高知大学総合科学系生命環境医学部門

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食品、品質、地域資源、付加価値、機能性、健康、分析、味、香り

大豊町との連携を進めている「碁石茶」

島村 智子 しまむらともこ(写真左)

[専門領域] 食品化学、食品機能化学
[研究テーマ] 
●イラード反応 (食品成分間反応) に関する研究
●食品中に存在する機能性成分の解明と有効利用
[研究のモットー] 
「メリハリ (プライベートと仕事はきっちり分ける)」

柏木 丈拡 かしわぎたけひろ(写真右)

[専門領域] 食品機能化学
[研究テーマ] 
●食品の機能性に関する研究
●食品のフレーバーに関する研究
[研究のモットー] 
「やりたいことに嘘はいらない」

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地域の大学で研究活動を行っていく上で、私たちが大事にしていることが二つあります。
一つは、地域資源の持つ潜在的価値――「暗黙知」を、市場の価値判断として評価できる「形式知」に変えていくという、コンバーター(変換器)の役割を果たすことです。暗黙知とはマネジメントの分野で使われる言葉で、主観的・個人レベルの知を指しますが、例えば高知の農産物の中にも高い品質や栄養成分など素晴らしい価値があるにもかかわらず市場には認知されていないものが多くあります。研究によってそれらをいかに客観的・社会的な知に変換していくか、いにしえから伝承されてきた価値を、現在、あるいは将来の価値としていかに表現するか――それが、研究者としての私たちの使命だと考えています。
二つ目は、「ソサエティーイン」という考え方です。これまで大学の研究というのは、何か最先端のことをやっていればいつか役に立つだろうという「プロダクトアウト」の視点がほとんどでした。けれども今の時代、それでは通用しません。市場が求めているものを作る「マーケットイン」をさらに進めて、社会が求めているものを発想していく「ソサエティーイン」の視点が必要なのです。それこそが、これからの市場に満足してもらえる商品=競争優位が発揮できる商品づくりへとつながっていくはずです。
高知は太陽と自然に恵まれ、県内では多くの農・水産品が生産されています。ショウガ、ニラ、ユズ、スジアオノリ、カツオ・・・など独自の食材も多く、それらが持つ機能性食品素材としての可能性は計り知れません。私たちの研究チームはその価値を明らかにし、社会のニーズに応えられる商品づくりにつなげることで、高知県の産業活性化、地域の持続に貢献したいと様々なプロジェクトや研究活動を展開しています。

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ニラは高知県が全国の約4分の1 (全国1位) の出荷量を誇っています.従って、高知県にとっては大事な農産物であるといえます。しかし、これまでにニラの機能性に関する研究はほとんど行われていませんでした。そこで当研究室では、医学部と連携して「ニラの抗ピロリ菌活性」に関する研究を行いました。ピロリ菌とは、胃炎、十二指腸潰瘍、胃がんなどの原因の一つとなる病原性微生物です。研究の結果より、ニラが非常に優れた抗ピロリ菌活性を示すことがわかりました。また、その活性にはニラの中に含まれる香気成分が関わっていることを明らかにしました。本研究により、ニラの新たな魅力を見いだすことができたと考えています。

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植物は、害虫は病気などの外敵から身を守るために様々な化学物質による防御機構を進化させてきました。抗菌性や殺虫性を持つ化合物が植物の体内で合成されています。それらの中には人間に対しても顕著な作用を持つ物質が少なくなく、一部は薬草として利用されてきました。一方で植物が農産物として品種改良を行っている間に、苦味や渋味、酸味を示すことが多い防御物質の含量は減っていきます。つまり、農産物はおいしさと引き替えに、病虫害に対する抵抗性と様々な生理活性を失っていったことになります。そこで我々は、中山間部で伝統的に食される野草に注目をしました。野草は、品種改良が行われておらず、植物が本来持つ様々な生理活性物質を保持しています。その中から、我々の健康維持に有効な成分を見いだし、新たな産品として提供できればと考えています。

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県内企業と共同開発した柚子のアロマオイル「ゆめおとか」

柚子は、日本国内はもとより海外でも高い評価を受けつつある、高知県の代表的な産物です。高知は日本の柚子の生産額の約5割を占めており、青果として出荷するだけでなく、果汁も多く出荷されています。その際に大量に生じる搾汁残渣の有効活用を目指し、我々は柚子果皮から高効率で環境に優しい精油の抽出方法を開発し、県内に企業とともに商品化しました。また、ユズ果皮中に含まれる、機能性を持ったフラボノイドの効率的な抽出法の開発を行っています。


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今、食に求められているのは、「栄養」「おいしさ」そして「健康維持・増進」の機能です。食品化学ではこれらを「一次機能」「二次機能」「三次機能」といいますが、特に少子高齢化が進んだ現代社会では、三次機能の「健康維持・増進」の部分に大きなニーズがあります。
そこで重要になってくるのが、「医農連携」です。それぞれの研究において試験管レベルから細胞レベル、動物レベルから人へというつながりを完結する上では、医学との連携は必須です。幸いなことに本学には医学部があり、極めて濃厚なパートナーシップのもと共に研究を行うことが可能です。また最近では臨床医の中にも食の持っている底力を実感している先生が増えてきており、私たちはそういう先生方ともつながり合って国家的プロジェクトに取り組んでいます。ともすれば食を見下すような風潮があった一昔前から比べると状況は大きく変わりつつあり、その先駆けとなったのが私たち高知大学だと自負しています。
現在、私たちのもとにはいろいろな自治体から依頼が入り、医農連携による地域の食の付加価値づくりや産業への展開などについて、「高知モデル」を全国各地で紹介しています。将来的にはこれを世界に展開したいというのが、私たちの大きな目標です。
英語で“ local wisdom(ローカルウィズダム)”――これが日本語の「暗黙知」の一つに相当する言葉であると考えると、世界にはたくさんの食の“local wisdom”が眠っているはずです。その地域の叡智を先進国の研究者が自国や企業の利益のために奪い合うのではなく、それぞれの地域で価値として顕在化させ、そこに住む人々がメリットを享受し、産業から人材育成まで含めて地域の持続的発展につながるような仕組みにつなげていくこと――それが、私たちが考える未来への一つの解決策なのです。
その時、もしかしたら高知は、世界のリーダーになっているかもしれませんね!

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