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2021年12月の魚


ネコザメHeterodontus japonicus
Miklouho-Maclay and Macleay, 1884(ネコザメ目ネコザメ科)

 年明けからお送りしてきた『今月の魚:干支シリーズ』は,先月が最終回でした.干支の伝説では,12頭の動物が神様に挨拶した翌日に,ネズミに騙されたネコが遅れてやってきます.ネコは干支に入れず,それ以来ネズミを恨んで追い回すようになったのは有名な話ですよね.そこで伝説に倣って今月は,標準和名に「ネコ」を冠する魚を紹介しましょう.

 ネコザメ属 Heterodontusは,ネコザメ目 Heterodontiformesネコザメ科 Heterodontidaeに属し,1目1科1属です.ネコザメ属魚類は世界に9種が知られ,アラビア半島から南アフリカのインド洋側,日本からニュージーランドの西太平洋およびカリフォルニアからペルーの東太平洋に不連続分布し,各大陸や島嶼の水深 275 m以浅(多くは100 m以浅)の大陸棚域に生息します(Compagno et al., 2005; Nelson et al., 2016; 中坊,2018).本属は比較的小型であり,最大種はHeterodontus portusjacksoni (Meyer, 1793)の最大全長約1.6 mで,多くは全長1 m以下です(Nelson et al., 2016).夜行性・底生性で,砂地や岩場,藻場を這うように遊泳します(Compagno et al., 2005).本属の形態的特徴は,体が円筒形で太く短く,ネズミザメ上目では唯一2基の背鰭の起部に発達した棘をもつこと,臀鰭があること,頭部が丸みを帯びて眼上が隆起すること,眼に瞬膜がないこと, 5対の鰓孔をもち,第一鰓孔が最大で,第4・第5鰓孔が胸鰭基底上に開くこと,鼻孔と口裂が深い溝で連結すること,異歯性があり,卵生で,卵がスクリュー状の卵殻をもつことなどですが(仲谷,1984;仲谷・白井,1984; Compagno and Niem, 1998; Nelson et al., 2016),これらの中で特筆すべきは,異歯性と繁殖様式でしょう.

 ネコザメ属の属名Heterodontusは,ギリシャ語のheteros(異なった)+ odón(歯)を語源とし,本属の特徴を表しています(中坊・平嶋,2015).本属は,歯が近心側では鋭い数尖頭をもち,遠心側では著しく肥大して臼歯状となる顕著な異歯性を示します.本属は「サザエ割り」の異名をもち,主にウニ類,エビ・カニ類,貝類などの底生無脊椎動物を捕食するため,これらの硬い甲殻や殻を噛み砕くために歯冠の広い臼歯状の歯が発達していると考えられています(仲谷,1997;Compagno et al., 2005).一方,本属の前方の尖頭歯は,獲物の捕捉に用い,成長に伴い中央の尖頭が大型化し,全体として尖頭数が減少することや,幼魚の歯が比較的鋭利であることが知られ,幼魚期にはより柔らかい餌を好むと考えられています(谷内,1997;Motta and Huber, 2012).異歯性は本属以外でもみられ,例えば,メジロザメ科では下顎の歯のみが鋸歯をもつ場合が多くみられます.あるいは,成熟した雄の前歯の形状が未成熟の雄や雌と異なるような性的異歯性は,雄が雌を噛んでしがみ付く求愛行動に関係していると考えられています(Motta and Huber, 2012).また,西大西洋と東太平洋の温・熱帯海域に分布するウチワシュモクザメSphyrna tiburo (Linnaeus, 1758)には,ネコザメ属と同質の異歯性がみられます.沿岸の岩礁域に生息するウチワシュモクザメは,食性もネコザメ属と類似しており(Gudger, 1907; Castro, 2011),「噛み付き-すり潰し型」(谷内,1997)の歯列は,底生無脊椎動物を捕食できる最適の形状であり,収斂進化の一例と言えるでしょう.さらに,サメ類やエイ類の歯が生え変わる話は有名ですが,歯の交換率は種,成長段階,摂餌,季節,水温などで異なり,本属の場合は約4週間とされています(Motta and Huber, 2012).

 ネコザメ属の交尾は,多くのサメ類では雄と雌が体を交錯させるか寄り添うような体勢をとるのに対し,体が太短いため,雄と雌が互いの腹面を向かい合わせて抱き合う体勢をとります(谷内,1997).本属は卵生であり,他のサメ類では,一部のテンジクザメ目やトラザメ科,ヘラザメ科でもみられる繁殖様式です(Conrath and Musick, 2012; Nelson et al., 2016; 佐藤,2021).卵生は,一度に一組の未発生卵を産出する単卵生(single / extended oviparity)と複数の卵を生殖器内で一定期間保持し,その間に発生が進む多卵生(multiple / retained oviparity)の2つの様式に分けられ,本属の繁殖様式は前者に分類されます(Conrath and Musick, 2012).受精卵は,卵殻腺から分泌される卵殻に包まれて子宮を通り,体外へ産出されます(谷内,1997).産出された卵は,食害や水流による移動,埋没などのリスクにさらされるため,生存率を高めるための産卵場所の選択や卵殻の形状に差異が見られます(佐藤,2021).本属のスクリュー状の卵殻は岩礁域の岩の隙間に固定しやすく,トラザメ科では四角い卵殻に長い糸状の構造をもち,藻場の海草に絡めて固定することが知られています(谷内,1997;佐藤,2021).

 ネコザメHeterodontus japonicus Miklouho-Maclay and Macleay, 1884 は,日本では岩手県,福島県,鹿島灘,千葉県銚子から九州南岸の太平洋沿岸,瀬戸内海,新潟県から九州南岸の日本海・東シナ海沿岸,小笠原諸島,海外では朝鮮半島南岸,済州島,台湾,中国青島・上海に分布し,100 m以浅の岩礁や藻場に生息します(波戸岡ほか,2013;中坊,2018;小枝,2020).日本に分布するネコザメ属は,ネコザメとシマネコザメHeterodontus zebra (Gray, 1831)の2種が知られており(本村,2021),これらは体側に不明瞭な10前後の暗色横帯がある(vs. シマネコザメでは明瞭な20前後の暗色横帯),尾柄長が臀鰭基底長の1.25倍前後(vs. 2倍前後)で容易に識別できます.ネコザメの産卵期は,5月をピークとして1–7月,卵の産出数は一度の産卵で左右の子宮から1つずつ,孵化までに約1年を要し,孵化時の全長は約20 cmです(谷内,1997;中坊,2018).浅い海域での底曳き網や定置網で混獲されますが,食用としては利用されません.

 ネコザメはこの夏,足摺海洋館SATOUMI(高知県土佐清水市)を訪問した際に,大水槽に複数個体展示されていました.夜行性ということですが,明るい中を悠々と遊泳するネコザメの姿を見ることができました.個人的にネコザメは,なかなか愛嬌のある可愛い顔つきだと思うのですが,周囲の賛同は想像よりも得られず,どうやら好き嫌いが分かれるようです.「ネコ」を冠した標準和名ですが,英名はbullhead shark(ウシ頭のサメ)といい,cat sharkというとトラザメ科を指すようです(波戸岡ほか,2013;小枝,2020).人の感性もまた,種の多様性に負けず劣らず,多種多様ということですね.それでは,寒い日が続きますが体調を崩さぬよう,良いお年をお迎えください.私は,年末年始は「ネコ」さながらにコタツで丸くなるとしましょう.

引用文献
Castro, J. I. 2011. The sharks of North America. Oxford University Press, New York. i-xiii + 1-613 pp.
Compagno, L., M. Dando and S. Fowler. 2005. Sharks of the World. Princeton University Press, Princeton and Oxford. 1-368 pp., pls. 1-64.
Compagno, L., V. H. Niem. 1998. Heterodontidae. Bullhead sharks, horn sharks. Pages 1238-1240 in K. E. Carpenter and V. H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The Living Marine Resources of the Western Central Pacific. Volume 2. Cephalopods, crustaceans, holothurians and sharks. FAO, Rome.
Conrath, C. L. and J. A. Musick. 2012. 10. 3. 1. 1 Oviparity-single and retained. Pages 296–297 in J. C. Carrier, J. A. Musick and M. R. Heithaus, eds. Biology of sharks and their relatives. 2nd ed. CRC Press, Boca Raton.
Gudger, E. W. 1907. A note on the hammerhead shark (Sphyrna zygaena) and its food. Science, 25: 100-1006.
波戸岡清峰・柳下直己・山口敦子.2013.ネコザメ科.中坊徹次(編).150, 1756 pp. 日本産魚類検索全種の同定.第三版.東海大学出版会,秦野.
小枝圭太.2020.ネコザメ目ネコザメ科 Heterodontidae. 12–13 pp. 小枝圭太・畑 晴陵・山田守彦・本村浩之(編).大隈市場魚類図鑑.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.
本村浩之.2021.日本産魚類全種目録.これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.Online ver. 12.https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/jaf.html. Accessed 29 Dec. 2021.
Motta, P. J. and D. R. Huber. 2012. 6. 5. 1 Arrangement and Terminology. Pages 190-192 in J. C. Carrier, J. A. Musick and M. R. Heithaus, eds. Biology of sharks and their relatives. 2nd ed. CRC Press, Boca Raton.
中坊徹次.2018.ネコザメ科.中坊徹次(編), 14-15 pp. 小学館の図鑑Z 日本魚類館精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.
中坊徹次・平嶋義宏.2015.日本産魚類全種の学名 語源と解説.東海大学出版部,秦野.372 pp.
仲谷一宏. 1984. ネコザメ目. 益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編), 3 p. 日本産魚類大図鑑. 東海大学出版会, 東京.
仲谷一宏.1997.ネコザメ目.岡村 収・尼岡邦夫(編),34–35 pp. 山渓カラー名鑑 日本の海水魚.山と渓谷社,東京.
仲谷一宏・白井 滋. 1984. ネコザメ科. 益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編), 3 p. 日本産魚類大図鑑. 東海大学出版会, 東京.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707pp.
佐藤圭一.2021.サメの奥深い繁殖方法.佐藤圭一・富田武照.115-132 pp. 寝てもサメても深層サメ学.産業編集センター,東京.
谷内 透.1997.サメの自然史.東京大学出版会,東京.270 pp.

