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2023年12月の魚

シマベニカワムキ Triacanthodes ethiops Alcock, 1894(フグ目ベニカワムキ科)

 この魚研ホームページで開設準備段階の2001年6月から始まった「今月の魚」も,時々途切れながらも今回で200種となりました.先月11月に高知市御畳瀬漁港の大手繰り網で採集され,蒲原稔治博士と御畳瀬とも関係する稀種のシマベニカワムキを紹介します.私も生鮮時の標本を見たのは,今回が初めてでした.

 ベニカワムキ科  Triacanthodidae は11属24種を含み,多くの種は10 cm前後の小型のフグ目魚類で,通常は大陸棚から斜面のおよそ水深 100 mから600 mの海底上に生息します(Matsuura, 2014, 2022;Fricke et al., 2023).「ベニカワムキ」は名前の通りに,頭と体の背側が赤く,その皮膚は丈夫で複数の微小な棘を備えた小鱗で覆われます.しかし,カワハギのように皮がむけるのかは,試したことがありません.また,本科魚類はフグ目内ではギマ科のギマ Triacanthus biaculeatus (Bloch, 1786) と同様に,背鰭と腹鰭の棘がよく発達しています.他のフグ目魚類の腹鰭の鰭条は,モンガラカワハギ科やカワハギ科では極めて痕跡的で通常の鰭条がないか,フグ科やハコフグ科などでは腰帯とともに完全に消失するので,これら2科と他のフグ目の科を見分けるよい識別形質です.

 ベニカワムキ科11属のうち,ベニカワムキ属 Triacanthodes Bleeker, 1857は,日本周辺にも分布するベニカワムキ Triacanthus anomalus (Temminck and Schlegel, 1850)(タイプ産地は日本)をタイプ種として設立され,インド・西太平洋から次の4有効種が知られています(林・萩原,2013; Matsuura, 2022): ベニカワムキ T. anomalus(西太平洋に分布),シマベニカワムキ T. ephiops Alcock, 1894(インド・西太平洋,タイプ産地はベンガル湾),T. indicus Matsuura, 1982(南西インド洋,サヤ・デ・マルハ・バンク),そして T. intermedius Matsuura and Fourmanoir, 1984(南西太平洋,ニューカレドニア).そのうち,日本周辺にはベニカワムキとシマベニカワムキの2種が分布します(林・萩原,2013).前者はシーボルト(P. F. B. von Siebold, 1796-1866)の時代に日本からヨーロッパへ持ち帰られた1標本を基に,1842年から1850年に出版された「Fauna Japonica Pisces日本動物誌 魚類」の中で記載されました.その命名者は,当時のライデン博物館館長(オランダ)のテミンク(C. J. Temminck, 1778-1858)と脊椎動物の標本管理者のシュレーゲル(H. Schlegel, 1804-1884)の2人です.一方,シマベニカワムキは蒲原稔治(1901-1972,本研究室の初代教授)により,高知市御畳瀬漁港の底びき網漁(大手繰り網)で漁獲された3標本(全長107 mm,タイプとされた93 mm,そして19 mm)のうちの1標本を基に,ベニカワムキの亜種 Triacanthodes anomalus japonicus Kamohara, 1943として記載されました.その後,この種は T. ephiopsの新参異名とされて,蒲原博士が提唱した「シマベニカワムキ」がその標準和名となっています(林・萩原,2013).

 
図1.蒲原(1949)「土佐の魚」の口絵のシマベニカワムキ.

 シマベニカワムキベニカワムキによく似ていますが,生鮮時に見られる体側の黄色縦線が3本(後者では2本),眼径が吻長よりも短い(後者では等しいかわずかに短い),そして両眼間隔域が平らかでわずかに膨らむ(後者では丸く膨らむ)などの特徴で識別できます(林・荻原,2013).また,前者では生鮮時に尾鰭が明瞭に赤く縁取られること(後者では薄く不明瞭)もわかりやすい特徴です.蒲原博士が1949年に出版した「土佐の魚」には,表紙の後にシマベニカワムキの彩色画があります(図1).これは本種の原記載の線画を基にしたもので,今回の写真個体の赤色や黄色の縦縞,背鰭や臀鰭,尾鰭が部分的に赤色となる特徴がよく一致します.1943年に記載された T. anomalus japonicus のホロタイプと他2標本は,1945年7月4日の高知大空襲ですべての魚類標本と共に焼失したので,蒲原博士はこの魚に思い入れがあったのかもしれません.蒲原(1949: 104)の「土佐の魚」を見ると,当時はまだシマベニカワムキがギマ科に含められ,次のような解説があります:「普通種であるベニカワムキ(学名省略)によく似ているが,両眼間隔が狭い.体側には二条の茶褐色の縦走帯と三条の黄色の縦走帯があり,尾鰭は完全に赤色で縁取られる.十一糎(cm)のもので土佐以外からはまだ知られていない.(口絵)」.その後,Kamohara (1961)は自身が戦災前に命名した種のうち,49種の標本を集め直してネオタイプに指定しました.その論文の中で,BSKU 7170(標準体長123 mm,1957年3月11日に御畳瀬で採集)をシマベニカワムキのネオタイプとしました.しかし,これらのネオタイプはリストに基づき指定され,分類学的な再検討論文でのものではないため(かつネオタイプ指定が必要な場合に限る),国際動物命名規約の条件を満たさず無効となっています.

 シマベニカワムキはインド・西太平洋では散発的に記録され,アフリカ西岸と南岸,ベンガル湾,オーストラリア,ニューカレドニア,インドネシア,フィリピン,そして日本近海では土佐湾と東シナ海から標本が知られています(Kamohara, 1943;山本ほか, 2000;林・荻原, 2013).しかし,T. ephiops の原記載を見ると,ベンガル湾産のホロタイプの体サイズは40 mm より小さく,体色が一様に青黒色とあり,その図版からは頭部が体長の半分程度とかなり大きいことがわかります.この土佐湾産の本種の写真個体とは,体型も著しく異なるので,このホロタイプは稚魚なのでしょう.また,現在T. ephiopsの新参異名とされる学名は,Paratriacanthodes myersi Fraser-Brunner, 1941(タイプ産地はインドネシア)と T. anomalus japonicus Kamohara, 1943の2つがあります(Fricke et al., 2023).山本ほか(2000)は「西海区水産研究所ニュース」の表紙となったシマベニカワムキの写真解説で,Tyler (1968) が挙げた T. ephiops のいくつかの特徴と東シナ海産の標本のものとの不一致を示して,本種とされる東シナ海産と南シナ海以南で採集された標本について,成長変異を加えて再検討が必要としました.そのためか,写真のキャプションの学名と命名者の後に,クエスチョンマークを付けています.本属の研究が進めば,日本のシマベニカワムキの学名が変わるかもしれません.そうなると,日本産の本種は T. anomalus japonicus の亜種小名が種小名にランクアップして,  T. japonicus Kamohara, 1943となる可能性があります.

参考文献

Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2023. Catalog of fishes: genera, species, reference: https://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Accessed 23 December 2023.

林 公義・荻原清司.2013.ベニカワムキ科.中坊徹次(編),pp. 1699-1701, 2234-2235.日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会,秦野.

Kamohara, T. 1943. Some unrecorded and two fishes from Prov. Tosa, Japan. Bull. Biogeogr. Soc. Jpn., 13 (17): 125-137.

蒲原稔治.1949.土佐の魚.高知県文教協会,高知.158 pp.  表紙1表紙2

Kamohara, T. 1961. Notes on the type specimens of fishes in my laboratory. Rep. Usa Mar. Biol. Sta., 8(2): 1-9, pls. 1-7.

Matsuura, K. 2014. Taxonomy and systematics of tetraodontiform fishes: a review focusing. primarily on progress I the period from 1980 to 2014. Ichthyol. Res. DOI 10.1007/s10228-014-0444-5 (published on line: 11 November 2014) (62: 72-113, 2015)

Matsuura, K. 2022. Family Triacantodidae. Pages 408-413 in P. C. Heemstra, E. Heemstra, D. A. Ebert, W. Holleman and J. E. Randall, eds. Coastal fishes of the Western Indian Ocean. Volume 5. South African Instutute for Aquatic Biodiversity, Makhanda.

Matsuura, K. and J. T. Tyler. 1997. Tetraodontiform fishes, mostly from deep waters, of New Caledonia. No. 9. In B. Seret (ed.). Resultats des Campagnes MUSORSTOM, Volum 7. Mem. Mus. Natn. Hist. nat., 174: 173-208.

Tyler, J. C. 1968. A monograph on plectognath fishes of the superfamily Triacanthoidea. Monographs of the Academy of Natural Sciences of Philadelphia, (16): 1-364.

山本圭介・堀川博史・越智洋介・山田梅芳.2000.シマベニカワムキ Triacanthodes ethiops. Alcock? 西海区水産研究所ニュース,(102): 1. LINK

写真標本:BSKU 134858, 129.2 mm SL,2023年11月22日,高知市御畳瀬漁港(大手繰り網,司丸),土佐湾中央部,水深約 140 m.採集者:誓山泰地・熊木慧弥.

(遠藤広光)


2023年11月の魚

アカムツ Doederleinia berycoides (Hilgendorf, 1879)(スズキ目ホタルジャコ科)

 今年も早いものでもう霜月になってしまいました.今月は食欲の秋にぴったりな,土佐のおいしい魚の代表である赤いダイヤことアカムツ Doederleinia berycoides (Hilgendorf, 1879)を紹介します.本種はスズキ目ホタルジャコ科アカムツ属に分類され,背側と鰭が赤く,下顎先端に棘がない,臀鰭棘が3本,肛門が臀鰭起部の付近に位置する,および体が櫛鱗で覆われることなどで,日本産の同科の他種と識別できます(波戸岡,2013).本種は最大で50cm,2キロぐらいに達し,体長30cm以上の個体はすべて雌で,雌雄により体サイズが異なることが知られています(山田ほか,2007).本種は青森県から九州南岸にかけての日本海・東シナ海沿岸、北海道から九州南岸にかけての太平洋沿岸などの西太平洋およびオーストラリア北西のインド洋に分布しており,水深60~600mの大陸棚および大陸斜面に生息しています(波戸岡,2018).

