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2010年10月

カエルアンコウモドキ Antennatus tuberosus (Cuvier, 1817)(アンコウ目カエルアンコウ科)

 本研究室の毎年7月の恒例行事となっている宿毛市沖ノ島の調査では,これまでに高知県初記録種のシマウミヘビや未記載種であるホタテツノハゼ,またダイバーに人気のあるチンアナゴなど多くの南方系魚類が採集されています.2008年の調査では,高知県初記録のカエルアンコウ科カエルアンコウモドキが採集されました.

 カエルアンコウモドキはインド-太平洋域から広く知られていますが,国内では,伊豆半島大瀬崎および奄美大島,伊江島,宮古諸島,石垣島でのみで記録されている珍しい種です(瀬能, 1993).本種は水深10m以浅のサンゴ礁域に生息しますが,水深73mからの記録もあります(Pietsch & Grobecker,1987).

 今回採集した写真の標本は,姫島の水深5mの岩礁域に発達した造礁サンゴ群落で採集しました.魚を探すためにサンゴ類の隙間を見ていたところ,サンゴの上に丸っこいものが乗っていることに気づき,じっと観察した後カエルアンコウ科の種だと分かりました.採集はエビタモを被せるだけだったのですが,見た目に似合わずかなり暴れました.

 本種の特徴は,尾鰭軟条数が 9,吻上棘の長さは背鰭第 2 棘の1.5〜2.0倍で先端は尖り,擬餌状体がない,臀鰭の後端が尾柄部と鰭膜で連続するなどの点で同属の他種から区別できます(瀬能, 1993).しかし,本種が日本初記録として紹介された際には,体表の小棘の先端が 2 叉せずに丸く膨らみ,棘というよりは突起状であること,尾鰭は上下両端の鰭条が不分枝であることの 2 点が原記載と一致せず,今後検討を要するとされました(瀬能ほか,1994).本標本も尾鰭の上下両端の鰭条が不分枝であり,瀬能ほか(1994)の記載に一致します.日本産のカエルアンコウモドキは,今後分類学的に検討を行う必要があるでしょう.

参考文献

Pietsch, T. W. & D. B. Grobecker. 1987. Frogfishes of the world: Systematics, zoogeography, and behavioral ecology. Stanford Univ. Press, Stanford, California, xxii+420 pp., 56 pls

瀬能 宏.1993.イザリウオ科.中坊徹次編.日本産魚類検索:全種同定.東海大学出版会,東京,pp. 388-391,1279-1280.

瀬能 宏・林 公義・横山 貞夫.1994.奄美大島で採集された日本初記録のイザリウオモドキ(新称).I.O.P DIVING NEWS 伊豆海洋公園通信, 5(12): 2-3.


標本写真データ

NSMT-P90805,39 mm SL,2008年7月23日,高知県宿毛市姫島,水深 5 m,採集者:山村将士,写真撮影:遠藤広光

(山村将士)

 

