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  2022年9月の魚


アマゴ Oncorhynchus masou ishikawae Jordan and McGregor, 1925(サケ目サケ科)

  サケ科は10属223種を含み,北半球に分布する遡河回遊性の魚類で,一生を淡水域で過ごすものもいます(Nelson et al., 2016;亀甲ほか,2018).本科の特徴として,脂鰭をもち,すべての鰭に棘条がなく,幼魚に見られる体側のパーマークや腋部に鱗をもつことなどが挙げられます(井田・奥山,2017).サケ科はカワヒメマス亜科 Thymallinae,シロマス亜科 Coregoninae,およびサケ亜科 Salmoninaeの3群に分類されます.カワヒメマス亜科にはカワヒメマス属 Thymallusのみが,シロマス亜科にはシロマス属 Coregonus,プロソピウム属 Prosopium,およびステノドゥス属 Stenodusの3属が,そしてサケ亜科にはコクチマス属 Brachymystax,ニシイトウ属 Hucho,イトウ属 Parahucho,イワナ属 Salvelinus,タイセイヨウサケ属 Salmo,およびサケ属 Oncorhynchusの6属がそれぞれ含まれます.

 サケ属の形態的特徴は,口が大きく,口裂が眼の後縁下を超え,両眼間が山型に膨らむこと,臀鰭が台形で,尾鰭両葉の先端が尖り,さらに鱗がほぼ円形といった組み合わせで他属と区別できます(井田・奥山,2017;細谷,2013).また,サケ属の103名義種のうち,現在は18が有効種とされています(Fricke et al., 2021).そのうち,日本とその周辺海域には,サクラマス・ヤマメ Oncorhynchus masou masou (Brevoort, 1856),サツキマス・アマゴ O. masou ishikawae Jordan and McGregor, 1925,ビワマス Oncorhynchus sp.,ベニザケ・ヒメマス O. nerka (Walbaum, 1792),クニマス O. kawamurae Jordan and McGregor,1925,シロザケ O. keta (Walbaum, 1792),カラフトマス O. gorbuscha (Walbaum, 1792),ニジマス O. mykiss (Walbaum, 1792),マスノスケ O. tshawytscha (Walbaum, 1792),およびギンザケ O. kisutch (Walbaum, 1792)が分布します(田口,2021).

 アマゴ はサケ科サケ亜科サケ属であり,サクラマスの亜種に分類されます.アマゴは河川上流域に生息し,釣りの対象魚として親しまれ,雨の日に多く釣れたことからこの和名が付けられました.高知県および四国ではアメゴの愛称で親しまれています.また,学名の Onkos は “突出した”,rhynchosは “吻“ を表し,“突出した吻“とは繁殖期の雄の形態を示しています.もともと,本種は神奈川県の酒匂川以西の太平洋側,瀬戸内海を囲む近畿・中国・四国地方と大分県には分布していましたが,放流によって全国に散らばりました(井田・奥山,2017).本種は上顎が“へ”の字状に曲がり,黒点が背側に散在するが尾鰭にはない,幼魚のパーマークが側線を超えるほど大きく,さらに体側には黒点と朱色の斑点が散在することで同属他種と区別できます(井田・奥山,2017;細谷和海,2013).

 サケ科の中には一生を淡水域で過ごす陸封型と,河川で生まれて海へ下る習性があり,成長した後に生まれた川に戻って産卵する降海型に分かれる種がいます(田口,2021).アマゴもその中の1つで,陸封型にはアマゴ,降海型にはサツキマスの和名がそれぞれ付けられています.サケ科の母川回帰メカニズムには不明な点が多く,上田(2007)はサケが視覚機能を用いて直線的に回帰する行動をとること,脳から分泌されるサケ型生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(sGnRH)が主導的に行動を調節すること,そして嗅覚機能を用いて各河川に溶解している河川固有のアミノ酸組成を識別するとしています. 私は高知県に来て初めて釣りをした際にアマゴを釣り,その魚体の美しさに魅了されて魚を好きになりました.しかし,まだ釣りの経験が浅く,サツキマスを釣ったことがないので,今後サツキマスと出会えることを目標に,魚の生態や生息環境の知識を積みながら釣りをしていきたいと思っています.

参考文献

Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2021. Catalog of fishes: genera, species, reference: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 29 September 2022

細谷和海.2013.サケ科.中坊徹次(編),pp. 362−367, 1833−1834.日本産魚類検索全種の同定.第三版.東海大学出版会,秦野.

井田齋・奥山文弥.2017.サケマス・イワナのわかる本 改訂新版 Salmon,Trout and Charr.山と渓谷社,東京.

亀甲武志・中坊徹次・藤岡康弘.2018.サケ科.中坊徹次(編),pp. 129−141.小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.

Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.

田口哲.2021.サケ科,pp. 66-69.フィールドガイド日本の図鑑 Field Guide to the freshwater fish of Japan.誠文堂新光社,東京.

上田宏.2007.サケの感覚機能と母川回帰.バイオメカニズム学会誌,31(3): 123-129.

写真標本:BSKU 132546,151.5 mm SL,高知県高知市鏡川水系(東川川),釣り,2022年9月30日,採集・写真撮影:山上竜生.