写真標本: BSKU 127933,422.2 mm TL,2020年7月16日,高知県黒潮町佐賀漁港,底曳き網.採集・写真撮影:井上裕太・幸大二郎.

(山口 蓮)


2021年11月の魚


カラスガレイ Reinhardtius hippoglossoides
(Walbaum, 1792) (カレイ目カレイ科)

 カレイ科Pleuronectidaeは太平洋 と大西洋,北極海に分布する底生魚類で, 亜寒帯にすむ数種は北極海を挟んで二大洋に 不連続分布し (amphi-boreal),北半球の寒帯 から冷温帯の海域に多くの種が生息 します(Munroe, 2015).本科は24属63種が知られ (Fricke et al., 2021),両眼が通常右側に位置する,腹鰭 が6軟条で,その基底の長さは両体側ともほぼ同じである,前鰓蓋骨に遊離縁がある,背鰭起部が眼上に位置する,両体側に顕著な側線を備える,無眼側に胸鰭があるなどにより特徴づけられます(尼岡,2016; Nelson et al., 2016).

 カラスガレイReinhardtius hippoglossoides (Walbaum, 1792) は カラスガレイ属Reinhardtius Gill, 1861 の唯一の種で,日本では北海道全沿岸,東北地方太平洋沿岸,相模湾,三重県志摩 から,海外では日本海北部,オホーツク海,チュクチ海からカルフォルニア半島以北の北太平洋,北部大西洋,北極海の水深50−2,000 mから報告されています(中坊・土居内,2013;尼岡,2016).本種は有眼側に明瞭な骨質突起や骨質板がな く,有眼側の鰓孔 が胸鰭基底より上方から始ま り ,口 が大きく,有眼側の上顎長 が少なくとも頭長の1/3で ,すべての歯が尖って返しがなく可動性がない,上眼が頭部背面に位置する,尾鰭後縁 が湾入する ,有眼側の側線が胸鰭上方で強く湾曲しない ことなどの特徴から,他のカレイ科魚類と識別できます(中坊・土居内,2013;尼岡,2016).写真個体は, 高知市御畳瀬漁港の司丸の大手繰り網漁で採集されました.上述の通り, カラスガレイはこれまで高知県からの記録がな いため, 高知県初記録となります.御畳瀬漁港で通常みられるカレイ科魚類は,ヤナギムシガレイ,ミギガレイ,ムシガレイ,メイタガレイ,そしてナガレメイタガレイの5種で,写真個体を発見した時は,これら5種とは明らかに異なる,黒い体に鋭い牙を備えるその姿に興奮を抑えきれませんでした.カラスガレイは「銀ガレイ」とも呼ばれる食用魚で,すしネタの「えんがわ」に利用されるほか,刺身,煮つけ,フライ,ムニエル,漬けなどの料理で食されます(尼岡,2016).美味しい魚にも関わらず,快く提供していただいた御畳瀬漁港の皆様に,この場を借りてお礼申し上げます.

 今年の「今月の魚」は干支縛りということで,今月は鳥にちなんだ魚を紹介しました.「ウミ“スズメ”」や「クロ“サギ”」等,鳥の名前を冠する魚類は多く,本種のように「カラス」が付く魚類は他にカラスザメ,ニセカラスザメ,フトカラスザメ,リュウキュウカラスザメ(カラスザメ科),カラスエイ(アカエイ科),カラスダラ(チゴダラ科),カラスオビアシロ(アシロ科),カラストビウオ(トビウオ科),カラスギンポ(イソギンポ科),そしてカラス(フグ科)がいます(本村,2020).去年までカラスヒゲVentrifossa fusuca Okamura, 1982というソコダラ科魚類が有効種として扱われていましたが,本研究室OBの中山直英博士の研究により,ミサキソコダラVentrifossa misakia (Jordan and Gilbert in Jordan and Starks, 1904)の新参異名 とされて,標準和名の“カラスヒゲ”は 使われなくなりました(Nakayama, 2020).このカラスヒゲのように標準和名 も 使われなくな るケースは,新標準和名の提唱に比べると少ないものの,珍しいことではありません.「日本産魚類検索全種の同定 第3版」以降,追加された,あるいは 新参異名とされた種の 標準和名は遠藤(2021a, b),や本村(2021)等でリストアップされています.これらを用いて,日本にどのような名前の魚類がいるかを調べてみると意外と(?)面白いので,皆さんも是非調べてみてください.

参考文献
尼岡邦夫.2016.日本産ヒラメ・カレイ類.東海大学出版部,平塚.x + 229 pp.
遠藤広光.2021a.日本産魚類の追加種リスト.https://www.fish-isj.jp/info/list_additon.html(参照 2021-11-28)
遠藤広光.2021b.シノニム・学名の変更.https://www.fish-isj.jp/info/list_rename.html(参照 2021-11-28)
Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2021. Catalog of fishes: genera, species, reference: https://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 11 November 2021.
中坊徹次・土居内 龍.2013.カレイ科.中坊徹次(編),pp. 1675–1683, 2229−2230.日本産魚類検索全種の同定.第3版.東海大学出版会,秦野.
本村浩之,2020.日本産魚類全種目録.これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.560 pp.
本村浩之.2021.日本産魚類全種目録.これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.Online ver. 12.https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/jaf.html. (参照 2021-11-28)
Munroe, T. A. 2015. Distributions and biogeography. Pages 52−82 in: R. N. Gobson, R. D. M. Nash, A. J. Geffen, van der H. W. Veer, eds. Flatfishes: Biology and exploitation, second edition. John Wiley & Sons Ltd., West Sussex.
Nakayama, N. 2020. Grenadiers (Teleostei: Gadiformes: Macrouridae) of Japan and adjacent waters, a taxonomic monograph. Megataxa, 3: 1−383.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th edition. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.

写真標本: BSKU 127187,324 mm SL,2019年12月17日,高知県高知市御畳瀬漁港,大手繰り網,司丸.採集・写真撮影:内藤大河.

(内藤大河)


2021年10月の魚


ヨメヒメジ Upeneus tragula Richardson, 1846
(スズキ目ヒメジ科)水中写真0102

 ヒメジ科Mullidaeは三大洋の温帯から熱帯域の内湾の砂泥やサンゴ礁,深場の岩礁に生息し,世界で6属約100種が知られ,そのうち日本からは3属29種が報告されています(Nelson et al., 2016;小枝,2018;本村,2021;Fricke et al., 2021).本科魚類は,下顎に1対のひげをもつ,2基の背鰭がよく離れる,臀鰭が1–2棘と5–8軟条からなる,尾鰭が二叉するなどの特徴をもちます(山川,1997;Nelson et al., 2016;小枝2018).下顎のひげには,味蕾に似た感覚細胞が並び,餌を探すために利用し,ひげや吻部を砂泥中に差し込み底生性の小動物を捕食します(山川,1997;Nelson et al., 2016).コイ,ドジョウ,ナマズ,ヒゲダイ,そしてイタチウオなども,ヒメジ科魚類のように口辺や喉部にひげをもち,索餌に利用します(松原ほか,1979).また,ヒメジ科とギンメダイ科のひげは4つの筋肉によって制御されますが,それらの起源は前者では舌骨に,後者では下舌骨と鰓条骨に付着する筋肉要素と異なっています(Kim et al., 2001).

  本科は,アカヒメジ属Mulloidichthys Whitley, 1929,Mullus Linnaeus, 1758,ウミヒゴイ属Parupeneus Bleeker, 1863,Pseudupeneus Bleeker, 1862, Upeneichthys Bleeker, 1853,そしてヒメジ属 Upeneus Cuvier, 1829の6属を含み,日本にはアカヒメジ属,ウミヒゴイ属,そしてヒメジ属の3属が分布しています.そのうち,ヒメジ属は三大洋の温帯から熱帯域に分布し,鋤骨・口蓋骨に繊毛状の歯をもつ,第2背鰭の基底前半が小鱗で覆われる,背鰭が7–8棘9軟条,胸鰭軟条数が12–17,尾鰭が15軟条などの特徴をもち,世界に46種,日本には12種が分布します(Lachner, 1960;波戸岡・土居内,2013;Uiblein and Motomura, 2021;本村,2021).本属魚類のうち,ほとんどの種の成魚は水深100 m以浅の沿岸域に生息しますが,最深記録は 600 mです(Uiblein and Motomura, 2021).

 ヨメヒメジUpenus tragula Richardson, 1846は,インド・西太平洋域の水深42 m以浅のサンゴ礁や内湾の砂泥や泥底に,単独あるいは数個体で生息し,若魚は波打ち際の近くにも見られます(山川,1997;Psomadakis et al., 2020;小枝,2020).日本では,茨城県以南の太平洋沿岸と福井県以南の日本海・東シナ海,琉球列島に分布します(波戸岡・土居内,2013;小枝,2020).本種はひげが短く黄色で,体側に1本の暗色縦帯と多数の黒褐色斑点をもつ,尾鰭上葉に3–9本と下葉に4–10本の暗色帯をもつ,第1背鰭が8棘で第1棘が小さい,胸鰭が12–14軟条などの特徴をもちます(波戸岡・土居内,2013;Psomadakis et al., 2020;小枝,2020).標準和名であるヨメヒメジの他に,オカヒメイチ(高知県柏島),タカギス(鹿児島)やメンヒメチ(和歌山県田辺)などの地方名があります(山川,1997).同科魚類と比較して身が柔らかく,味も乏しいため,食用魚としての評価は高くないようです(小枝,2020).同属のヒメジUpeneus japonicus (Houttuyn, 1782)は,高知県の御畳瀬漁港や佐賀漁港の底曳き網漁でまとまって水揚げされます.