 アカムツは名前にムツがついていますが,ムツ Scombrops boops (Houttuyn, 1782)やクロムツ Scombrops gilberti (Jordan and Snyder, 1901)などが含まれるムツ科とは全く違う魚です. 本種は北陸地方では口腔内が黒色であるため「のどぐろ」と呼ばれ,大きいものはキロ1万円以上で取引させている超高級魚です(宮川,1999).近年では船釣りの対象魚としても人気で,本県では地元の釣具企業である SEAFLOOR CONTROL(シーフロアコントロール)が主催者となり,『室戸市長杯のどぐろジギング祭』を開催しています.アカムツの食べ方について地元の漁師さんに伺ったところ,刺身で食べるより軽くあぶって食べるのがおすすめとのことでした.実際,筆者が室戸で釣ったアカムツをあぶって食べてみたところ,ややこりっとした食感と上品な脂が口のなかに広がり,頬っぺたが落ちるぐらい美味でした.皮を軽くあぶったときの香りは果実のような甘みを感じ,匂いだけでご飯を何杯も食べることができます.ぜひ皆さんも,この冬にアカムツを食べてみてはいかがでしょうか.ここだけの話ですが,魚研の遠藤先生もアカムツは大好きです.

参考文献

波戸岡清峰.2013.ホタルジャコ科.中坊徹次(編),pp. 446-473, 1859.日本産魚類検索.全種の同定.第3版.東海大学出版,秦野.
波戸岡清峰.2018.ホタルジャコ科.中坊徹次(編),pp. 230-231.小学館の図鑑Z.日本魚類館.精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.
宮川逸雄.1999.土佐魚を味わう.高知新聞社,高知.159 pp.
山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次.2007.東シナ海・黄海の魚類誌.東海大学出版,秦野.1262 pp. 

写真標本:BSKU 133340, 191.3 mm SL, 高知市御畳瀬漁港(大手繰り網漁),2023年4月17日,採集者 守屋 晴.

写真:御畳瀬漁港で出荷されるアカムツ(左)とハダカイワシ(右)

(誓山泰地)


2023年10月の魚 




トガリエビス Sargocentron spiniferum (Forsskal, 1775)
(キンメダイ目イットウダイ科)

 今回は尖った恵比寿の紹介です. イットウダイ科 Holocentridaeは,世界の熱帯から亜熱帯水域に生息し,イットウダイ亜科とアカマツカサ亜科の2亜科から構成され,前者には3属(ノボリエビス属 Holocentrus,イットウダイ属 Sargocentron,およびウケグチイットウダイ属 Neoniphon)が,後者には5属(ヤスリエビス属 Corniger,アカマツカサ属 Myripristis,エビスダイ属 Ostichthys,リュウキュウエビス属 Plectrypops,およびヤセエビス属 Pristilepis)が分類され,合計8属約80種が知られています(上野・佐藤,1983;Nelson et al., 2016;本村,2023).日本ではイットウダイ属 Sargocentron,ウケグチイットウダイ属 Neoniphon,アカマツカサ属 Myripristis,エビスダイ属 Ostichthys,リュウキュウエビス属 Plectrypops,ヤセエビス属 Pristilepisの 6属41種,高知県では6属25種が記録されています(蒲原,1960;平田ほか,1996;本村,2023). 今回紹介するトガリエビス Sargocentron spiniferum (Forsskal, 1775)は,イットウダイ亜科イットウダイ属で,前鰓蓋骨隅角部に強く長い1 棘がある,背鰭棘条部の最終棘が最終棘直前の棘と第 1 軟条の中間にある,背鰭棘条部中央下の側線上方横列鱗数が 3.5,後鼻孔の縁辺に小棘がない,背鰭棘の鰭膜に切れ込みがある,主鰓蓋骨棘が 2 本という特徴から同属他種と識別できます(林,2013).本種の体色は鮮やかな赤色であり,特に背鰭棘条鰭膜背ではその傾向が強いです.背鰭棘条部を除いた各鰭は赤色を基調にやや黄色味を帯びます(特に小型の個体ほど黄色).また,標準体長150 mm前後までの個体では,背鰭第1棘条から第3棘条間の鰭膜に黒斑があり,成長に伴って消失します(松永・遠藤,2023). トガリエビスはインド・太平洋の熱帯・亜熱帯の浅海域(一部温帯水域を含む)に広く分布し,日本では八丈島,小笠原諸島,三重県(熊野灘),和歌山県白浜,高知県,宮崎県(日向灘),宇治群島,大隅諸島,トカラ列島,奄美群島(奄美大島,徳之島,沖永良部島),沖縄諸島(沖縄島),慶良間諸島,および八重山諸島(石垣島, 与那国島)から記録されています(Randall, 1998;林,2013;江口・本村,2016;本村,2023).高知県からの記録について,松永・遠藤(2023)は土佐市宇佐町と香南市夜須町から採集された7標本をもとに四国初記録として報告し,そのほかにも2023年8月に幡多郡大月町柏島から難波拓登氏によって1個体が採集されています(BSKU 134515).生息環境は浅海域の岩礁・サンゴ礁であり,日中は岩などの隙間に潜み,夜間に行動します(小枝,2018;吉野・瀬能,2018).トガリエビスは本州では刺し網,琉球列島では電灯潜り漁や釣りを中心に漁獲され,少数ではありますが流通します(下瀬,2021).本種はイットウダイ科の中でも大型種であることから,沖縄県では同科他種と明確に区別されており,市場価値は高いです.現地で漁業関係者などに聞き取りをしましたが,トガリエビスの他,アオスジエビス Sargocentron tiereやクラカケエビス Sargocentron caudimaculatumなど比較的大型の種ほど認知されている傾向があります.本科魚類は高知県では「グソク」,「グソクダイ」,そして「ヨロイ」といった地方名があり,これらは丈夫な鱗で被われた姿が武者の具足や鎧を連想させることに由来するようです(蒲原,1950;平田ほか, 1996).その他にも,アカマツカサ属魚類は柏島で「ハリメ」,沖ノ島で「メッチ」,そして須崎などで「カゲキヨ」,エビスダイOstichthys japonicusは浦戸湾周辺で「マンダイ」,須崎で「カゲキヨ」の地方名があるようです(蒲原,1950).トガリエビスについては2022年以前の記録がないため,特に地方名は確認できませんでした.所変わって沖縄県では,イットウダイ属の種を「アカイユ(赤魚)」,アカマツカサ属を「ミンタマーアカイユ」とまとめて呼びます.しかし,その中でもトガリエビスには固有の呼び名が多く,もっとも有名なものは八重山諸島での「ハマサキノオクサン」です.その他に宮古島では「ハスナガ」,沖縄本島では「マシラカー,マサヤー」といったものがあります(三浦,2012;高橋,2014;下瀬,2021).これらのことからも,沖縄県では水産上かなり重要視されている魚と言えるでしょう.また,八重山諸島での地方名の「ハマサキノオクサン」については,名前の由来を解説した漫画が作成されたそうです(下瀬,2021).イットウダイ科のファンとしては,何としても手に入れたいものです.

 トガリエビスの味については以前から気になっていましたが,本土ではなかなか流通しないため入手が難しいです.そのため,今夏沖縄本島に赴いた際に,那覇市内の泊いゆまち市場で1匹を購入し,マース煮と刺身で味わってみました(写真).マース煮では白身が程よい柔らかさで,旨みが強く大変美味です.ただ,皮がかなり分厚く,一緒に食すのはお勧めしません.この魚の白身は加熱すると程よい柔らかさになりますが,刺身では硬く締まって歯応えがあり大変美味です.私が食べたことのある魚の味で一番近いものは,同じ目に属する高級魚キンメダイBeryx splendensです.そのため,トガリエビスが沖縄では高級魚として扱われるのも納得しました.今後入手する機会があれば,他の調理法も試してみたいところです.

 さて,いよいよ季節は秋を迎え,漁港の岸壁では今年産まれたイットウダイ科の未成魚たちが多くみられるようになってきました.南方から漂着する無効分散の仔稚魚の採集時期も,終わりに近づいています.個人的には,日本初記録のイットウダイ科魚類を狙ってみたいところです.去年は10月と11月にトガリエビスとの出会いがありましたが,今年は何に出会えるのか楽しみです.

引用文献

江口慶輔・本村浩之.2016.琉球列島におけるイットウダイ科魚類相.Nature of Kagoshima, 42: 57-112.

林 公義.2013.イットウダイ科,pp. 579-591, 1897-1899.中坊徹次(編)日本産魚類検索 全種の同定.第 3 版.東海大学出版会,秦野.

日比野友亮・長野 淳.2020.三重県熊野灘で水揚げされた熱帯・亜熱帯性魚類.Niche Life, 7: 28-33.

平田智法・山川 武・岩田明久・真鍋三郎・平松 亘・大西信弘.1996.高知県柏島の魚類相 行動と生態に関する記述を中心として.高知大学海洋生物教育研究センター研究報告,16: 1-177.

蒲原稔治.1950.土佐及び紀州の魚類.高知県文教協会,高知.288 pp.

蒲原稔治.1960.高知県沖ノ島及びその付近の沿岸魚類.高知大学学術研究報告,9(自然科学I)(3): 15-30.

小枝圭太.2018.イットウダイ科,pp. 176−177.中坊徹次(編) 小学館の図鑑 Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.

松永 翼・遠藤広光.2023.四国初記録となるトガリエビスと成長に伴う形態変化に関する新知見.Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 34: 9-14.

三浦信男.2012.知念市場の魚たち 沖縄県南城市知念漁協魚市場 美ら海市場図鑑.ウエーブ企画,与那原町(沖縄県).140pp.