(山上竜生)  


2022年8月の魚



アヤトビウオ Cypselurus poecilopterus crassus Shakhovskoy and Parin, 2022
(ダツ目トビウオ科)

    1903年12月17日は,かの有名なライト兄弟(Wilbur and Orville Wright)が人類初の動力飛行に成功した日です.この偉業は100年以上も昔の話ですが,人類の空に憧れてきた歴史の古さは,その比ではありません.現代では航空力学が発展し,どうすれば鳥のように飛べるのか,何が適した形状なのかを私たちは知っています.しかし自然界に目をやると,進化の末に,人類よりも先にその答えに辿り着いた魚がいます.今回は,そんな魚のお話です.

 ダツ目トビウオ科Exocoetidaeは,三大洋の温・熱帯海域に広く分布し,外洋域から沿岸域にかけての表層に生息します(Nelson et al., 2016; 中坊, 2018).本科は,世界で7属78種が知られ,このうち日本からは,6属28種が報告されています(Fricke et al., 2022; 本村, 2022; Shakhovskoy and Parin, 2022).本科の形態的特徴には,両顎が比較的短く等長(幼魚期では下顎が突出する場合がある),一部を除き幼魚では下顎に髭をもつ,鰭に棘をもたない,胸鰭は巨大で体側の高い位置にある,腹鰭が大きい種を含む(2翼型と4翼型に大別できる),背鰭と臀鰭は体の後方で対在する,尾鰭は下葉が長く,深く2叉する,側線は腹縁付近を走る,胃をもたない(無胃魚“stomachless fish”),脊椎骨数は31-51,卵は卵膜に纏絡糸をもつ等が挙げられます(Heemstra and Parin, 1986; 藍澤・土居内,2013; 陳, 2014;池田ほか,2014; 池田・中坊,2015; 岩井,2017).さらに,Dasilao and Sasaki (1998) は,トビウオ科魚類の形態に基づく系統解析を行い,本科が単系統であること,尾鰭,胸鰭および腹鰭を徐々に変異させて滑空能力を向上させてきたと結論しています.また,本科の生態的特徴には,胸鰭と腹鰭を用いて滑空する(後述),主に浮遊性の甲殻類を捕食する,正の走光性を示す等が挙げられます(Heemstra and Parin, 1986; Allen and Robertson, 1994; 中坊,2018).
 
 ハマトビウオ属 Cypselurusは,世界で12種が知られ,このうち日本からは,ウチダトビウオ Cypselurus naresii (Gu¨nther, 1889),ヒメアカトビ Cypselurus angusticeps Nichols and Breder, 1935,ホソトビウオ Cypselurus hiraii Abe, 1953,アリアケトビウオ Cypselurus starksi Abe, 1953,そしてアヤトビウオ Cypselurus poecilopterus crassus Shakhovskoy and Parin, 2022が報告されています(Heemstra and Parin, 1986; Nelson et al., 2016; 本村,2022).本属は,太平洋とインド洋の温・熱帯海域に分布し(Parin, 1999;Shakhovskoy, 2018),形態的特徴として,下顎が上顎よりもやや短く,少なくとも数本は顎歯が3尖頭であること,幼魚期の髭を欠くか1本のみであることが挙げられます(Parin, 1999;Heemstra, 1986).

 アヤトビウオ Cypselurus poecilopterus crassus Shakhovskoy and Parin, 2022は,体が比較的太短く,幼魚期に髭をもたないこと,胸鰭の暗色斑が規則正しく配列することで同属他種と容易に識別できます(Parin, 1999;Heemstra, 1986土居内,2001).本種は,これまで Cypselurus poecilopterus (Valenciennes, 1847)の学名が適用され,インド-西太平洋から北西太平洋にかけて広く分布するとされてきましたが,今年3月にShakhovskoy and Parin (2022)によって3亜種に分けられました.本研究は,Shakhovskoy and Parin (2010)とShakhovskoy (2018)が示唆した結論を踏まえており,C. poecilopterusのうち,アラビア海産,日本海産およびそれ以外の個体群間で,形態的・生態的な差異を認め,それぞれに対して新学名 Cypselurus poecilopterus arabicus Shakhovskoy and Parin, 2022,Cypselurus poecilopterus crassus Shakhovskoy and Parin, 2022そして Cypselurus poecilopterus poecilopterus Shakhovskoy and Parin, 2022を提唱しました.そのため現在では,日本近海産の個体群 C. p. crassusに対してのみ標準和名“アヤトビウオ”が適用されます.

 以上の3亜種のうち,アヤトビウオC. p. crassus(日本近海産の個体群)は,他の2亜種と比較して,25-80 mm SLにおける体幅が20.0% SLを超える(vs. 他の2亜種では20.0% SL未満),両眼間隔が14.5% SLを超える(vs. 14.5% SL未満),80-120 mm SLにおける体幅が18.0% SLを超える(vs. 18.0% SL未満),両眼間隔が12.0% SLを超える(vs. 12.0% SL未満)ことから識別でき,北海道南岸から台湾近海までの北西太平洋に分布し,分布域が隣接する C. p. poecilopterusよりも高緯度の海域に生息します.一方,アラビア海産の個体群 C. p. arabicusは,他の2亜種と比較して,成魚の腹鰭の末端付近の地色が暗色(vs. 他2亜種では淡色),背鰭前方鱗数が27-32(vs. 23-32,通常24-28),脊椎骨数が41-44,通常42-43(vs. 40-43,通常41-42)であることから識別でき,アデン湾やアラビア海の高塩分海域に分布し,分布域が隣接しているものの,低塩分海域を好む C. p. poecilopterusとは棲み分けています(Shakhovskoy and Parin, 2010; Shakhovskoy, 2018; Shakhovskoy and Parin, 2022).さらに,従来では英名として主に“Spotwing flying fish”が用いられてきましたが,本研究ではアヤトビウオ C. p. crassusC. p. arabicusを分類し,それぞれ“Japanese spotwing flying fish”と“Arabian spotwing flying fish”を新たな英名として提唱しています.また,アヤトビウオ C. p. crassusの亜種小名“crassus”は,ラテン語で“ぶ厚い・ずんぐりした”を意味し,他の亜種との識別形質を表現しています(Shakhovskoy and Parin, 2022).