2009年10月
ハワイトラギス Parapercis schauinslandi (Steindachner, 1900) (スズキ目トラギス科)
 トラギス科(Pinguipedidae)は南アメリカからアフリカまでのインド-西太平洋の沿岸に広く分布する魚類で,5属約54種が含まれます(Nelson, 2006).そのうちトラギス属(Parapercis)では近年,Randall博士らなどにより,次々と新種が報告されています.
 本属魚類は体が円筒形で,背鰭と臀鰭の基底は長く,腹鰭は胸鰭の直下かわずか前方に位置するなどの特徴をもちます.体長は約 10 cm 程度の小型種から30 cm ほどになる種もいます.多くの種が底性で,一夫多妻のハレムを作って繁殖を行います.そのため,雌雄で体色や斑紋,鰭の形状に違いがみられる種も含まれます.本属魚類は10 m 程度の浅海から水深 200 m付近の大陸棚にかけて分布します.警戒心が強く,一定の距離以上近づけさせてくれません.しかし,岩の上などにとまって,周りの様子を伺って眼をキョロキョロと動かすかわいらしい仕草を見せるため,ダイバーの被写体になることも少なくありません.高知県では練り物の一部にされますが,瀬戸内などでは天ぷらなどの食用にされることもあります.
 ハワイトラギス Parapercis schauinslandi (Steindachner1900) は,ハワイのオアフ島から採集された標本に基づいて記載されました.本属の中では比較的小型で,体長約13 cm程度にしかなりません.本種を採集したのは,高知県の西部に位置する沖ノ島で,潮通し良い水深約 20 mの砂礫質の海底で,雌雄と思われる2個体を採集しました.大きな個体では写真のように尾鰭の上下が長く延びますが,小さな個体では延びません.背鰭前方が赤色に縁取られた黒色で,鰭膜の前方からにかけて黒色斑点が並ぶことが特徴です.体色は白く,鮮やかな赤い横帯や斑紋があることで,同属のサンゴトラギスに類似しますが,体の横帯が幅広く,頬に赤いラインがあることなどで容易に識別することができます.また周辺に生息する本属他種より動きが素早く,警戒心が強い傾向がありました.本種は約 10 m170 m(主な生息域は20 m 以深)に生息し,和名の由来であるハワイ諸島をはじめ,アフリカ東岸,日本,グレートバリアリーフ,ニューカレドニアなどインド-西太平洋に広く分布するとされています(Randall, 2005).
 近年,インド-太平洋に広く分布する浅海性魚類では,よく似たいくつかの別種が,ある1つの種の変異としてまとめられていたという例が少なくありません.そうしたグループは現在,より詳細な分類学的研究が進められています.例えば,同属のオグロトラギスについても分類学的な見直しがおこなわれ,インド-西太平洋に広く分布するとされたオグロトラギスにはよく似た4種が含まれていることが明らかとなり,日本産のオグロトラギスは未記載種として新種記載されました(Imamura and Yoshino, 2007).本種も写真の記録に基づくと,斑紋のつながり方に違いが見られます(たとえば篠原,1997Hoover, 2008).こうした違いは成長段階,雌雄の差や地域による種内変異かもしれませんし,複数の種が含まれているかもしれません.例えばの話ですが,もしも日本のハワイトラギスとしているものとハワイのものが別種であるとなった場合,ハワイで採集された標本が原記載で用いられているので,和名「ハワイトラギス」とされたものはハワイにいない!?といったことも起こりうるかもしれません.
 また,本科魚類は,本研究室の教授であった蒲原稔治博士が新属や新種を記載していたこともあり,いくつかの種には,高知県の人や地名にちなんだ名前がつけられています.高知県の御畳瀬漁港で採集された標本をもとに記載され,高知県にちなんでつけられた Kochichthys 属(和名:キスジトラギス属),蒲原博士によって記載され,採集者であった岡村收博士(本研究室の前教授で,採集した当時は本研究室の学生であった)に献名された Parapercis okamurai(和名:ソコトラギス),蒲原稔治博士に献名された Parapercis kamoharai(和名:カモハラトラギス)などが含まれます.また,御畳瀬漁港で採集された標本に基づいて記載されたスジトラギスは,現在,別の種の新参シノニムとみなされて学名の変更がなされましたが,記載された当初は蒲原博士により御畳瀬漁港に由来する種小名 mimaseana が与えられていました(Kamohara, 1960, 1961).このように,本科魚類は高知県にとても縁の深いグループでもあります.

参考文献
Hoover, J. 2008. The ultimate guide to Hawaiian reef fishes. Mutual Publishing, Honolulu. Xii+388 pp.
Imamura, H. and T. Yoshino, 2007. Three new species of the genus Parapercis from the western Pacific, with redescription of Parapercis hexophthalma (Perciformes: Pinguipedidae). Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, Suppl. 1: 81-100.
Kamohara, T. 1960. A revised of the fishes of the family Parapercidae found in the waters of Japan. Rep. Usa mar. Biol. Stn, 7 (2):1-14.
Kamohara, T. 1961. Additional records of marine fishes from Kochi prefecture Japan, including one new genus of the parapercid. Rep. Usa mar. Biol. Stn, 8 (1):1-8.
Nakabo, T. 2002. Pinguipedidae. Pages 1059-1064 1595-1596. in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English ed. Tokai University Press, Tokyo.
Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world, 4th ed. Wiley, New York. 601pp.
Randall, J. E. 2005. Reef and shore fishes of the South Pacific. Univ. Hawaii Press, Honolulu. Ix+map+707 pp.
篠原直哉. 1997. トラギス科. Pages 549-553 in 岡村 収・尼岡邦夫, . 日本の海水魚. 山と渓谷社, 東京.