  写真個体は2020年の10月10日に春野漁港の漁港内で採集されたものです.2016–2017年の期間の魚類相調査では未確認でしたが,2018–2020年の調査で確認されました(松沼ほか,2017;井上ほか,2021).春野漁港周辺には砂浜が広がり,漁港内に砂が流れ込むことから本種の生息環境に適していると考えられます.漁港内では通年クロダイが目視で確認されていますが,本研究室のメンバーでは釣獲できず,井上ほか(2021)の報告には含まれていません.しかし,調査を継続すれば,今後も種数が増えることは確実でしょう.

 ヒメジ科魚類の英語名はgoatfishでヤギ(山羊)ということで,今月は羊に因んだ魚を紹介させていただきました.直接ヒツジに関する名前をもつ魚を紹介したかったのですが,調べた限り高知県に分布する種は見つかりませんでした.魚偏に羊で「鮮」という漢字もありますが,鯛や鮪のように,ある特定の魚を指すものではありません.

引用文献
Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2021. Catalog of fishes: genera, species, reference: https://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 29 October 2021.
波戸岡清峰・土居内龍.2013.ヒメジ科.中坊徹次(編),pp. 976–982, 2018–2020.日本産魚類検索全種の同定.第三版.東海大学出版会,秦野.
井上裕太・幸大二郎・溝脇一輝・山口 蓮・永江栞奈・内藤大河・冨森祐樹・松沼瑞樹・遠藤広光.2021.高知市春野漁港内で新たに記録された四国初記録のズングリナガミミズハゼ(ハゼ科)を含む魚類51種.Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 10: 21–38.
Kim, B-J. 2002. Comparative anatomy and phylogeny of the family Mullidae (Teleostei: Perciformes). Memoirs of the Graduate School of Fisheries Sciences, Hokkaido University, 49 (1): 1–74.
Kim, B-J., M. Yabe and K. Nakaya. 2001. Barbels and related muscles in Mullidae (Perciformes) and Polymixiidae (Polymixiiformes). Ichthyological Research, 48 (4): 409–413.
小枝圭太.2018.ヒメジ科.中坊徹次(編),pp. 296–297.小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.
小枝圭太.2020.スズキ目ヒメジ科 Mullidae,pp. 316–324.小枝圭太・畑 晴陵・山田守彦・本村浩之(編).大隈市場魚類図鑑.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.
Lachner, E. A. 1960. Family Mullidae: Goatfishes. Fishes of the Marshall and Marianas islands. Vol. 2. Bulletin of the United States National Museum, (202): 1–46.
松原喜代松・落合 明・岩井 保.1979.新版魚類学(上).+375,恒星社厚生閣,東京.
松沼瑞樹・内藤大河・佐藤真央・水町海斗・山本祥代・泉 幸乃・山川 武・遠藤広光・佐々木邦夫.2017.高知県高知市春野漁港内で採集された魚類.Nature of Kagoshima, 44: 47–71.
本村浩之.2021.日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.Online ver 11.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.
Psomadakis, P., H. Thein, B. C. Russell and M. T. Tun. 2020. Field identification guide to the living marine resources of Myanmar. FAO species identification guide for fishery purposes. Food and Agriculture Organization of the United Nations, and Department of Fisheries, Ministry of Agriculture, Livestock and Irrigation, Republic of the Union of Myanmar, Rome. i–xvii + 1–694, pls. 1–58.
Uiblein, F and H. Motomura. 2021. Three new goatfishes of the genus Upeneus from the Eastern Indian Ocean and Western Pacific, with an updated taxonomic account for U. itoui (Mullidae: japonicus-species group). Zootaxa, 4938 (3): 298–324.
山川 武.1997.ヒメジ科.岡村収・尼岡邦夫(編),pp. 371–379.山渓カラー名鑑 日本の海水魚.山と渓谷社,東京.

写真標本:BSKU 128482, 79.6 mm SL,高知県高知市春野漁港,手網,2020年10月10日,採集・写真撮影:井上裕太,永江栞奈,山口 蓮,幸大二郎.

(幸 大二郎)


2021年9月の魚


ヒシマトウダイ Xenolepidichthys dalgleishi Gilchrist, 1922 (マトウダイ目ヒシマトウダイ科)

 ヒシマトウダイ科 Grammicolepididae は3属3種を含み,Macrurocyttinae(Macrurocyttus acanthopodus Fowler, 1934のみからなり,タイプ産地はフィリピン近海)とヒシマトウダイ亜 科 Grammicolepidinae に分類されます (Nelson et al., 2016).両亜科は形態学的な特徴から単系統群とはならない可能性も示され,分子系統解析ではヒシマトウダイ亜 科の2属が単系統群となることが支持されました (Grande et al., 2018).残念ながら,まだMacrurocyttusの遺伝子情報は得られていないようです.日本周辺には,後者のヒシマトウダイXenolepidichthys dalgleishi Gilchrist, 1922とオオヒシマトウダイGrammicolepis brachiuscula Poey, 1873(属の性が女性のため,種小名の語尾が ~scula)が出現し,両種ともに三大洋の熱帯から温帯域から記録されています (中坊・甲斐,2013).日本での採集例は稀で,なかなか生鮮時の個体を見る機会がありません.写真標本のヒシマトウダイは,高知市御畳瀬漁港の大手繰り網(沖合底曳き網)で漁獲されたものです.日本周辺では,北海道から土佐湾にかけての太平洋岸沖と東シナ海の水深90~900 mから知られています(中坊・甲斐,2013).

 ヒシマトウダイ亜科魚類は,オオヒシマトウダイでは最大体長が30 cm程度で,体側鱗が縦方向に(専門的には横方向に)細長いことが大きな特徴です.ヒシマトウダイの写真個体では,特に細長い鱗がよくわかります.ヒシマトウダイは最大体長が15 cm程度と小さく,体がやや菱形で一様に銀色です.小型の個体では,体側にカガミダイの稚魚のような黒色斑が多数あり,これらは成長に伴い次第に薄くなって消えていくようです.また,小型の個体では背鰭と臀鰭の第1棘が長く伸びていますが,成長に伴い短くなります (BSKU 121859, 50.8 mm SL).この写真の小型個体は,足摺岬沖のモジャコ漁で混獲されたものです.沖山・小西(2014)は四国沖で採集された体長17.2 mm SLのヒシマトウダイの稚魚を図とともに記載していますが,およそ50 mm SLの体サイズまで表層近くにいることは,新知見かもしれません.

 本研究室の初代教授である蒲原稔治博士(1901〜1972年)は,1930年代にマトウダイ目の魚類に関する新種記載や初記録の論文を4編出版しています(Kamohara, 1934, 1935; 蒲原,1936a, 1936b).そのうち,蒲原 (1936a)の中で,御畳瀬で採集された全長11.1 cmの1標本を基に“ヒシマトオダイ”を日本初記録として報告し,“ヒシマトオダイ科”とともに新和名を提唱しています. 蒲原博士は自ら描いた極めて多くの魚類の線画を,論文や書籍の図として使っていました.分類学の論文に詳細な線画があると,記載だけではわからない形質状態が描かれていることもあり,研究には大変役立ちます.

ヒシマトウダイの図:蒲原 (1936a)Kamohara (1938)・オオヒシマトウダイの図:Kamohara (1964)

 ヒシマトウダイの和名は,蒲原 (1936a)では「ヒシマトオダイ」,Kamohara (1958, 1964)では「ヒシマトダイ(科名もヒシマトダイ科)」,松原 (1955)ではヒシマトウダイ(科名もヒシマウトダイ科)となっています.また,松原 (1955)では松原自身が採集した標本の追加記録として,尾鷲沖,舞坂沖,駿河湾戸田沖,そして調子沖を加えています.さらに,松原(1955)は Grammicolepis brachiusculus の駿河湾(戸田で黒沼が採集)と尾鷲沖産(落合・岩井が採集)の標本を入手したことから,「オオヒシマトウ」の新和名を与えています.しかし,Kamohara (1964)ではヒシマトダイ科のオオヒシマトダイとされています.さらに,オオヒシマトウダイの土佐湾の記録は,Kamohara (1964)が最初のようですが,その学名をDaramattus armatus Smith,1960(タイプ産地は南アフリカのイーストロンドン,南西インド洋)としており,これは現在の使われている学名の新参異名と見なされています .蒲原先生は Grammicolepis brachiusculus のタイプ産地がキューバのハバナ沖の中部西大西洋なので,インド-太平洋の種とは別種と考えていたのでしょう.Grande et al. (2018)が用いた G. brachiusculusの分子解析サンプル2つは,共に太平洋産のようなので,ヒシマトウダイ科魚類の遺伝子情報はまだまだ不足していると想像します.

 今回は魚研HPの20周年記念の企画です.この「今月の魚」は2001年6月のアオマトウダイ Cyttomimus affinis Weber, 1913から始まりました.これも蒲原(1936b)により日本初記録として報告されたマトウダイ目ソコマトウダイ科の一種です(蒲原原図BSKU 52192).魚研HPを正式に公開し始めた日付は2001年9月9日からで,多忙のため更新が滞った年もありました.今回まで177種を紹介し,この間に新種記載されたものもいくつかあります.過去の魚リストもご覧下さい.


