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2026年1月の魚

 
アズマハナダイ Zalanthias azumanus  (Jordan and Richardson, 1910)(ペルカ目ハナダイ科)

 高知大学理工学部生物科学科 海洋生物学研究室ホームページをご覧の皆様,本年もどうぞよろしくお願いいたします.  1月は縁起の良い紅白飾りを身に纏った魚をご紹介します.

 昨年,ハナダイ科魚類の中で最多の有効種数を含んでいたイズハナダイ属 Plectranthias Bleeker, 1873は,包括的な分子系統解析を基にした分類学的な研究が行われ,従来のイズハナダイ属は2新属を含む7属に細分されました(Tang and Chen, 2025).そのうち,アズマハナダイ属 Zalanthias Jordan and Richardson, 1910 は旧イズハナダイ属の標徴に加え,尾鰭分枝鰭条数が8+7,胸鰭軟条が上部の1-2軟条を除いて分枝する,上神経棘が3本,体長に対する眼窩間長が通常5.0-6.3 %(Zalanthias kelloggi では7.0-8.3 %),前鰓蓋骨下部に棘をもたない,胸鰭腋部が被鱗する,各鱗の基部および周縁部に微小棘帯をもつことなどの特徴で同科他属と識別されます(Tang and Chen, 2025).

 Tang and Chen (2025)によると,本属には日本に分布するアズマハナダイ Zalanthias azumanus (Jordan and Richardson, 1910) をはじめ,Z. alleni (Randall, 1980), Z. bilaticlavia (Paulin and Roberts, 1987), Z. exsul (Heemstra and Anderson, 1983), Z. kelloggi (Jordan and Evermann, 1903), Z. maculicauda (Regan, 1914), Z. melanensis (Randall, 1980), Z. nazcae (Anderson, 2008), Z. parini (Anderson and Randall, 1991) の9有効種が含まれます.そのうち,アズマハナダイは計数形質や内部骨格などの特徴が Z. kelloggiZ. maculicauda,および Z. melanensis に類似しますが,側線有孔鱗数が33-37(vs. Z. maculicauda では32-35,Z. melanensis では 32-34),成魚の下顎が被鱗する(Z. maculicauda では無鱗),体側面中間部の鞍状横帯の下端は臀鰭基底の横列鱗 2-3 枚分上方に達する(Z. kelloggiZ. maculicaudaでは体側面の中央付近まで,Z. melanesius では腹縁部に達する),尾柄部に縦列鱗 3-5枚分の幅で,下縁が側線より横列鱗 1-2枚分下方まで達する色素胞が密集した鞍状斑をもつ(Z. kelloggi では幅が縦列鱗 5-6枚分で、下縁が側線に一致する鞍状斑,Z. maculicauda では尾柄中央部に縦長で、横列鱗 3-5枚分の幅をもつ楕円形斑,Z. melanesius では尾柄の背縁から腹縁に達する横帯)特徴などで容易に識別されます(Gill et al., 2021; 和田ほか,2022).

 アズマハナダイは,Steindachner and Doderlein (1883) の「日本の魚類に関する知見への貢献」(ドイツ語)の中で,東京湾産の数が未特定の標本に基づき,ルートヴィッヒ・デーデルライン(Ludwig H. P. Doderlein,1855-1936)によりAnthias japonicus Doderlein in Steindachner and Doderlein, 1883 として記載されました.Doderleinは明治時代にお雇い外国人教師として来日したドイツ人の生物学者で,1879年から1881年まで東京帝国大学医学部に雇われて日本に滞在していました.しかし,その後 Jordan and Richardson (1910)は,Anthias japonicus Doderlein in Steindachner and Doderlein, 1883 が A. japonicus Bloch, 1793 [現在のヨコシマタマガシラ属 ScolopsisScolopsis vosmeri (Bloch, 1792)] によって先取されていたことを指摘し,Pseudanthias azumanus の置換名を提唱しました.さらに,Jordan and Richardson (1910)は Anthias kelloggi Jordan and Evermann, 1903 をタイプ種として,蒲原稔治博士が設立した  Zalanthias  を亜属のランクとして,本種をこれに含めたため,学名は Pseudanthias (Zalanthias) azumanus Jordan and Richardson, 1910 となりました.その後,Katayama (1959, 1960) は Zalanthias を独立属として扱い,Zalanthias azumanus としました.さらにその後,Randall (1980) は旧イズハナダイ属   Plectranthias Bleeker, 1873 の包括的な分類学的再検討を行い,ZalanthiasPlectranthias の新参異名としただけでなく,P. azumanus を,ハワイ諸島をタイプ産地とする P. kelloggi と同一種とみなし,新参異名としました.また,両者の差異は亜種として扱いうる範囲にあると考え,Plectranthias kelloggi azumanus (Jordan and Richardson, 1910) としました.その後,瀬能(2013)などでは,亜種として取り扱われています.一方,Randall (1996) は P. azumanusP. kelloggi の新参異名とみなし,Kuiter (2004) は P. azumanus を有効種として扱うなど,学名の扱いは必ずしも統一見解が得られていませんでした.しかし,Gill et al. (2021)は P. kelloggiP. azumanus が外部形態と体色により明瞭に識別できるとして,両者を有効種として扱いました.これを受け,中村・本村(2022)や和田ほか(2022)などの近年の報告でも,両種はそれぞれ有効種とされています.そして,Tang and Chen (2025)によりZalanthias は再び有効属として復活したため,アズマハナダイに適用される学名は Zalanthias azumanus となりました.