BSKU 100000, 54.2 mm SL, 2009925, 高知県沖の島, 水深18 m,採集:片山英里,写真撮影:中山直英

(片山英里)

2009年4月
コクテンニセヘビギンポ 
Norfolkia brachylepis Schultz, 1960(スズキ目ヘビギンポ科)
 ヘビギンポ科は3つの背鰭をもつ小型の沿岸性魚類で,世界の熱帯から亜熱帯域を中心に約23150種あまりが知られています (Nelson, 2006).日本周辺からは5属22種が記録されています.多くの種は岩礁やサンゴ礁の潮間帯の潮だまりから潮下帯に生息し,体長は5 cm 前後ですが,最大で25 cmを超える種もいます.また,本科の多くの種では,雌雄の体色と斑紋が異なり,雄は繁殖期に顕著な婚姻色を見せます.
 ニセヘビギンポ属(Norfolkia Fowler, 1953)は,世界で4種が知られ,日本からはニセヘビギンポ (N. thomasi) とコクテンニセヘビギンポの2種が報告されています.また,本属では婚姻色による雌雄差は確認されていません.本種は長らくTrypterygion属(以前のヒメギンポ属)に含められていました(例えば,林,1993).しかし,その後Norfolkia 属へと移され(Holleman, 1991; Fricke, 1994; Shen, 1994),日本初記録として報告された時に,ニセヘビギンポ属の和名が提唱されました(林,1995).本種は小笠原諸島父島,母島・奄美大島・加計呂麻島・高知県室戸岬・台湾膨湖島・西オーストラリア・ニューカレドニア・ローヤルティー諸島・フィジー諸島・マーシャル諸島・紅海・南アフリカに分布しています.

参考文献

Fricke, R. 1994.Trypterygiid fishes of Austria, New Zealand and the Southwest Paciffic Ocean, with description of 2 new genera and 16 new species (Teleostei).
Koeltz Scientific Books, Koenigstein, Germany. Ix+585pp.
Fricke, R. 1997. Trypterygiid fishes of the western and central Pacific, with description of 15 new species, including an annotated checklist of world Tripterygiidae (Teleostei). Ix+607pp.
公義.1995小笠原諸島と奄美大島海域から採集された日本初記録のニセヘビギンポ属 Norfolkia(ヘビギンポ科)魚類.Sci. Rept. Yokosuka Ctiy Mus.,43):3340
Holleman, W. 1991. A revision of the tripterygiid fish gnus Norfolkia Fowler, 1953 (Perciformes: Blennioidei). Ann. Cape Prov. Mus. (Nat. Hist.), 18(part 11): 173-181.
Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York. 456pp.
Shen, S-C. 1994. A revison of the tripterygiid fishes from coastal waters of Taiwan with descriptions of two new genera and five new species. Acta Zool. Taiwanica.,5 (2):1-31.
下條敦夫・林 公義.2000日本産ヘビギンポ科魚類の7未記録種.Sci. Rept. Yokosuka City Mus., 47):3958

写真標本データ

BSKU 92408, 28.5 mm SL, 2007年11月22日, 高知県室戸市室戸岬, 採集&写真撮影:山村 将士

(川原亜里沙)


2008年7月〜2009年3月 建物改修のため中断!