引用文献
Grande, T. C., W. C. Borden, M. V. H. Willson and L. Scarpitta. 2018. Phylognenetic relationships among fishes in the order Zeiformes based on molecular and morphological data. Copeia, 106(1): 20-48.
Kai, Y. and F. Tashiro. 2019. Zenopsis filamentosa (Zeidae), a new mirror dory from the western Pacific Ocean, with redescription of Zenopsis nebulosa. Ichthyological Research. https://doi.org/10.1007/s10228-018-00679-1 (published online: 12 Jan. 2019)
Kamohara, T. 1934. On a new fish, Zenion japonicum, from Japan. Proceedings of the Imperial Academy, 10(9):597-599.
蒲原稔治.1935.的鯛科の一新魚に就て.動物學雑誌,47(558): 245-247.
蒲原稔治.1936a.日本の的鯛類に就て.植物及び動物,4(2): 21-26.
蒲原稔治.1936b.日本の的鯛類追補.植物及び動物,4(6): 43-44.
Kamohara, T. 1938. On the offshore bottom-fishes of Prov. Tosa, Shikoku. Maruzen, Tokyo, 86 pp.
Kamohara, T. 1958. A catalogue of fishes of Kochi Prefecture (Province Tosa), Japan. Reports of the Usa Marine Biological Station, 5(1): 1-76.
Kamohara, T. 1964. Revised catalogue of fishes of Kochi Prefecture, Japan. Reports of the Usa Marine Biological Station, 11(1): 1-99.
中坊徹次・甲斐嘉晃.2013.ヒシマトウダイ科 Grammicolepididae tinselfishes. 中坊徹次(編),p. 602, 1903. 日本産魚類検索 全種の同定.第三版.東海大学出版会,秦野.
松原喜代松.1955.魚類の形態と検索.I-III. 石崎書店,東京.xii+1605pp., 135 pls.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. Xli+707 pp.
沖山宗雄・小西芳信.2014.ヒシマトウダイ科 Grammicolepididae. 沖山宗雄(編).pp. 503-504. 日本産稚魚図鑑.第二版.東海大学出版会,秦野.

写真標本:BSKU 96505, 82.2 mm SL,高知市御畳瀬漁港,大手繰り網,幸成丸,2008年10月31日,採集・写真撮影:中山直英;BSKU 121859, 50.8 mm SL, 高知県足摺岬南東30km沖,モジャコ漁で混獲,2017年3月30日,研究室OGの森田(岡本)沙知さんより寄贈.

(遠藤広光)


2021年8月の魚


イヌカサゴ Scorpaenopsis ramaraoi  Randall and Eschmeyer, 2001
(スズキ目フサカサゴ科)

 フサカサゴ科Scorpaenidaeはインド・太平洋に3亜科25属232種が知られ,そのうち日本からは21属68種が報告されています(Fricke et al., 2021;本村,2021).本科魚類は,体が縦扁せず,頭部に多くの棘をもち,背鰭が通常12–13棘8–10軟条,臀鰭が通常2–3棘5–9軟条,背鰭や臀鰭,腹鰭の棘に毒があるなどの特徴をもちます(中坊・甲斐,2013;Psomadakis et al., 2020).

 オニカサゴ属 Scorpaenopsis Heckel, 1837はインド・太平洋の熱帯から温帯の沿岸域に28種が分布し,そのうち日本からは,次の13種が知られています:オニカサゴS. cirrose (Thunberg, 1793), ヒメサツマカサゴS. cotticeps Fowler, 1938,ニライカサゴS. diabolus (Cuvier, 1829), マルスベカサゴS. macrochir Ogilby, 1910, サツマカサゴS. neglecta Heckel, 1839, トウヨウウルマカサゴS. orientalis Randall and Eschmeyer, 2001, オオウルマカサゴS. oxycephala (Bleeker, 1849), ウルマカサゴS. papuensis (Cuvier, 1829), ミミトゲオニカサゴS. possi Randall and Eschmeyer, 2001, イヌカサゴS. ramaraoi Randall and Eschmeyer, 2001, ヒュウガカサゴS. venosa (Cuvier, 1829), コガタオニカサゴS. vittapinna Randall and Eschmeyer, 2001, およびシラユキカサゴS. obtuse Randall and Eschmeyer, 2002 (Randall and Eschmeyer, 2002; Motomura, 2004; Randall and Greenfield, 2004; Motomura and Causse, 2011; Fricke et al., 2013;中坊・甲斐,2013;本村,2021). 本属魚類は背鰭が12棘9軟条,臀鰭が3棘5軟条,腹鰭が1棘5軟条,眼下骨棘が3–5本,耳棘がある,不対鰭軟条が分枝する,胸鰭下方条が分枝しない,側線が尾柄部後縁まで延びる,口蓋骨歯がないなどの特徴によって同科他属と識別できます(Randall and Eschmeyer, 2002;本村ほか,2004;Motomura and Causse 2011).

 イヌカサゴS. ramaraoi は,パキスタン以東のインド洋とオーストラリアを除くニューカレドニア以西の太平洋に分布し,水深60m以浅の岩礁底や砂底に生息しており,国内では伊豆半島以南の太平洋沿岸,九州西岸,トカラ列島および琉球列島から記録されています(Motomura, 2002; Randall and Eschmeyer, 2002;本村ほか,2004;中坊・甲斐,2013;本村,2018,2021).本種は涙骨隆起先端が尖り皮膚に埋没しない,側線上方鱗横列数が48–51などの特徴で,同属他種と識別できます(本村ほか,2004).本種の体は灰色から黒色で不明瞭な褐色の模様があり,隠蔽的な擬態により周囲の環境へ溶け込み,小型甲殻類や魚類を待ち伏せて食べます.「イヌカサゴ」という標準和名は,上顎前部に突き出している尖った涙骨隆起がイヌの犬歯を連想させることが由来です(本村ほか,2004).これまで本種は標本に基づく高知県からの記録がないため,正式に報告する必要があります.

 写真個体は,2010年5月13日に高知県香南市手結の夫婦岩付近で採集されています.現在は御畳瀬漁港が禁漁時期で漁港に行ける機会は極端に減少してしまいましたが,室戸や土佐清水市の以布利でも美味しい魚がたくさん採れるらしいので,高知にいる間には一度,足を運んでみたいものです.今月はイヌ(戌)に関する名前をもつ種を紹介しました.そろそろ本格的に卒業論文を書かなくてはいけません.1年とは早いものですね.

引用文献
Fricke, R., P. Durville and T. Mulochau. 2013. Scorpaenopsis rubrimarginatus, a new species of scorpionfish from Réunion, southwestern Indian Ocean (Teleostei: Scorpaenidae). Cybium, 37: 207–215.
Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2021. Catalog of fishes: genera, species, reference: https://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 18 August 2021.
Motomura, H. 2002. First record of a scorpionfish (Scorpaenidae), Scorpaenopsis ramaraoi, from New Caledonia. Cybium, 26: 237–238.
Motomura, H. 2004. Scorpaenopsis insperatus, a new species of scorpionfish from Sydney Harbour, New South Wales, Australia (Scorpaeniformes: Scorpaenidae). Copeia, 2004: 546–550.
本村浩之.2018.フサカサゴ科.萩原清司・瀬能宏・中江雅典(編),pp. 66–75.奄美群島の魚類.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島市,横須賀市自然・人文博物館,横須賀市,神奈川県立生命の星・地球博物館,小田原市,国立科学博物館,つくば市.
本村浩之.2018.フサカサゴ科.中坊徹次(編),pp. 212–213.小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.
本村浩之.2021.日本産魚類全種目録.これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.Online ver. 10.https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/jaf.html
Motomura, H. and R. Causse. 2011. A new deepwater scorpionfish of the genus Scorpaenopsis (Scorpaenidae) from Wallis and Futuna Islands, southwestern Pacific Ocean. Bulletin of Marine Science, 87: 45–53.
Motomura, H. and G. Shinohara. 2005. Assessment of taxonomic characters of Scorpaenopsis obtusa and S. gibbosa (Scorpaenidae), with first records of S. obtusa from Japan and Australia and comments on the synonymy of S. gibbosa. Cybium, 29: 295–301.
本村浩之・吉野哲夫・高村直人.2004.日本産フサカサゴ科オニカサゴ属魚類(Scorpaenidae: Scorpaenopsis)の分類学的検討.魚類学雑誌,51 (2):89–115.
中坊徹次・甲斐嘉晃.2013.フサカサゴ科.中坊徹次(編),pp. 683–705, 1939–1946.日本産魚類検索 全種の同定.第三版.東海大学出版会,秦野.
Psomadakis, P., H. Thein, B. C. Russell and M. T. Tun. 2020. Field identification guide to the living marine resources of Myanmar. FAO species identification guide for fishery purposes. Food and Agriculture Organization of the United Nations, and Department of Fisheries, Ministry of Agriculture, Livestock and Irrigation, Republic of the Union of Myanmar, Rome: i–xvii + 1–694, pls. 1–58.
Randall, J. E. and W. N. Eschmeyer. 2001. Revision of the Indo-Pacific scorpionfish genus Scorpaenopsis, with descriptions of eight new species. Indo-Pacfic Fishes, (34); 1–79, pls. 1–12.
Randall, J. E. and D. W. Greenfield. 2004. Two new scorpionfishes (Scorpaenidae) from the South Pacific. Proceedings of the California Academy of Sciences, 55 (19): 384–394.