 写真個体は,2022年8月23日に高知県土佐清水市以布利漁港(大敷網)で採集されました.標本作製時は,アヤトビウオに同定されましたが,写真個体は163.8 mm SLであるため,Shakhovskoy and Parin (2022)が示した識別形質をそのまま当てはめることはできません.しかし,Shakhovskoy (2018)で示された分布の分かれ方は極めて明瞭であり,日本近海産はすべてJapanese subspeciesであるとされています.したがって,写真個体はJapanese subspeciesに属し,正真正銘のアヤトビウオCypselurus poecilopterus crassusであると思われます.

 トビウオ科は,言わずと知れた飛ぶ魚“flying fish”ですが,より厳密に言えば滑空する魚です.実際,書籍の記載文でも和文なら「滑空」,英文なら“gliding”の語が常用なので,“gliding fish”とした方が適当かもしれません.あくまで「滑空」は「飛ぶ」の範疇なので,どちらを用いても決して誤りではないと思いますが,本稿では,「滑空」と表現します.それでは,本科の滑空とそれに適応した形態を解説しましょう.

 トビウオ科魚類は,普段は他の魚類と同様に水中を遊泳していますが,外敵(シイラ科,カジキ亜目,サバ亜目など)を回避する際は,一時的に空中に出て体が受ける抵抗を減らす戦術をとります(Helfman et al., 2009).トビウオ科の滑空は,水中加速期,滑走期,滑空期の3段階に分けることができます. 最初の水中加速期では,尾鰭を激しく振って水上に飛び出すために加速します.この時,上葉よりも下葉が長い特殊な形状の尾鰭を振ることで,前方への推進力とともに体を上方へ向ける力が発生します(中坊, 2018).この現象は,私たちがシュノーケリングの際に使用するフィンを例にして直感的に理解できます.普通はまずやらないことですが,同じ硬さで,長さの異なるフィンを装着してドルフィンキック泳法で泳いだ場合,各フィンから得られる推進力に差異が生じ,短いフィンを装着している方へ進路が逸れます.これと同じ原理で上方を向いた魚体は水面に到達,そのまま水上に飛び出して滑走期に移行します.

 滑走期は,魚体に揚力を発生させる段階で,魚体はほぼ全身が水上に出ていますが,尾鰭の長い下葉は水中に留まり,この尾鰭で強く水面を叩いて水上を滑走します. トビウオ科の尾鰭は,標本作製時に展鰭用の針が通らないほど鰭条が密に配列し,鰭膜の面積が小さく,そもそも展鰭が不必要なほど極めて丈夫なので,加速や滑走時の強い衝撃に耐えるのに適しています.同時に,胸鰭を広げて空気の流れを受けることで,水中加速期のように頭部が尾部よりも高い位置にある姿勢を保持します.この傾いた姿勢は,離陸時の航空機の翼と同様であり,発生した揚力で魚体が空中に浮かび上がります.

 トビウオ科魚類の最大遊泳速度は35 km/h程度ですが,滑空期に移行すると70km/hに達する速度で滑空します(Helfman et al., 2009).水面から約2 mの高さを滑空し,その滑空距離は200-400 m以上とされています(Allen and Robertson, 1994; Helfman et al., 2009).実際に滑空を船上から観察すると,滑空中の方向転換や急停止も可能であることが分かります.先述の通り,本科魚類は無胃魚であり消化管を短くすることで,食物を体内に保持する時間を短くして体を軽量化し,背腹方向から見た輪郭は直線的で抵抗を減らす体形をしています.本科の滑空時間の世界最長記録は,日本で記録されており,NHK鹿児島放送局のカメラマン森純一氏が屋久島ロケ最終日の2008年5月18日に,フェリー太陽(屋久島町営)から撮影したものです.45秒間の滑空を捉えたこの映像は,当日のNHKニュースと同月20日付のBBC NEWS(英国)で報じられ,そして同年11月2日の『ダーウィンが来た!』(NHK)の「生きもの新伝説トビウオ大飛行」と銘打った回で放送されました.この記録は,Breder (1929)により報告された記録の42秒を3秒更新し,2019年にギネス世界記録に認定されています.ネットでいつでも視聴できるのでぜひ一度,ご覧ください. 動画1(トビウオの最長飛行時間) 動画2(BBC Earth Hant)

  本稿を執筆する中で,私は保育園時代に読んだ絵本『トビウオのぼうやはびょうきです』を思い出しました.海洋生物を主人公にして核兵器廃絶を訴える珍しい作品ですが,当時6歳だった私は,重く救いのない物語を理解できず,幼心にそこはかとない不安を覚えました.航空史の悲惨な側面を顧みれば,あの絵本で見たおびただしい数の魚の死骸を現実に目の当たりにする日が来ないとは言い切れず,あるいはその時,その死屍累々は魚ではなく,私たち自身かもしれません.私たちは,私たちが知っているすべての生命と共存している事実と,多くのレッドラインを既に越えつつある現状を今一度,心に留めねばなりません.先の大戦から77年目の晩夏,変わらずに水上を優雅に翔けるトビウオは,平和と自由の象徴であってほしいものです.