2008年6月
オキゲンコ Cynoglossus ochiaii Yokogawa, Endo et Sakaji, 2008(カレイ目ウシノシタ科)

 ウシノシタ科魚類は,いわゆる“シタビラメ”の仲間で,眼が体の左側に位置し,胸鰭がない,背鰭と臀鰭の後端が鰭膜で尾鰭とつながるなどの特徴をもちます.本科は口が頭部の先端に開くアズマガレイ亜科(1属約80種を含む)と吻(鼻先)がカギ形に曲がり,口が頭部の下方へ開くウシノシタ亜科に分類されています.これら2科のうち,ウシノシタ亜科は約50種を含むイヌノシタ属(Cynoglossus)と5種を含むタイワンシタビラメ属(Paraplagsia)からなります(Nelson, 2006).
 イヌノシタ属のオキゲンコは,これまでゲンコ (C. interruptus)と混同され(Ochiai, 1963; Menon, 1977; Yamada, 2002),近年ゲンコの有眼側の側線数には2側線と3側線の個体変異があるとされていました.しかし,その後両タイプは遺伝的にも明らかに異なることが判明し(Yokogawa et al., 2008a),Gunther (1880)の原記載を調べたところ,2本の側線をもつ方がゲンコで,背側の側線は前方の3分の1程度で途切れ,臀鰭の上方に位置する腹側の側線がありません.一方,オキゲンコは3本の明瞭な側線もち,背鰭と臀鰭付近を走る側線はそれぞれ尾鰭付近まで達します.また,オキゲンコはゲンコに比べ体全体や垂直鰭が褐色,側線間の鱗数,側線孔状に黒褐色の皮弁をもつなどに違いが見られます.さらに,オキゲンコは最大でおよそ全長20 cm になりますが,ゲンコはそれよりも小さく全長16 cm 程度です.オキゲンコは今年3月に日本の新種記載プロジェクト第2弾 (New fishes of Japan: part 2 国立科学博物館研究報告の特別号)の中で新種として記載されました(Yokogawa et al., 2008b).本種の学名は高知大学名誉教授で日本産のウシノシタ科の分類学的再検討を行った落合明博士に献命されたものです.また,標準和名のオキゲンコは生息水深帯がゲンコよりもやや沖合(水深50-220 m)であることに因みます.土佐湾では,オキゲンコは水深80〜100 m付近に,ゲンコはやや浅い水深20〜50 m に多く分布しています.

参考文献
Menon, A. G. K. 1977. A systematic monograph of the tongue soles of the genus Cynoglossus Hamilton-Buchanan (Piscess: Cynoglossidae). Smithon. Contr. Zool., (238): i-iv+1-129, pls. 1-21.
Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York. 456pp.
Ochiai A. 1963. Fauna Japonica: Soleina (Pisces). Biogeographical Society of Japan, Tokyo. 115pp, 24pls.
Yamada, U. 2002. Cynoglossidae. Pages 1388~1392, 1630 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species (English edn.). Tokai University Press, Tokyo.
Yokogawa, K., H. Sakaji, H. Endo and A. Yamaguchi. 2008a. Genetic divergence between two forms of a tongue sole Cynoglossus interruptus. Ichthyol. Res., 55: 78-81.
Yokogawa, K., H. Endo and H. Sakaji. 2008b. Cynoglossus ochiaii, a new tongue sole from Japan (Pleuronectiformes: Cynoglossidae). Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, Suppl. 2.: 115-127.

写真標本データ
BSKU 85665, 148 mm SL, 1998年9月7日,土佐湾中央部,水深97-99 m,中央水産研究所調査船こたか丸,写真撮影:遠藤広光

(遠藤広光)