写真標本:BSKU 103306, 144.0 mm SL,高知県香南市手結,住吉海岸(夫婦岩),手網,2010年5月13日,採集・写真撮影:戸瀬憲人.

(堀内海咲)


2021年7月の魚


アミメウマヅラハギ Cantherhines pardalis (Rüppell, 1837)
(フグ目カワハギ科)

 カワハギ科Monacanthidaeは三大洋に27属108種が知られ,そのうち日本からは16属32種が報告されています(本村,2020;Fricke et al., 2021).本科魚類は,体が側扁し,鱗が細かく,第1背鰭が強大な第1棘と小さな第2棘からなることなどの特徴をもちます(Nelson et al., 2016;萩原,2018).センウマヅラハギ属Cantherhines Swainson, 1839は三太平洋の熱帯・亜熱帯域に39名義種11有効種が分布します(Randall, 2011; Fricke et al., 2021).そのうち日本には,ハクセイハギCantherhines dumerilii (Hollard, 1854),メガネウマヅラハギCantherhines fronticinctus (Günther, 1867),センウマヅラハギCantherhines multilineatus (Tanaka, 1918),そしてアミメウマヅラハギCantherhines pardalis (Rüppell, 1837)の合計4種が知られています(本村,2020).本属魚類は尾柄長が尾鰭長の38–71%,背鰭軟条数が32–39,尾鰭軟条数が28–35であることなどの特徴によって同科他属と識別できます(Hutchins, 1977; Randall, 2011).
 アミメウマヅラハギC. pardalisは,インド・西太平洋の熱帯域に分布し,水深30m以浅のサンゴ礁に生息し,国内では茨城県以南の太平洋沿岸,小笠原諸島,大隅諸島,琉球列島に分布しています(林・萩原,2013;松浦,2014).本種は尾鰭起部の体高が標準体長の43–48%,体側の斑点の大きさが眼径の38–50%,背鰭軟条数が32–36,臀鰭軟条数が29–32であることなどの特徴によって,同属多種と識別できます(Hutchins, 1977; Randall, 2011).本種の体には褐色で網目状の淡黄色の模様と尾柄上部には1個の白色斑があり,サンゴ礁外縁を単独で泳いでいることが多く,小型甲殻類や,ゴカイ類,貝類などを食べます(松浦,1997,2014).
 写真個体は,2021年6月2日に高知県室戸市の高岡漁港で採集されました.この日は,スミクイウオやニセタカサゴ,クロシビカマス,クロサバフグなども採集されています.室戸市には定置網漁を行っている4つの漁港(高岡,椎名,三津,佐喜浜)があります.高知大学から片道2時間ほどかかり,早朝に出発しなければ水揚げ作業に間に合いません.少々遠く,高知市の春野漁港のように頻繁に通うことができないことが残念です.今月はウマ(午)に関する名前を持つ魚を紹介しました.干支の残りはヒツジとトリ,イヌとなりました.どの魚が紹介されるか楽しみですね.

引用文献
Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2021. Catalog of fishes: genera, species, reference: https://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 11 July 2021.
萩原清司.2018.カワハギ科.中坊徹次(編),pp. 470–473.小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.
林 公義・萩原清司.2013.カワハギ科.中坊徹次(編),pp. 1712–1721, 2236–2237.日本産魚類検索全種の同定.第三版.東海大学出版会,秦野.
Hutchins, J. B. 1977. Descriptions of three new genera and eight new species of monacanthid fishes from Australia. Records of the Western Australian Museum, 5 (pt 1): 3–58.
松浦啓一.1997.カワハギ科.岡村収・尼岡邦夫(編),pp. 694–701.山渓カラー名鑑 日本の海水魚.山と渓谷社,東京.
松浦啓一.2014.カワハギ科.本村浩之・松浦啓一(編),pp. 607–609.与論島の魚類.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島・国立科学博物館,つくば.
本村浩之.2020.日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.560 pp.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.
Randall, J., E. 2011. Review of the circumtropical monacanthid fish genus Cantherhines, with descriptions of two new species. Indo-Pacific Fishes, (40): 1–30, pls. 1–7.

写真標本:BSKU 130234, 47.8 mm SL,高知県室戸市高岡漁港,定置網,2021年6月2日,採集・写真撮影:山口 蓮,井上裕太.

(幸 大二郎)


2021年6月の魚

ウサギトラギス Osopsaron formosense Kao and Shen, 1985(スズキ目ホカケトラギス科)

 ホカケトラギス科Percophidaeはスズキ目ワニギス亜目に属し,三大洋に3亜科11属50種が知られ,日本からは6属14種が報告されています(Nelson et al., 2016;本村,2020).本科魚類は頭部がやや縦扁し,両眼間隔が狭く,背鰭が棘条部と軟条部に分離し,両背鰭がよく離れる,臀鰭に棘がない,腹鰭が1棘5軟条,両腹鰭間隔が広いなどの特徴をもちます(Nelson et al., 2016;片山,2018).ヒメトラギス属 Osopsaron Jordan and Starks, 1904 は,駿河湾産の標本を基に記載されたヒメトラギス Osopsaron verecundum (Jordan and Snyder, 1902) をタイプ種として設立されました.本属魚類は太平洋の水深100–400mに生息し,ヒメトラギス O. verecundum (Jordan and Snyder, 1902), Osopsaron karlik Parin, 1985,ウサギトラギスOsopsaron formosense Kao and Shen, 1985の3種を含み,そのすべてが有効種として扱われています(中防・土居内,2013;Fricke et al., 2021).本属は同科の他属とは,頭が比較的大きく,頭長が標準体長の35.2–40.7%,吻端に1対の棘をもつ,吻端に髭を欠く,そして頬部と体の大半が大きな円鱗で覆われるなどの特徴で識別できます(Jordan and Starks, 1904; Smith and Johnson, 2007;中防・土居内,2013).
 ウサギトラギスO. formosense は西部太平洋の水深100–200mに生息し,日本では三浦半島沖,静岡県大瀬崎,および兵庫県浜坂沖(日本海沿岸)から確認されています(鈴木ほか,1996;中防・土居内,2013).本種は背鰭軟条数が20–22,臀鰭軟条数が25,そして雄の第1背鰭が伸長するなどの特徴で同属他種と識別できます(Parin, 1985; Kao and Shen, 1985; Smith and Johnson, 2007;中防・土居内,2013).本種は高知沖からの記録がなく,写真個体は高知県初記録となっており正式に報告したいと考えています.
 2017年3月に本研究室を卒業された井上晃秀氏の卒業論文「日本産ホカケトラギス科ヒメトラギス属魚類の分類学的再検討」では,土佐湾の水深136–216 mで採集された本属の未記載種 Osopsaron sp.の存在が示唆されました.本属魚類の分類についてはまだまだ検討の余地があるようです. 写真個体は,2007年10月10日に土佐湾の水深120mで,こたか丸のトロール網調査によって採集されました.今月はトラ(寅)とウサギ(卯)に関する名前をもつ魚を紹介しました.2021年も残り半分となり修了が近づいてきています.修了するまでに,今年の3月に紹介したサルハゼや本種などの論文を1つでも多く投稿する所存です.

引用文献
Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2021. Catalog of fishes: genera, species, reference: https://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 20 Jume 2021.
Jordan, D. S. and E. S. Starks. 1904. List of fishes dredged by the steamer Albatross off the coast of Japan in the summer of 1900, with descriptions of new species and a review of the Japanese Macrouridae. Bulletin of the U. S. Fish Commission, 22: 577–630, pls. 1–8.
Kao, H. -W. and S. -C. Shen. 1985. A new percophidid fish, Osopsaron formosensis (Percophidae: Hermerocoetinae) from Taiwan. Journal of Taiwan Museum, 38 (1): 175–178.
片山英里.2018.ホカケトラギス科.中坊徹次(編),pp. 368–369. 小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.
本村浩之.2020.日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.560 pp.
中防徹次・土居内龍.2013.ホカケトラギス科.中坊徹次(編),pp. 1265–1268, 2091–2092.日本産魚類検索全種の同定.第三版.東海大学出版会,秦野.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.
Parin, N. V. 1985. A new hemerocoetine fish, Osopsaron karlik (Percophidae, Trachinoidei) from the Nazca Submarine Ridge. Japanese Journal of Ichthyology, 31 (4): 358–361.
Smith, D. G. and G. D. Johnson. 2007. A new species of Pteropsaron (Teleostei: Trichonotidae: Hemerocoetinae) from the western Pacific, with notes on related species. Copeia, 2007 (2): 364–377.
鈴木寿之・瀬能 宏・野村智之.1996.日本海から採集された日本初記録のホカケトラギス科の1種について.伊豆海洋公園通信,7 (3): 2–4.

写真標本:BSKU 91704, 36.2 mm SL, 2007年10月10日,土佐湾中央部,水深120m. sta. 1'–1,採集・写真撮影:中山直英.