参考文献

藍澤正宏・土居内龍.2013.トビウオ科.中坊徹次(編),pp. 655-664, 1928-1933 . 日本産魚類検索全種の同定 第三版.東海大学出版会,秦野.

Allen, G. R. and D. R. Robertson. 1994. Fishes of the tropical eastern Pacific. University of Hawaii Press, Honolulu. i-xx + 1-332 pp.

Breder, Jr., C. M. 1929. Field observation on flying fishes: A suggestion of methods. Zoologica, 9 (7): 295−312. 

陳 春暉.2014.トビウオ科Exocoetidae.沖山宗雄(編),pp. 550−577 . 日本産稚魚図鑑 第二版.東海大学出版会,秦野.

Dasilao, Jr., J. C. and Kunio Sasaki. 1998. Phylogeny of the flyingfish family Exocoetidae (Teleostei, Beloniformes). Ichthyol. Res., 45 (4): 347-353.

土居内龍.2001.トビウオ科.中坊徹次・町田吉彦,山岡耕作・西田清徳(編),pp. 166-170. 以布利 黒潮の魚 ジンベイザメからマンボウまで.大阪 海遊館,大阪.

Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2022. Catalog of fishes: genera, species, reference: https://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Accessed 23 Aug. 2022 .

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池田知司・平井明夫・田端重夫・大西庸介・水戸 敏.2014.魚卵の解説と検索.沖山宗雄(編),pp. 1-108. 日本産稚魚図鑑 第二版.東海大学出版会,秦野.

池田博美・中坊徹次.2015.南日本太平洋沿岸の魚類.東海大学出版部,秦野.xxii + 597 pp., pls. 1-256.

岩井 保.2017.6章 摂食・消化.矢部 衛・桑村哲生・都木靖彰(編),pp. 55-72. 魚類学.恒星社厚生閣,東京.

本村浩之.2022.日本産魚類全種目録.これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.Online ver. 15.https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/jaf.html. Accessed 23 Aug. 2022.

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Parin, N. V. 1999. Exocoetidae. Flyingfishes. Pages 2162-2179 in K. E. Carpenter and V. H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western Central Pacific. Volume 4. Bony fishes part 2 (Mugilidae to Carangidae) . FAO, Rome.

Shakhovskoy, I. B. and N. V. Parin. 2010. A comparative description and distribution of the flying fishes―Cypselurus poecilopterus, C. simus, and C. callopterus, sorted out into the species group of spotwing species of the subgenus Poecilocypselurus. Journal of Ichthyology, 50 (8), 559-579.

Shakhovskoy, I. B. and N. V. Parin. 2022. A review of the flying fish genus Cypselurus (Beloniformes: Exocoetidae). Part 2. Revision of the subgenus Poecilocypselurus Bruun, 1935 with descriptions of three new species and five new subspecies and reinstatement of Exocoetus apus Valenciennes and E. neglectus Bleeker. Zootaxa, 5117 (1): 1-109.

Shakhovskoy, I. B. 2018. Specific features of distribution in the World Ocean of some flying fishes of the genera Exocoetus, Hirundichthys and Cypselurus (Exocoetidae). Fishtaxa, 3 (4): 40-80.

写真標本:BSKU 132414,163.8 mm SL,2022年8月23日,高知県土佐清水市以布利漁港(大敷網).採集・撮影:山口 蓮.

(山口 蓮)


2022年7月の魚


ギンユゴイKuhlia mugil (Forster, 1801) (スズキ目ユゴイ科)

   スズキ目ユゴイ科(Kuhliidae)は,インド-太平洋の温・熱帯海域に分布し,ユゴイ属Kuhlia Gill, 1801のみで構成されます(池田・中坊,2015;Nelson et al., 2016).ユゴイ科魚類は,低塩分から高塩分にわたって適応できる広塩性(euryhaline)をもつため,淡水域から沿岸域まで幅広く生息することが知られ(渡邊,2017;瀬能,2018),ハワイ州ではアホレホレ(aholehole)の名称で親しまれるポピュラーな魚です(Nelson et al., 2016).

 ユゴイ属は世界で12種が知られており,このうち日本にはギンユゴイKuhlia mugil (Forster, 1801),オオクチユゴイKuhlia rupestris (Lacepède, 1802),ユゴイKuhlia marginata (Cuvier, 1829),ハワイアンフラッグテール(標準和名なし)Kuhlia sandvicensis (Steindachner, 1876),トゲナガユゴイKuhlia munda (De Vis, 1884)の5種が分布します(Randall and Randall, 2001;本村,2022).ユゴイ属の形態的特徴には,体は高く側偏する,口は著しく斜位,鰓蓋に2棘がある,背鰭と尾鰭の各基底に鱗鞘(りんしょう/鞘状の鱗)が発達する,背鰭は深く欠刻する,背鰭鰭条数は10棘9–13軟条,臀鰭鰭条数は3棘9–13軟条,脊椎骨数は25,一般的に体色は銀色,多くは尾鰭に暗色の斑紋があるなどが挙げられ,主に浮遊性の甲殻類を捕食します(Allen and Robertson, 1994;佐々木,1997;林・萩原,2013 ;池田・中坊,2015;Nelson et al., 2016).