2008年5月
ヒメヒイラギ Equulites elongatus (Gunther, 1874)(スズキ目ヒイラギ科)
 ヒイラギ科魚類はインドミ西太平洋に広く分布し,世界で3属約30種が知られています.そのうち日本には13種が分布し,高知県ではニロギと呼ばれ,おもに食用とされています.
 ヒイラギ科はこれまで,コバンヒイラギ属Gazza,ヒイラギ属Leiognothus [木村ほか(2008)に従い,以降,旧ヒイラギ属とする],ウケグチヒイラギ属Secutor の3属からなるとされていました(Nelson, 2006).このうちコバンヒイラギ属とウケグチヒイラギ属の分類学的整理はほぼ終了しています.しかし,旧ヒイラギ属は多数の種や,形態的な類似種群を含んでいるため,分類学的な整理が進められています (Kimura et al., 2003, 2005, 2008).本属は研究者によって属の認識が異なり,Fowler (1904, 1918) は旧ヒイラギ属内に3亜属を設立しました.その後,この3亜属を独立の属として認める研究者もいましたが,有効属として認められず,近年まで上記3属のみとされていました(木村ほか,2008).
 最近の分類学的研究の結果,旧ヒイラギ属Leiognathus は5属に分けられ (木村ほか,2008),ヒイラギ科は7属となりました.また,Kimura et al. (2008) はNuchequula の再検討を行い,属の和名の由来であるヒイラギ Leiognathus nuchalisがこの属ではなくNuchequula に含まれるとしました.そのため,ヒイラギの学名はNuchequula nuchalis となりました.つまり,ヒイラギはヒイラギ属には含まれず,別の属に含まれることになってしまいました.その混乱を避けるため,木村ほか(2008)は日本産種を含む4属の新和名を提唱し,ヒイラギ属を新定義しました(日本産のヒイラギ科各属の標準和名を参照).もともと,ヒイラギやヒメヒイラギが含まれていたLeiognathus はセイタカヒイラギ属と命名されました.
 また,これまでに出版された図鑑などでは,ヒメヒイラギの学名はLeiognathus elongates とされています.本種は旧ヒイラギ属Leiognathusに含められていましたが,こうした見直しによってヒメヒイラギはイトヒキヒイラギ属Equulitesとされ,学名はEquulites elongatesとなりますこのように,よく知られる一般的な魚でも,分類学的な見直しをすることによって,学名の変更や命名が行われることがあります.

参考文献
Kimura, S., P.V. Dunlap, T. Peristiwady and C.R. Lavilla-Pitogo. 2003. The Leiognathus aureus complex (Perciformes: Leiognathidae) with the description of a new species. Ichthyol. Res. 50:221-231.
Kimura, S., T. Ito, T. Peristiwady, Y. Iwatsuki, T. Yoshino and P.V. Dunlap. 2005. The Leiognathus splendens complex (Perciformes: Leiognathidae) with the description of a new species, Leiognathus kupanensis Kimura and Peristiwady. Ichthyol. Res. 52:275-291.
Kimura, S., H. Motomura and Y. Iwatsuki. 2008. Equulites Fowler 1904, a senior synonym of Photoplagios Sparks, Dunlap, and Smith 2005 (Perciformes: Leiognathidae). Ichthyol. Res., 53: 204-205.
木村清志・木村良子・池島 耕・本村浩之・岩槻幸雄・吉野哲夫.2008.ヒイラギ科魚類各属の標準和名.魚類学雑誌,55(1): 62-63.
Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York. 456pp.

写真標本データ
BSKU 93455, 50 mm SL, 2008年1月15日,土佐湾中央部,水深約 200 m,中央水産研究所調査船こたか丸,採集・写真撮影:中山直英

(片山英里)


2008年4月
スジモヨウフグ Arothron manilensis (Marion de Proce, 1822)(フグ目フグ科)
 フグ目フグ科は世界で約130種,日本では51種が確認され,多彩な本目において日本で最も多く見られる科です(Nakabo,2000; Nelson,2006).熱帯地方や亜熱帯地方,大西洋からインド洋,太平洋と世界中の海や汽水域,淡水域に分布します.またフグ科の魚類は,体長が最大で90cmになるものから10cmに達しないものまでと大きさもさまざまです.
 スジモヨウフグはモヨウフグ属の,体長が最大で45cmになる中型の魚です.西部太平洋域と分布は広く,特に水深30m以浅で砂泥底である場所を好み,河口部などの汽水域にも生息しています.とりわけ土佐湾沿岸では河口でよく見られます.この種の特徴として体は全体的に黒っぽく,頭部から尾鰭の付け根にかけて,一番の特徴である褐色縦線が多数走ります.目の直前にある鼻腔の皮弁は二つに分かれ,大きくよく目立ちます.
 また,フグのイラストはおちょぼ口で描かれることが多いですが,その口の中には歯が癒合した歯板と呼ばれるものが,上顎と下顎にそれぞれ二枚ずつあります.顎を突出させることができないので,この二枚の歯板で,おちょぼ口からは想像できないような音をたてながら,餌を少しずつ噛みちぎって摂食を行います.
 食用として有名なトラフグに比べると,丸く愛らしい体型をしており,そのせいか日本の海で採集できる海水産のフグとして,ペット雑誌でも取り上げられることがあります.元来フグは飼育する場合,気性が荒いため混泳には向かないと言われます.しかし,このスジモヨウフグはフグの中でも比較的おとなしい種のために,特にその他フグ目魚類との同居には向かないものと思われます.と言うのも,他のサザナミフグやクサフグなどにいじめられる姿が,当研究室でも多数目撃されているからです.また暖かい海を好むため,水槽の水温が低いと元気がなくなるというように,意外と繊細な一面も持つ可愛らしいフグです.飼育していて大きく成長し,自宅で飼育できなくなったときは,元々いた海に戻してあげてください.