(幸 大二郎)


2021年5月の魚



シシガシラウミヘビ Ophichthus obtusus McCosker, Ide and Endo, 2012(ウナギ目ウミヘビ科)

 ウミヘビ科 Ophichthidaeは世界の熱帯から温帯の沿岸または淡水域の砂泥底に生息し,深海域には殆ど生息しておらず,世界で62属355種,日本では18属62有効種が知られます(Nelson et al., 2016;中坊,2018;本村,2020;Fricke et al., 2021).本科魚類は,後鼻孔が上唇の内側ないし縁辺に開き,糸状となった多数の鰓条骨が左右が鰓孔の前付近の腹部正中線上で重なって(多くは皮膚を通して見える)かご状の構造物をつくるなどの特徴をもち,尾端から砂泥中に潜り前後に移動します(中坊,2018).また,本科はニンギョウアナゴ亜科 Myrophinae とウミヘビ亜科 Ophichthinae に分類され,後者は世界で47属285有効種が知られ,尾部後端が尖って硬いか肉質でやわらかいものがいます(Nelson et al., 2016;Fricke et al., 2021).
 ウミヘビ属 Ophichthus Thunberg, 1789は,過去にOphichthysと綴られていましたが,1789年にMuraena ophis Linnaeus, 1758をタイプ種として新たに設立されました(McCosker et al., 2012; Kottelat, 2013;中坊,2013).本属魚類は,背鰭と臀鰭が先の尖った尾部後端のかなり手前で終わることや両顎に1–3列の円錐歯をもつことで同科他属と識別できますが,体色が茶色の単色から斑点や帯状の模様のあるものまで様々です(Smith and McCosker, 1997; Nelson et al., 2016).
 シシガシラウミヘビ Ophichthus obtusus McCosker, Ide and Endo, 2012は,2004年3月に本研究室で大学院修士課程を修了した井手幸子氏の修士論文「土佐湾産ウミヘビ科魚類の分類学的研究」の中で未記載種とされ,その後 John E. McCosker氏(米国カリフォエルニア科学アカデミー),井出幸子氏と遠藤広光氏の共著で2012年に新種記載されました(McCosker et al., 2012).本種は体が黒褐色で,両顎には円錐歯が1列並び(稀に上顎の後方で2列),頭長が体長の8–9%,尾部長が体長の56–60%などの特徴で同属他種と識別できます(McCosker et al., 2012).
 今回は干支の亥(いのしし)と巳(み)に関するシシとヘビを名前にもつシシガシラウミヘビを紹介しました.本種は2012年の原記載以降の追加報告がなく,現在も分布域や生息域などの詳細は不明ですが,今後の研究者の活躍により,多くの事実が判明されることを期待します.

引用文献
Fricke, R., W. N. Eschmeyer and J. D. Fong. 2021. Eschmeyer's catalog of fishes: Genera/Species by Family/Subfamily. (http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/SpeciesByFamily.asp). Electronic version accessed 31 May 2021.
井出幸子.2004.土佐湾産ウミヘビ科魚類の分類学的研究.高知大学大学院理学研究科修士論文.127 pp.
波戸岡清峰.2013.ウミヘビ科.中坊徹次(編),pp. 25, 266–277, 1794–1802.日本産魚類検索全種の同定.第三版.東海大学出版会,秦野.
波戸岡清峰.2018.ウミヘビ科.中坊徹次(編),p. 65.小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.
McCosker, J. E., S. Ide and H. Endo. 2012. Three new species of ophichthid eels (Anguilliformes: Ophichthidae) from Japan. Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Series A (Zoology), Supplement, (6): 1–16.
本村浩之.2020.日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.560 pp.
Kottelat, M. 2013. The fishes of the inland waters of southeast Asia: a catalogue and core bibliography of the fishes known to occur in freshwaters, mangroves and estuaries. The Raffles Bulletin of Zoology, Supplemen, (27): 1–663.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.
Smith, D. G. and J. E. McCosker, 1997. Ophichthidae. Snake eels, worm eels. Pages 1662–1669 in K. E. Carpenter and V. H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the Western Central Pacific. Vol. 3. Batoid fishes, chimaeras and bony fishes part 1 (Elopidae to Linophrynidae). FAO, Rome.

写真標本:BSKU 60521, 697 mm TL,パラタイプ,高知県幡多郡黒潮町佐賀漁港,2009年11月15日,採集:町田吉彦.

(守屋 晴)


2021年4月の魚



ネズミゴチ Repomucenus curvicornis
(Valenciennes, 1837)(スズキ目ネズッポ科)

 ネズッポ科Callionymidaeは,20属188種を含み,インド–西太平洋を中心に世界中の暖海に生息しています(Nelson et al., 2016).本科魚類は,体が縦扁する,前鰓蓋骨に強い棘をもつ,前下方へ伸びる口をもつ,体に鱗がない,鰭の形や色に性的二型が表れる,底生性で多毛類などを捕食することなどが特徴です.(中坊・土居内,2013;中坊,2018;Nelson et al., 2016).
 ネズッポ属Repomucenus Whitley 1931は,Callionymus calcaratus Macleay, 1881をタイプ種として設立されました.同科他属とは,第2背鰭軟条数と臀鰭軟条数が共に9,尾鰭中央部先端の軟条が分枝する,前鰓蓋骨棘後端が内側に曲がり内側に大きな突起をもつ[ヤリヌメリRepomucenus huguenini (Bleeker, 1858)を除く],胸鰭の上半分が凹形で下半分が丸形,などの特徴の組み合わせで他属と区別できます(Nakabo,1982; 中坊,2018; 中坊・土井内,2013; Fricke et al., 2021).ネズッポ属の属名にはCallionymusが用いられてきましたが,Nakabo(1982)による分類学的再検討後,地中海や欧州沿岸に生息するCallionymusと日本からインド–西太平洋にかけて生息するRepomucenusに分類されました(Nakabo,1982;中坊,2018).日本ではRepomucenus Whitley, 1931を用いています(本村,2020).本属魚類は,39名義種のうち32種が有効種とされています(Fricke et al., 2021).このうち,日本には,ネズミゴチRepomucenus curvicornis (Valenciennes, 1837),ヌメリゴチRepomucenus lunatus (Temminck and Schlegel, 1845),ハタタテヌメリRepomucenus valenciennei (Temminck and Schlegel, 1845),ヤリヌメリRepomucenus huguenini (Bleeker, 1858),トビヌメリRepomucenus beniteguri (Jordan and Snyder, 1900),ホロヌメリRepomucenus virgis (Jordan and Fowler, 1903),セトヌメリRepomucenus ornatipinnis (Regan, 1905),そしてヘラヌメリRepomucenus planus (Ochiai, 1955)の8種が分布します(本村,2020).
 ネズミゴチR. curvicornisは,日本や朝鮮半島南岸,中国南シナ海の水深100m以浅(15m以深で採集されることは稀)の砂底に生息しており,後頭部に骨質隆起がない,第1背鰭棘が糸状に伸長しない,雌成魚と未成熟魚では第1背鰭の第3鰭膜に白く縁どられた大黒斑があるのに対して雄成魚には大黒斑がなく第1背鰭上縁が黒いなどの特徴から同属他種と区別できます(岡村,1997;中坊,2013;小枝,2020).本種に用いる学名は,Nakabo(1983)によって雄の体側下半分の暗色斜線が多いことからR. curvicornisではなくR. richardsonii Bleeker, 1854を適用すべきとされましたが,後に行われたシンタイプ標本の観察から,R. curvicornisの学名を適用すべきであると結論付けられました(Nakobo, 1983;中坊,2013).
 本種は,天ぷらにすると美味な白身魚ではありますが,底生性のためか定置網に入りにくいうえ,混獲されるものは小型個体が多く,市場に流通することは少ないようです(小枝ほか,2020).一方で,夏のキス釣りの外道として採られることが多いようなので,今年の夏に釣りをする際に狙ってみたいものです.

引用文献
Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2021. Catalog of fishes: genera, species, reference:
http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 18 April 2021.
小枝圭太・畑 晴陵・山田守彦・本村浩之.2020.スズキ目ネズッポ科CALLIONYMIDAE.小枝圭太(編),474–475pp.大隅市場魚類図鑑.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.
本村浩之.2020.日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.560 pp.
Nakabo, T.1982.Revision of genera of the dragonets (Pisces: Callionymidae). Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 27 (1/3): 77–131.
Nakabo, T.1983.Revision of genera of the dragonets (Pisces: Callionymidae). found in the waters of Japan.Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 27 (4/6): 193–259.
中坊徹次・土井内龍.2013.ネズッポ科.中坊徹次(編),pp. 128,1344, 2106–2108.日本産魚類検索全種の同定.第三版.東海大学出版会,秦野.
中坊徹次.2018.ネズッポ科.中坊徹次(編),pp. 384–385 . 小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.
Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.
岡村 收・尼岡邦夫.1997.スズキ目/ネズッポ科.岡村 収(編), pp. 574–575.山渓カラー名鑑 日本の海水魚(第1版).山と渓谷社,東京.

写真標本:BSKU 126694, 120.8 mm SL,高知県土佐市宇佐町萩の茶屋,2019年6月18日,採集・写真撮影:松本元晴.

