博物館トップ魚研トップ
新着情報研究メンバー標本採集卒修博論出版物土佐の魚 就職先 魚類学者 プロジェクトリンク
今月の魚 高知県の魚を毎月紹介します.過去の魚 リスト 20182017201520142013201220112010-20082007200620052004200320022001

2016年5月の魚



ウロコガレイLepidoblepharon ophthalmolepis Weber, 1913 (カレイ目コケビラメ科) *無眼側の写真

 カレイ目 (Pleuronectiformes)は世界で793種が知られ, 北極海南部から南極海に至るほぼ全世界の浅海から深海 (約2000mまで)および一部の淡水域に生息する肉食性底生魚類です (Munroe, 2005a; Eschmeyer and Fong, 2016). 本目は体が著しく扁平し, 背鰭と臀鰭の基底は長く, 成魚では両眼が頭部の片側に位置するなどの特徴をもちます (Munroe, 2005b; Nelson, 2006). 本目魚類は発生初期では浮遊生活を送り, 他の魚類と同様に体は左右相称ですが, 後期仔魚期 (体長5-120 mm, 通常10-25 mm)の間に片方の眼が頭部背面を経由して逆体側に移動し, 体が左右不相称に変化した後, 着底し, 底生生活を送ります (Brewster, 1987; Nelson, 2006). このように一生のほとんどが左右不相称の体であることから本目魚類は異体類 (Heterosomata)とも呼ばれています.

 コケビラメ科は右側眼 (dextral, 体の右側に両眼をもつ)と左側眼 (sinistral, 左側にもつ)の両方の種を含み, 一般的に科内で眼の位置が統一されているカレイ目の中では特異なグループです. 本科は腹鰭が1棘5軟条, 鰓膜は左右で分離する, 背鰭は頭蓋骨上前方に達する, 口蓋骨に歯を欠くなどにより特徴づけられ, これらはカレイ目の中で原始的な特徴をもつボウズガレイ科と他のカレイ目魚類の両方の特徴を兼ね備えていることから本科はボウズガレイ科と他のカレイ目魚類との間の移行群 (transitional group)と考えられています (Hubbs, 1945). 本科の単系統性や系統的位置は最近まで疑問視されており, 多くの研究者により議論されています (Munroe, 2005b; Nelson, 2006). Hubbs (1945)はカレイ目の58属99種の内部形態を観察し, 右側眼のBrachypleurinae, 左側眼のCitharinaeの2亜科を, 前者にBrachypleura Günther, 1862, ウロコガレイ属Lepidoblepharon Weber, 1913, 後者にCitharus Artedi, 1793, コケビラメ属 Citharoides Hubbs, 1915, Paracitharus Regan, 1920を含めた本科を提唱しました. しかし, Hensley and Ahlstrom (1984)や Chapleau (1993)はカレイ目の形態形質 (主に骨格系)に基づいた系統解析を行い, 本科は単系統群ではないという結果を示しました. 一方, Hoshino (2001)はカレイ目39属49種の骨格系, 筋肉系, 外部形質の形態形質に基づいた系統解析を行った結果, 本科が上記5属から構成される単系統群であることを示しましたが, Hubbs (1945)の提唱した2亜科については単系統性が認められず, 無効としました. 最近のカレイ目の分子系統解析では,Hubbs (1945)とHoshino (2001)と同様, 本科の単系統性が認められています (例えば, Betancur-R and Orti, 2014; Campbell et al., 2014).
Weber (1913)はアラフラ海, カイ諸島付近の水深310mで採集された1標本に基づき, ウロコガレイを新種記載し, さらに本種をタイプ種としてウロコガレイ属を設立しました. ウロコガレイは駿河湾, 土佐湾, 山陰沖, 東シナ海大陸斜面上部域, 台湾, アラフラ海の水深315-500mに出現します (Hensley, 2001; 中坊・土居内, 2013). 本種は右側眼であること, 背鰭, 臀鰭基底後端に明瞭な黒色斑がないこと, 両眼, 両眼間隔, 吻, 両顎に鱗があること, 尾鰭分枝軟条が15本であることなどによって同科他種と識別できます (Hensley, 2001). 