参考文献
Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York. 456pp.
中坊徹次.2000.フグ科.Page 103,1418-1431, 1641 in 中坊徹次編.日本産魚類検索全種の同定,第2版.東海大学出版,東京.
松浦啓一.1997.スジモヨウフグ,フグ科. 岡村 収・尼岡邦夫(編),pp. 706-707,日本の海水魚,山と渓谷社,東京.

写真標本データ
BSKU 88935, 55.3 mm SL, 2006年11月10日,高知県蛎瀬川,採集・写真撮影:伊佐正樹

(太田真由加)



2008年3月
キスジタマガシラ Parascolopsis tosensis (Kamohara, 1938) (スズキ目イトヨリダイ科)
 キスジタマガシラは体は桃色で、体側に2本の黄色の縦帯があること(固定標本では、眼下骨後縁の棘は微小で、その最上棘もほとんど発達しないこと、前鰓骨は鱗で被われること)によって、容易に他種と識別できるきれいな魚です。高知市御畳瀬漁港の沖合底引き漁で得られた10cmほどの標本に基づき、蒲原稔治博士によって土佐に因んだ学名が付けられ、ヨコシマタマガシラ属Scolopsisの1新種として発表されました。本種をどの属に入れるかは研究者によって違いが見られ、藍澤(2000)はタマガシラ属Parascolopsisとし、山田ら(2007)はヨコシマタマガシラ属Scolopsisとしています。ここでは世界のイトヨリダイ科について研究を行ったRussell(1990)に従いました。
 本種は小型の種のようで標準体長で10cmを越えるものは稀で、5〜8cmのものが、水深150〜200m付近から漁獲されています。土佐湾ではかなり稀な種類で、高知大学に保管されている標本は40個体ほどですが、東シナ海では調査船1網平均1〜10個体が得られており(山田ら, 2007)、稀種というほどではないようです。
 三重県・高知県・島根県浜田沖・男女群島・長崎県五島・東シナ海・台湾を経てフィリピン・インドネシアに分布しています(Kamaohara, 1958; Russell, 1990; 山田ら, 2007)。  底曳き網で漁獲されますが、小型の上に量的に少ないため、水産資源としては問題にならず、練り製品の原料などにされています。

参考文献

藍澤正宏.2000.イトヨリダイ科.Page 847-855 in 中坊徹次編.日本産魚類検索全種の同定,第2版.東海大学出版,東京.
Kamohara, T. 1938. On the offshore bottom fishes of Prov. Tosa, Shikoku, Japan. 86 pp. Maruzen Co.,Tokyo.
Kamohara, T. 1958. A catalogue of fishes of Kochi Prefecture (Province Tosa), Japan. Rep. Usa Mar. Biol. Stn. 5(1): 1-76.
Russell, B. C. 1990. FAO species catalogue. Vol. 12. Nempipterid fishes of the world. FAO fisheries Synopsis, 125(12). v+149pp.
山田梅芳.1986.キスジタマガシラ.Page 229.in 山田梅芳・ 田川 勝・岸田周三・本城康至.東シナ海・黄海のさかな.西海水研,長崎.
山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次.2007.東シナ海・黄海の魚類誌.lxxiii+1263pp.東海大学出版会,東京.
山川 武.1985.キスジタマガシラ.Page 511.岡村 収編.沖縄舟状海盆及び周辺海域の魚類.日本水産資源保護協会,東京.