(深瀬雄大)


2021年3月の魚


サルハゼOxyurichthys saru Tomiyama, 1936(ハゼ目ハゼ科)

 ハゼ目あるいはハゼ亜目 (Gobiiformes or Gobioidei) とされるハゼ類は8〜9科に分類され,極地を除くほぼ全世界から知られる約275属約2,274種以上を含み,未記載種も多く含み分類学的にも著しく混乱しています(Fricke et al., 2021; 渋川,2021).そのため,ハゼ類の総種数は不明で,そのうち日本に分布するものは661種以上と予想されています(瀬能ほか,2021).ハゼ科魚類には左右の腹鰭が癒合して吸盤となるグループが多く,左右が分離する多くのものでも,両鰭間に退縮した癒合膜があること,同目他科に比べて鰓条骨が5本など,多くの骨要素が消失していることなどが特徴です(Pezold and Larson, 2015;渋川,2021).形態的に多様を極め,とりわけ特殊化してきたものは,かつて多くの科や亜科に分けられており,渋川(2021)では,ハゼ科をハゼ亜科Gobiinaeとオクスデルクス亜科Oxudercinaeに分けています.
 サルハゼ属 Oxyurichthys Bleeker, 1857は,ハゼ科オクスデルクス亜科に属し,三大洋の温帯から熱帯にかけて広く分布し,河川汽水域や内湾や陸棚域の泥底に生息します(Pezold and Larson, 2015;渋川,2021;Fricke et al., 2021).同亜科の他属とは,第3神経棘が幅広く,その先端が二叉し,頭部感覚管の開孔がA'BCD(S)FH'からなることで識別できます(明仁親王 in 益田ほか,1984;Pezold and Larson,2015).本属魚類は Pezold and Larson(2015)によって分類学的再検討が行われ,16有効種が認められましたが,検討が十分と言えない種や,未記載種と考えられる種も少なからず残っています(渋川ほか,2017).現在,40名義種のうち20種が有効種として扱われており,日本にはアラガサルハゼOxyurichthys auchenolepis Bleeker, 1876,カマヒレマツゲハゼOxyurichthys cornutus McCulloch and Waite, 1918,ミナミサルハゼOxyurichthys lonchotus (Jenkins, 1903),タテガミハゼOxyurichthys microlepis (Bleeker, 1849),ナガセハゼOxyurichthys notonema (Weber, 1909),マツゲハゼOxyurichthys ophthalmonema Bleeker, 1856,オニサルハゼOxyurichthys papuensis (Valenciennes in Cuvier and Valenciennes, 1837),サルハゼOxyurichthys saru Tomiyama, 1936,シマサルハゼOxyurichthys takagi Pezold, 1998,ゼータサルハゼOxyurichthys zeta Pezold and Larson, 2015,サルハゼ属の1種A Oxyurichthys sp. 1,イレズミサルハゼOxyurichthys sp. 2,ヒメサルハゼOxyurichthys sp. 3,サルハゼ属の1種B Oxyurichthys sp. 4の14種が分布しています(渋川ほか,2017;本村,2020).
 サルハゼOxyurichthys saru Tomiyama, 1936は北太平洋西部に分布しており,第1背鰭棘条は伸長しないこと,体側の被鱗域の櫛鱗部前端は第1背鰭第2棘下に達すること,上顎の後端は瞳後縁を通る垂線よりも後方に達すること,上唇の上縁は全くくぼまないか,僅かにくぼむこと,腹鰭前方部が無鱗であること,体側中央に4個の不明瞭な暗色斑があることなどによって同属他種と識別できます(Pezold and Larson, 2015;渋川ほか,2017).本種はPezold and Larson(2015)によってアラガサルハゼO. auchenolepisの新参異名とされていましたが,明らかに別種であり,顎の大きさ(サルハゼO. saruでは上顎の後端は瞳後縁を通る垂線よりも後方に達するvs. アラガサルハゼ O. auchenolepisでは上顎の後端は眼の中央下に達する程度)や上唇の形状(全くくぼまないかわずかにくぼむ vs. 中央部分で上唇幅の50–80%程度が深くくぼむ),被鱗域(腹鰭前方部が無鱗vs. 腹鰭前方部に円鱗がある)で区別できます(渋川ほか,2017).現在,この種は渋川浩一氏らによって再記載の準備が進められています.本種は野川ほか(2003)によって高知県入野漁港で得られた1標本BSKU 53881を基に,高知県初記録として報告されました.しかし,この1標本はアラガサルハゼO. auchenolepisと同定され,高知県にサルハゼO. saruが分布しないことになるため,再報告をしたいと考えています.
 写真個体は,2013年7月31日に高知県黒潮町の佐賀漁港で採集されました.この日は,コクチフサカサゴやミノカサゴ,サクラダイ,ゲンコ,オキゲンコ,ヒレグロゲンコなども採集されています.今月は申年に関する名前をもつサルハゼを紹介しました.修士課程も残り1年となり,論文の執筆や就職活動など奮起して取り組んでいきたい所存です.

引用文献
明仁親王.1988.ハゼ.益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編),pp. 228–229.日本産魚類大図鑑,第二版(和文解説).東海大学出版,東京.
Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2021. Catalog of fishes: genera, species, reference: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 2 March 2021.
本村浩之.2020.日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.560 pp.
野川悠一郎・遠藤広光・町田吉彦.2003.土佐湾初記録のハゼ科魚類.Bulletin of Marine Sciences and Fisheries, Kochi University, (22): 37–51.
Pezold, F. and H. K. Larson. 2015. A revision of the fish genus Oxyurichthys (Gobioidei: Gobiidae) with descriptions of four new species. Zootaxa, 3988 (1): 1–95.
瀬能 宏・鈴木寿之・渋川浩一・矢野維幾.2021.新版日本のハゼ.平凡社,東京.588 pp.
渋川浩一・武藤文人・鈴木寿之・藍澤正宏.2017.浜名湖から得られたハゼ科サルハゼ属の1未記載種と日本産同属魚類の分類の現状.東海自然史,(10),45–57.
渋川浩一.2021.ハゼの分類について.瀬能宏(監修),pp. 22–23.新版 日本のハゼ.平凡社,東京.

写真標本:BSKU 111032, 69.9 mm SL,高知県幡多郡黒潮町佐賀漁港,2013年7月31日,採集・写真撮影:鈴木貴志・内藤大河.

(幸 大二郎)


2021年2月の魚


イシヨウジ属の一種 Corythoichthys sp.(トゲウオ目ヨウジウオ科)

 ヨウジウオ科 Syngnathidaeは57属298種が知られ,三大洋に分布し,ヨウジウオ亜科 Syngnathinaeとタツノオトシゴ亜科 Hippocampinaeに分類されます(Nelson et al., 2016; Fricke et al., 2021).本科魚類は,体が骨板でできた体輪からなる,小さく管状の口が斜位で歯を欠く,吸い込み型の摂餌をすることなどが特徴です(片山,2018).ヨウジウオ亜科はタツノオトシゴ亜科とは尾鰭があることで(vs. 後者にはない)容易に識別できます(片山,2018).ヨウジウオ亜科は56属244種が知られ,水深 600 m 以浅のサンゴ礁や岩礁域,藻場や砂泥底に生息し,一部の種は汽水域や淡水域に生息します(Dawson, 1985; Fricke et al., 2020).タツノオトシゴ亜科は1属54種が知られ,水深 120 m以浅の岩礁やサンゴ礁域,汽水域などに生息し,海藻やヤギ類に巻き付き生活をします(Dawson, 1985; Fricke et al., 2021).

 イシヨウジ属 Corythoichthys Kaup, 1853は Syngnathus haematopterus Bleeker, 1851をタイプ種として設立されました.ヨウジウオ科の他の属とは,躯幹部と尾部の上隆起線が連続しない,躯幹部中央隆起線が尾部と不連続で肛門輪付近で途切れる,躯幹部と尾部の下隆起線が連続する,臀鰭が通常4軟条,尾鰭が通常10軟条などの特徴によって識別できます(Dawson, 1977).本属魚類は19名義種のうち14種が有効種として扱われており,水深 50 m 以浅のサンゴ礁や岩礁域に生息します(Dawson, 1977; Fricke et al. 2021).そのうち,日本にはキシマイシヨウジCorythoichthys flavofasciatus (Rüppel, 1838),イシヨウジ Corythoichthys haematopterus (Bleeker, 1851),クチナガイシヨウジ Corythoichthys schultzi Herald, 1953,オビイシヨウジ Corythoichthys amplexus Dawson and Randall, 1975,そしてオボロイシヨウジCorythoichthys polynotatus Dawson, 1977の5種が分布しています(本村,2020).Dawson (1977)は本属魚類の分類学的再検討を行い,18名義種のうち10有効種を認めました.その後,Kuiter (2000)はDawson (1977)によって新参異名とされたCorythoichthys conspicillatus (Jenyns, 1842)とCorythoichthys isigakius Jordan and Snyder, 1901,Corythoichthys waitei Jordan and Seale, 1906の3種を有効種として扱い,同時に多くの未記載種の存在を示唆しました.Kuiter (2000)が未記載種とした1種は,Allen and Erdmann (2008)によってCorythoichthys benedetto Allen and Erdmann, 2008として新種記載されました.しかし,Kuiter (2000)の記載に従うと,日本でキシマイシヨウジとされる種に適用する学名がC. conspicillatusとなり,オビイシヨウジに適用する学名がなくなります.また,Kuiter (2000)は図鑑での短い記載によって,それまで新参異名とされた種を有効種として扱いました.そのため,その記載も吻長が少し長いことや,色彩が異なるなど曖昧なものが多く,タイプ標本の計数と計測,標本に基づく再検討を行なっていないようです.ここで,C. conspicillatus, C. isigakius, そしてC. waiteiを新参異名とするDawson (1977)の見解に従うことにします.

 イシヨウジC. haematopterusはインド洋から西部太平洋に分布し,水深 30 m以浅のサンゴ礁や岩礁域に生息します(Dawson, 1977; Fricke et al. 2021).本種は躯幹輪数が通常17,背鰭に暗色の斑点がない,躯幹部腹面の模様が通常第3–5躯幹輪まである,黄色や黄緑色の地色に灰色の網目状模様や赤色の点列が複数あることによって同属多種と識別できます.また,躯幹部腹面の模様は,育児嚢の有無と合わせて雄と雌を識別できる形質です(雄では大きい斑点状の模様 vs. 雌では点が散在する).本種は紫外線によって蛍光する模様をもっており,躯幹部腹面の模様は,餌の供給量を多くして雌雄を一緒に飼育すると,餌の供給が少なく単独飼育の個体よりも模様が大きくなることが知られており,性選択に利用されているようです(Matsumoto et al., 2010).また,分子系統解析によって,本種は2つの異なる系統に分かれる可能性が示唆されました(Sogabe and Takagi, 2013).