 写真個体は高知市御畳瀬漁港の大手繰り網漁で水揚げされたものです. 御畳瀬漁港では本種は同科のコケビラメに比べあまり見かけません. 山田ほか (2007)によると本種は”肉質はやや柔らかいが, シタビラメ類に近い味で美味”だそうです. 一度は食べてみたいですが, 私は料理ができないため,まずそこから始めなければなりません.

参考文献

Betancur-R., R. and G. Orti. 2014. Molecular evidence for the monophyly of flatfishes (Carangi- morpharia: Pleuronectiformes). Mol. Phylogent. Evol., 73: 18-22.
Brewster, B. 1987. Eye migration and cranial development during flatfish metamorphosis: a reappraisal (Teleostei: Pleuronectiformes). J. Fish Biol., 31: 805-833.
Campbell, M. A., J. A. Lopez, T. P. Satoh, W. J. Chen and M. Miya. 2014. Mitochondrial genomic investigation of flatfish monophyly. Gene, 551: 176-182.
Chapleau, F. 1993. Pleuronectiform relationships: A cladistic reassessment. Bull. Mar. Sci., 52: 516-540.
Eschmeyer, W. N. and J. D. Fong, 2016. Species by Family/Subfamily. Online version,updated 2 May 2016: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/SpeciesByFamily.asp. (参照 2016-5-17).
Hubbs, C. L. 1945. Phylogenetic position of the Citharidae, a family of flatfishes. Misc. Publ. Mus. Zool. Univ. Mich., 63: 1-38.
Hensley, D. A. 2001. Citharidae. Pages 3794-3798 in K. E. Carpenter and V. H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western Central Pacific. Vol. 6. Bony fishes part 4 (Labridae to Latimeriidae). FAO, Rome.
Hensley, D. A. and E. H. Ahlstrom. 1984. Pleuronectiformes: relationships. Pages 670-687 in H. G. Moser, W. J. Richards, D. M. Cohen, M. P. Fahay, A. W. Kendall Jr. and S. L. Richardson, eds. Ontogeny and systematics of fishes. Am. Soc. Herpetol., Spec. Publ. (1).
Hoshino, K. 2001. Monophyly of the Citharidae (Pleuronectoidei: Pleuronectiformes: Teleostei) with considerations of pleuronectoid phylogeny. Ichthyol. Res., 48: 391-405.
Munroe, T. A. 2005a. Distributions and biogeography. Pages 42-67 in R. N. Gibson, ed. Flatfishes: Biology and Exploitation. Blackwell Science, Oxford.
Munroe, T. A. 2005b. Systematic diversity of the Pleuronectiformes. Pages 10-41 in R. N. Gibson, ed. Flatfishes: Biology and Exploitation. Blackwell Science, Oxford.
中坊徹次・土居内龍. 2013. コケビラメ科. 中坊徹次 (編), pp.1658, 2226. 日本産魚類検索全種の同定. 第3版. 東海大学出版会, 秦野.
Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world. 4th editon. Wiley, Hoboken. 601pp.
Weber, M. 1913. Die Fische der Siboga-Expedition. Leiden. xii+710 pp, pls. 1-12.
山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次. 2007. 東シナ海・黄海の魚類誌. 東海大学出版会, 東京. lxxiii+1263pp.

写真標本: BSKU 117736, 217.3 mm SL,2015年4月23日,高知市御畳瀬魚市場(大手繰り網).採集・写真撮影: 内藤大河.