写真標本データ
BSKU 95361,93 mm SL,2008年3月13日,御畳瀬大手操(幸成丸),採集・写真撮影:中山直英

(山川 武)



2008年2月
ハナフエダイ Pristipomoides argyrogrammicus (Valenciennes, 1832)(スズキ目フエダイ科)
 今月22日,高知市御畳瀬の大手操でフエダイ科のハナフエダイが1個体採集されました.ハナフエダイは高知県では非常に珍しく,本標本は1992年に御畳瀬で採集された1個体(BSKU 80661:所在不明)以来,実に16年ぶりの高知からの記録となります.本種は水深30〜350mの岩礁に生息し,西部太平洋の広範な海域とインド洋のモーリシャス諸島周辺に分布します(Allen, 1985;Anderson and Allen, 2001).日本周辺は本種の分布の北限となっており,琉球列島と伊豆諸島を中心に南日本の太平洋側から報告があります(Shimada, 2002).
 ハナフエダイの特徴は,なんといってもその美しい体色です.体は全体的に桃色で,背側は黄色を呈し,背鰭基底には赤紫色の斑紋が3つあります.また,体側には青い小斑が不規則に並びます.背鰭と尾鰭は黄色で,腹鰭,胸鰭,臀鰭は薄桃色を帯び,胸鰭以外の鰭は白く縁取られます.桃色,黄色,そして青色が織りなす複雑な模様は,フエダイ科のなかでも特徴的であり,生時の体色が残っていれば種の同定は非常に簡単です.その他の形態学的特徴としては,側線鱗数が58〜66,第1鰓弓下枝の鰓耙数が8〜14(総鰓耙数が17〜21),標準体長が体高の2.8〜3.1倍などが挙げられ,これらの形質の組み合わせでも同属の他種から区別できます(Allen, 1985;Anderson and Allen, 2001).
 高知では珍しいハナフエダイも,沖縄では市場に出回るほど漁獲され,地域の水産資源として重要な位置を占めています(小菅, 2004).本種は沖縄ではフカヤービタロー(あるいは単にビタロー)と呼ばれ,おもに一本釣りで漁獲されます.私は食べたことがありませんが,フエダイの仲間ですからさぞかし美味しいことでしょう.蒲原(1955)によれば,「相当に美味である」そうです.また,阿部(1963)も「肉量も多く,相当美味の魚である」と絶賛しています.一度は食べてみたい魚です.

参考文献
阿部宗明. 1963. 原色魚類検索図鑑. 北隆館, 東京. i~v+1~358 pp.
Allen, G. R. 1985. FAO species catalogue. Vol. 6. Snappers of the world. An annotated and illustrated catalogue of lutjanid species known to date. FAO Fisheries Synopsis 125(6): i~vi+1~208 pp., pls. I~XXVII.
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Shimada, K. 2002. Lutjanidae. Pages 819~832 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species (English edn.). Tokai University Press, Tokyo.

写真標本データ
BSKU 94182, 195 mm SL, 2008年2月22日, 高知市御畳瀬大手操(盛漁丸),安芸沖, 採集・写真撮影:中山直英

(中山直英)