 ギンユゴイKuhlia mugil (Forster, 1801)は沿岸性の魚ですが,その分布は極めて広く,日本では茨城県から九州南岸の太平洋沿岸,伊豆-小笠原諸島,対馬,九州北岸・西岸,屋久島,琉球列島,海外では朝鮮半島南岸,済州島,台湾,西沙群島,インド-汎太平洋の温・熱帯海域に分布し,ユゴイ科のうち,東太平洋(アメリカ大陸西岸)でも分布が確認されているのは本種のみです(林・萩原,2013;Nelson et al., 2016;瀬能,2018).ギンユゴイは,側線鱗数が49–53,背鰭軟条数が9–11(通常10),尾鰭の両葉に明瞭な5本の黒色斜帯があることで同属他種と容易に識別でき,日本に分布するユゴイ科魚類のうち本種のみが生涯を海水域で過ごします(林・萩原,2013;目黒,2013;池田・中坊,2015;小枝,2020;ジョン,2022).

 ギンユゴイは,「銀湯鯉」と漢字表記されるように,銀色に輝く鱗が目を引く魚ですが,海中では通常,海水で散乱した青い自然光を反射し,銀色には見えません.実はこの鱗は,自然光を巧みに反射し,外敵の視界から自身の姿を消す役割を担うのです.

 この鱗に含まれる銀色の物質は,核酸の塩基として有名なグアニン(guanine: C5H5N5O)の板状の結晶です.本来,グアニンは無色透明の物質ですが,結晶構造の場合,ほぼ完全に自然光を反射し,銀色(≒白色)として視認されます.生体内で行われる結晶生成過程をバイオクリスタライゼーション(biocrystallization)といい,生成されたグアニン結晶は,鱗の上下・前後方向に配列するとともに,重なり合って層を形成しています(Helfman et al., 2009 ).しかし,これら各層の境界面で入射光を反射する時,各反射光が逆位相で干渉した場合は,全体として反射光が弱まり,周囲より暗色に見えることが想像できます.これに対し,銀色の鱗は,自然光の波長の1/4に相当する間隔でグアニン結晶の層を作ることで,この問題をクリアしています(Helfman et al., 2009).このように,入射光の1/4波長間隔で反射媒質を重ねた鏡を分布ブラッグ反射鏡(DBR: Distributed Bragg Reflector)といい,1/4波長間隔で重なる各境界面からの反射光の位相をすべて揃え,高効率反射を実現するものです(名古屋工業大学極微小構造デバイス研究センター,2003).すなわち,鱗の中でグアニン結晶は,自然光を反射するために理論上最適な間隔で配置されているのです.さらに,ギンユゴイは側偏して体側の曲率を小さくすることで,鱗そのものが自然光の反射に適した垂直に近い配置となっています(Helfman et al., 2009).そして最後に,ギンユゴイ自体が水中で垂直に姿勢を保持することで,自然光の反射を安定させています.

 以上の「グアニン結晶の配置」「鱗の配置」「水中における姿勢保持」の3つの要因によって,ギンユゴイは驚くほど海中の背景に溶け込み,さながら,不可視の魚となるのです.まるで,英国の小説家J. K. Rowling氏の『Harry Potter』作品群に登場する「透明マント」のようだと思いませんか?

 写真個体は,2020年7月21日に実施された本学の臨海実習にて,高知県土佐市宇佐町白ノ鼻で遠藤広光教授によって採集されました.どうやら遠藤教授の視界からは,姿をくらますことはできなかったようですね.尾鰭の鮮やかな白黒のコントラストが非常に美しく,今では私の大好きな魚です.ユゴイ科魚類は,尾鰭に斑紋をもつ種が多いことから,英名では“flagtail”(旗のような尾鰭)と呼ばれています(林・萩原,2013;Nelson et al., 2016).様々な困難に直面している昨今の社会ですが,何事も簡単に「白旗」を揚げるわけにはいきませんね.

参考文献

Allen, G. R. and D. R. Robertson. 1994. Fishes of the tropical eastern Pacific. University of Hawaii Press, Honolulu. i–xx + 1–332 pp.
林 公義・萩原清司.2013.ユゴイ科.中坊徹次(編),1071–1072, 2037 pp. 日本産魚類検索全種の同定.第3版.東海大学出版会,秦野.
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池田博美・中坊徹次.2015.南日本太平洋沿岸の魚類.東海大学出版部,秦野.xxii + 597 pp., pls. 1–256.
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渡邊 俊.2017.2016-1-4 環境要因.矢部 衛・桑村哲生・都木靖彰(編),202–204 pp. 魚類学.恒星社厚生閣,東京.

写真標本:BSKU 127968,132.5 mm SL,2020年7月21日,高知県土佐市宇佐町白ノ鼻,手網.採集:遠藤広光,写真撮影:山口 蓮.

 (山口 蓮)


2022年6月の魚


オニアンコウLinophryne densiramus Imai, 1941(アンコウ目チョウチンアンコウ亜目オニアンコウ科)

 オニアンコウ Linophryne densiramus Imai, 1941 (オニアンコウ科 Linophrynidae)は,チョウチンアンコウ類として知られる深海魚の仲間で,三大洋に5属27種が知られています(Nelsen et al., 2016; Fricke et al., 2022).そのうち,日本からはユウレイオニアンコウ Haplophryne mollis (Brauer 1902),オニアンコウ Linophryne densiramus Imai 1941,インドオニアンコウ Linophryne indica (Brauer 1902),ヒゲモジャオニアンコウ Linophryne polypogon Regan 1925,そしてヒカリオニアンコウPhotocorynus spiniceps Regan 1925の5種が報告されました(本村,2020).本科魚類は,雌の眼上部に強い棘をもつ,背鰭と臀鰭が通常3軟条,腹鰭がない,肛門が体の正中線から左寄りに開口するなどの特徴があります(Pietsch, 2009;中坊,2018).肛門位置の特徴は,カレイ目魚類の成魚やタラ目の仔魚などでも知られています.前者は体全体の左右非対称性に関するものです(Pietsch, 2009).後者のうち,ソコダラ科のムネダラ Coryphaenoides pectoralis (Gilbert, 1891)の巨大仔魚では,正中線の右側に位置します(Endo et al., 2010).