(内藤大河)


2016年4月の魚



オオソコアマダイ Owstonia kamoharai Endo, Liao and Matsuura, 2015 (スズキ目アカタチ科)

 アカタチ科
(Cepolidae)は,アカタチ亜科(Cepolinae)の2属7種とソコアマダイ亜科(Owstoniinae)の2属15種に分類されます(Nelson, 2006; Liao et al., 2009; Endo et al., 2015).本科魚類の体は一様に赤色で,アカタチ亜科では体が帯状に伸長し,背鰭と臀鰭が小さな尾鰭と連続します.一方,ソコアマダイ亜科では前者に比べると体がやや太短く,背鰭と臀鰭が発達した尾鰭と離れていることで容易に識別できます.2005年12月の今月の魚で紹介したソコアマダイ亜科のアカタチモドキ Pseudocepola taeniosoma Kamohara, 1935 は蒲原稔治博士により,ソコアマダイ Owstonia totomiensis Tanaka, 1908は田中茂穂博士により,それぞれ新属新種として記載されました.また,蒲原博士はオキアマダイ Owstonia tosaensis Kamohara, 1934とソコアマダイモドキ Owstonia japonica Kamohara, 1935(O. grammodon Fowler, 1934とは異なる有効種と判明)も記載しており,高知生まれの2人の魚類分類学者と縁の深いグループです.

 オオソコアマダイは全長55cmを超えるソコアマダイ亜科の大型種です.本研究室の1985年度卒業論文で,杉江誠司氏が初めて未記載種として認識しました(卒論題目:アカタチ科およびアゴアマダイ科魚類の系統分類学的研究.1986年3月提出).杉江氏が卒業研究を行っていた1985年には,高知市の御畳瀬漁港でソコアマダイ属がよく水揚げされ,本種のホロタイプ(NSMT-P 109686, BSKU 42458を移管,標準体長 392 mm, 全長 538 mm), と2つのパラタイプ(BSKU 41466, 402 mm, 557 mm;BSKU 42457, 375 mm,517 mm)も大手繰り網のシーズン中である4月と11月に高知沖の水深200–300mで漁獲されました.その後,2000年頃に東京大学大学院の今井謙介氏(現,大分マリーンパレス水族館「うみたまご」,当時,国立科学博物館の松浦啓一博士が研究指導)が研究し,さらに台湾の若手研究者のYun-Chih Liao博士も2009年に本研究室を訪れた際にこれらの標本を調査しました.しかし,なかなか論文完成には至らず,ようやく昨年に私が筆頭著者として学名を蒲原博士に献名し,新種記載できました.アカタチ科については,米国人の著名な魚類学者である W. F. Smith-Vaniz博士とG. D. Johnson博士が分類学的再検討を扱った大著をまもなく出版予定で,かなり多くの新種が記載されると聞いています.

 本種の論文は昨年4月18日付で日本魚類学会の英文紙 Ichthyological Research のオンライン版として,今年の1月に冊子体として出版されました.現在では新種の学名を前もって Zoobankへ登録して番号を取得し,国際動物命名規約の条件をすべて満たしていれば,オンラインで出版された学名も有効となります.


参考文献

Endo, H., Y.-C. Liao and K. Matsuura.2015.Owstonia kamoharai (Perciformes: Cepolidae), a new bandfish from Japan.Ichthyol. Res., 63: 31-38 (2016). DOI 10.1007/s10228-015-0468-5

Liao, Y.-C., R. B.Reyers, Jr. and K.-T. Shao. 2009. A new bandfish, Owstonia sarmiento (Pisces: Perciformes: Cepolidae: Owstoniidae), from the Philippines with a key to species of the genus. Raffles Bull. Zool., 57(2): 521-525.

中坊徹次・土居内龍.2013.アカタチ科.中坊徹次 (編), pp. 1023-1024, 2030-2031. 日本産魚類検索 全種の同定. 第三版. 東海大学出版会, 秦野.

Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world, 4th ed. Wiley and Sons Inc., Hoboken. 601pp.


写真標本: BSKU 42457, 375 mm SL, 557 mm TL, パラタイプ, 雌,1985年11月30日,高知市御畳瀬魚市場(大手繰り網),高知県東洋町甲浦(かんのうら)沖,水深 240m.

(遠藤広光)

Copyright (C) Laboratory of Marine Biology, Faculty of Science, Kochi University (BSKU)