本村浩之.2023.日本産魚類全種目録.これまでに記録された日本 産魚類全種の現在の標準和名と学名.Online ver. 21. (11 September 2023)

Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.

Randall, J. E. 1998. Revision of the Indo-Pacific squirrelifishes (Beryciformes: Holocentridae: Holocentrinae) of the genus Sargocentron, with description of four new species. Indo-Pacific Fishes, 27: 1-105.

下瀬 環.2021.沖縄さかな図鑑.沖縄タイムス社,那覇.208pp.

高橋そよ.2014.魚名からみる自然認識:沖縄・伊良部島の素潜り漁師の事例から.地域研究,13: 67-94. 

上野輝彌・佐藤陽一.1983.イットウダイ科.上野輝彌・松浦啓一・藤井英一(編),pp. 272-276.スリナム・ギアナ沖の魚類.海洋水産資源開発センター,東京.

吉野雄輔(写真・解説)・瀬能 宏(監修).2018.山渓ハンディ図鑑13 改訂版日本の海水魚.山と渓谷社,東京.543pp.

写真標本: BSKU 132797,43.5 mm SL,高知県香南市夜須町,手結漁港,2022年11月16日,採集・写真撮影:松永 翼; BSKU 134515,90.2 mm SL,高知県幡多郡大月町柏島,2023年8月15日,採集:難波拓登,写真撮影:松永 翼. 料理写真:調理・撮影:松永 翼.

(松永 翼)


  2023年9月の魚



ミズウオ Alepisaurus ferox Lowe, 1833(ヒメ目ミズウオ科)

  高知県では夏から初秋にかけて,台風の猛威により強風が吹き荒れ,大波が押し寄せることがあります.今回は時期こそ違えど,そんな風の強い日に海岸で出会える魚をご紹介します.

 ミズウオ科魚類 Alepisauridaeは口が大きく,両顎歯がよく発達し,胸鰭が低く腹鰭に近く,脂鰭をもち,そして体が無鱗で著しく長いなどの特徴で他科から容易に区別されます(中坊・甲斐,2013).本科魚類は世界中の表層から中深層に広く分布し,日本近海からはミズウオ属のミズウオ Alepisaurus ferox Lowe, 1833, キバハダカ属のキバハダカ Omosudis lowei Gunther, 1887,ミズウオダマシ属のミズウオダマシ Anotopterus nikparini Kukuev, 1998,そしてクサビウロコエソ属のクサビウロコエソ Magnisudis atlantica (Kroyer, 1868) の4属4有効種が知られています(本村,2023) . そのうち,ミズウオ属魚類は体が著しく細長く,巨大な背鰭をもち,そして下顎が上顎よりわずかに前に出ることで同科他属と区別され,世界では ミズウオ A. feroxAlepisaurus brevirostris Gibbs, 1960の2有効種を含みます.ミズウオは三大洋の表層から中深層にかけて広く分布し,日本では北海道のオホーツク海沿岸,北海道から土佐湾までの太平洋岸沖,そして東シナ海にかけての水深 1830 m 以浅から記録されています (中坊・甲斐,2013;Stewart, 2015;Koeda, 2019;尼岡ほか,2020;本村,2023).

 ミズウオ属魚類の化石は,長野県上田市中部中新統伊勢山層から口蓋骨化石として知られ,ソコダラ科やハダカイワシ科の耳石の化石と共に産出します(鈴木,2008).この口蓋骨の化石は,前方と後方にそれぞれ1,2本の大きな犬歯と後方に5から9本の小歯があり,現生種ではそれらの歯が成長に伴い数に変化があることなどから本属の幼魚と同定され,約2,300万年前から約500万年には誕生していたと考えられています(Gibbs, 1966;鈴木, 2008).

 ミズウオの属名 Alepisaurus は,ギリシャ語で「a 否定」+「lepis 鱗」+「saura トカゲ」=鱗の無いトカゲの複合語を意味し,ミズウオ科の特徴である無鱗に由来しています.そして種小名の ferox は,ラテン語で「大胆不敵な,凶暴な」という意味をもちます(中坊・平嶋,2015).

 ミズウオの体節的形質や外部形態のいくつかには,個体変異や地理的変異が知られています.例えば,背鰭棘条数(北西太平洋産では32-41 vs. 北西大西洋産では35-45 vs. インド洋産では37-48),鰓耙数(北西太平洋産の上枝では3-7,下枝では15-27,合計では20-29),そして背鰭前方鰭条の伸長(する vs. しない)などの特徴です.19世紀に世界中の研究者により分類された結果,現在のミズウオ属は 3属10種以上にまで増えてしまいました(藤田,1996).20世紀中頃までミズウオ属魚類の分類は混乱を極めましたが,アメリカ国立自然博物館のR. H. Gibbs, Jr.博士は世界中のミズウオ科の7名義種のタイプ標本を調査し,Alepidosaurus aesculapius Bean, 1883,Alepidosaurus borealis Gill, 1862,Alepidosaurus poeyi Gill, 1863,Alepisaurus azureus Valenciennes, 1850,Alepisaurus richardsonii Bleeker, 1855 ,Alepisaurus altivelis Poey, 1860 ,Alepidosaurus serra Gill, 1862 を,Alepisaurus ferox Lowe, 1833ミズウオの新参シノニムとしました.また,Gibbs (1960)は本属の分類学的再検討の中で,新種 Alepisaurus brevirostris Gibbs, 1960 を記載し,本属に2種を認めました.この種は背鰭始部が頭部の前方にあることで,頭部の後方にあるミズウオと区別されます(Gibbs,1960;久保田,2019a).ちなみに,A. brevirostrisには「ツマリミズウオ」という和名が付けられています.この和名は南大洋のミナミマグロ漁場で行われる延縄漁や炭素・窒素安定同位体比調査で,ミナミマグロと共に混獲されるミズウオ属2種を区別するために付けられたものです.しかし,本種は日本に生息しないため,「ツマリミズウオ」が標準和名ではありません(清田・南, 2001;伊藤,2012;南ほか,2014).

 通常ミズウオは水深 1830 m 以浅の深海に生息し,冬期の駿河湾や和歌山県南部では沿岸に流れる湧昇流と共に表層へ移動するため,スキューバダイビングで撮影されたり,強風に吹かれ表層の海水と共に海岸に生きたまま打ち上げられることで知られています(益田・小林,1994;久保田・佐藤,2008) .打ち上げられたミズウオは,哺乳類や鳥類,昆虫などの陸上生物に捕食され生態系の糧となることがほとんどですが,獲物を見境なく捕食し咀嚼することなく丸呑みすることから,胃内容物が比較的綺麗に残るため,研究者が解剖し胃の中から多数の標本を得てきました(久保田ほか,2016).ミズウオの胃内容物からは刺胞動物,有櫛動物,環形動物,節足動物,軟体動物,棘皮動物,脊索動物,そして魚類と多種多様な動物が出現します(Kubota and Uyeno,1970;Fujita and Hattori,1976;久保田・佐藤,2015;久保田ほか,2018). ミズウオが打ち上がる時期には,その胃の中から得られる貴重な標本を得るため深夜に砂浜へ繰り出す方々を毎年見かけます.ミズウオの胃の内容物からは,サクラエビやカタクチイワシ,キアンコウといった水産重要種が得られることが多いですが,過去には原記載に用いられた23標本のうち16標本 (30-44 mm SL) がミズウオの胃の内容物から得られたオオバンシマガツオ Brama pauciradiata を始め,南西太平洋から得られたミズウオの胃の内容物から得られた標本を基に記載され,現在までミズウオの胃からのみ発見されているミズウオヒレギレイカ Chtenopteryx sepioloidea,ミズウオから発見された個体が太平洋初記録および 9 例目の発見例だったオナガイカ Joubiniteuthis portieri,ミズウオの胃内容物から発見され記載されたコガタツメイカ Onychoteuthis meridiopacifica などミズウオから発見され論文として報告された生物も少なくありません(奥谷・久保田,1972;ランクレール・奥谷,1990;Moteki et al., 1995;Jereb and Roper, 2010;Hibino et al., 2014).1950年代の駿河湾では,ミズウオが海岸へ打ち上げられると2,3日後に雨が降ると言われ,漁師の天候の指標となっていた記録があります.他にも打ち上げられたミズウオの胃内容物から駿河湾内の生物相を把握し,出漁の基準にした記録があり,ミズウオの打ち上げは古くから人間にとって様々な情報源だったことが窺えます(田中・阿部,1955;久保田ほか,2018).

 ミズウオは多い年では60個体以上が海岸に打ち上げられ,古くから生態学的な研究が進められています.駿河湾に打ち上げられる個体は,体長約 550~1250 mm(多くが 800~1100 mm)の生殖腺が未熟な個体ばかりで,発達した生殖腺をもつ体長1250 mm 以上や550 mm 以下の個体の発見例は皆無と言えます.しかし,北太平洋や南東太平洋の外洋で得られたミズウオの胃内容物の構成では,ミズウオの幼魚が13-16%を占め,ミズウオの生息海域の生物相を顕著に示すその胃内容物からは,ミズウオの成魚と幼魚が同海域に生息することが判明しています.駿河湾で打ち上げられたミズウオの胃内容物からは,ミズウオの幼魚は過去1例しか知られていません(岸本, 2017;久保田, 2019b).したがって,ミズウオの成熟個体や幼魚は駿河湾には生息しておらず,湾内では繁殖していないことが示唆されています(Kubota and Uyeno, 1970) .

 ミズウオという標準和名は,筋肉中の水分含有量が93~94%と非常に高いことに由来します.ミズウオを三枚卸しに捌き,切り身を置いておくと水が染み出してくるほどです.このため,一般には美味と言われておらず,塩焼きでは焼くと途中で水分が染み出し,煮付けでは身の水分で煮汁が薄くなり,散々な評価を受けています.しかし,藤井(1984)を見ると,駿河湾の漁師は好んで食べると書かれており,筆者自身もミズウオを味醂干しや香辛料で味付けした干物などへ加工して水分を落とし,美味しく食べた経験があります.現在,漁獲されたミズウオの多くは未利用魚であるため,美味しく料理する情報を発信し,少しでもその廃棄を減らしていきたいですね.