 オニアンコウ属 Linophryne Collett, 1886 は三大洋の深海域に22有効種が知られ,上耳骨と後側頭骨の棘を欠く,前鰓蓋骨後縁に1棘をもつ,体色が暗色などの特徴をもちます(Pietsch, 2009; Fricke et al., 2022).そのうち,オニアンコウは三大洋の表層から水深 2250 mの間での採集記録があり,日本では北海道から駿河湾にかけて出現が確認されました(中坊,2018;遠藤,2021;Fricke et al., 2022).本種は下顎のひげが大きく,3本の太い幹とその先端が多分枝となる,雌では誘引突起が短い,擬餌状体が大きく標準体長の16−39%,雄では蝶耳骨棘を欠くか未発達などの特徴により,同属他種と識別できます(Pietsch, 2009;中坊,2018). チョウチンアンコウ類は,海底から離れて生活をするため腹鰭をもたず,雌には餌を誘うために用いる先端に発光器を備えた擬餌状体をもちます(Pietsch, 2009;中坊,2018).また,ミツクリエナガチョウチンアンコウ科(Ceratiidae),オニアンコウ科(Linophrynidae),そしてキバアンコウ科(Neoceratiidae)の3科では,雄は自由遊泳生活を送り,成熟すると雌の体表に付着して栄養を摂取しますが,深海では雄と雌が出会う機会が少なく,雌に出会えなかった雄は死んでしまいます(中坊,2018;遠藤,2021).

 写真個体は2022年3月に高知市内の御畳瀬漁港の司丸による底曳網漁(大手繰り網)により採集されました.本種は駿河湾産の標本を基に新種記載され,上述の通り日本では北海道から駿河湾にかけて分布します.これまでに土佐湾から採集された記録はなく,写真個体は土佐湾初記録となります.いつも快く魚を提供してくださる御畳瀬漁港の皆様に,この場を借りてお礼申し上げます.3月で修士課程を修了し4月から社会人となりましたが,イシヨウジやダルマアンコウについての論文も引き続き投稿していく所存です.

引用文献

遠藤広光.2021.アンコウのなかま.藤原義弘・遠藤広光(編),pp. 86−91.小学館の図鑑NEO 深海生物.小学館.東京.
Endo, H., N. Nakayama, K. Suetsugu and H. Miyake. 2010. A larva of Coryphaenoides pectoralis (Gadiformes: Macrouridae) collected by deep-sea submersible from off Hokkaido, Japan. Ichthyological Research, 57(3): 272−277.
Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2022. Catalog of fishes: genera, species, reference: https://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 31 March 2022.
本村浩之.2020.日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.560 pp.
中坊徹次.2018.オニアンコウ科.中坊徹次(編),pp. 172−173.小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.
Pietsch, T. W. 2009. Oceanic anglerfishes. Extraordinary diversity in the Deep Sea. University of California Press, Berkeley. i−xii + 1−557.

写真標本:BSKU 131633, 53.2 mm SL, 2022年3月,土佐湾,高知県高知市御畳瀬漁港,大手繰り網,司丸.採集者:井上裕太,幸大二郎.   

(幸 大二郎)


 2022年2月の魚


イッテンカゴマトウダイCyttopsis cypho (Fowler, 1934) (マトウダイ目ベニマトウダイ科)

 マトウダイ目ベニマトウダイ科(Parazenidae)は,三大洋に分布する近底層遊泳性の魚類で,ベニマトウダイ属 Parazen Kamohara, 1935,カゴマトウダイ属 Cyttopsis Gill, 1862および Stethopristes Gilbert, 1905の3属を含みます(Tyler et al., 2003;Nelson etal., 2016).本科のうち日本には,ベニマトウダイ属のベニマトウダイParazen pacificus Kamohara, 1935,カゴマトウダイ属のカゴマトウダイCyttopsis rosea (Lowe, 1843),そしてイッテンカゴマトウダイCyttopsis cypho (Fowler, 1934)の3種が知られています(中坊・甲斐,2013;本村,2020;水町ほか,2022).

