目的
現在多くの医療施設に導入されている医療情報システムには、日々の医療行為に伴う膨大な電子化医療データが蓄積されています。これらのデータは、直接の診療に使われるだけではなく、多数の症例の横断的な解析に基づく医学研究においても、「病態予測」、「治療評価」、「診断支援」、「稀な事象の検出」や、生活習慣病など長い時間をかけて進行する疾患の病態推移の理解や予測への応用などに活用されることが期待されています。
そうしたデータ活用のためには、病態をデータに基づいて理解するための医学的知識と、データと病態の関係を不確実性をも含めて定量的に記述するための数理統計学的な知識や情報科学の知識などを身につけ、それらを自在に駆使して医療データの解析に対応できる人材が必要です。
本学医学部では、我が国初の病院情報システムとして自主開発された総合医療情報システムに1981年以来蓄積されたデータが、個人情報を匿名化した上で教育・研究用にデータベース化されています。本コースでは、このデータを大学院教育に活かし、医学専攻の基礎医学、臨床医学、医療情報を専門とする教員の緊密な連携のもとに、電子化医療データの解析に対応できる能力を身につける教育を行います。こうした教育により育成された人材が、様々な医療機関における電子化医療データを活用した病態推移予測や疾患因子発見などを通じて、疾病に対する後追いの医療ではない予見性の医療の実現に貢献することや、医療の質向上へ貢献することを目指します。
このように「情報医療学」コースは、「単に医療における情報を扱うのではなく、情報を活用して新たな医療の地平を切り拓くことができる」人材を育成することを目的としています。
上記の目的を達成するために、医学部、歯学部、修業年限6年の薬学もしくは獣医学を履修する課程や医学系大学院修士課程出身者の他、理系の修士課程修了者、経済学系大学院の修士課程で計量経済学、医療経済学などを専攻し数学的基礎を身に付けた学生も対象に、「情報科学など理工系のバックグラウンドを医学・医療系のデータ解析による研究や応用に活かしたい学生」または「医歯学や薬学、生物学的分野、農学的分野などのバックグラウンドを基に、情報科学的な知識や手法を駆使して医学・医療系のデータ解析による研究や応用に活かしたい学生」といった、新しい興味の方向性を有する学生を募集し、入学後はそれぞれの学生のバックグラウンドの違いに応じたきめ細かな教育を行います。
目標とするのは、次のような人材の育成です。
- 豊かな人間性と高い倫理観を持ち、医学研究における倫理規範や法規範に基づく手順を遵守したデータ解析を行い、その結果によって社会に貢献できる人材を育成します。
- 広く豊かな学識と分野横断的な思考法を身につけ、高い研究能力によって大学や研究機関等で国際的に活躍できる人材や高度な専門職業人として医療機関、企業などで活躍できる柔軟な応用能力を有する人材を育成します。
- 研究の成果を医療に応用するという視点を持ち、トランスレーショナルリサーチを推進できる人材を育成します。