参考文献

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写真標本:BSKU 131682, 913 mm SL, 2022年3月31日,高知県室戸市三津沖,釣獲:戎井 聡,寄贈:饗場空璃,展鰭・撮影:熊木慧弥.

(饗場空璃) 


2023年7月の魚




アマノガワクラカケトラギスParapercis lutevittata Liao, Cheng and Shao, 2011
(スズキ目トラギス科)

 通学中,宇佐の海岸からは室戸岬や土佐湾に浮かぶ積乱雲が見え,今年も夏の到来を感じます.7月の行事といえば七夕.天の川に隔てられた織姫と彦星が年に一度だけ逢うとされ,なんともロマンチックな伝説は人々の心を惹き付けます.ところが,実際はこれら2つの恒星の間には約14.4光年(1光年:約9兆4600億km)もの距離があり,たとえ光の速さをもってしても年に一度の逢瀬は叶いません.まぁ,こんなことを言っても嫌がられるでしょうから,もう少し夢のある話をしたいものです.今回は,「海の底にも天の川があった」という話です.

 トラギス科 Pinguipedidaeは,ハワイ,ニュージーランドおよびチリ沖を含むインド-太平洋,南アメリカ大陸とアフリカ大陸の大西洋沿岸の暖海域に分布する体長10-30 cm程度の小型底生性魚類で,7属 100種が知られ,このうち日本からは 3属 30種が報告されています(Nelson et al., 2016;Fricke et al., 2023;本村,2023).本科の形態的特徴には,体が細長く円筒形,吻が長く端位,腹鰭が胸鰭直下あるいはやや前方に位置し,1棘5軟条,背鰭基底が長く4-7棘19-27軟条,臀鰭が1-2棘17-25軟条,側線が途切れず完全,左右の鰓膜が癒合する,脊椎骨数が30-37であることなどが挙げられます.本科には,雌性先熟雌雄同体性 protogynous hermaphrodites が知られており(Stroud, 1982;Randall, 2001;片山,2018),雄は縄張り意識が強く,ハーレムを形成します(Clark et al., 1991;Ohnishi et al., 1997).本科の分類史は,18世紀にまで遡り,Esox chilensis Molina, 1782とMugil chilensis Molina, 1782が記載されたことに始まります.その後,Lacepede(1803)がMugiloidesを設立し,タイプ種に指定された M. chilensis は属名が変更され Mugiloides chilensis (Molina, 1782)とされました.Cuvier(1829)は Pinguipes brasilianus Cuvier, 1829をタイプ種に Pinguipes を設立し,さらに Pinguipes chilensis Valenciennes, 1833が記載されました.しかし,Guichenot(1848)は根拠を明示せずに E. chilensisP. chilensis が異名関係にあるとし,その後の複数の研究(例えば,Gunther, 1860;Evermann and Radcliffe, 1917;Jordan, 1917)がこれにしたがっています.現在の科名 Pinguipedidae を最初に提唱したのは Boulenger(1901)ですが,Jordan(1917)はGuichenot(1848)の結論(E. chilensisP. chilensisの異名関係の提唱)に追加するかたちで M. chilensis も異名関係にあるとし,先取権の原理に基づいてMugiloidesが有効,Pinguipesは無効としました.続いてJordan(1923)は,Mugiloidesをタイプ属に指定してMugiloididaeを設立,Pinguipedidaeを無効としました.これに対し,Rosa and Rosa(1987)は,本科の関連する名義種のタイプ標本と文献を調査しており,P. chilensis vs. E. chilensisでは原記載の内容から明らかに形質が異なると判断でき,これら2種の異名関係を否定しました.また,後者についてはタイプ標本がないため,疑問名 nomen dubium(すなわち主観的無効名)として扱うことを提案しています.さらに,P. chilensis vs. M. chilensis では,原記載における後者の形質と通俗名 vernacular nameがボラ科Mugilidae魚類によく類似していることを指摘し,これもタイプ標本はないものの,異名関係を否定しています.したがって,有効属を含む適切な科名は Pinguipedidae と結論しました.

 トラギス属 Parapercis は74種を含むトラギス科最大の属であり,日本からは28種が知られ,岩礁域や砂泥底に生息します(Randall, 2001;Nelson et al., 2016;本村,2023)).いずれも肉食性で,おもにエビ・カニ類の小型底生性甲殻類や小型魚類を捕食します.本属は犬歯状歯が上顎前部では単列をなし,下顎では左右 3-5本で遠心側が最も長い,背鰭基底が長く4-5棘16-20軟条で,軟条が棘条よりも明瞭に長い,臀鰭が1棘16-20軟条,尾鰭形状は丸みを帯びるものから二叉するものまで様々,体の大部分が櫛鱗で被われるが,胸部から腹部にかけては円鱗が見られるなどの特徴から同科他属と識別できます(Heemstra, 1986;Randall, 2001).

 アマノガワクラカケトラギス Parapercis lutevittata Liao, Cheng and Shao, 2011は,クラカケトラギス Parapercis sexfasciata (Temminck and Schlegel, 1843)の隠蔽種であったことを出自としますが,記載前からその存在が示唆されていました.クラカケトラギスは,Von Siebold(1796-1866)とBurger(1806-1858)がオランダへ持ち帰った長崎県産のサンプルをもとに,C. J. Temminck (1778-1858)とH. Schlegel (1804-1884)が「Fauna Japonica(日本動物誌)」の中で記載しました.その後,ライデン国立自然史博物館の学芸員であったMarinus Boeseman(1916-2006)によって,シンタイプ5標本(剥製標本3個体・蒸留酒液浸標本2個体)の中から,レクトタイプ(RMNH D746)が指定されました(Boeseman, 1947).この際,Boesemanは,RMNH 4836が他4個体とは色彩がことなると指摘しています.Kai et al.(2004)は,クラカケトラギスに同定される個体群に色彩2型(morphotype A,morphotype B)があることを指摘し,高知県土佐湾産のサンプルを用いてミトコンドリアDNAのコントロール領域(mtCR)の前半部分(ca. 400 bp)の塩基配列を比較しました.その結果,2型間のmtCRの分岐12.7-14.9%に対し,各型内の分岐はそれぞれ0.0-0.5%,1.0-2.5%とはるかに小さく,オキトラギス Parapercis multigfasciata Doderlien, 1884を外群にして近隣結合法で構築した分子系統樹では各型は単系統を成し,本種に隠蔽種の存在を示唆する結果を得ました.morphotype Aでは,高いハプロタイプ多様性(0.8167±0.0952%),低いヌクレオチド多様性(0.3146±0.2356%)および小さい最小スパニングツリーから,集団にボトルネック効果が作用し,少数の祖先から突然変異が蓄積したことが示唆されました.一方,morphotype Bでは高いハプロタイプ多様性(1.00±0.0147%),高いヌクレオチド多様性(1.8674±1.0155%),および拡大した最小スパニングツリーが認められ,morphotype Aよりも安定して個体数を維持してきた古く大きい集団であることが示唆されました.本研究では,ボトルネック効果について,最終氷期におけるカイアシ類の個体群動態を例として引用しており,本種の分布,生活史,および生態学的知見が得られれば,さらなる考察ができると先の展望を述べています.この結果を受けて,Liao et al.(2011) はクラカケトラギス色彩2型から形態と分子の両方で隠蔽種を比較し,クラカケトラギスの形質に一致するのはmorphotype Bであるとしました.この研究では,morphotype A vs. P. sexfasciata (= morphotype B)は,次の形態的差異で識別可能とされました:背鰭軟条基部の鰭膜に暗色斑がない(vs. 8個の暗色斑がある);体側中央部に黄色縦帯が不規則に連続する(vs. 14-15本の黄色の線がある);V字帯の上方や間に多数の小黒点が散在する(vs. ない);胸鰭基部に多数の小黒点がある(vs. 1つの黒斑がある).また,ミトコンドリアDNAのCOI(cytochrome c oxidase subunit I)遺伝子領域(633 bp)を用いた分子系統解析では,2型間での塩基配列の分岐は7.9%,各型内ではそれぞれ0.1%,0.2%とはるかに低く,さらに近隣結合法によっても明瞭な2つのクレードを得ることができ,morphotype Aの種としての有効性を認め,この未記載種に学名 P. lutevittata Liao, Cheng and Shao, 2011を与えました.しかし,Liao et al.(2011)は高知県土佐湾産の標本を扱ったものの新標準和名を提唱せず,この半年後に荻原・遠藤(2011)が本種の鹿児島県志布志沖からの記録とともに,新標準和名アマノガワクラカケトラギスを提唱しました.この標準和名は,本種の体側にはしる黄色縦帯が天の川を連想させることにちなみ,種小名“lutevittata”はおそらくラテン語の “luteus 黄金色の” + “vittatus リボンで飾られた”の複合語が語源と思われます.英名はYellow-striped sandperchといい,やはりこの形質に由来します.私としては,このV字帯がWalt Disney(1901-1966)が生んだ世界的人気キャラクターのシルエットに見えるのですが,黄色縦帯を天の川に見立てるのであれば,V字帯はその光を遮る暗黒星雲といったところでしょうか?こういうものには,人の様々な感性が垣間見えるので面白いですね.あとは魚の気持ちを知りたいものですが….