 カゴマトウダイ属Cyttopsis Gill, 1862は,三大洋の水深100-1000 mに分布し,(中坊・甲斐,2013;Bray, 2021a, b),次の形質の組み合わせで特徴づけられます:体は側扁し体高が高い,体は脱落しやすく薄い小円鱗で覆われる,背鰭と臀鰭軟条の基底には軟条とほぼ同数の小骨質板が並ぶ,胸鰭鰭条数は13−14,腹鰭鰭条数は9-10,臀鰭鰭条数はI-II, 28-30,尾鰭の副尾鰭条は小棘状で上葉に3本と下葉に4本,および腹部正中線上に鋭い棘を備える稜鱗をもつ(Heemstra, 1980).本属には4名義種が知られており,カゴマトウダイC. rosea (Lowe, 1843)とイッテンカゴマトウダイC. cypho (Fowler, 1934)の2種が有効とされ,Cyttopsis itea Jordan and Fowler, 1902とParacyttopsis scutatus Gilchrist and von Bonde, 1924は,前者の新参異名となっています(Heemstra, 1980;Fricke et al., 2021).カゴマトウダイとイッテンカゴマトウダイは,体側後半部の側線上にある1黒色斑の有無と側線鱗数で識別できるとされましたが(Fowler, 1934;Heemstra, 1980;Bray, 2021a),水町ほか(2022)によって前述の2形質を含む次の7個の識別形質が示されました:体側後半部の側線上にある1黒色斑(イッテンカゴマトウダイではある vs. カゴマトウダイではない),側線鱗数(59–64 vs. 73–82),腹部の第4 稜鱗と第5 稜鱗上の棘の間隔(著しく狭い vs. 比較的広い),眼窩径(13.6–16.6% vs. 14.7–19.1% of SL;14.2–17.8% vs. 15.9–20.7% of SL'),両眼間隔(5.8–6.6% vs. 5.8–8.0% of SL;6.0–7.5% vs.6.1–8.4% of SL'),吻長(21.1–27.4% vs. 17.8–23.3% of SL;13.7–19.6% vs. 8.7–15.0% of SL'),および下顎長(22.6–25.6% vs. 22.1–26.9% of SL;23.7–27.9% vs. 24.0–28.5% of SL')(SL' は口吻突出部の基部から尾鰭基底まで).また,これまでに知られているイッテンカゴマトウダイの最大サイズは90mm SLであるのに対してカゴマトウダイでは186 mm SLであることから,本種はカゴマトウダイよりも小型種であると考えられています(水町ほか,2022).イッテンカゴマトウダイはオーストラリアから日本周辺の西太平洋の水深100-520 mから採集されており,日本での記録は土佐湾と遠州灘です(Fowler, 1934;Paxton et al., 1989, 2006;Mok, 1993;Bray, 2021a;Shao, 2021;水町ほか,2022).遠州灘産の標本は,本研究室OBの佐藤真央さんがTwitterに投稿された標本写真を発見したことがきっかけで,第三著者との共同研究に至りました.論文がオンラインで出版された後も,ちらほら本種の写真がTwitterで報告されており,論文の著者としては非常に嬉しい限りです.TwitterをはじめとするSNSは膨大な魚の情報で満ちているので,これらを上手く活用した研究を行いたいものです.

 イッテンカゴマトウダイの論文は博士課程を修了し,就職した後に研究を進めました.私は民間企業に勤めるいわゆる“在野の研究者”なので,研究時間と旅費の確保が大変で,この論文を仕上げるのは少々辛かったです.それでも今は次の論文に向けて準備を始めていて,尽きることのない魚の面白さが自分の原動力になっています.

引用文献

Bray, D. J. 2021a. Fishes of Australia, Cyttopsis cypho: https://fishesofaustralia.net.au/Home/species/1863.(参照 2021-5-25)

Bray, D. J. 2021b. Fishes of Australia, Cyttopsis rosea: https://fishesofaustralia.net.au/Home/species/1864.(参照 2021-5-25)

Fowler, H. W. 1934. Descriptions of new fishes obtained 1907 to 1910, chiefly in the Philippines Islands and adjacent seas. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 85: 233–367.

Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2021. Eschmeyer’s catalog of fishes: genera, species, references: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp(参照2021-5-25)

Gilchrist, J. D. F. and C. von Bonde. 1924. Deep-sea fishes procured by the S. S. Pickle (Part II). Rep. Fish. Mar. Biol. Surv. Un. S. Afr., 2: 1–24, pls. 1–6.

Gill, T. N. 1862. On the limits and arrangement of the family of scombroids. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 14: 124−127.

Heemstra, P. C. 1980. A revision of the zeid fishes (Zeiformes: Zeidae) of South Africa. Ichthyol. Bull. J.L.B. Smith Inst. Ichthyol., 41: 1–18.

Jordan, D. S. and H. W. Fowler. 1902. A review of the Chaetodontidae and related families of fishes found in the waters of Japan. Proc. U. S. Natl. Mus., 25: 513−563.

Kamohara, T. 1935. On a new fish of the Zeidae from Kochi, Japan. Dobutsugaku Zasshi, 47: 245−247.

Lowe, R. T. 1843. Notices of fishes newly observed or discovered in Madeira during the years 1840, 1841, and 1842. Proc. Zool. Soc. Lond., 1843: 81–95.

水町海斗・中山 透・手良村知功・遠藤広光.2022.日本初記録のイッテンカゴマトウダイ(新称)Cyttopsis cypho(マトウダイ目ベニマトウダイ科)とカゴマトウダイC. roseaとの形態比較.魚類学雑誌.J-STAGE 早期公開版.DOI: 10.11369/jji.21-027(2022年2月8日出版).

Mok, H. K. 1993. Zeiformes. Pages 219−220 in S.-C. Shen, ed. Fishes of Taiwan. Department of Zoology, National Taiwan University, Taipei.

本村浩之.2020.日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.560 pp.

中坊徹次・甲斐嘉晃.2013. ベニマトウダイ科.中坊徹次(編),pp. 598, 1900.日本産魚類検索 全種の同定.第三版.東海大学出版会,秦野.

Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th edition. John Wiley & Sons, Hoboken, New Jersey. xli + 707 pp.

Paxton, J. R., D. F. Hoese, G. R. Allen and J. E. Hanley. 1989. Zoological catalogue of Australia. Volume 7. Pisces. Petromyzontidae to Carangidae. Australian Government Public Service, Canberra. xii + 665 pp.