 アズマハナダイは日本,韓国,台湾,オーストラリア,およびベトナムから報告されています(和田ほか,2022; Tang et al., 2025).一方,日本近海においては,茨城県から宮崎県にかけての本州−九州太平洋沿岸,秋田県から長崎県にかけての本州-九州日本海沿岸をはじめ,薩摩半島西岸,鹿児島湾,新潟県佐渡島,隠岐諸島近海,長崎県対馬,五島列島,鹿児島県薩摩川内市西沖の鷹島,大隅諸島口永良部島,屋久新曽根を含むトカラ列島,奄美群島奄美大島,沖縄諸島,八重山諸島,西七島海嶺・正徳海山,九州−パラオ海嶺,沖縄舟状海盆,および東シナ大陸棚縁辺部から記録があります(和田ほか,2022).本種は通常水深 60-280 m に生息するとされ(Gill et al., 2021),和田ほか(2022)は日本近海における包括的な分布と水温との関係から,本種が水温 8-18 ℃の範囲に適応可能と推測しています.日本国内の太平洋および東シナ海では,比較的高緯度に位置する相模湾や駿河湾において,1-3 月の低水温期に水深 30-31 m で観察されているほか,高知県沖の島近海で記録された水深 400 m を除くと,比較的低緯度の沖縄県伊江島沖では水深 330-350 m,さらに低緯度に位置する台湾では水深 400 m から採集されています.このように,本種は低緯度海域ほど生息水深が深くなるという顕著な傾向が知られています.

 アズマハナダイは標準体長が約 120 mm 程度の小型魚ではありますが,貪欲に餌を捕食する性質をもつため,トワイライトゾーンで行われる深海小物釣りにおいて,美しいゲストとして出会うことがしばしばあります.また,私が過去に訪問した台湾北部の市場では,本種と同様に旧イズハナダイ属に含まれていたイズハナダイ Plectranthias kamii Randall, 1980,キオビイズハナダイ Plectranthias sheni Chen and Shao, 2002,そして Plectranthias purpuralepis Tang et al., 2020 などとまとめて販売されている様子を目にし,実際に購入しました(写真).また,このように販売されている理由として,現地では,タイ科やキントキダイ科,アマダイ科魚類を対象とした沖合釣りによって混獲されていると現地の方から伺いました.

 本種は臆病な性格に加え,入り組んだ地形を好むハナダイ科魚類であることから,岩礁域に生息するという印象を持つ方が多いと思われます.しかし,本種が砂礫底からも採集されることは,あまり知られていないかもしれません(山田,1986).実際に,土佐湾の砂礫底で操業される大手繰り漁(沖合底曳網漁)でも漁獲されます.高知県で水揚げされたアズマハナダイは,ヒメ属魚類やホウボウ科魚類とともに「天ぷら(魚のすり身を用いたさつま揚げ)」へ加工され,意識していなくとも,高知県で天ぷらを口にしたことのある方は,間接的にアズマハナダイを味わっているのかもしれませんね.

引用文献

Gill, A. C., J. J. Pogonoski, G. I. Moore and J. W. Johnson. 2021. Review of Australian species of Plectranthias Bleeker and Selenanthias Tanaka (Teleostei: Serranidae: Anthiadinae), with descriptions of four new species. Zootaxa, 4918: 1-116.

Jordan, D. S. and R. E. Richardson. 1910. A review of the Serranidae or sea bass of Japan. Proc. U.S. Natl. Mus., 37: 421-474.

Katayama, M. 1959. Studies on the serranid fishes of Japan (I). Bull. Fac. Educ. Yamaguchi Univ., 8: 103-180.

Katayama, M. 1960. Fauna Japonica. Serranidae (Pisces). Biogeographical Society of Japan, Tokyo. i-viii + 1-189 pp., pls. 1-86.

Kuiter, R. H. 2004. Basslets, hamlets and their relatives: a comprehensive guide to selected Serranidae and Plesiopidae.TMC Publishing, Chorleywood. 216 pp.

Randall, J. E. 1980. Revision of the fish genus Plectranthias (Serranidae: Anthiinae) with descriptions of 13 new species. Micronesica, 16: 101-187.

Randall, J. E. 1996. Two new anthiine fishes of the genus Plectranthias (Perciformes: Serranidae), with a key to the species. Micronesica, 29: 113-131.

瀬能 宏.2013.ハタ科.中坊徹次(編),pp. 757^ 802, 1960^1971.日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会,秦野.

Steindachner, F. and L. Doderlein. 1883a. Beitra¨ge zur Kenntniss der Fische Japans (I.). Anz. Kaiserl. Akad. Wiss. Wien, Math.-Naturwiss. Kl., 20(7): 49-50.

Tang, C.-N. and W.-J. Chen. 2025. A 40-year taxonomic enigma: multigene phylogeny resolves the polyphyly of Plectranthias (Perciformes: Anthiadidae) and supports a revised taxonomy. Zool. J. Linn. Soc., 205(3): zlaf148.

Tang, C.-N., Q. V. Vo and A. C. Gill. 2025. Sayonara flavolineata (Perciformes: Anthiadidae), a new deep-water anthiadid perchlet from Vietnam. Raffles Bull. Zool., 73: 698-708.

山田梅芳.1986.アズマハナダイ,p. 144.山田梅芳・田川 勝・岸田周三・本城康至(編)東シナ海・黄海の魚類.水産庁西海区水産研究所,長崎.

和田英敏・前川隆則・甲斐嘉晃・本村浩之.2022.山形県飛島,鹿児島湾および奄美大島からのアズマハナダイ(ハナダイ科)の新たな分布記録,および本種の地理的分布と生息水深・水温の関連性.Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 24: 24-32.

写真標本:BSKU 137637, 98.3 mm SL, 2024年11月15日,高知県高知市御畳瀬漁港,大手繰り網,司丸,安芸市沖,水深130-140 m.採集者:筒井優太郎,澤入圭吾,肥後寛太郎,饗場空璃.

(饗場空璃)


 

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