  決して手の届かない星空は,まさに神々の世界であって,生物学とは関係がないように思えるかもしれませんが,生命を取り巻くあらゆる事象の起源を辿れば,宇宙という1つの系に私たちが属している事実を実感できます.宇宙と切り離して生命の真理をつまびらかにすることはできません.現在,人類は宇宙の5%しか知りませんが,もっと身近な海洋についても5%程度しかよく分っていないといいます.天の川銀河に住む私たちは,川に棲む小魚よりもずっと小さな存在であると思わされます.さて,現代の七夕は,明治時代の改暦で7月7日をそのまま新暦に当てはめてしまったために梅雨の時期に重なり,残念ながら天の川は雲に隠れがちです.しかし,短冊に込めたあなたの願いごとはきっと天まで届くことでしょう.

 七夕には梶の葉に和歌をしたためて星に捧げる習慣もあったそうです.ご一緒に,一首いかがですか?

引用文献

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写真標本 BSKU 109860, Parapercis sexfasciata, 193.0 mm SL, 2013年3月7日,高知県高知市御畳瀬漁港,大手繰網,幸成丸,鈴木貴志. BSKU 123503, Parapercis lutevittata, 122.6 mm SL, 2018年2月21日,高知県高知市御畳瀬漁港,大手繰網,司丸,松沼瑞樹・内藤大河・泉 幸乃・山口 輝・鈴木隆介・小泉雄大.
 
(山口 蓮)


23年6月の魚


ナマズ Silurus asotus Linnaeus, 1758
(ナマズ目ナマズ科)

 今回は,黒く細長い体に長い髭,小さな目がチャームポイントのナマズをご紹介します.

 ナマズ科魚類 Siluridaeは世界に広く分布し,大きくなる種や食料として重要である種が含まれており,多くの国々で食されています(白井ほか,2000;Hibino and Tabata, 2018).本科には世界で13属106有効種が知られ,日本ではナマズ属 Silurus の4種が在来種として分布します(川瀬,2018):ナマズ Silurus asotus Linnaeus, 1758,ビワコオオナマズ S. biwaensis   (Tomoda, 1961),イワトコナマズ S. lithophilus (Tomoda, 1961),そして2018年に新種記載されたタニガワナマズ S. tomodai Hibino and Tabata, 2018(Ferraris, 2007;Hibino and Tabata, 2018;Fricke et al., 2023).本属魚類は,背鰭が小さい,臀鰭基底が長く,尾鰭と連続し,その間に欠刻がある,胸鰭棘に鋸歯がある,下顎が上顎よりも長い,上顎の髭が発達し,その先端が鰓蓋後縁を超える,そして下顎に1対の髭をもつことが形態的特徴です(日比野,2017).本種はほかの在来3種とは,鋤骨歯帯が連続する(vs. 3種では不連続),眼が側方に突出せず,腹面から見えない(vs. 見える),尾鰭上葉が下葉と同じ長さ(vs. 長い)により区別できます(細谷,2013;Hibino and Tabata, 2018).

 ナマズはおよそ50−70 cm程度にまで成長し,両生類や魚類,甲殻類などをおもな餌とします.また,その成長は非常に早いことが知られ,1年で約10 cm以上になります(川瀬,2018).ナマズの分布域は日本では南北海道から九州と広く,国外では中国,台湾,韓国,そしてベトナム北部でも報告されています(Ferraris, 2007).意外なことに,かつては全国で見られる魚ではありませんでした.江戸時代ごろに関東地方に人為的に移されるまでは,東海地方以西の本州,四国,九州に自然分布しており,大正時代末期に北海道まで分布を拡大したといわれています(川瀬,2018).ナマズの産卵時期は5−7月にかけて,雨の後などの増水時に一時的に水につかるような浅い水域で夜間に卵を産みます(片野ほか,1988;川瀬,2018).舟尾・沢田(2013)によると,1970年代からの水田の整備により,産卵場所となる水域が失われ,個体数も緩やかに減少してきたようです.

 ナマズは全身に約20万個の味を感じる器官(味蕾)をもつことが知られ,これは脊椎動物の中では最も多く,ヒトの舌がもつ約1万個と比べるといかに多いかがわかります(田口,2021).また,髭には味覚と触覚が備わり,これらを駆使して餌を探すと考えられています(藤谷,1967).これらの感覚に加えて,ナマズには微弱な電気を感じ取る機能も発達しています.ナマズが地震の前に暴れる現象は昔から観察されていますが,これは地震による振動や刺激により興奮状態となることが原因と推測されています(浅野,1987).ナマズの髭については,未知な部分が多いのが実情です.研究が進み,地震予知にナマズが役立つといいですね.

 ナマズと聞けばすぐに姿をイメージできる方も多いのではないでしょうか?「ナマズが騒ぐと地震が起きる」という迷信はよく知られていると思います.また,「鯰絵」として浮世絵や絵画に描かれていることからも,昔から人々に親しまれていたことがうかがえます.ナマズは見た目からは想像もつかない上品な白身で,天ぷらやすき焼き,から揚げなどがとてもおいしい魚です.その美味しさから,種苗生産もされているほどです.皆さんもぜひ一度試してみてください.その美味しさに驚くことでしょう.昨今,豪快に水面を割ってルアーに飛びかかる姿から,ゲームフィッシュとしても人気になりつつあります.食べてよし,釣ってよしのナマズが生息するには,豊かな生態系が欠かせません.古くから親しまれてきたナマズが生息できる環境をいつまでも残していきたいですね.

引用文献

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田口 哲.2021.ナマズ.田口 哲(著),井田 斎(監修),pp. 158-159.フィールドガイド 日本の淡水魚図鑑.誠文堂新光社,東京.

写真標本:BSKU 133897,392.9 mm SL,2023年6月15日,高知県高知市朝倉本町,手網,採集:小川峻輔,橘皆希,饗場空璃,撮影:小川峻輔.

(小川峻輔) 


2023年5月の魚





カワムツ
Nipponocypris temminckii (Temminck et Schlegel, 1846) (コイ目コイ科)

 コイ科 Cyprinidaeは世界では156属1782有効種が,日本では26属71種・亜種が記録されており,魚類の中ではハゼ科に次いで有効種が多い分類群となっています(本村,2023).本科魚類はおもにメキシコ南部以北の北アメリカ,ユーラシア大陸,そしてアフリカ大陸の淡水域に広く分布し,一部の種は汽水域に出現することが知られています(Nelson et al., 2016).カワムツ属 Nipponocyprisは,日本ではヌマムツ Nipponocypris sieboldii (Temminck et Schlegel, 1846)とカワムツNipponocypris temminckii (Temminck et Schlegel, 1846)の2種のみが知られています(本村,2023).カワムツ属の属名であるNipponocyprisは,日本(Nippon)+コイ属(Cyprinus)の2語から構成されています.元々,カワムツとヌマムツは同種とされ,オイカワ属(Zacco)に含められていました.しかし,2000年頃に両種での交雑がないことや鱗の細かさ,臀鰭分枝軟条数,体側の縦帯,胸鰭・腹鰭の前縁,そして生息環境などの違いから2種に分類され,2008年にはオイカワ属からカワムツ属へと変更されました(細谷,2019).しかし,系統分類学的に属名を分ける根拠が明確でないことから,Candidiaという属名に変更すべきとの意見もあるようです(細谷,2013).

 日本では,カワムツは静岡県・富山県以西の本州,四国,九州,淡路島,小豆島,および五島列島などに分布しています.成魚は10-20 p ほどに成長し,メスよりもオスの方が大きくなるようです.体色は背側が黄褐色で,腹側がメスや若魚では銀白色,オスの成魚では赤色となり,体側には太い縦帯をもちます.写真の個体は産卵期の魚類に見られる婚姻色をもつ個体で,頬部や臀鰭に追星も表れています.カワムツの産卵期は5月中旬から8月下旬で,雌雄一対のペアを作り,河川の流れの緩い浅瀬や平瀬の砂礫で産卵を行います(田口,2021).産卵場所では,ペアを作ることができなかったオスに卵を食べられてしまったり,オイカワのオスが割り込んで放精して交雑が起こるといった現象もあるようです.しかし,オイカワよりも近縁であるヌマムツとの間では,交雑が起こらないようです.人ではじっくりと観察しないと近縁の2種を見分けられませんが,この2種同士はお互いに別種だと瞬時にわかるのかもしれませんね.

 カワムツという和名は,海に生息するムツに対し,川に生息するムツであることからその名が付けられました.しかし,カワムツと聞いて,どんな魚か思い浮かばない人もいるかもしれません.実は,このカワムツには様々な地方名が存在します.筆者の地元の高知では,人の姿を見ると素早く岩や木の陰に隠れることからハヤと呼ばれていますが,単にムツやモツ,あるいはネコクワズやザコの呼び名もあるようです.これらはカワムツのみを指す地方名ではなく,恐らく釣りの外道として扱われることから付けられたのでしょう.あまり食用とされない魚ですが,きれいな川に生息しいるものは,天ぷらやから揚げ,甘露煮として食べる地方もあるようです.市場で流通することはないため,釣れた時には一度食べてみるとよいかもしれません.

参考文献

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本村浩之.2023.日本産魚類全種目録.これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.Online ver. 20.https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/jaf.html. Accessed 26 May. 2023.

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田口 哲.2021.カワムツ.田口 哲(著),井田 齊(監修), p. 122. フィールドガイド 日本の淡水魚図鑑.誠文堂新光社,東京.

写真標本:BSKU 120707,114.0 mm SL, 2016年7月15日,高知県高知市竹崎,採集:佐藤真央;BSKU 132391,157.2 mm SL,2022年5月25日,高知県大川村瀬戸川,釣り,採集・写真撮影:筒井優太郎.

(筒井優太郎)


2023年4月の魚


 
コバンザメ Echeneis naucrates Linnaeus, 1758
(スズキ目コバンザメ科)

 「生物学」に括られる学問を学んだ人であれば,相同性 homology という用語を知っているでしょう.ある形質が共通の祖先に由来することを指し,例えば,ヒトの手(腕),馬の前肢,鳥の翼は,物を掴む,歩行,飛行というそれぞれ異なる特化した機能をもつものの,元を辿れば祖先である魚類の胸鰭から進化したとされ,互いに相同器官 homologous organと呼ばれます.相同性は,たいていの教科書では,私たちヒトがもっている器官を例にするので,まったく別の分類群で話をすれば,意外な例もあるかもしれません.今回は,それに関連したお魚です.