2008年1月
ヒメキチジ Plectrogenium nanum Gilbert, 1905 ("カサゴ目" フサカサゴ科ヒメキチジ亜科)
 ヒメキチジ属は標準体長が5〜6cmほどの小型のグループで,南日本沿岸とハワイ諸島周辺に分布するヒメキチジと,南東太平洋のナスカ海嶺から知られるPlectrogenium barsukovi Mandrytsa, 1992 の2種のみを含みます(Mondrytsa, 1992;石田,1997;Nelson, 2006).しかし,金山(1982)により報告された九州-パラオ海嶺産の Plectrogenium sp. は,未記載種の可能性が高いことが指摘されています(Mondrytsa, 1992).ヒメキチジはハワイ産の標本をもとに新属新種として記載され,沖合の水深250〜600mに生息します.高知では御畳瀬魚市場の大手繰り網(沖合底曳き)や水産研究所のこたか丸の底曳き網調査で稀に採集される程度です.土佐湾産のヒメキチジの写真の特徴とハワイ産の標本に基づくGilbert (1905)の原記載とタイプの図を見比べると,体型や斑紋,頭部の棘の発達程度など,どうも異なる気がします.この属も分類学的に再検討する必要があるようです.
 ヒメキチジは日本産魚類検索図鑑(中坊,2000;Nakabo, 2002)では“カサゴ目フサカサゴ科ヒメキチジ亜科 (Plectrogeniinae)”に分類されています.しかし,ヒメキチジ属の帰属に関しては,以前から研究者により様々な見解がありました. Imamura (1996) はコチ科とその周辺群の形態形質に基づく系統解析から,ヒメキチジ科(Family Plectrogeniidae)を設け,ヒメキチジ属とバラハイゴチ属(日本にはバラハイゴチBembradium roseumが分布)の2属のみを含めています.また,7科*を含むコチ亜目(Suborder Platycephaloidei)を単系統群と認め,分岐仮説の中では最初に枝分かれしたグループと推定しました.従来の“カサゴ目”が多系統群であることは,最近の形態形質とミトコンドリアDNAの塩基配列などの分子形質による系統解析の結果から,まず間違いないでしょう(篠原・今村,2005).しかし,まだそれぞれのグループの系統類縁関係や単系統性は統一した見解には至っておらず,さらに形態と分子の両面から研究を進める必要があるようです.Smith and Wheeler (2004)が提示した“カサゴ目”を含む棘鰭条目の分子系統仮説では,コチ亜目の単系統性は否定されています(篠原・今村,2005).その中で,ヒメキチジの姉妹群はアカゴチに,さらにその姉妹群はフサカサゴ科の一種とフエフキオコゼ科(日本には分布せず)の一種の単系統群となっています.これまでの研究結果から判断すると,個人的にはヒメキチジを独立の科として扱ってよいように思います.ヒメキチジやバラハイゴチ,ウバゴチは確かに外形がよく似ており,系統的に近いと言われると納得してしまいます.

*(ヒメキチジ科(ウバゴチ科(アカゴチ科(コチ科(ホウボウ科(キホウボウ科,ハリゴチ科))))))

参考文献
Gilbert, C. H. 1905. II. -The deep-sea fishes of the Hawaiian Islands. In: The aquatic resources of the Hawaiian Islands. Bull. U. S. Fish Comm., 23 (pt., 2) [for 1903]: 577-713, pls. 66-101.
Imamura, H. 1996. Phylogeny of the family Platycephalidae and related taxa (Pisces: Scorpaeniformes). Species Diversity, 1 (2): 123-233.
石田 実.1997.ヒメキチジ,ヒメキチジ科.Plectrogeniidae. 岡村 収・尼岡邦夫(編),pp. 220-221,日本の海水魚,山と渓谷社,東京.
金山 勉.1982.フサカサゴ科.Page 270-279 in 岡村 収・尼岡邦夫・三谷文夫編.九州-パラオ海嶺ならびに土佐湾の魚類.日本水産資源保護協会,東京.
Mandrytsa, A. 1992. New species and records of Phenacoscorpius and Plectrogenium in the Pacific, Atlantic, and Indian Oceans. Voprosy Ikhtiologii, 32(4): 10-17 (Journal of Ichthyology, 32(4): 100-109)
中坊徹次.2000.フサカサゴ科.Page 565-595, 1524-1528 in 中坊徹次編.日本産魚類検索全種の同定,第2版.東海大学出版,東京.
Nakabo, T. 2002. Scorpaenidae. Page 565-595, 1519-1522 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English ed. Tokai University Press, Tokyo.
Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York. 601pp.
篠原現人・今村 央.2005. “カサゴ目”魚類の系統学的研究ミミ1998年以降の新しい情報.タクサ,日本動物分類学会誌,18:20-29.
Snith, W. L. and W. C. Wheeler. 2004. Polyphyley of the mail-cheeked fishes (Teleostei: Scorpaeniformes): evidence from mitochondrial and nuclear sequence data. Molecular Phylognenetics and Evolution, 32: 627-646.

写真標本データ
BSKU 91994,65.7 mm SL,2007年11月1日,高知市御畳瀬大手操(盛漁丸),採集・写真撮影:中山直英

(遠藤広光)

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