Shao, K. T. 2021. The fish database of Taiwan. WWW Web electronic publication: http://fishdb.sinica.edu.tw.(参照2021-5-25)

Tyler, J. C., B. O'Toole and R. Winterbottom. 2003. Phylogeny of the genera and families of zeiform fishes, with comments on their relationships with tetraodontiforms and caproids. Smithson. Contrib. Zool., 618: 1–110.

写真標本:BSKU 95383,51.6 mm SL,48.1 mm SL',2008年3月12日,土佐湾,高知県高知市御畳瀬漁港(大手繰り網),盛漁丸,採集:中山直英

(水町海斗)


2022年1月の魚


テリエビス
Sargocentron ittodai (Jordan and Fowler, 1902)キンメダイ目イットウダイ科)

 イットウダイ科 (Holocentridae) は,三大洋の熱帯・亜熱帯域に生息し, 世界では2亜科8属約80種が, 日本では2亜科6属40種が知られています (Nelson et al., 2016; 小枝, 2018). 本科にはリンキクチス期 (rhynchichthys stage) と呼ばれる仔魚期があり,この時期には大きな頭部に鋸歯縁のある巨大な棘を備えた特徴的な形態であるため,他科の仔魚と容易に識別できます (小西・沖山, 2014; 小枝, 2018).本科6属のうち,イットウダイ属(Sargocentron)はフランス領ポリネシアのボラボラ島産のHolocentrum leo Cuvier, 1829をタイプ種として, Fowle (1904)により設立されました.本属は背鰭が11棘ですべてが強く,その基底が長い,前鰓蓋骨隅角部棘と臀鰭第3棘が強く発達するなどの特徴から他属魚類との識別は容易で,インド-西太平洋の熱帯から亜熱帯浅海域の岩礁や岩場に生息します(林,2013;Kotlyar, 2017).現在,本属は世界で34有効種,国内からは次の16種が確認されています:ハナエビス Sargocentron ensiferum Jordan and Evermann, 1903,トガリエビス S. spiniferum Forsskål, 1775,クラカケエビス S. caudimaculatum Rüppell, 1838,バラエビス S. dorsomaculatum Shimizu and Yamakawa, 1979,スミツキカノコS. melanospilos Bleeker, 1858,スミレエビス S. violaceum Bleeker, 1853,アヤメエビス S. rubrum Forsskål, 1775,クロオビエビス S. praslin Lacepède, 1802,アオスジエビス S. tiere Cuvier, 1829,ニジエビス S. diadema Lacepède, 1802,テリエビス S. ittodai Jordan and Fowler, 1902,イットウダイ S. spinosissimum Temminck and Schlegel, 1844,ヒメエビス S. microstoma Günther, 1859,サクラエビス S. tiereoides Bleeker, 1853,ホシエビスS.  punctatissimum Cuvier, 1829,そしてコガシラエビス S. iota Randall, 1998(Randall, 1998;林, 2013;Kotlyar, 2017;萩原・本村, 2018). これらの種のうち,テリエビス S. ittodai はタイプ産地が沖縄県那覇で,インド洋から西太平洋に広く分布し,側線上方横列鱗数が2.5,鼻骨後部に小棘がない,そして頬部鱗数が5などの特徴から同属他種と識別できます(Randall, 1998;林,2013). 本種は夜行性であり,当研究室では岩礁での夜釣りでおもに採集された標本がほとんどで,トカラ列島や沖縄列島産の標本も多数保管されています.イットウダイ科魚類は体が鮮やかな赤色で綺麗なため,かっこいいと個人的に思います.観賞魚としても販売されており,いつか飼育したいと考えています.

参考文献

萩原清司・本村浩之.2018.奄美群島加計呂麻島から採集された日本初記録のイットウダイ科魚類 Sargocentron iota コガシラエビス (新称).魚類学雑誌,66: 1–5. DOI: 10.11369/jji.18–035, 66: 1–5

林 公義.2013.イットウダイ科,中坊徹次 (編), pp. 579–591, 1897–1899.日本産魚類検索全種の同定 第3版.東海大学出版会,秦野.

小枝圭太. 2018. イットウダイ科. 中坊徹次 (編), pp. 176−177. 小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説. 小学館, 東京.

小枝圭太.2020.キンメダイ目イットウダイ科 Holocentrid,pp. 132–133.小枝圭太・畑 晴陵・山田守彦・本村浩之(編).大隈市場魚類図鑑.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.

小西芳信・沖山宗雄. 2014. イットウダイ科. 沖山宗雄 (編), pp. 484–488. 日本産稚魚図鑑. 第2版. 東海大学出版, 秦野.

Kotlyar, A. N. 2017. Holocentridae from Borodino submarine elevation (Philippine Sea). Journal of Ichthyology, 57: 37–44.

本村浩之. 2020. 日本産魚類全種目録. これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.鹿児島大学総合研究博物館, 鹿児島. 558pp.

Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.

Randall, J. E. 1998. Revision of the Indo-Pacific squirrelfishes (Beryciformes: Holocentridae: Holocentrinae) of the genus Sargocentron, with description of four new species. Indo-Pacific Fishes, 27: 1–105, pls. 1–11.

写真標本:BSKU 130139, 126 mm SL, 三重県南伊勢町, 2021年5月14日, 採集・写真撮影:井上裕太. *この標本は Srgocentron sp. 2として検討中です.

(佐藤優吉)


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