 スズキ目コバンザメ科 Echeneidaeは,世界の暖海域の沿岸域から外洋域にかけて広く分布し,3属8種が知られ,このうち日本からは,3属7種が報告されています(Nelson et al., 2016;波戸岡,2018;Fricke et al., 2023;本村,2023).名前のせいで勘違いされやすいのですが,硬骨魚綱に属し,いわゆる「サメの仲間」ではありません.本科の形態的特徴には,頭部に発達した吸盤をもつ,体が細長い,下顎が突出する,鰓条骨は8-11本,第2背鰭と臀鰭は軟条のみからなる,体が微小な円鱗に被われる,側線は尾部までほぼ直線ではしる,鰾をもたない,脊椎骨数が26-40(腹椎骨+尾椎骨は 12-18+14-22)などが挙げられます(Collette, 1999;McEachran and Fechhelm, 2005;波戸岡・甲斐,2013;波戸岡,2018).本科は,コバンザメ亜科 Echeneinae とナガコバン亜科 Remorinae から構成され,コバンザメ亜科は,標準体長が体高の8-14倍(vs. ナガコバン亜科は5−8倍),胸鰭先端が尖る(vs. 鈍く丸い),体色は通常暗色で,体側に白く縁取られる縦帯がある(vs. 単一色で,縦帯がない),臀鰭基底長が長く,29-41軟条(vs. 短く,18-28軟条),尾鰭は幼魚では尖形,成魚では截形(vs. 幼魚では二叉形,成魚では湾入形かそれに近い浅い二叉形)であることによって分類されます(Collette, 1999).

 Johnson (1984)とSmith-Vaniz (1984)は,形態に基づく系統解析を行い,コバンザメ科がスギ科 Rachycentridae,シイラ科 Coryphaenidaeと単系統(コバンザメ上科Echeneoidea)を作り,この分類群は,アジ科Carangidaeの姉妹群であると結論しました.さらに,O’ Toole (2002)は,コバンザメ上科内の類縁関係を検討し,((コバンザメ科+スギ科)+シイラ科)とする結果を明らかにしました.一方,Gray et al. (2009)とBetancur-R. et al. (2013a, b)は分子系統解析を行っており,前者は4種,後者(a, bとも)は21種のミトコンドリアおよび核DNAの遺伝子領域を用い,いずれも((スギ科+シイラ科)+コバンザメ科)として類縁関係を示唆しました.すなわち,O’ Toole (2002)と分子系統解析の結果は異なっている反面,これら3科が近縁である点については,多くの研究によって支持されています.

 コバンザメ科は,頭部の吸盤で他の動物に吸着する生態で非常に有名であり,その宿主には大型魚類(サメ類,エイ類,カジキ亜目,サバ亜目),ウミガメ類,クジラ類などが挙げられ,人工物である船舶にも付随・吸着します.幼魚期には,キンチャクダイなどの小型魚類にも吸着することが知られています.また,吸着した際の姿勢はまちまちで,宿主の背側に吸着して上下逆さまになったり,水族館では水槽の壁面や底面に吸着している姿も見かけます.おそらく,何かしらに吸着していると安心するのでしょう.かわいいですね.この生態は,摂餌や体力の節約に有利と考えられ,片利共生 Commensalism の典型例と言えるでしょう(McEachran and Fechhelm, 2005;吉野,2018).

 スズキ目魚類の背鰭は通常,棘条部と軟条部からなりますが,コバンザメ科魚類の背鰭は軟条のみで構成されており,「消えた棘条のゆくえ」と「吸盤の筋肉が,それより後方の後頭神経と前脊髄神経に支配されている事実」を上手く説明するために,今日では,吸盤は第1背鰭に由来する相同器官とした学説が有力視されています.そのため,本科魚類の背鰭は1基にも関わらず,「第2背鰭」と呼ばれることもあります.吸盤と背鰭の相同器官説は,de Blainville (1822)やVoigt (1823)が最初期に提唱し,その後も多くの研究者に受け入れられていますが,吸盤を構成する骨格要素の形状を根拠に相同性を疑う見解(例えば,Kner, 1861, 1862)も存在しました.近年では,吸盤を構成する骨格要素の相同性を検討するために,Britz and Johnson (2012)がナガコバン属 Remora の3種と,北米大陸に分布する Morone americana (Gmelin, 1789)(スズキ系 Percomorpha)の背鰭棘の発生初期段階を比較しました.背鰭担鰭骨(神経間棘)interneural ray,介在骨 intercalary bone,櫛状板 pectinated lamellaeの3つの最小単位から隔壁の役割を担う「板状体」が作られ,これが多数配列することで吸盤を構成しています.比較の結果,本科の吸盤を構成する背鰭担鰭骨はMoroneを含む他の硬骨魚類の近担鰭骨 proximal-middle radialsと,介在骨 intercalary bonesは遠担鰭骨 distal radialsと,櫛状板 pectinated lamellaeは棘鰭条とそれぞれ相同であると結論しました.吸盤を構成する骨格要素は,吻部側から尾部側に向かって分化が進み,体長約14 mmで吸盤の原型ができ,体長約 30 mmで櫛状板の棘状突起が発達していることが確認できます.なお,吸盤の介在骨の遠心側には一対の大きな翼状突起があり,これはコバンザメ科特有の骨格構造であるとも述べています.

 上の写真に示したように,本科の吸盤を背側から見ると,多数配列した板状体が確認できます.分かりにくい方のために私たちの身近な物で例えると,ヴェネツィアン・ブラインド(家屋の窓に設置する多数の板を重ねた日よけ)が構造的によく似ています.通常,板状体は魚体の後方に向かって倒れており,吸盤を正中線に沿って切断して断面を見れば,その様子がよく確認できます.この吸盤面が宿主に密着し,筋肉と摩擦によって各板状体が起き上がることで吸盤内の空間が広がり,内部の水圧が外部より低くなって吸着力が発生します.この時,吸盤の前部1/3の板状体が比較的大きい角度で起き上がることで強く吸着し,前方からの水流による浸水をシャットアウトします(Britz and Johnson, 2012).この吸着力は,極めて強力ではありますが,吸盤の前方向への摩擦を吸着力の発生源とする性質上,逆方向の摩擦では十分な吸着力は得られず,あるいは吸着した宿主が急停止した場合は,慣性の法則によって引き剥がされてしまうことも想像できます.とはいえ,高速で遊泳する宿主に振り落とされず,かつ宿主より少し早く泳ぐだけで離脱を可能にする吸盤は,理に適った構造と言えるでしょう.まさに,自然が生み出した機能美ですね.

 吸盤の吸着力の強度については,Fulcher and Motta (2006)が測定実験を行っています.この研究では,宿主が無鱗の魚類の表皮と楯鱗(いわゆる鮫肌)とで,吸着力にどのような差異が生じるか知見を得ることを目的としており,コバンザメとEcheneis neucratoides Zuiew, 1786の2種(吸盤表面積は平均16.9 cm2)を用い,水深 30 cmにて,アクリル板とカマストガリザメ Carcharhinus limbatus (Valenciennes, 1839)に吸着させ,その吸着力の強度を測定しました.その結果,同じ状況下では2種間の吸着力に差異は認められず,外力を加えない場合は,どちらの宿主でも平均-0.5 kPaを超えることはほぼありませんでした.一方,宿主が遊泳している状況を再現するために尾柄部を後方に引っ張ると,アクリル板では平均-92.7 kPa,カマストガリザメでは平均-46.6 kPaの値を示しました.アクリル板の方が大きな吸着力を示したのは,表面が滑らかでより密着するためと考えられ,これは海抜0 mにおける真空圧(-101.3 kPa)に迫る値となります.ちなみに,シリコン製の吸盤でも同等の値を示し,人工物に匹敵する性能を誇ることになります.ただし,楯鱗の場合は,粗い表面によって摩擦が大きくなり,宿主から引き剥がすとなると,アクリル板から外す力(11.2 N)よりも大きな力(17.4 N)が必要になると示唆されました.板状体を起き上がらせる筋肉はもつものの,根本的な吸着の原理が生体外で起きる物理現象であるため,組織固定前であれば吸着力は死後も保たれており,標本作製中も流し台や容器,ヒトの肌にまでペタペタとくっつきます(櫛状板の棘状突起が食い込んで少し痛いので,ご注意ください)(写真).この場合も,魚体を前方向に引っ張ると簡単に取り外すことができます.

 コバンザメ属は,コバンザメEcheneis naucrates Linnaeus, 1758とEcheneis neucratoides Zuiew, 1786の2種から構成され,これらは,コバンザメは吸盤の板状体数が21-28で通常23(vs. E. neucratoides は18-23で通常21),背鰭鰭条数が33-45で通常39(vs. 32-41で通常36),臀鰭鰭条数が31-41で通常36(vs. 30-38で通常33),背鰭・臀鰭・尾鰭の先端のみが白色(vs. 白色の領域が広い)であることによって識別され,コバンザメは三大洋に分布しますが,E. neucratoides は西大西洋からのみ知られています(McEachran and Fechhelm, 2005;Fricke et al., 2023).コバンザメは,本科の最大種で最大で1 m程度にまで成長します(Nelson et al., 2016).本科は,宿主が種によって異なり,コバンザメは通常大型のサメ類を選びますが,しばしば自由遊泳も行います.食性は肉食で,ニシン科など表層性魚類を捕食し,吸着時は宿主のおこぼれに与ります(波戸岡・甲斐,2013;波戸岡,2018).

