンサーが導入され、様々な研究に活用されていますが、中でも特にこの装置が威力を発揮するのが微生物のゲノム解析です。
微生物を利用して有用な物質や酵素を作り出す時、従来は採取したサンプルの中からまず目的の微生物を単離・培養するスクリーニングを行い、膨大な情報の中から宝探しをするように有用物質を探していました。しかしこの装置を使えばスクリーニング後、まず微生物の遺伝子情報を取得することができます。“設計図”が先にあるので、その後の展開を非常にスピーディかつ自由に進めることが可能です。
さらに、スクリーニング自体を行わず、様々な微生物が入り混じった集団の中から直接DNAを抽出するメタゲノム解析も近年注目を集めています。この手法を使えば、今まで培養ができず研究が進んでいなかった微生物(なんとそれは環境中に生息する微生物の99%以上!)の活用の可能性も大きく広がります。
微生物の秘めた力を解き明かし、医療や産業の現場に有効に役立てる ―― その最終ゴールを目指し、新たな挑戦がスタートしているのです。


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バイオ燃料の代表であるバイオエタノールの生産工程は日本酒のそれと全く同じです。原料もとうもろこしなどの食用作物が用いられてきました。その結果、主要食用穀物価格の高騰や食料不足という問題を引き起こしてきました。食料と競合しない未利用の原料としてセルロースが注目されています。セルロースは食用作物に含まれるデンプンと同様にグルコース多糖です。自然界にはグルコースの異性体であるガラクトース多糖も海洋を中心に多数存在しており、大部分が未利用のままです。アルコール発酵を行う酵母は、ガラクトースを体内でグルコースに変換してエタノールを作ることができます。そこで、我々はガラクトース多糖の中で、熱帯性の紅藻類キリンサイが生産するカラギーナンに着目しました。キリンサイは高知県においても養殖が試みられている藻類で、今後生産の拡大が見込まれています。
これまでにも、カラギーナンを分解する酵素は知られており、我々の研究室においてもその候補酵素を見つけてきました。しかしながら、これらはいずれもガラクトース及びその誘導体が複数個結合した、いわゆるオリゴ糖にまでしか分解せず、酵母によるアルコール発酵には利用されないことがわかりました。そこで、カラギーナンを完全に分解し炭素源とすることのできる細菌の探索を行い、2種類の新規細菌を見いだすことに成功しました。これら細菌のカラギーナン分解産物は酵母のアルコール発酵に利用可能であることが期待されます。このうち1種類の細菌からカラギーナンの分解に関係した酵素群を精製し、それら酵素をコードする遺伝子の単離を、次世代シークエンサーを用いたドラフトゲノム解析によって行っているところです。

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「含硫化合物」という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、文字通り「硫黄」を「含む」ような化合物の総称です。「硫黄」というと嫌なにおいが連想されて、あまり良いイメージを持たれないかもしれませんが、実は我々の体の中では非常に重要な役割を担っています。例えば、ビタミンB群の一部(チアミン、ビオチン)は含硫化合物であり、生体内で生じる多くの化学反応に密接に関与しています。その生化学的な重要性から栄養補助食品などにたくさん配合されているので、我々にとって意外と身近な存在になりつつあります。微生物が持っている含硫化合物の生合成システムを解析し、その仕組みを分子レベルで明らかにすることができれば、より効率的な生産技術を確立することが可能になると期待されています。現在、含硫化合物の生合成システムの初発段階を担うと考えられている「システインデスルフラーゼ」を中心に研究が進められています。

含硫化合物生合成システムにおけるシステインデスルフラーゼの役割
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青枯病菌は熱帯や温帯を中心に世界中に広がる防除の難しい病原細菌です。その宿主域はナス科を始め非常に広いことが知られています。宿主域の広さを反映してか、同じ種にも関わらず多様性に富んでおり、species complexとしてとらえられることもあります。その分類には特定の遺伝子配列が用いられ、4つのphylotype I〜IVに分類されています。Phylotypeは地理的分布に対応しておりphylotype I株は日本を含むアジアに広く分布しています。実際に日本各地で分離される青枯病菌のほぼ大部分はphylotype Iに分類されることが、我々のグループや農水省の研究で明らかとなっています。高知県では、ナスやトマト、タバコ以外にもショウガからも青枯病菌が分離されています。青枯病菌など植物病原菌の宿主域を決定するのはIII型タンパク質分泌系から分泌されるIII型エフェクターであり、1つの株が保有し、分泌するエフェクターの数は数十種類にのぼります。
そこで、宿主域の異なる日本の青枯病菌のゲノム情報を比較し、そのエフェクター因子の違いを知ることができれば、宿主域決定因子を特定することができ、ひいては青枯病菌の防除にもつながることが期待されます。Phylotype I株のゲノム解析はフランスのグループによる1株GMI1000のみで、日本分離株につては行われていませんでした.我々は、日本株の標準として使用しているOE1-1株のゲノム解析をほぼ終えており、GMI1000株のゲノム配列と相同性は高いものの、

トランスポゾンなどの挿入配列が少ないなどの特徴を見いだしています。現在は、OE1-1株のゲノム配列を基準として、次世代シークエンサーを用いて多数の日本株のドラフトゲノム解析を行い、比較ゲノムの手法により、宿主域の決定に関係するエフェクター因子の同定を行っているところです。


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地球上には、数え切れないほど多くの微生物が生息しています。太古の昔から人類はその微生物が作り出す酵素や有用物質を上手に利用してきましたが、それは全微生物の1%にも満たないほんの一部です。
この手つかずの微生物資源こそが、実は、資源問題や食料問題、地球温暖化など現代社会の様々な問題を解決する“宝の山”。その解明に迫るつまりゲノム新時代の到来は、持続可能な未来の幕開けを意味すると言っても過言ではないのです。今後の展開に、世界が注目をしています。

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