 私の卒業研究では,イシヨウジC. haematopterusと同定される種は,形態的に異なる2系統に分かれ,2種は頭長(標準体長の9.3–11.2% vs. 10.8–14.5%),吻長(眼窩後縁–胸鰭基底中央間長の83–99% vs. 100–120%),背鰭軟条数(通常27–28 vs.通常29–31).尾輪数(通常36–38 vs.通常34–36)で明瞭に識別できることを確認しました.前者が未記載種で,後者がイシヨウジC. haematopterusである可能性が高く,今後タイプ標本の調査が必要です.写真個体はそれぞれ,吻長が眼窩後縁–胸鰭基底中央間長の83.6%と86.2%,背鰭軟条数が26と27,尾輪数が37と38であることから,この未記載種に特徴が一致します.また,本属魚類のうち,日本での分布が確認されていないC. intestinalisは,吻が長い種と短い種の形態的に異なる2系統が,キシマイシヨウジC. flavofasciatusは紅海とインド・西太平洋で遺伝的に異なる2系統が含まれる可能性があり,本属の分類学的再検討では,形態形質の検討のみならず,分子系統解析を併用して研究を進めたいと考えています.

 写真個体は,2020年10月16日に高知県幡多郡大月町柏島の白浜海岸で採集されました.白浜海岸は絶景の砂浜で,夏には多くの海水浴客で賑わいます.本個体は岩礁域でのシュノーケリング中に手網で採集されました.この日は,ホソウミヤッコやハコフグ,ヤライイシモチ,カミナリベラ,カモハラギンポなども採集されています. ヨウジウオ科魚類は観賞魚として水族館で展示されたり,漢方に利用されています.一方では,本科では一夫一妻制,雌間競争や雄の配偶者選択など性的役割の逆転が起きており,行動生態学的にも注目されています.今年は干支に関する魚を紹介していこうと考えており,辰に関するリーフィーシードラゴンを紹介したかったものの,日本に分布していないため本種を紹介させていただきました.イシヨウジ属の分類学的再検討を行うために,タイプ標本の計数計測のため海外への標本調査に行きたいところですが,コロナウイルスの影響のため,標本調査に行き難い状況となっております.コロナウイルスの終息後に海外への標本調査に行き,何としてでも本属魚類の分類学的再検討の結果を論文にして投稿する所存です.

引用文献

Allen, G. R. and M. V. Erdmann. 2008. Corythoichthys benedetto, a new pipefish (Pisces: Syngnathidae) from Indonesia and Papua New Guinea. aqua, International Journal of Ichthyology, 3/4 (13): 121–126.

Dawson, C. E. 1977. Review of the pipefish genus Corythoichthys with description of three new species. Copeia, 1977 (2): 295–338.

Dawson, C. E. 1985. Indo-Pacific pipefishes (Red Sea to the Americas). Allen Press Inc, Lawrence, Kansas. vi + 230 pp.

Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2021. Catalog of fishes: genera, species, reference: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 1 February 2021

片山英里.2018.ヨウジウオ科.中坊徹次(編),pp. 188–189. 小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.

Kuiter, R. H. 2020. Seahorses, Pipefishes, and their relatives. TMC Publishing, Chorleywood, UK, 240 pp.

Matsumoto, K., A, Sogabe and Y, Yanagisawa. 2010. Male Ornamentation in a Sex-Role Reversed Pipefish Corythoichthys haematopterus. Ethology, 116: 226–232.

本村浩之.2020.日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.560 pp.

Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.

Sogabe, A. and M, Takagi. 2013. Population genetic structure of the messmate pipefish Corythoichthys haematopterus in the northwest Pacific: evidence for a cryptic species. SpringerPlus, 2: 408.
http://www.springerplus.com/content/2/1/408

写真標本:BSKU 128709,90.2 mm SL, BSKU 128710, 60.6 mm SL,高知県幡多郡大月町柏島白浜海岸,水深1.5 m,手網,2020年10月16日,採集・写真撮影:永江栞奈,井上裕太.

(幸 大二郎)


2021年1月の魚


クロウシノシタ Paraplagusia japonica (Temminck and Schlegel, 1846)(カレイ目ウシノシタ科)

 ウシノシタ科 Cynoglossidaeは,2亜科3属161種,日本からは3属21種が知られ,世界の熱帯から温帯域にかけて分布します(Nelson et al., 2016; 遠藤, 2018; Fricke et al., 2020; 本村, 2020).本科魚類は,体が強く側扁し,眼が左体側にあり,胸鰭を欠き,背鰭と臀鰭が尾鰭と連続するなどが特徴です(遠藤, 2018).また,ウシノシタ亜科は吻が鍵状に曲がり,口が頭部の下方に開きますが,アズマガレイ亜科は口が頭部の先端に開くことで容易に区別できます(Nelson et al., 2016;遠藤, 2018;).前亜科のイヌノシタ属 Cynoglossus Hamilton, 1822とタイワンシタビラメ属 Paraplagusia Bleeker, 1865のほとんどの種は,沿岸から大陸棚の砂泥底までの水深200 m以浅に生息し,後亜科のアズマガレイ属 Symphurus Rafinesque, 1810は大陸棚縁辺から斜面上部のおよそ水深1046 mまでの採集記録があります(Nelson et al., 2016; 遠藤, 2018; Fricke et al., 2020).

 タイワンシタビラメ属は Pleuronectes bilineatus Bloch, 1787 をタイプ種として設立され,イヌノシタ属 Cynoglossusとは有眼側の口唇に触髭があること(vs.後者にはない)で識別できます(山田・柳下, 2013; Nelson et al., 2016).本属17名義種のうち6種が有効種であり,そのうち日本周辺にはチンゼイシタビラメParaplagusia bilineata (Bloch, 1787), ナンヨウウシノシタParaplagusia bleekeri Kottelat, 2013, そしてクロウシノシタ Paraplagusia japonica (Temminck and Schlegel, 1846) の3種が分布します(Nelson et al., 2016; Fricke et al., 2020; 本村, 2020). そのうち, クロウシノシタは,パプアニューギニア,海南島以北の中国東シナ海・南シナ海沿岸,朝鮮半島,北海道子樽–九州南岸の日本海・東シナ海沿岸,および北海道–九州南岸の太平洋沿岸に分布し,水深65 m以浅の砂泥底に生息します.本種は Philipp F. B. von SieboldとHeinrich Burgerがオランダへ持ち帰った長崎県産の標本をもとに,Fauna Japonica(日本動物誌)の中で記載されました. しかし,タイプ標本の指定がされず,後にオランダのライデン国立自然史博物館のキュレーターであった Marinus Boseman 博士によってレクトタイプ(RMNH D 1299)が指定され ています(Boeseman, 1947).本種は有眼側の有孔側線が3本,無眼側の背鰭,臀鰭,および尾鰭が黒色で縁辺が白色などの特徴によって同属多種と識別できます(Voronina et al., 2016; 遠藤, 2018; Fricke et al, 2020).さらに,本種は3年で体長26–29 cmに,最大で40 cmに達し,ウシノシタ科では大型種です(坂本,1997; 遠藤,2018).

 写真標本は2020年11月21日に高知市の春野漁港で採集されました.2016–2017年の期間に本研究室のメンバーによって漁港内の魚類相調査が行われ,54科97種の魚類が確認されています(松沼ほか, 2017).しかし,その際には本種は確認されていませんでした.2017年以降も継続的に魚類相調査を行なっており,松沼ほか (2017)において確認されていなかった種も多数採集されています.仔魚期に黒色素胞の出現や胸鰭の消失が起こり, 稚魚期では体全体に白色斑が散在しますが,成長につれて これらが消失し一様に黒褐色となります(南,2014).

 ウシノシタ科魚類は一般的に言うシタビラメの仲間であり,フランス料理でよく利用され,一般にムニエルの食材として有名です.今年は丑年ということで「ウシ」とつく名前の魚を紹介しました.干支は12種,1年も12ヶ月ということで2021年の今月の魚は干支に関する魚を紹介していくのもいいかもしれませんね.

参考文献

Boeseman, M. 1947. Revision of the fishes collected by Burger and Von Siebold in Japan. Zoologische Mededelingen (Leiden) , 28: i-vii+1-242, pls.1-5.

遠藤広光.2018.ウシノシタ科.中坊徹次(編),pp. 466–467. 小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.

Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2020. Catalog of fishes: genera, species, reference: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 12 January. 2020.

松沼瑞樹・内藤大河・佐藤真央・水町海斗・山本祥代・泉 幸乃・山川 武・遠藤広光・佐々木邦夫.2017.高知県高知市春野漁港内で採集された魚類.Nature of Kagoshima, 44: 47-71.

南卓志.2014.ウシノシタ科.沖山宗雄 (編),pp. 1488-1495. 日本産稚魚図鑑.第2版.東海大学出版,秦野.

本村浩之.2020.日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.560 pp.

Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.

坂本一男.1997.ウシノシタ科.岡村収・尼岡邦夫(編),pp. 682–684.山渓カラー名鑑 日本の海水魚.山と渓谷社,東京.

Voronina, E. P., A. M. Prokofiev and V. P. Prirodina. 2016. Review of the flatfishes of Vietnam in the collection of Zoological Institute, Saint Petersburg. Proceedings of the Zoological Institute, Russian Academy of Sciences, 320 (4): 381-430.

山田梅芳・柳下直己.2013.ウシノシタ科.中坊徹次(編),pp. 1693-1698, 2233-2234.日本産魚類検索全種の同定.第三版.東海大学出版会,秦野.

写真標本:BSKU 129120, 63.4 mm SL, 高知県高知市春野漁港(手網),2020年11月21日.採集・写真撮影:幸 大二郎.

(幸 大二郎

クロウシノシタの成魚

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