 コバンザメの学名Echeneis naucratesの語源は,ギリシャ語の「echeneis 船を引き留める」+「naukrates 海を制するもの」とされています(中坊・平嶋,2015).ずいぶん壮大な種小名のわりに大型魚に吸着する生き様には,少なからずギャップを感じませんか?現在,有効種とされている魚類で“naucrates”の名をもつ魚は,実はもう1種存在し,ブリモドキ Naucrates ductor (Linnaeus, 1758)と呼ばれる魚です.ブリモドキは,コバンザメと外見こそ全く違うのですが,大型魚に付随して泳ぐ性質をもつため,ブリモドキの分類学的研究を行っているとある学生は,「コバンザメ的な生態をもつ魚」というのを研究対象の紹介の常套句としています.今ではコバンザメの知名度が圧倒的に高く,ブリモドキを知る人は少ないように思いますが,古い時代には身近な魚だったようです.GPS,ソナー,気象予報等がなく,今より海難事故が多かった時代,船が陸に近づくとブリモドキが周囲を泳ぎ始めることから,船乗りたちは「船を無事に港まで送り届けてくれる魚」として本種を“pilot fish”(水先案内人の魚)と呼びました.一方,船底に吸着するコバンザメは「船の航行速度を遅らせる魚」と信じられていました.この伝説はギリシャ語の “echeneis”を本来の“holding on to ships”(船にしがみつく)ではなく,“holding back ships”(船を引き留める)と誤訳してしまったことが由来とされますが(Copenhaver, 1991),吸着する様子があまり見た目の良いものでなく,不気味に思えたのかもしれません.これら2種は,三大洋に分布するため,当時の船乗りたちは行く先々でこの光景を目にしたことでしょう.当然,どちらも種としての生態に過ぎませんが,昔の人々は,コバンザメとブリモドキが神秘的な力をもつと信じていたと思えば,「海を制するもの」という種小名にも納得できそうです.また,標準和名「コバンザメ」の語源は,背側から見た吸盤が小判に似ているため,というのは有名ですが,これはかつて小判が流通した日本ならではの名称です.英名では“shark sucker”(サメに吸い付くもの)といい,生態に焦点を当てたものです.さらに,コバンザメ科の英名は“remora”といい,これはラテン語の“remorai”(障害物,妨害,遅延させる)が語源で,やはり先述の伝説に由来します.

 写真個体は,2021年11月27日に愛媛県宇和島市で小川 寛さんが釣獲し,そのお嬢様で本研究室の卒業生である小川春奈さんが研究室に寄贈してくれたものです.ほとんど損傷のない極めて良質なサンプルを頂きました.今一度お礼申し上げます.本研究室が所有する魚類標本コレクションは,本稿執筆完了時点で13万3442点を数えます.これらは,本研究室の教員と学生が日々採集を行って拡充に努めているものですが,各地の漁獲物を寄贈してくださる方々や漁港の皆様,外部の研究・教育機関のご厚意とご協力に支えられてこそのものです(『今月の魚』2020年7月の魚も併せてご覧ください).この春から始まった連続テレビ小説『らんまん』(NHK)では,「この学問には標本がようけ要る」と語られましたが,まさに分類学の基本と極意を伝えています.この学問を学ぶ者は,また違った目線でこの作品を観ているのかもしれませんね.こうして蓄積された標本コレクションは,世代を超えて未来の研究者にも活用されていくことでしょう.

 さて,2023年度が始まりましたね.今年はどんな魚を見られるのでしょうか.とても楽しみです.

引用文献

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中坊徹次・平嶋義宏.2015.日本産魚類全種の学名 語源と解説.東海大学出版部,秦野.372 pp.

Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th edition. John Wiley & Sons, Hoboken, New Jersey. xli + 707 pp.

O’ Toole, B. 2002. Phylogeny of the species of the superfamily Echeneoidea (Perciformes: Carangoidei: Echeneidae, Rachycentridae, and Coryphaenidae), with an interpretation of echeneid hitchhiking behaviour. Can. J. Zool., 80 (4): 596-623.

Smith-Vaniz, W. F. 1984. Carangidae: Relationships. Pages 522-530 in H. G. Moser, W. J. Richards, D. M. Cohen, M. P. Fahay, A. W. Kendall Jr. and S. L. Richardson, eds. Ontogeny and systematics of fishes. Am. Soc. Ichthyol. Herpetol., Lawrence.

Voigt, F. S. 1823. System der Natur und ihre Geschichte. Jena: Aug. Schmid. 866 pp.

吉野雄輔.2018.コバンザメ科.瀬能宏(監修)p. 161. 山渓ハンディ図鑑13 改訂版日本の海水魚.山と渓谷社,東京.

写真標本:BSKU 131249, 301.6 mm SL, 2021年11月27日,愛媛県宇和島市遠戸島(菰渕矢々浜),釣獲.採集・寄贈:小川 寛,小川春奈,展鰭・撮影:山口 蓮,井上裕太.

(山口 蓮)

2023年3月の魚

オオスジイシモチ Ostorhinchus doederleini (Jordan and Snyder, 1901)(スズキ目テンジクダイ科)

 テンジクダイ科魚類(Apogonidae)は,体が側偏し,眼と口が大きく,基本的には背鰭が2基あることが特徴です.また,本科は分類の再検討がなされ,現在世界の暖海に4亜科39属約360種が知られています(吉田・馬渕,2018).本科魚類は体長が5〜10pの種が多く,おもに沿岸の岩礁域やサンゴ礁海域に生息し,日中は岩の隙間や水中洞窟などの暗所に潜み,夜間に外に出て摂食します.そのため,本科魚類では,腸管につながる発光器が複数の系統で進化しており,多くの属では餌生物に由来する発光化学物質を使って光ります.しかし,ヒカリイシモチ属では,共生細菌による発光が知られています.テンジクダイ科の分類の再検討が行われる前には,現在分けられた多くの属がテンジクダイ属(Apogon)に含められていました.学名の由来はギリシャ語で否定のa+ヒゲを意味するpogonを合わせた言葉になり,ヒゲをもたない魚という意味になります(中坊・平嶋,2015).

 スジイシモチ属 Ostorhinchus Lacepede, 1802は本科の再検討によりテンジクダイ属から分けられて独立属とされ,馬渕ほか (2015)により属の和名が新たに提唱されました.この属は93種が含まれる大きなグループで,そのうち26種が日本沿岸で記録されています (馬渕ほか,2015).また,この属の多くの種では体側に何本かの縦帯と尾柄に黒斑がひとつあり,尾鰭が二叉することが特徴です. オオスジイシモチ Ostorhinchus doederleini は,体側に5本の黒褐色縦帯,尾柄部に瞳大の1個の黒斑がみられることが特徴です.春から夏の産卵期には,雌雄のペアが形成されます.雌の積極的な求愛を経て産み出された卵塊は,雄の放精により直ちに受精すると,雄が口内に含みます.雄は1週間から10日程度の孵化までの間は単独で口内保育し,絶食状態になります.しかし,雄は孵化する前の卵塊を時々すべて食べてしまうことがあるそうです.

 オオスジイシモチの分布は広く,西太平洋やインド洋のオーストラリア沿岸(南岸を除く),西大西洋の温帯から亜熱帯域から知られています.日本国内では,本種は房総半島から屋久島までの太平洋沿岸,島根県から長崎県までの日本海から東シナ海の沿岸に分布します(馬渕ほか,2015).写真標本は2021年10月2日に高知県須崎市大谷の中ノ島漁港で採集されました。

参考文献
Jordan, D. S. and J. O. Snyder. 1901. A review of the cardinal fishes of Japan. Proceedings of the United States National Museum, 23 (1240): 891-913, pls. 43-44.
馬渕浩司・林公義・T. H. Fraser.2015.テンジクダイ科の新分類体系に基づく亜科・族・属の標準和名の提唱.魚類学雑誌,62(1): 29-49.
中坊徹次・平嶋義宏.2015.日本産魚類全種の学名 語源と解説.東海大学出版会,秦野. 372 pp.
吉田朋弘・馬渕浩司.2018.テンジクダイ科.中坊徹次(編),pp. 248-250.小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京 .

写真標本:BSKU 130738, 103.4 mm SL,2021年10月2日,高知県須崎市大谷,中ノ島漁港,水深 3〜10 m,釣り,熊木慧弥・高梨佑真・津野義大・深瀬雄大・井上裕太.

(坂本椋平)


2023年2月の魚

テングダイ Evistias acutirostris (Temminck and Schlegel, 1844)(スズキ目カワビシャ科) 

 皆さんは「天狗」という日本の妖怪を知っているでしょうか?多くの人は,赤ら顔で鼻が長く,翼の生えた姿を想像するのではないかと思います.また,人を魔道に導く魔物としても知られており,少し怖い印象が強いかもしれません.しかし,鎌倉時代にはあの源義経を修業させたとも言われており,鍛錬が好きな努力家という一面も合わせ持っています.今回は,そんな天狗に因んだ魚についてのお話です.

 スズキ目カワビシャ科 Pentacerotidaeは,世界で7属13種,が知られ,インド・太平洋と南西大西洋の大陸棚上から斜面上部の砂泥底や岩礁域に生息しています(Nelson et al., 2006;遠藤,2018).日本では,カワビシャ属 Histiopterus,テングダイ属 Evistias,ツボダイ属 Pentaceros,そしてクサカリツボダイ属 Pseudopentacerosの4属が知られ,テングダイはテングダイ属に含まれます.本科の形態的な特徴には,体高が高く,強く側扁し,体が小櫛鱗で被われる,頭部の骨が露出するなどが挙げられます(遠藤,2018;波戸岡・柳下,2018).また,本科は英語圏では「armourheads」,特にオーストラリアでは「boarfish」と呼ばれており,前者は骨質状の頭部から,後者は突出した吻部をイノシシに見立てたことから名付けられました(Hardy, 1983; Nelson et al., 2006).

 テングダイ Evistias acutirostris (Temminck and Schlegel, 1844) は,テングダイ属唯一の種で,形態の特徴としては,背鰭棘が後方のものほど長く,第4棘が最長で背鰭前縁の約半分を占める程度である,臀鰭第2棘は臀鰭前縁に対して著しく短いなどがあります(Nelson et al., 2006).色彩は,成魚では頭と体に6本の暗色横帯がありますが,幼魚では6本の淡い横帯に加え,暗色の石垣模様が不規則に並びます(Hardy, 1983;横川・阿部,1999;遠藤,2018;波戸岡・柳下,2018).本種は長崎県の出島に滞在したP. F. vonシーボルト (1796-1866) の収集標本による「Fauna Japonica(日本動物誌)」(1833−1850)の中で,Temminck and Schlegel (1844) によりカワビシャ属 Histiopterusの種とされていましたが,Jordan (1907) が背鰭棘の形状が異なるとして,新たにテングダイ属Evistiasを設立しました.また,過去には横川・安部(1999)によって,瀬戸内海に迷い込んだ個体が報告されました.このような方向音痴によって住む世界が広がると考えると馬鹿にできません.どんな生物でも,時代を変えるのは変わりものかもしれません.

 写真個体は2021年5月19日に高知県土佐清水市以布利港の定置網漁で,本研究室の母親的存在である山口蓮さんが採集されました.この場をお借りしてお礼申し上げます.おかあさん,ありがとう.新年も明けまして,もうすぐ春が来ます.何か新しいことに挑戦するにはうってつけの季節ですが,何事も「テング」にならず,真摯に取り組んでいきたいものですね.

参考文献

遠藤広光.2018.カワビシャ科.中坊徹次(編),p. 310. 小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.

Hardy, G. S. 1983. A revision of the fishes of the family Pentacerotidar (Perciformes). New Zealand Journal of Zoology, Wellington, New Zealand 10(2): 177-220.

波戸岡清峰・柳下直己.2013.カワビシャ科.中坊徹次(編),pp. 1016-1017, 2029. 日本産魚類検索全種の同定 第三版.東海大学出版会,秦野.

Jordan, D. S. 1907. A review of the fishes of the family Histiopteridae, found in the waters of Japan; with a note on Tephritis Gunther. Proceedings of the United States National Museum, 32 (1523): 235-239.

Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th edition. John Wiley & Sons, Hoboken, New Jersey. xli + 707 pp.

Temminck, C. J. and H. Schlegel. 1844. Pisces. Parts 5-6. Pages 73-112 in P. F. de Siebold (ed.). Fauna Japonica, sive descriptio animalium, quae in itinere per Japoniam ... suscepto annis 1823-1830 collegit, notis, observationibus et adumbrationibus illustravit Ph. Fr. de Siebold. Lugduni Batavorum [Leiden] (A. Arnz et soc.). 2

横川浩治・安部享利.1999.瀬戸内海から初記録のテングダイ.I.O.P. Diving News, 11(1): 5-7.

写真標本:BSKU 130122, 257 mm SL, 2021年5月19日,高知県土佐清水市以布利港,定置網漁,採集・写真撮影 山口 蓮・井上裕太.

(姫野実澪)


2023年1月の魚


クロダイ Acanthopagrus schlegelii (Bleeker, 1854)
(スズキ目タイ科)

 タイ科(Sparidae)魚類は,おもに三大洋の温帯から熱帯の沿岸岩礁域から大陸棚域まで分布し,一部の種は汽水域や淡水域にも出現します(赤崎, 1997; Nelson et al., 2016; 千葉・中坊, 2018).本科は背鰭が連続し,通常 10-13 棘 10-15軟条,臀鰭はが 3 棘 8-14 軟条,鰓条骨数が 6,脊椎骨数が 24,主上顎骨の大部分が涙骨に覆われるなどの特徴をもちます.また,本科には世界で 5 亜科 39 属 164 種が,日本で 3 亜科 8 属 14 種が知られています(林・萩原, 2013; Nelson et al., 2016; Parenti, 2019; Fricke et al., 2022; 本村, 2022).本科は分子系統解析の結果,多系統であることが明らかになっており,包括的な分類学的再検討の必要性が指摘されています(Chiba et al., 2009).

 クロダイ属(Acanthopagrus)は,世界では 21 種が,日本では,キチヌAcanthopagrus latus (Houttuyn, 1782),クロダイA. schlegelii (Bleeker, 1854),ミナミクロダイA. sivicolus Akazaki, 1962,イワツキクロダイA. taiwanensis Iwatsuki and Carpenter, 2006,オキナワチヌA. chinshira Kume and Yoshino, 2008,そしてナンヨウチヌA. pacificus Iwatsuki, Kume and Yoshino, 2010,の 6 種が知られています.(藤原ほか, 2017; Parenti, 2019; 本村, 2022).本属は,温帯から熱帯の浅海から汽水域に生息し,両顎側部の臼歯列数が3以上,背鰭棘条部中央下の横列鱗数(側線上)が 3.5-6.5,臀鰭軟条数はが 8-9(通常 8),体色はが銀黒色などの特徴をもちます(赤崎, 1997; 林・萩原, 2013; 藤原ほか, 2017; 千葉・中坊, 2018). そのうち,クロダイA. schlegelii (Bleeker, 1854)は,背鰭棘条部中央下の横列鱗数(側線上)が 5.5 以上,側線鱗数はが 48-56,胸鰭を除く鰭が黒色または浅黒色などの特徴から,同属他種と識別できます(Iwatsuki, 2013; 林・萩原, 2013; 千葉・中坊, 2018).本種は甲殻類や小魚のほか藻類なども捕食する雑食性で,北海道から屋久島,朝鮮半島,台湾,ベトナムなどの沿岸域や内湾から汽水域まで幅広く生息し,刺身や塩焼きなどで食されます(赤崎, 1997; 林・萩原, 2013; 千葉・中坊, 2018),筆者の好みの食べ方は,天ぷらとアラの赤だし味噌汁です.本種は西日本ではチヌ,中四国や九州ではチヌダイ,関東では若魚がカイズ,さらに北九州では幼魚がメイタと呼ばれ,このほかにも様々な地方名をもちます(赤崎, 1997; 石川, 2010).

 一昨年の高知新聞社の記事に,本種の色彩変異個体が掲載されており,写真のように黄金がかった体色をもちます.この標本は本研究室に寄贈され,BSKU 130685として保管されています.この色彩変異の詳細要因は不明ですが,筆者は色素胞の異常によるものではないかと考えています(河合, 2020; 高知新聞社, 2021).

 クロダイは身近にある堤防からも釣り上げることが可能で,その精悍な姿も相まって,関西から西ではチヌと呼ばれ, 釣りの対象魚として大変人気です.フカセ釣り,団子釣り,堤防の際(きわ)に餌を落とし込む釣法のヘチ釣り のほか,ルアー釣りも可能で,ルアーで狙う釣りは俗に「チニング」 と呼ばれます.筆者は,フカセ釣り,団子釣りやヘチ釣りで本種を狙いますが,手軽かつ堤防の際で激闘を味わえるヘチ釣りが最近のお気に入りです.本種は雑食性のため,釣り餌には,オキアミやカニ,イガイなどのほかにトウモロコシの水煮が用いられる場合があり,筆者自身もエサ取りの魚が多い場合には,トウモロコシを使用することがあります. BSKU 129515 のクロダイは,サイズこそ小さいですが,筆者が研究室に配属されて間もない頃にフカセ釣りで釣獲し,標本にした思い出深い個体です.

参考文献

赤崎正人.1997.タイ科.岡村 収・尼岡邦夫(編),pp. 354-357.山渓カラ−名鑑 日本の海水魚.山と渓谷社,東京.

Chiba N. S., Y. Iwatsuk , T. Yoshino and N. Hanzawa . 2009. Comprehensive phylogeny of the family Sparidae (Perciformes: Teleostei) inferred from mitochondrial gene analyses. Genes and Genetic Systems, 84 (2): 153-170.

千葉 悟・中坊徹次.2018.タイ科.中坊徹次(編),pp. 284-287.小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.

Fricke, R., W. N. Eschmeyer and R. Van der Laan. 2022. Catalog of fishes: genera, species, reference: https://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Accessed 10 Jan. 2023.

藤原恭司・伊東正英・本村浩之.2017.鹿児島県から得られた日本初記録のタイ科魚類 Acanthopagrus taiwanensis イワツキクロダイ(新称).魚類学雑誌 ,64 (2): 107-112.

石川皓章.2010.尾川泰将(編),瀬能 宏(監修).海の魚大図鑑.つり情報社,東京. 399 pp.

Iwatsuki, Y. 2013. Review of the Acanthopagrus latus complex (Perciformes: Sparidae) with descriptions of three new species from the Indo-West Pacific Ocean. Journal of Fish Biology. , 83 (1): 64-95.

河合俊郎.2020.3 章 体表の構造.矢部 衞・桑村哲生・都木靖彰(編), pp. 15-23. 魚類学.恒星社厚生閣.,東京.

高知新聞社.2021.魚信 はっぴぃ魚ッチ 釣り運上がる!?黄金チヌ 専門家もびっくり.高知新聞社.高知.(2021年9月23日掲載)

Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707 pp.

本村浩之.2022.日本産魚類全種目録.これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.Online ver. 18.
https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/jaf.html. Accessed 10 Jan. 2023.

林 公義・萩原清司.2013.タイ科.中坊徹次(編),pp. 955-959.日本産魚類検索全種の同定 第三版.東海大学出版会,秦野.

Parenti, P. 2019. An annotated checklist of the fishes of the family Sparidae. FishTaxa, 4 (2): 47-98. 



写真標本:BSKU 1305685, 366.5 mm SL, 2021年9月12日,高知県高知市 高知港岸壁,釣り,採集:西岡敏彦氏より寄贈.
BSKU 129515, 推定 233 mm SL, 2020年12月6日,高知県高知市 浦戸湾,釣り,採集・写真撮影:深瀬雄大.

(深瀬雄大)

   

 

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